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文献名1霊界物語 第22巻 如意宝珠 酉の巻
文献名2第3篇 黄金化神よみ(新仮名遣い)おうごんけしん
文献名3第10章 美と醜〔702〕よみ(新仮名遣い)びとしゅう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-06-08 08:10:36
あらすじ三人の女は上枝姫、中枝姫、下枝姫と言った。金助は上枝姫と夫婦気取りで話しかけたが、あたりの様子が鷹鳥山と少し違うことに気がついた。上枝姫は、鷹鳥山からすでに三百里離れたところに来たのだ、と答えた。上枝姫は、自分とここに楽しく暮らすことができたのも、金助が泉に落ちた玉能姫を助け出そうとした一心が凝ったのだ、と答えた。しかしその後、玉能姫に恩を着せて蜈蚣姫のところに連れて行き、手柄を立てようとしたことを指摘した。上枝姫によると、玉能姫を救おうという金助の好意が造った世界は短くして終わりを告げ、その後には修羅道が展開するのだ、という。そう言い残して上枝姫は消えてしまった。金助は暗夜の道を前後左右に狂いまわると、たちまち千尋の谷に落ち込んでしまった。谷底の川に落ち込んだ金助は、鬼婆に救われた。鬼婆は、自分は金助の玉能姫への執着が生み出した存在だから、自分の夫になるようにと言い渡した。鬼婆は蠑螈姫と名乗り、金助の色欲と金銭欲が凝って出現した存在だと明かした。蠑螈姫は金助に夫になるように迫る。そのおぞましさに金助ははっと気が付けば、泉に飛び込んだ拍子に気絶していたことに気が付いた。ようやく夜が明けると、スマートボール、カナンボールと五人のバラモン教の部下たちは、あちこちの叢の中に傷だらけになって苦悶していた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年05月26日(旧04月30日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年7月30日 愛善世界社版136頁 八幡書店版第4輯 430頁 修補版 校定版140頁 普及版63頁 初版 ページ備考
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本文  玉能姫と現はれたる三人の女は、甲を上枝姫と云ひ、乙を中枝姫と云ひ、丙を下枝姫と云ふ。金、銀、鉄の三人は漸く美人に導かれ、名も知らぬ山の頂に辿り着いて居た。
金『上枝さま、不思議の縁で貴女と斯う云ふ仲になつたのも何かの因縁でせうなア。一寸先も分らないやうなあの山道を、貴女のお蔭で漸く此処に登つて来ましたが、どうも此辺は鷹鳥山とは趣が違ふぢやありませぬか』
上枝姫『違ひますとも。鷹鳥山を距る事、殆ど三百里ですよ』
『何時の間に、そんなに遠く来たのでせう』
『ホヽヽヽヽ、貴方は御存じありますまいが、私は天人ですよ。貴方の体を翼の中に入れて来たのですから、殆ど半時許りの間より経つて居ませぬ』
『それにしても余り早いぢやありませぬか。併し今迄銀、鉄、外二人の姫さまは此所へ一緒に来た筈だのに、何処へ往つて仕舞つたのでせう』
『神界では、タイムもなければ遠近もありませぬ。さう御心配なさらずとも今に会ふ事が出来ます。今と云つても現界で云へば五十万年の未来です』
『何と合点の行かぬ事を仰有いますなア。此処は現界ではありませぬか』
『現界と云へば現界、神界と云へば神界で、顕神幽一致の大宇宙の世界を逍遥して居るのですからなア』
『何だか私は狐に誑まれたやうな気が致します。性来の黒ン坊の私、何時の間にやら艶々した皮膚になり、色迄白くなつて来ました。さうして貴女の様な立派なネースに手を曳かれ、見も知らぬ麗しき山の頂に導かれたと云ふのは、どうしても合点が往きませぬ。夢ぢやありますまいか』
『夢は現界の人間の見るものです。聖人に夢なしと云うて、清浄潔白の人間に夢があつて耐りますか。畢竟貴方が玉能姫さまが清泉に陥り溺死をしようとして居たのを助けて上げたいと云ふ其真心が凝つて、此処に私と斯う楽く暮す事が出来る様になつたのです。要するに其心より玉能姫さま同様の妾を生出し救ひの国を開かれたのです。併し其次に貴方は玉能姫を救ひ上げ、それを恩に着せて自分の物にしようと思ひ且其言霊を使つたでせう。それで其心と言葉が凝つて又一つの迷ひの国が展開して居ます。其処へ貴方は是から旅行せねばなりますまい。も一つ奥の国は蜈蚣姫に褒められて手柄をしようと云ふ修羅道が展開して居ます、これも一度踏まねばなりますまい。私と斯うして楽く、麗しき山の頂に、百花爛漫たる種々の花を褒めながら楽むのも束の間ですよ。唯貴方の初一念の玉能姫を救ふと云ふ好意が造つた世界は極短いものです。左様なら』
と云ふかと見れば姿は煙となつて消えて仕舞つた。四面暗澹として咫尺を弁ぜざるに至つた。金は、
『モ上枝様、何処へお出になりました。も一度お顔を見せて下さいませ。アヽもう姿がなくなつたか、仮令妖怪変化でも、唯の一時でもこんな愉快な気分になる事を得ば死んでも満足だ。アヽどうしたら良からう』
と暗夜の道を前後左右に狂ひ廻る途端に、千仭の谷に真逆様に顛落し、谷川の青淵にざんぶとばかり落ち込んで仕舞つた。
 何処ともなく現はれ来る一人の鬼婆、矢庭に真裸となり、金助を小脇に引き抱へ救ひ上げた。金助は今や溺死せむと苦み悶えたる矢先、何人かに救はれ、嬉しさの余り、
『何れの方かは存じませぬが、よくマア助けて下さいました。有難う存じます』
と面を上げよくよく見れば、いつしか夜は明け放れ、山奥の谷川の辺に見るも恐ろしい鬼婆に救はれて居た。金助は吃驚仰天、此場を逃げ去らむとする時、鬼婆はグツと素首を握り、
『これこれ金助さま、お前さまを助けたのは此婆だよ。さアこれから私のハズバンドになつて下さい』
『やア此奴は大変ぢや。上枝様のやうな美人なら、仮令化衆でも恐ろしくはないが、お前のやうな皺苦茶だらけの、口が耳まで裂けた鬼婆アさまの亭主になるのは許して貰ひたいなア』
『私はいもり姫と云ふ腹に真赤な痣があり、南無妙法蓮華経と御題目を天然に表はした、いもりの様な婆だ。これもお前の心から造つて生んだ鬼婆だから、お前の世話にならいで誰人の世話にならう。お前は玉能姫を助け、それを恩に着せて、恋の欲望を遂げようとしたではないか。いもりの黒焼振りかけて、女を思ひつかさうとするやうな虫の好い考へを起すものだから、たうとう其心の鬼が私を生んだのだから、何と云つても離れやせぬぞえ』
『「惚薬、他にないかと蠑螈に問へば、指を輪にして見せたげな」指を輪にすると云ふ意味は、世の中の仇敵として喜ばれて居る妙な運命を辿る金助の事だよ。金ちやんには美人が惚れる可能性が備はつて居る。併し乍ら蠑螈姫では駄目だよ。なんぼ金さまが色男でも、お前のやうな悪垂れ婆には聊か御迷惑千万、ナンノホウレンゲキヨウだ。今度ばかりは何うか許して呉れ。又逢ふ時もあらうからなア』
 鬼婆の蠑螈姫は、涙をハラハラと流し、
『そりや聞えませぬ金助さま。お前と私の其仲は、金助や経惟子の事かいな。初めて逢うた其日から……』
『コラコラ、何吐すのだ。昨日や今日の事ぢやない、と云ひやがるが、現に今逢うた許りぢやないか』
『そりや違ひます金助さま。お言葉無理とは思はねど、お前は元来ずるい人、女の尻を付け狙ひ、狙ひ狙うた魂が、凝り固まつて七八年、ここにいもりの姫となり、お前の心の黒幕を、開けて生れた此妾、今更捨てようとはそりや聞えませぬ、胴欲ぢや。仮令此身は閻魔の庁で、如何なる酷い成敗に遭はされうとも、私の夫とも親とも頼む金助さま、どうしてこれが思ひ切られようか。思へば思へば前の世の、まだ前の世の前の世の、昔の昔のさる昔、去つた女房の怨霊や、泣かした女の魂が、凝り固まつて今此処に、お前に逢うた嬉しさは、千代も八千代も万代も、忘れてならうかいもり姫、逢ひたかつた、見たかつた、明けても暮れてもお前の事、夢寐にも忘れぬ女房が、心を推量して下さんせいなア』
『こりやこりや、いもり姫とやら、切なる心は察すれど、某は鷹鳥山の岩窟に立ち向ひ華々しく言霊戦を開始して、当の敵たる鷹鳥姫を虜に致し、如意宝珠の宝玉を手に入れねばならぬ大切な身の上、夫婦になれなら、事と品によつてはならぬ事もない。何は兎もあれ凱旋の後、否やの返事を仕らむ。サア早う其処を放しや。時延びる程不覚の基、エヽ聞き分けのない鬼婆め』
『愛憐き夫が討死の、門出を見かけて女房が、これが黙つて居られうか、泣く泣く取り出す拳骨の痛さ、耐へて往かしやんせ』
『こりや鬼婆、洒落ない。貴様等に拳骨を喰はされて耐るか、あた縁起糞の悪い、討死の門出なんて何を云ふのだ』
『これ金さま、妾の素性を知つて居るかい。お前は女にかけては随分ずるい人だが、金にかけては雪隠のはたの猿食柿、一名身不知と云ふ、柿のやうな男だ。渋うて、汚うて、細かうて、喰へぬ男だと云はれて来ただらう。そして鬼金だ鬼金だと人に持て囃された悪党者だ。金が敵の世の中だよ。大勢の恨とお前の鬼心が混淆になつて、こんないもり姫の鬼婆が出現したのだ。云はば色と金との権現様だ。お前は豪さうに人間面を提げて歩いて居るが、決してそんな資格はありませぬぞえ』
『エヽ困つた口の悪い婆が現はれたものだなア、人間でなければ三げんか、四けんか、五んげんさまか』
『良い加減にお前さまも改心して、解脱さして呉れたら何うだいな。それが出来ねば何処迄もお前さまにくつ着いて行かねばならぬ。磁石が鉄に吸着くやうなものだ。スヰートハートした病は、お医者さまでも有馬の湯でも、根つから葉つから何処迄も癒りやせぬワイなア。アヽ味気なき闇の浮世だ。誰がすき好んでこんな鬼婆になりたいものか、お前と云ふ男は殺生な男だ。サア何うして下さる』
と堅い冷たい皺だらけの手で、金助の両腕を左手に一掴みとなし、右の腕に蠑螺の壺焼を固めて、
『これ金さま、お前は本当に情ない人だ。イヤイヤ喰へない人だ。サア此婆の身を何うして下さる』
と耳迄引き裂けた口をパクパクさせながら口説きたてるその嫌らしさ、身の毛もよだち首筋元のぞわぞわと寒さにハツと気が付けば、以前の清泉の中に飛び込んだ途端、向脛を打ち、気絶して居た事が分つた。傍を見れば人の呻声、咫尺を弁ぜぬ闇の中から次々に聞えて来る。
 斯くして漸く夜は烏の声にカアと明け放れ、四辺を見れば、銀、鉄、熊、蜂、カナンボール、スマートボールの六人は、彼方此方の草の中に、荊蕀掻きの血だらけの顔を曝して苦悶して居た。
(大正一一・五・二六 旧四・三〇 加藤明子録)
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