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文献名1霊界物語 第18巻 如意宝珠 巳の巻
文献名2第3篇 反間苦肉よみ(新仮名遣い)はんかんくにく
文献名3第7章 神か魔か〔635〕よみ(新仮名遣い)かみかまか
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-03-15 17:42:29
あらすじ七八人のウラナイ教の手下たちが、普甲峠の麓で雑談にふけっている。ウラナイ教は三五教に教勢を奪われ、最近は高姫、黒姫の機嫌がすこぶる悪いという。手下たちはそこで、一計を案じて策略で信者をこしらえることにした。丑公、寅公、辰公、鷹公、鳶公の五人がバラモン教の兇徒に扮して、三五教の夫婦の参詣者を襲った。そこへ、梅公、浅公、幾公の三人がウラナイ教の宣伝使として登場し、言霊の神力で兇徒を蹴散らす芝居を行った。夫婦は、綾彦とお民と言った。すっかりウラナイ教の神力と慈悲を信じてしまった。ウラナイ教の男たちは、宿も提供すると言って、二人を魔窟ケ原へと連れて来た。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年04月25日(旧03月29日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年2月10日 愛善世界社版111頁 八幡書店版第3輯 678頁 修補版 校定版115頁 普及版50頁 初版 ページ備考
OBC rm1807
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本文  四方の山々紅葉して  錦織なす佐保姫が
 衣を飾る秋の空  日脚短き山坂を
 下つて来るウラナイの  道の教のヘボ司。
 七八人の荒男、普甲峠の麓の木蔭に休らひ乍ら、雑談に耽り居る。
甲『此頃の比沼真名井の参詣者は、随分沢山にあるではないか。三五教の宣伝使が到頭あの聖地を占領して了ひよつて、終にはウラナイ教の高姫さまの懐刀とまで持て囃された青彦までが、たうとう三五教へ陥落して了ひよつた。音彦、加米彦両人も変な奴だが、何時陥落するか分りやしないぞ。此頃の高姫さまや、黒姫さまの御機嫌の悪い事と云つたらないぢやないか。なぜあの様に何でもない事にツンケンと目に角を立てるのだらう』
乙『きまつた事よ。俺達は毎日日日、路傍宣伝をやつて居つても、一つも土産がないものだから、誰だつて吾々の様な喰ひ潰しを、沢山養うて置くのは詰らぬから、自然に黒姫さまだつて御機嫌が悪くなるのは当然だ。何時も仰有るだらう。お前達一人が一人づつ信者を拵へて来れば、十人で十人の信者が出来る。その信者が又一人づつ殖やして行けば、別に宣伝使がなくても、自然に教線が拡まると仰有つただらう。それに毎日日日、斯うして往来の人を掴まへて宣伝にかかつて居つても、誰一人帰順する者がないぢやないか。比沼の真名井さまは、三月に一遍位三五教の宣伝使が出て来る丈だ。それに自然に信者が殖えて来る。それだから、要するに吾々はモ一つどつかに徹底せない所があるのだらう。今日は何とかして、一人でも入信者を拵へて帰ななくては、合はす顔がないぢやないか』
丙『さうだと言つて、来ぬ者を無理に引つ張つて帰ンだ所で仕方がない。心の底から……アヽ、ウラナイ教は有難い神様だと云ふ感じを与へてやらねば、本当の信仰に導く事は出来ぬぢやないか』
甲『それもさうだが、何ぞ良い方法は有るまいかなア。俺達は一生懸命に言葉を尽し教理を研究して説き立てるのだが、どうしたものか、誰も彼も九分九厘になるとみな逃げて了ふ。偶信者が出来たと思へば、青彦やお節の様に、直に三五教へ走つて了ふ。本当に妙だなア』
丁『目的は手段を選ばずと云ふ事がある。一つ、是れ丈チヨイチヨイ詣る、比沼の真名井の参詣者を計略を以て入信させたらどうだ』
乙『何ぞ良い妙案奇策があるのか』
丁『あるともあるとも、併しお前達の様な馬鹿正直者では、到底出来ない芸当だから、先づ発表は見合はす事にしようかい』
丙『さうだと言つて、今日も又獲物なしに帰る訳にも行かず、日はズツプリ暮れて了つたなり、内へ帰つて大きな顔して、麦飯も頂けぬぢやないか。ドンナ手段でも構はぬ、良い方法があるなら教へて呉れ』
丁『何でも俺の言ふ様にするか、俺の妙案奇策を用ゐたら成功疑ひなしだ。天に口あり壁に耳、大きな声では言はれぬが、実は斯う斯う斯ういふ手段だ』
と一同の耳元に口を寄せ何事か囁いた。一同は、
『合点だ合点だ』
と唸き、大道の中央に五人の男、横になつて道を塞ぎ、酒に酔うた気分で寝転ンだ。甲乙丙の三人は依然として傍の森林に身を潜めて居る。日はズツプリと暮れ、誰彼の顔も見えなくなつて了つた。向ふの方より男女の二人、ひそひそと囁き乍ら、斯かる計略のありとは、神ならぬ身の知る由もなく、空の星や山の形、木の枝などを目標に、覚束なげに歩み来り、一人の横腹をグツと踏み、『ヤツ』と驚き逃げむとする途端に、二人は二三人の腹、脚の辺りを踏み、辷つてバツタリと倒れたり。
丑公『タヽヽ誰ぢやい、俺の睾丸を踏みよつて……馬鹿にしやがる』
寅公『俺も何処の奴か、腰を踏みよつた』
辰公『アイタヽヽ、腹をグサと踏みよつて………ヤイヤイ何処の奴だ、人の体を土足にかけて……一体何をするのだ。……オイ皆の奴、起きぬかい、此奴ア何でも夫婦連と見える。モウ量見ならぬ、皆寄つて集つて叩き延ばし、フン縛つて、宮津の海へ放り込ンだろうかい』
『賛成々々』
と何れも作り声、滅多矢鱈に四方八方より叩きつける。
男『コレハコレハ誠に済まぬ事を致しました。あまり暗いものですから、足許も見えず……どうぞ御勘弁を遊ばして下さいませ』
寅公『ナーニ勘弁も糞もあるものか。俺を誰だと思つて居やがる。大江山の鬼雲彦の一の乾児、鬼虎だぞ。モウ斯うなる以上は何と云つたつて、叩き延ばし、大江山の本城へ連れ帰り、手足をもぎ取り、酒の肴にしてやるか、さもなくば海へぶち込むか、二つに一つだ、……オイ兄弟、俺達に無礼を加へた代物だ、此奴二人共殺つて了へ』
『ヨーシ』
と又もや無性矢鱈に叩く、踏む、蹴る、有らむ限りの打擲をやつて居る。女は悲鳴を揚げ、
『人殺しイ 人殺しイ』
丑公『ナーニ、人殺しとは貴様の事だ、スツテの事で俺を踏み殺さうとしやがつたぢやないか。まかり違へば俺達が殺される所だ。殺すか、殺されるか、どちらかが死ぬのだ、モウ斯うなる以上は何と云つても、思ふ存分制敗をしてやらう』
男『お腹が立ちませうが、知らず知らずの不調法、どうぞ今度ばかりはお見逃し下さいませ』
寅公『ヤア何と言つても一度量見ならぬと言つたら、金輪奈落の底迄量見ならぬのだ。オイ皆の奴、槍だ、刀だ、早く持つて来い。………コラ夫婦の奴、貴様が来ると思つて最前から、数十人の手下を四辺の森林に忍ばせ、待つて居た』
と二人の男女に向つて殻竿勝の様に叩きつける。夫婦は悲鳴をあげ、
『助けて呉れイ 助けて呉れイ』
と声を限りに泣き叫ぶ。忽ち此場に現はれた二三人の大男、
『ヤアヤア吾こそはウラナイ教の宣伝使だ。大江山の鬼雲彦が家来の奴輩、仮令何百人一度に攻め来る共、ウラナイ教の神の神力を以て、汝悪魔の一群、片つ端から滅し呉れむ、覚悟を致せ』
寅公『何猪口才な、何程神力があると言つても、多寡が知れた二人や三人の木端武者、味方は殆ど百人、グヅグヅ吐さず、一時も早く此場を立去れツ。吾々に無礼を働いた二人の男女、是れより制敗する所だ。俺達の行動を妨ぐると、汝等諸共手足を縛り大江山の本城へ連れ帰り、五体をグタグタに切つて切つて切り屠り、酒の肴にして呉れむ、覚悟を致せ』
大男『ハヽヽヽ、何を吐しやがる、何ほど鬼雲彦の家来、仮令百万千万一度に攻め寄せ来る共、ウラナイ教の神力、唯一本の指先にて、汝等を縦横無尽に斬り立て薙立て、海の藻屑と致し呉れむ、覚悟を致せ』
辰公『ヤアヤア家来の奴輩、此両人は申すに及ばず、邪魔ひろぐウラナイ教の三人の奴輩、四方より取囲み、槍を以て唯一突き、大江山の本城へ一時も早く連れ帰れ』
 一人の男、暗がりより、
男『ヤア鬼の奴輩、ウラナイ教の言霊を喰つて見よ、手も足もビクとも致さぬ様に、霊縛を加へて呉れむ。一二三四五六七八九十百千万』
 丑、寅を始め五人の男、
『アイタヽヽ。痛いワ痛いワ、手も足も石地蔵の様になつて動きよらぬ………オイもしウラナイ教の大先生達、如何なる鬼の乾児の吾々も是れには閉口致します。偉い御神力だ。どうぞ霊縛を解いて下さい。決して決してモウ貴方等には相手にはなりませぬ、併し乍ら此二人の男女は吾々を土足にかけた無礼者、これ丈はどうしても貰うて帰ります』
 暗中より、
『まださう云ふ事を吐すと、今度は言霊の神力に依つて、汝が五体をグタグタに解体しよか。サアどうぢや、一二三四…………』
『アイタヽヽ、ヤア叶はぬ叶はぬ、どうぞ勘忍して下さいませ』
 暗がりより、
『ソンナラ汝を赦して遣はす。二人を此処に残して一時も早く此場を立去れ…………ヤイヤイ森の中の数百人の鬼の眷族共、手足が動かなくなつて物も言へず、憐れな者だ。此方が今日は特別を以て赦してやらう。黙つてサツサと大江山へ帰つて行け…………ヤイそこな腰抜共、貴様も早く立去らぬか』
 寅、丑、鷹、辰、鳶、一時に泣き声を出して、
『逃げと仰有つても、手も足も、チツトも動きませぬ。どうぞ霊縛を解いて下さいませ』
 暗がりより、
『オヽさうだつたな、貴様丈を忘れて居つた。サア霊縛を解いてやる、一二三四………これで結構だ、サア早く逃げ帰らう』
 五人一度に、
『有難う御座います、モウ此れ限り悪い事は致しませぬ。なンとウラナイ教は偉い御神力で御座います、恐れ入りました』
 暗がりより、
『エー四の五の吐さず、トツトと帰れ』
 忽ち五人の影は足音立てて一生懸命、西方指して走つて行く。暗がりより三人一度に、
『ハヽヽヽ人の恐れる悪逆無道の鬼神共、脆いものだ。とうと御神力にくたばりよつたワイ。モシモシ旅のお方、偉い危ない事で御座いました。お怪我はありませぬか』
男『ハイ有難う御座います。私は弥仙山の麓に住居致す、綾彦と申す者、一人は私の女房のお民と申します。比沼の真名井ケ原へ参詣を致し、途中に日を暮らし、由良の湊まで行つて宿をとらうと思ひ、此処までやつて来ました所、大江山の鬼共に取囲まれ、生命を夫婦共取られようとする、危急存亡の場合、お助け下さいましてコンナ有難い事が、天にも地にも御座いませうか。此御恩を如何して返したら宜しう御座いませうか』
お民『誠に誠に、危い所、生命を拾うて下さいまして……貴方様は、吾々夫婦が生命の親で御座います。御恩返しには、如何なる事でも仰せ付け下さいませ。夫婦の者が力の尽せる限り御用を致します』
 暗がりより、
『私はウラナイ教の者で御座います。浅、幾、梅と申す三人の者。あなたも是れから神様の御恩報じに、無い生命だと思つて、ウラナイ教の道に入り、神様の為にお働きなさい。それが一番、吾々に対する恩返し……また神様に対する孝行と申すもの、………』
 綾彦、お民一時に涙声、
『ハイ有難う御座います。モウ斯うなる以上は無い生命を拾つて貰うたので御座いますから、仰せに従ひます、如何様の事なつと仰せつけ下さいませ』
浅公『ヤアよしよし、承知致した。サア是れから吾々が館へお越しなさい。斯う云ふ所にグヅグヅして居ると、又剣呑です。私達は急いで帰らねばなりませぬから、あなたも一緒にお越し下さい、何時蒸し返しに来るかも知れませぬよ』
夫婦『それはそれは有難う御座います。生命を助けて戴いた上に、又今晩御世話になるので御座いますか』
浅公『何、ソンナ御心配はチツトも要らない。世界の人を普く救ふのが、ウラナイ教の神様の御趣旨だ。サアサア帰りませう』
夫婦『有難う御座います。然らばあなた様方の御厄介に与りませうか』
浅公『チツとも遠慮は要らぬ、サアお出なさい。あなたは道の勝手も知らないし、マンなかをお出でなさい。吾々は後先を警護して上げませう』
夫婦『何から何まで御親切に……何時の世にかは忘れませう。是れと云ふのも、真名井の神様のおかげ……』
浅公『コレコレ御夫婦、今何と仰有つた、真名井の神様のお蔭と云はれましたが、真名井の神様にお蔭があるなら、参拝した下向の途に、コンナ災難に遭ふ筈がないぢやありませぬか。もしも吾々ウラナイ教の取次が来なかつたならば、あなたは、それこそ大変な目に遇つて居るのですよ。モウ真名井さまの事はスツカリと思ひ切つて、私達の信ずるウラナイ教へ入信しなさい』
夫婦『入信さして下さいますか、有難う御座います』
と三人の中に挟まれ、薄明りの道をトボトボと、魔窟ケ原指して誘はれ行く。魔窟ケ原の中途迄帰り来る折しも以前の丑、寅、鷹、辰、鳶の五人、
『ヤアこれは、浅公、幾公、梅公、御苦労で御座いました。今私達が御神前で御祈願をして居りました所、普甲峠の麓に大江山の鬼雲彦の眷族数多現はれ、二人の旅人を捕まへて無体の乱暴、既に生命まで奪らむと致して居るのが天眼に映りました。ヤアこら大変だと、又もや天眼通を光らかし見れば、森蔭に潜む百人余りの鬼の手下共、ヤア此奴ア助けねばなるまいと気を焦てど、何分遠隔の土地、そこへ天眼に映じたのはあなた方三人、二人の叫び声を聞きつけ、韋駄天走りに駆つけるのが見えた時の嬉しさ、吾々五人は神前より一生懸命に霊縛をかけると、鬼の手下の奴共、身体強直し苦み悶へる可笑しさ、蜘蛛の子を散らすが如く逃げ失せよつた。あの時に吾々が、此方から応援せなかつたら、随分貴方等も危いものであつた』
 浅、幾、梅の三人、
『それは御苦労でした。併しさう仰ると、吾々の働きはサツパリ ゼロの様に聞えますなア』
寅公『イヤ決して決して、あなた方が居つて呉れたばつかりに、此方の鎮魂が利いたのだ。全くはあなた方三人の功績が九分九厘だ。……ヤア其処に御座るお二人の方、霊眼で見た通りだ。能うマア貴方、助けて貰ひなさつた。型の良い方だ。サアサア吾々の本拠へお越しなさいませ』
夫婦『これはこれは、あなた方はウラナイ教のお方で御座いますか、いかい御世話になりました。どうぞ宜しうお頼み申します』
寅公『ヤア何事も神様の御引合せだ。モウ斯うなつては兄弟も同様だ。何の隔ても、遠慮も要らぬ。互に心を打明けて神様の為に働きませう。御大将の黒姫様や、高山彦さまも大変に御喜びなさいませう』
夫婦『あなた方の御大将が御座いますのか』
寅公『ヘエヘエ、有りますとも、それはそれは立派な、偉い方ですよ。吾々は影も踏めぬ位な者です。サアサア今日の吾々の手柄を、一つ帰つて御大将に報告致しませう』
夫婦『どうぞ宜しう、あなた方から御頼み下さいませ』
寅公『ヤア心配なさるな。神の道は結構なものですよ。一寸会うても十年の知己の様なものです……サアサア行かう』
と十人の同勢は地底の岩窟指して帰り行く。
(大正一一・四・二五 旧三・二九 松村真澄録)
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