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文献名1霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻
文献名2第3篇 虎熊惨状よみ(新仮名遣い)とらくまさんじょう
文献名3第17章 山颪〔1673〕よみ(新仮名遣い)やまおろし
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグスーラヤの湖(スダルマ湖の別名) データ凡例 データ最終更新日2018-07-07 22:29:11
あらすじ
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年07月17日(旧06月4日) 口述場所祥雲閣 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年4月14日 愛善世界社版191頁 八幡書店版第11輯 678頁 修補版 校定版199頁 普及版87頁 初版 ページ備考
OBC rm6517
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本文 ブラヷーダ姫『神が表に現はれて  善と悪とを立別ける
 此世を造りし神直日  心も広き大直日
 只何事も人の世は  直日に見直し聞直し
 詔直し行く神の道  スダルマ湖を打渡り
 山野を越えて漸くに  ハルセイ山の峠をば
 半ば登れる折もあれ  行き疲れたる足弱の
 忽ち大地に打倒れ  進退ここに谷まりて
 息たえだえになりし時  仁慈無限の大神の
 道の司の三千彦が  現はれまして危難をば
 救はせ給ひし嬉しさよ  その真心にほだされて
 忽ち眼相晦み  燃ゆる情火の消し難く
 已に危く貞操の  破れむとするその時に
 天教山にあれませる  木花姫の御化身
 デビスの姫と現はれて  深き教を宣り給ひ
 ここに二人は夢覚めて  惜しき袂を分ちつつ
 男の足のいと早く  三千彦司は出でましぬ
 妾は後に只一人  踏みも習はぬ旅の空
 険しき阪をやうやうに  攀登り行く苦しさよ
 三五教の大御神  繊弱き妾を憐れみて
 一日も早く吾夫の  御顔を拝ませ賜へかし
 御空は高く限りなし  大地は広く極みなし
 これの天地の人草の  数限りなく住むとても
 妾が身魂を生かしまし  慰め給ふ生神は
 たつた一人の伊太彦ぞ  あゝ惟神々々
 守らせ給へ今日の旅  ハルセイ山の阪道は
 昼と夜との区別なく  醜の盗人出没し
 旅人を掠めなやますと  聞いたる時の驚きは
 小さき女の腸に  驚異の波を打たせけり
 さは去り乍ら吾々は  天地を造り給ひたる
 絶対無限の神様の  大道を進み行くものぞ
 誠心を立貫いて  正しき道を進むなら
 如何なる仇も枉神も  いかで一指を染め得むや
 あゝ惟神々々  御霊の恩頼を願ぎ奉る』
 ブラヷーダは峠の頂きに漸く登りつめ、朧月夜ながら眼下に並立する連峯の頂の彼方此方に、薄い霧の上から浮いて現はれてゐる光景を眺め、
ブラヷーダ姫『ハルセイの峠に立ちて眺むれば
  四方の山々真下に見えける。

 霧の海に浮べる山の頂きは
  神の造りし家かとぞ思ふ。

 三千彦の神の司に助けられ
  漸く頂上に着きにけるかな。

 大空に月はませども村肝の
  心にかかる雲にかくれつ。

 伊太彦の吾背の君は如何にして
  これの山路を越えましにけむ。

 治道居士吹き立て給ふ法螺の音も
  聞えずなりぬ遠く行きけむ。

 淋しさは吾身に迫り来るなり
  人影もなき山の尾の上は。

 天地の神の恵に包まれし
  吾身なれども心淋しき。

 いざさらば暫し芝生にやすらひて
  駒立て直し下り進まむ』

と疲れた足を休むべく芝生の上に腰打掛け、天の数歌を歌ひ合掌して居る。
 四辺の木蔭からバラバラバラと現はれし三四の泥棒、ブラヷーダの前に立塞がり、甲は顔中を縦横十文字に振り動かせ乍ら、
甲(卑怯な声)『コヽヽヽコレ、女のタヽヽ旅人、ドヽヽヽどこへ行くのだ』
ブラヷ『ハイ妾は神様の御用でエルサレムへ参拝を致し、月の国の都へ進む女で厶います』
甲『ナヽヽヽ何だ。月の国へ行く? ヘン、小女ツちよの態をして、只一人、そんな処へ無事行けると思ふか。コレヤ、おれをドヽヽどなたと心得てる。天下晴れてのデーダラボッチ……ウント ドツコイ、大道路妨様だぞ』
 折から中秋の月は雲を押し分け下界を照らし給ふと共に、珍妙な甲の顔はパツと姫の前に展開した。
 ブラヷーダは可笑しさに堪へきれず、『プツフヽヽヽ』と吹き出した。
甲『オイ、小女ツちよ、何が可笑しいのだい』
 ブラヷーダは到頭悪胴を据ゑて了つた。
ブラヷ『ホヽヽヽヽ、あのまア、馬とも猿とも化物とも分らぬやうな顔わいのう。ハルナの都へでも捕獲して持つて行つて、動物園にでも売つたら金儲けが出来るだらう。あゝ良いものが見付かつた。コラ妖怪、妾が今に生捕つてやるから神妙に手をまはしたが宜からうぞや』
甲『オイ、ヨ兄弟、此奴ア仲々度胸の太い女だぞ。バヽヽヽ化物ではあるまいかな』
乙『コーリヤ、ヤイ、女の分際として、七尺の男子に向つて暴言を吐くとは何事だ。此方は泥棒様の親分だ。綺麗サツパリと持物一切を投出し真裸となれ。四の五と申して六でもない事を七べるに於ては此方の鉄腕によつて八々と張り倒し、九々首引抜いて、生命を十々取つて了ふぞ。さア最早百年目だ。千万言を費して、弁解しても聞く耳もたぬ此方、素直に往生致すが宜からう。さすれば貴様の親譲りのサック丈は助けてやらう』
ブラヷ『ホヽヽヽヽ、アタ甲斐性のない。荒男が繊弱き女の一人を捉まへて、嚇しの文句を並べるとは、話にならぬ腰抜けだな。お前も定めて両親があるだらう。こんな厄雑ものを生んだ親の顔が見たいものだわ。あのまア、情ない顔わいのう。空威張りばつかりして体中が慄ふてるぢやないか』
甲『ナヽヽヽ何分商売に慣れぬ新米だから、チヽヽヽ些とは慄ふのも当然だ。お前だつて初めて男に接した時は慄ふだらう。何と云つても今が初陣だから、さう見さげたものぢやないわい』
丙『コリヤ両人、何と云ふ……貴様は腰抜けだ。さア之から俺が一つ取ツ詰めてやらう。俺の遣り口を貴様見てゐるのだぞ』
と云ふより早く鉄拳を固めて、女の横面をポカツと殴りつけようとした。ブラヷーダは手早く身を竦めた途端に足をさらつた。何条以て堪るべき、二つ三つ筋斗打つて、急勾配の坂道へ四五間斗り転げ込み、額をしたたか打つて、ウンと云つたきり、平太つて了つた。ブラヷーダは此態を見て勇気頓に加はり、
ブラヷ『ホヽヽヽヽ、泥棒の親分か知らぬが、随分弱いものだな。オイ、そこな小童ども、お前達も一つ抓んで放つてやらうか』
甲『ナヽヽヽ何を吐すのだい。こんな所で猫かなんぞの様に、抓んで放られて堪るかい。オイ、手をつないでくれ。さうすりや、何程強い女でも、滅多に投げる気遣ひはないから』
乙『ソヽヽヽそれよりも逃げるが勝だ』
甲『ニヽヽヽ逃げると云つたつて、交通機関が命令を聞かぬぢやないか』
と体をガタガタ、足をワナワナ、唇を紫色に染て戦いてゐる。
ブラヷ『ホヽヽヽ、泥棒と云ふものは、もう些と気の利いたものかと思つたら、弱いものだな。それもさうだらう。なすべき事業が沢山あるのに、何一つようせぬ無器用な、甲斐性のない代物だから、働かずに人の物を掠めて露命を繋がうと云ふ奴だもの、気骨のあるものは、有り相な道理がない。扨も扨も可憐さうなものだな。こりや二人の泥棒、お前も一つ改心せい……。と云つても出来まいが、せめて泥棒だけは止めたがよからうぞ。こんな事を致して居ると、終ひには生命もなくなつて了ふぞや』
乙『ハイ、もうこれ限りで泥棒はやめます。何卒御機嫌よう、ここをお通り下さいませ』
ブラヷーダ姫『初めての旅路に出でて初ての
  小盗人等に初めて遭ひぬ。

 いざさらば小盗人達別れなむ
  心改め善にかへれよ』

 甲乙一度に、
『盗みする心はもとより無けれども
  命惜さに迷ひぬるかな。

 今よりは仮令死すとも盗人は
  孫の代まで致しますまい』

 傍の密樹の蔭より四辺に響く男の声、
『ブラヷーダ姫の命よ逸早く
  下り行きませ阪三千彦を』

ブラヷーダ姫『音に聞く険しき峠の坂三千を
  彦々として下り行かまし』

と答へ乍ら又もや宣伝歌を謡ひつつ次第々々に遠ざかり行く。三人の泥棒は転けつ輾びつ、林の中に姿を隠した。
三千『アハヽヽヽヽ、悪と云ふものは、正義の前には弱いものだな』
(大正一二・七・一七 旧六・四 於祥雲閣 北村隆光録)
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