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文献名1霊界物語 第22巻 如意宝珠 酉の巻
文献名2第1篇 暗雲低迷よみ(新仮名遣い)あんうんていめい
文献名3第2章 探り合ひ〔694〕よみ(新仮名遣い)さぐりあい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-05-26 10:31:37
あらすじ黒姫は二人を自分の館に連れて帰った。テーリスタンとカーリンスが黄金の玉を盗んだと疑ってきかない黒姫は、二人に滔々と心を入れ替えて玉を差し出すようにと説教をしている。テーリスタンとカーリンスは自分たちではないと抗弁するが、黒姫は一向に信用しない。そのうちに、テーリスタンとカーリンスが、お互いに相棒が玉を盗んだのではないかと疑い出して、喧嘩を始めた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年05月24日(旧04月28日) 口述場所 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年7月30日 愛善世界社版24頁 八幡書店版第4輯 388頁 修補版 校定版25頁 普及版11頁 初版 ページ備考
OBC rm2202
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本文  言依別に託されし、黄金の玉の行方をば、見失ひたる黒姫は、テーリスタンやカーリンス、二人の男に疑ひを、抱きながらにトボトボと、己が館に立ち帰り、二人を前に坐らせつ、茶の湯を進め機嫌をとり、威しつ慊しつ訊ぬれば、素より二人は白紙の、疚しき所なく涙、声を絞つて弁解すれど、容易に晴れぬ黒姫の、胸に心を悩ませつ、互に顔を見合せて、如何はせむと腕を組み、差俯向いて黙然たるぞ憐らしき。
黒姫『人間は神様の生宮だから、何処までも正直にせなくてはなりませぬぞや。如何なる罪科があつても、悔い改めたならば大神様は、神直日大直日に見直し、聞直し、宣直して下さるのだ。此の世の中は、隅から隅まで日月の如く明かなる神様の御支配であるから、どんな小さいことでも神の御眼を眩ますことは出来ない。わづかの此の世で目的を達しても、永遠無窮の神界で苦しみを受けるやうなことが出来ては大変な不利益だから、私は神様のため、世人のため、又お前達両人の身魂の幸福のために云ふのだから、綺麗薩張と玉の在処を知らしておくれ。何時まで腕組思案してゐた処で、悪が善に復る筈はない。盗むと云ふ一事は何処迄も万劫末代消えませぬぞえ。サ、あまり世間にパツとせない間、私に一伍一什を白状して下さい。私の落度にもなり、お前さまの罪にもなるのだから、今の間に私に白状しさへすれば、此場限りで何処も彼も天下泰平無事安穏に治まる訳だから。サア、テーリスタン、カーリンス、早く素直に言つておくれ』
テーリスタン『これは又してもお訊ねですが、何と仰有つても知らぬ事は知らぬと答へるより外に途が無いぢやありませぬか』
『エー又しても白ツぱくれなさるのか。さてもさても分らぬ人だなア。これこれカーリンス、お前は正直者だ。私を助けて呉れただけあつて、何処ともなしに徳のある顔をして居る。神様のお姿みたやうだ。屹度お前は霊肉共に清浄潔白だから、テーリスタンに対し堅い約束を破つてはならないと隠してゐるのだらうが、そんな心遣は要らぬ事だ。事の軽重大小により考へて見なさい。お前が私に全然白状をしたと云つても、決してテーリスタンを苦しめるのでも責めるのでもない。畢竟テーリスタンも、私も、お前も大慶だし、ツイ当座の出来心だから。若い時には誰しもある事だから、屹度神様は見直し聞直し、宣直して下さる。私も何程お前が悪うても、見直し、聞直し、初の心で今までの事は川へサラリと流し、心許して交際をさして貰ふから、さア、チヤツとカーリンス、言はつしやいよ』
 カーリンスは頭を掻きながら、
『ヘイ貴女の御言葉はよく分つて居ります』
『さうだらう、分つたぢやらう。矢張りお前はテーリスタンとは、一寸兄貴だけあつて賢い、偉いものだ。正直は此世の宝だ。なア、カーリンス』
『モ黒姫様、知らぬことを知つたやうに云つたら、それでも誠になりますか』
『知つたことを知らぬと云ふのが悪いのだ。知つたことを「知つて居ります、斯様々々致しました」と言ひさへすれば、途方もない玉盗人をしたお前も、罪が消えて却て素直な奴だと大神様が誉めて下さるぞえ』
『オイ、テーリスタン、斯んな婆さまに掛り合つたら、とりもち桶へ脚を突込んだやうなものだなア。何うしたらよからうか』
テーリスタン『それだと云つて第一吾々を日頃から大切にして下さる黒姫様の御難儀になるのだから、あゝして厳しう執拗くお訊ねなさるのも仕方がない。黒姫様のお立場になれば無理もないよ。ぢやと云つて吾々両人は本当に迷惑だなア』
『お前達其処迄物が分つて居りながら、何故私を焦らすのだい。盗人猛々しいとはお前達のことだよ。他が温順しく出ればつけ上り、歯抜けが蛸を噛むやうにグヂヤグヂヤと歯切れのせぬ返事ばつかりして………エー辛気臭い。困つた泥坊だなア』
と長煙管で丸火鉢をクワンクワンとはたき、眼をキリツと釣り上げ、片膝を立てて斜に構へ息を喘ませて見せた。折柄錦の宮の高楼に夜明と見えて、祝詞奏上の始まる五六七の太鼓が響いて来た。
『オイ、カーリンス、あれは五六七の太鼓の音、モー御礼だ。一先づ御免を蒙つて参拝をして来うかい』
『オーそうだ、黒姫様、ゆつくり心を落着けて吾々の無実を御考へ下さいませ。これからお詣りして来ます』
『オホヽヽ、五六七の太鼓は、お前さまの為には結構な助け舟だ。併し乍ら五六七でも七五三でもお詣りは出来ませぬよ。此の話の解決がつくまで参拝は黒姫が許しませぬ。そんな盗人根性で神様へ詣つて、結構な御宮様を汚すと云ふ事があるものか、罰当り奴が、アルプス教の教とはチツト違ふぞえ』
と又もや声を尖らせ、火鉢を叩く。
テーリスタン『オイ、兄弟、何うしようかな。エライことに取ツつかまつたものだワイ』
『取ツつかまるも取ツつかまらぬも、お前の自業自得だよ。心の鬼が身を責めるのだ。お前は結構な身魂だが、其の心の鬼が矢張り邪魔をするのだらう。サア早く鬼を突き出して美しい身魂になつて玉の在処を知らすのだよ。大方鷹依姫の指図でお前が隠しとるのぢやないかなア。紫の玉を気好う献上するなんて言ひよつて、麦飯で鯉を釣るやうな企みをしたのだらう。紫の玉が何程立派でも黄金の玉に比ぶれば何でもない。却々アルプス教に居つた奴は油断がならぬ。アヽさうぢや、お前の事ばかり責めて居つても訳が分らぬ。大方陰から操つて居るのであらう。此の聖地へ来てから鷹依姫は、始終使ひ馴れたお前達二人を私の部下にして呉れと云つた点からが抑も疑はしい。私が黄金の玉の監督者と云ふことは、よく分つて居るのだから、屹度鷹依姫の指図であらうがな。ホヽヽヽ、お前達は忠実なものだ。善にも強ければ悪にも強い。一旦主人と仰いだ鷹依姫へ、其処まで尽す親切は見上げたものだ。俄主人の黒姫に云つて下さらぬのも無理はない。アーア私の了簡が間違つて居つた。ドレ是から鷹依姫を呼んで訊問してみよう』
テーリスタン『滅相なこと仰有いますな。鷹依姫さまは、そんなお方ぢやございませぬ。苟くも三五教の宣伝使竜国別さまの母上ではありませぬか。大神様の御神徳で親子の対面が出来たと云つて、それはそれは温順しく誠の信仰に入つてゐられます。あんまり御疑ひなさるのは殺生でございますよ』
『アヽ無理もない、さうでなければ人間ぢやない、感心感心。私もそんな家来をたとへ半時でも欲しいものだ。併し乍ら、よく考へて見なさい。お前は大神様の誠の道に背いても、一人の鷹依姫が大切か』
『これは聊か迷惑千万。こんなことを鷹依姫様がお聞きにならうものなら、ビツクリして肝を潰されます』
『ソリヤ当然だよ。余り肝玉の太い事をすると神様に睨まれ、肝が玉なしになつて了ふのは天地の許さぬ道理、オホヽヽヽ、さてもさてもしぶとい代物だなア。ドレドレ五六七の太鼓が鳴つた。朝のお勤めに行つて来るから、お前達は何処にも逃げることはならぬぞえ。鷹依姫にとつくと言ひ聞かし、私が帰る迄にそつと黄金の玉を持つて来て置くのだよ』
『アー何うしたらよからうなア』
と二人は吐息をつく。
 黒姫は錦の宮に参拝せむと衣紋をつくろひ、紋付羽織を着し、稍悄気気分になつて道路の石を一つ一つ数へるやうな調子でなめくぢりの旅行式に、力なげに参拝に出掛けた後に二人は黒姫の残して置いた長煙管を握り、テーリスタンは黒姫の座席に坐り、
『これこれカーリンス、お前は余程好い児ぢや、さあチヤツと玉の在処を云ふのだよ。何処へ隠したか、黒姫は申すに及ばず、このテーリスタンまでが側杖を食つて、終に累を鷹依姫様に及ぼさむとして居る大切な危急な場合だよ。黒姫の居る処では云ひ憎からうが、黒姫代理のテーリスタンは今まで兄弟同様に交際つて来たのだから、何一つ心遣ひは要らない。サア、言つて御覧』
カーリンス『オイオイ兄貴、お前までが何を言ふのだい。矢張り俺を疑つて居るのか』
『疑はずに居れぬぢやないか。此間俺が一緒に往かうと言つた時、貴様は親切さうに「テーリスタン、お前は風邪をひいて居るから今日は休め、俺が代りに黒姫様の御保護を見え隠れにして来る」と言つただらう。親切な正直な貴様のことだから、よもやとは思へども前後の事情から考へて見れば、何うしても貴様を疑はねばならぬのだ。お前が盗つたとより考へられないワ』
『アーア、情ないことになつて来たワイ。間違へば斯うも間違ふものかなア。なんとした私は因果な生れつきだらう。天地の神様に見放されてゐるのか』
『天地の神様に見放されようと見放されまいと、貴様の心の持ちやう一つだ。愚図々々してゐると黒姫さまが帰つて来るぞ。早く俺に云つて了へ。さうすれば俺も責任を分担して「隠してゐましたが実はこれです」とつき出して、怺へて貰ふのだから』
『オイ兄貴、一寸お前下へ降りて呉れ。俺が其処へ行かぬと話が出来ぬ』
『ヨ言ひさへすれば好いのだ。如何でもしてやらう。サア、煙草でも燻べもつてすつかり言つて了へ。俺は下へ降りて聞き役だから』
と茲に二人は位置を変じ、カーリンスは長煙管で火鉢を叩きながら眼尻を釣り上げ、
『コリヤ、テーリスタン、盗人猛々しいとは貴様のことだ。覚えのない俺に自分の悪を塗りつけようとするのは怪しからぬぢやないか。俺が此間貴様の病気を苦にして親切に云つてやつたら、それを逆に取つて俺を盗人と誣るのか。さう云ふ貴様こそ怪しい点がある。此間の晩だつた、昨夜のやうに月は出てない、鼻を撮まれても分らぬやうな時、貴様は倒けたとか、道路が分らぬとか云つて大変に時間をとつた事があるだらう。サア何処へ隠した、有体に白状せ。もう斯うなる以上は兄弟の縁切れだ。併しさうは云ふものの、事実さへ白状すれば、矢張り元の兄弟だ、親友だ。鷹依姫様は既に改心なさつたのだから、玉を欲しがる道理はない。さすれば貴様は其の玉をもつて、三国ケ岳の蜈蚣姫様に献上し、バラモン教で羽振りを利かさうとする野心があるのだらう。サアサ、早く申さぬか、今迄のカーリンスとは訳が違ふぞ。閻魔が浄玻璃の鏡にかけて善悪を今に立別けて見せる。さア、如何ぢや』
と力任せに火鉢を殴つた途端、細い竹の羅宇はポクリと折れて、雁首はテーリスタンの額口に喰ひついた。
 テーリスタンはムツと腹を立て、
『なに貴様、他に己の罪を塗りつけようとする大悪人奴』
と両手をひろげて武者振りついた。カーリンスは、
『何ツ、猪口才な』
と握り拳を固めて、無性矢鱈に黒姫の留守中に大格闘の幕が下りた。
(大正一一・五・二四 旧四・二八 外山豊二録)
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