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文献名1霊界物語 第51巻 真善美愛 寅の巻
文献名2第3篇 鷹魅艶態よみ(新仮名遣い)ようみえんたい
文献名3第13章 槍襖〔1328〕よみ(新仮名遣い)やりぶすま
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-09-07 18:53:21
あらすじランチと片彦は館の立派なのに感心している。高姫は侍女二人に命じて、父王に来客を告げに行かせた。初花姫を騙る高姫は、ランチと片彦を案内して奥の間に進ん出で行く。観音開きの部屋の前に着いた。扉が開いて、さらに侍女たちが出てきて三人を迎えた。高姫は侍女にランチと片彦の案内を命じると、自分は父母に会ってくると言って姿を隠した。ランチと片彦は観音開きの扉をくぐって中の間に入り、侍女に勧められるままに椅子に腰を下ろした。これは実は高姫に与えられた狸穴であった。二人は何ともいえない心地よい気分になり、コクリコクリと夢路に入った。ドアはいつの間にか固く閉ざされてしまった。しばらくすると、二人の肩を叩く者がある。目を覚ますと、机の上には美しい器に盛られた酒や寿司や果物が並べられていた。見ると、美しい着物を着た妙齢の婦人が三人、二人に向かい合っている。ランチは驚いてうたた寝をしてしまった不調法を詫びた。三人の中に中央の美人は、自分は三五教の宣伝使・初稚姫だと名乗り、両脇の二人は秋子姫、豊子姫というコーラン国の侍女だと紹介した。そして、ハルナの都を目指す宣伝の旅の途上、ここでコーラン国の如意王に出会い、しばらく足を止めることにしたのだ、と語った。ランチと片彦は、思わぬところで高名な宣伝使・初稚姫に面会を得たと、それぞれ挨拶と自己紹介を行った。初稚姫は、秋子と豊子に命じて、さかんに両人に酒を進めさせた。二人は酒と女の美貌に酔いつぶれてしまった。二人は秋子と豊子に手をひかれて一室に導かれ、寝に就いた。しばらくして二人が気が付くと、石に囲まれた一室に横たわっていた。一枚板を立てたような大理石で包まれていて、どこにも出入り口がない。二人は慌てて、難事に当たって天津祝詞を奏上しようとしたが、どうしたことか一言も祝詞の言葉が出てこない。アオウエイの言霊を繰り返したが、何の効能もなかった。しばらくすると、足許や壁からカツカツと音がして、タケノコのように鋭利な槍が石畳を通して突き出してきた。二人は槍を避けて、槍に包まれながらまっすぐに立っているのがやっとだった。すると槍の穂先が蛇に変じて鎌首をもたげ、火を吐くやつ、水を吐くやつ、黒煙を吐くやつがいる。次第に蛇の首は伸びてきて、両人の体をがんじ絡みにしてしまった。するとどこからともなく太鼓のような声が聞こえてきて、二人に三五教を棄てるように迫った。二人はいかに脅されても屈せずに声に言霊で言いかえし、抵抗した。槍は林のごとく立ち、火は炎々とt燃えてきた。蛇とムカデはが体一面にたかってくるが、なぜか痛くもかゆくもなかった。ランチと片彦はこれぞまったく神様のご守護と大神を念じ、一時も早く天国に上らんことのみを念じつつあった。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月26日(旧12月10日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年12月29日 愛善世界社版188頁 八幡書店版第9輯 333頁 修補版 校定版194頁 普及版85頁 初版 ページ備考
OBC rm5113
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本文の文字数4743
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本文  高姫は玄関口につき、
『もし御両人様、何卒お上り下さいませ。これが父の本宅で厶います』
ランチ『イヤ有難う厶る。何とまア、四辺眩きばかり七宝をもつて飾られ、恰も天国浄土の荘厳を見るやうで厶る』
片彦『いかにも左様、某生れてからまだ、斯様の館を拝見した事がない。ハルナの都の霊照殿でも、このお館に比ぶれば非常な劣りを感じまする』
『お二人様、お恥かしい破家で厶います、何卒奥へお通り下さいませ。これ高子、宮子、早く奥へ往つてお父さまやお母さまにお客様がみえたと云つて来るのだよ』
『ハイ』
と答へて二人の侍女は衝立の影に姿を隠した。七宝をもつて描かれたる衝立の絵は月夜の海面であつた。如何なる画伯の手になりしものか、一目見るより幽玄壮大の気分に漂はさるるのであつた。二人はオヅオヅ高姫の後について長い廊下を面恥かしげに進みながら、ランチは片彦に向ひ、
『片彦殿、実に瑠璃宮のやうで厶るなア』
『成程、形容の辞が厶らぬ。これは これはとばかり花の吉野山、とでも言つて置きませうかな。嬋妍窈窕たる美人に導かれ、金、銀、瑠璃、珊瑚、瑪瑙、硨磲、玻璃の七宝をもつて飾られたる珍の御殿を進み行く吾々両人は、夢でも見て居るので厶るまいかなア』
と、こんな事を囁きながら、奥へ奥へと進み入つた。パツと突き当つた所に観音開きの庫のやうなものが立つて居る。其処から花を欺く許りの十二三の乙女が七八人、バラバラと現はれ、中の最も年かさらしき乙女は叮嚀に手を仕へ、
『お嬢様、どこへ行つていらしたので厶います。御両親様が大変御心配で厶いました。そこで妾がお探ねに往かうと思つて居た所、そこへ高子、宮子様が、お嬢様は今お客さまを連れてお帰りとの事に、お迎へに参りました。ようまア帰つて下さいました』
と叮嚀に云ふ。
高姫『其方は五月ぢやないか、御苦労だつたねえ。このお方は三五教の宣伝使様だよ。サア奥へ御案内して下さい。初稚姫様のお居間へねえ』
五月『ハイ承知致しました。サアお客様、妾が案内致しませう』
ランチ『ヤア、これは誠に畏れ入ります』
片彦『左様なれば遠慮なく御免を蒙りませう』
と観音開きを潜らうとする時、
高姫『もしお客様、妾は一寸父母に会つて参りますから、何卒応接の間に待つて居て下さい。これ五月や、お客様を鄭重に御待遇なされや』
『ハイ畏まりました』
片彦『どうぞ初花姫様、お構ひ下さいますな』
ランチ『左様ならばお待ち申して居ります、どうぞ直にお顔を見せて下さい』
『ハイ承知致しました。一寸失礼致します』
と、扉を開けてパツと姿を隠した。これは高姫の与へられた狸穴の立派な部屋である。片彦、ランチは八人の少女に導かれ、観音開きを潜つて中に入つた。室内の諸道具は行儀よく整理され、五脚の椅子が、円いテーブルを中央にして並べられてある。二人は五月に勧めらるる儘に腰を下した。何とも云へぬよい気分である。ドアは何時の間にか固く鎖された。二人はコクリコクリと夢路に入つた。
 暫くすると、
『もしもし』
と肩を叩くものがある。二人はフツと目を醒ませば、机の上に見た事もない綺麗な器に、酒や寿司や果物が盛られて居た。そして何とも云へない妙齢の婦人が衣服一面に宝玉を鏤め、其光は灯火に反射して一層麗しく輝いて居る。赤、紫、青、紅、黄、白、橄欖色、紫紺色などの光が全身から溢れて居る。二人は夢かとばかり驚いた。さうして室内に灯火のついて居るのを見て、余程長く眠つて居たものだと思つた。
ランチ『ヤア、どうも失礼致しました。結構なお館へ引き入れられまして、失礼千万にも眠つて仕舞ひました。何卒吾々が無作法をお咎めなく、お許しを願ひます』
 三人の女は何れも玉子に目鼻のやうな、揃ひも揃うた容貌をして居る。併し中央に腰をかけて居る女は、どこともなしに気品高く、且つ二つばかり年かさのやうに見えた、十八才に十六才位な姿である。中なる美人は両人に向ひ、
『私は初稚姫で厶います。承はれば貴方等はランチ将軍、片彦将軍様ださうですなア、よくまア三五の道に御入信なさいました。妾は大神の命を受けハルナの都を指して宣伝の旅に上る途中、如意王様に見出され、暫く此処に足を止むる事となりました。さうして此右に居られる方は秋子姫、左の方は豊子姫と申すお方で厶います。まだお年は若う厶いますが、王様がコーラン国から侍女としてお連れ遊ばした淑女で厶います。何卒以後相共に宜敷く御提携を願ひます』
ランチ『貴女が、名に高き初稚姫様で厶いましたか。これは又不思議な所でお目に懸りました。私は仰せの通りランチで厶いまする。一度は鬼春別将軍の部下となり、大黒主の命を奉じ、勿体なくも斎苑の館に攻め寄せむとした罪人で厶います。然るに、大神様のお恵によつてスツカリ改心を致し、治国別様の長らくの御教訓をうけ、御添書を頂いて斎苑の館へ修業に参る途中、王女初花姫様にお目にかかり、導かれて此処まで参上致しました。何卒至らぬ吾々、万事御指導を願ひ奉ります』
『拙者は片彦で厶います。ランチ殿と同様の径路を辿つて、今は治国別様のお弟子となり、此門前に於て王女様に導かれ、只今これへ参つた所で厶います。何分宜敷く御指導を願ひます』
 これより初稚姫は、秋子、豊子に命じ盛に両人に酒を勧めさせた。両人は恍惚として酒と二人の美貌に酔ひ、吾身の天にあるか、地にあるか、海中にあるか、野か山か、殿中か、殆ど見当のつかぬ所まで酔ひつぶれて了つた。さうして三五教の教理も、治国別の教訓も、残らず念頭より遺失し、今は只ランチには豊子の顔、片彦には秋子の顔が、浮いたやうに目にボツと映るのみである。ランチ、片彦両人は二人の女に手を引かれ、ヒヨロリヒヨロリと廊下を渡つて、麗しき一間に導かれ、二男二女は枕を並べて寝についた。
 暫くあつて二人は気がつき四辺を見れば、石と石とに畳まれた一室内の石畳の上に横たはつて居た。さうして何処にも出口がない。一枚板を立てたやうな滑らかな大理石で四方が包んである。二人は俄に顔色を変へ、
ランチ『ヤア、こりや大変だ。片彦さま、どうだらう、美人に手を曳かれ眠つたと思へば、斯様な石牢の中へ放り込まれたぢやないか』
片彦『成程、こいつは困つた。どうしたらよからうかなア』
『どうしようと云つても手のかかる所もなければ、押しても突いても出口も入口もないのだから、仕方がないぢやないか。斯ふ云ふ時にこそ、天津祝詞を奏上するのだな』
『如何にも左様』
と二人は天津祝詞を奏上せむと焦れども、どう云ふものか、一口も出て来ない。外の言葉なら何でも出るが、天津祝詞に限つて一言も出ないのは、不思議中の不思議であつた。
ランチ『ヤア駄目だ、片彦、御身も駄目と見えるのう』
片彦『誠に残念至極で厶る。一つ力限り呶鳴つて見ようでは厶らぬか。さうすれば誰かが声を聞きつけて救ひ出して呉れるだらう』
『宜敷からう』
と二人はアオウエイを連発的に幾度も重ねて唸り出した。併し石畳に少しの隙もなく囲まれた十坪許りの此室は、声の外に漏れる筈もなく、声は残らず反響して、遂には両人とも喉を破り、カスリ声しか出なくなつて仕舞つた。
ランチ『ああ駄目だ、もう此処でミイラになるより仕方がないワイ』
片彦『これも吾々の罪劫が報うて来たのだと諦めて、男同士の心中でもしようぢやないか』
『どうも仕方がない』
とこれもひつついたやうな声で呟いて居る。忽ち足許から、カツカツカツと鋭利な鑿で岩を打ち砕くやうな音がしたかと思へば、筍のやうに鋭利な槍が石畳を通してツと現はれた。
『ヤアこれは険難だ』
と後へすざると、又もやカツと音がして槍の穂先が湧いて出る。瞬く中に三本四本五本十本と石畳を通して隙間もなく鋭利な槍が立ち並んで来た。横壁になつて居る石畳からも槍の穂先が三尺許り、カツカツと云ひながら四方から頭を出した。最早両人は真直に立つて居るより、横になることも何うする事も出来ないやうに槍に包まれて了つた。槍の穂先は忽ち蛇と変じ、ペロペロと両人の身体を舐めむと一斉に首を擡げて舌端火を吐く奴、中には水を吐く奴、黒煙を吐く奴、次第々々に延長して両人の身体を雁字搦みにして了つた。二人は声も得上げず、互に顔を見合せた。俄に顔はやつれ、恨の顔色物凄く、忽ち地獄の餓鬼のやうな面相になつて了つた。
 此時、何処ともなく太鼓のやうな声が聞えて来た。二人は耳を澄ましてよく聞けば、
『アアア悪魔外道の教をもつて世を誑らかす三五教に迷信致し、
イイイ印度の都ハルナに坐します大黒主の命令に背き軍務を捨てて、
ウウウ迂濶千万にも三五教に寝返りを打ち迷信致した罪によつて、
エエエ閻魔の庁より許しを受け、汝両人を剣の山、蛇の室、焔の牢獄につつ込み、
オオオ臆病者の汝等の霊肉を亡ぼし、地獄のどん底へ落して呉れむ。
カカカ改悪致して片時も早く神にお詫を致せばよし、何時迄も頑張りて居るならば、
キキキ錐の地獄へつき落し、鋸の刃をもつて汝が首を引き破り、
ククク苦しみの極度に達せしめ、糞を食料に与へてやるがどうだ。
ケケケ怪しからぬ其方。
コココ是より此処で改心致すと申せば、この苦痛を許してやらうが、何処までも三五教を奉ずるとあらば、最早許さぬ百年目、返答はどうだ』
と雷の如き声が聞えて来る。
ランチ『拙者は苟くも三軍を指揮したる武士で厶る。一たん三五教に帰順したる上は、決して所信はまげぬ此方、サア早く某を如何やうとも致したがよからう。仮令肉体は亡ぼさるとも、如何なる責苦に遇ふとも、拙者の霊は肉を離れ、大神の天国に上り、神軍を引率して汝等の魔軍を木端微塵に粉砕して呉れむ。如何様なりとも致したらよからう』
 何処ともなく又もや大きな声、
『さてもさても合点の悪い代物だなア。
シシシ強太う致して我を張りよると、汝が霊肉を粉砕し、高天原へ上る所か、第三天国の軍勢をもつて、汝が悪業を数へ立て、槍の穂先に亡ぼし呉れむ。
ススス素直に改悪致して、此方の云ひ分についたが汝の身の為であらう。
セセセ背中に腹はかへられまい。
ソソソ傍に立ち上るその剣先、今に焔を吐いて汝を焼き尽すだらう。片彦も同様だぞ。一同思案を定めて返答を致すがよからう』
片彦『タタタ叩くな叩くな、悪魔の計略に乗ぜられて、仮令此肉体は亡ぶとも、
チチチ些とも怖れは致さぬ。
ツツツ突くなと斬るなと勝手に致せ。
テテテテンゴを致すと、やがて三五の大神現はれたまひ、汝を罰したまふべし。
トトトとほうに暮れて、如何に栃麺棒を振るとも、決して其方は許されまいぞ』
 頭の上から又怪しの声、
『ナナナ何をゴテゴテと世迷言を吐すか。
ニニニ二人とも大黒主様に叛旗を翻し、
ツケリコと士節を破り三五教の道に、
ネネネ寝返り打つた横着物、
ノノノ望みとあらば、此槍の穂先を廻転させ、喉と云はず、頭と云はず、腹と云はず、突いて突いて突き捲つてやらうか』
ランチ『ハハハ腹なりと喉なりと、
ヒヒヒ肱なりと背なりと勝手に、
フフフ不足のないやうに、サア突けい、ガツプリ突けい。
ヘヘヘ下手な事を致して地獄の苦しみを受けな。
ホホホ呆け野郎奴、このランチは、汝如き悪神に屁古垂れるやうな弱虫ではない程に、鯉は爼の上に載せらるれば決して跳ねも動きも致さぬ。武士の花と謡はれたるこのランチ、片彦両人は一寸も動かばこそ、大磐石心だ、勝手に致したがよからう』
と、かすれた、ひつついた声を出して抵抗して居た。
 不思議の事には槍は林の如く突立ち、火は炎々として燃えて来る。蛇、蜈蚣は体一面に集つて来るが、併し痛くも痒くもない。両人はこれぞ全く神様の御守護と大神を念じ、且一時も早く天国に上らむ事をのみ念じつつあつた。
 ああ此両人は如何にして救はるるであらうか。
(大正一二・一・二六 旧一一・一二・一〇 加藤明子録)
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