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文献名1出口王仁三郎全集 第7巻 歌集
文献名2巻中よみ(新仮名遣い)
文献名3昭和五年(三百三十三首)よみ(新仮名遣い)
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-09-18 07:04:47
ページ35 目次メモ
OBC B121807c05
本文のヒット件数全 706 件/ノ=706
本文の文字数9075
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本文    五月雨
雨雲は天津日かげを押しつつみ風はださむし天橋立
成相山にあまぐも立ちこめて天橋立小雨降りつつ
ひさかた橋立空たかくわたり来て鳴け山ほととぎす
天渡るる月夜ごろも過ぎゆきてさみだるる山に啼時鳥
むかつ山霧立ちぼり大堰川せせらぎ音遠く聞え来
谿水音清くして虎杖ながくびたるこはざま径
草苺梅雨ばれ庭にいくすぢも根蔓ばして芽をふいてゐる
さつき空ひくう山すそをさまよひながら雨はれにけり
夕けぶりしめるが如く重たげに軒端をはひて空さみだるる
海士子がたく藻煙うちしめり波もしづかにさみだるる海

   霖雨
真宗書籍ばかりを読まさるる独房さびし霖雨降る

   出雲大社
幽世司といます大国主祀れる宮さびにさびつつ
八雲立つ出雲清庭にもゆるが如く躑躅花咲く

   時代尖端を行く
不徹底的な旧道徳徳観が癪に障る、断然時代尖端を行く覚悟だ
好きと思つた事もなければ嫌だと思つた事もない三十年間夫婦生活だ
楢林に新緑がもえ片つ端から毛虫が蚕蝕して行く五月

   早苗
苗代に目立ちてそよぐ乱れ葉をひきぬき見れば稗やはもえ
苗代若茎ふしだたぬほどにと賎とりいそぐかも
植ゑつけし早苗はびて青茎にふしだつ夏となりにけるかな
産土みとしろ清めつつ早苗とるなり里をとめら
夕されば短冊蒔きわか苗末葉にぼる銀つゆかも
賤が家垣つ外面は小田近み雨けぶりつつ早苗とる見ゆ

   ほととぎす
ほととぎす或は近くまた遠く夜もすがら聞く本宮
むかつ山雨にけむりてはるけくも山郭公聞くゆふべかな
あたり山郭公名どころと聞けど河鹿みぞする

   湯ケ島遊記
幸多き今日吾が身ぞ思ふこと一つもあらず温泉にひたる
ぬば玉闇に真白く映えながらたきち泡だつ狩野流れ
空しかる心抱きて湯宿にほととぎす聞く今日吾かも
願ふこと一つ無き身も湯ケ島温泉里は長く住みたき
蜿蜒と一すぢしろきやまあひ道つたひ来し湯ケ島
来し方こともおもはず行末ゆめもおもはず温泉に遊ぶ
んびりと手足ばして湯槽に蛙如く浮び見しかな
村は静かに暮れて狩野川瀬瀬みひとり高きも
馬も牛も湧き出づる湯に浸りゐて珍らしきかな湯ケ島
青あをと千引岩に苔むして筧に引ける温泉あふるる
山せまり川またせまる湯宿に心ひろびろと今日も暮れたり
瀬瀬音雷ごとひびかひてそばだつ谷空に雲あり

   保津川
空明けはなれ琴平ふもと保津は煙れり
とこなげ谷間に夕陽落ちて保津川音高く聞ゆる
坂道を辿りたどりて清瀧宿に花見つ鴬を聞く

   神都高千穂峡
並山を四方にめぐらすたかはら高千穂峡やとこしへ
かむながら神代まま家がまへ千木かざしたる高原さと
道たどりてゆくに木しげみいよいよ深まり画も小暗き

   阿蘇山
火産霊御息かときじくにけむりを吐ける大阿蘇
外輪山ぼりゆくてに大阿蘇噴火灰は雪をそめたり
外輪山ふもと青き芝原にくさ食みあそぶ数十頭

   雲仙嶽
牧に草はむ馬ここだゐて丹つつじ花ふみにじられつ
わかくさに日かげかがよふゴルフ場にあそぶ人ら姿たしげ

   北海行
承陽殿御燈明深くまたたきて読経涼しく朝風わたる(加賀永平寺にて)
芦崎なみ木空とほく八甲田山すがたかすめる(八甲田山)
名にし負ふ津軽富士岩木山津軽野に来て仰ぎ見にけり
岩木山雲立ち篭めし津軽野やあした凉しく風わたるなり
青田面さわたる風も陸奥はあなしみじみし秋来しがごと
渡せるあたりあをあをと蕗葉もえて初夏風にほふ(北海道登別温泉)
洞爺湖をめぐる若葉森かげにひねもすをなく山時鳥
窓近くペンとる朝を三箇山峰ゆ吹く風そよそよとすずし
砂吹くや蒙古野ゆく思ひして白樺森を見さけ見つげり
山脈やまみねみね雲おほひ羊蹄山今日は見えずも
思ひ出たねとなりけり狩太町に仰ぎし蝦夷富士ケ峰
羊蹄山峰吹く風にあふられて駒をならべし宣伝
一とせ春夏秋もろ花いま咲く蝦夷に海越えて来ぬ
もろ木木は緑と茂りもろ草花咲きさかる蝦夷夏かも
巨き樹はみな伐り伐られ植えし木若木が茂る胆振国原
落葉松こずゑにここだも雀子群れて囀る朝ほがらなり(本目名)
もうもうと濃霧立ちこむ中にして胆振昿野今朝狭く見ゆ
むくつけき里人なれやおもおも吾が湯に入るを覗きては行く
三十年昔は熊や猪棲む荒野なりしと聞くが床しき
みはるかす限りは麦や馬鈴薯畑ばかりなりニセコアン村
いたづき一つなけれど遠旅に疲れおぼゆる蝦夷島
白樺林しるけく秋陽はえて尾上をわたる風あしみゆ
大空に雲むらむらとふさがりて荒れ模様なる樺太
二ケ月旅をつづけて今ここに北根室月を見るかな

   瀬戸海にて
五里五島七里七島経めぐりて一しうかん夏はくれたり

   夏
終夜盆踊りせしくたぶれねむたき真昼金魚売り

   天
たまさか逢ふ夜さやけさは天河原も澄みわたりつつ
八十瀬舟真帆はりあげて天河渡るが如く白雲行く
きぬぎぬつらき別れは七夕星にも似たるわがおもひかな
たまさかに逢ふ夜は明けて帰りゆく君思ひやらるる

   折にふれて
夕焼空あざやかに池面にうつろふ雲夏めきて見ゆ
みそぎして帰る夕べ土堤上に宵待草咲きつづきたり
紅あかと筏かづら花咲きて夕陽に映ゆる庭うるはしも
前になり後になりて十六夜月わが汽車を見送りてあり
一文字に流るる霧上につんもりと浮く胡麻高山
右左まど外にも吾が乗れる汽車室あり夜汽車あはれ
わが庭に茂れる萩あるが中に花咲き初めし枝もまじれり
千町田に草ぬく男いつしかに稲しげみに見えずなりにし
雁わたるタベ空に風寒み浅茅いろづく秋みち
高岸をすべり落ちたる酔人叱るが如くひとりつぶやけり

   黒煙
恐ろしい煙突吐く黒い煙はプロレタリア俺たち息だ
低いが気にかかリシヤッターおりる瞬間び上つてみた

   朝顔
大輪朝顔はな文机に鉢なり持て来見てをたしむ
となり家庭にしげれる朝顔びてわが庭に咲く

   初雁
初雁端わたるかず見えて秋風さむし別院には
早稲刈る山田空をはろばろと初かりがね渡り行く見ゆ
初雁こゑ嬉しけれ蝦夷ケ島わが恋ふ友に逢ふ心地して
澄みきりて月照る空にきこゆなり契りたがヘぬ初雁こゑ
漁船かへる松島夕月夜ほめく空にはつかり啼く
故郷に錦かざるはいつ日と思へる夜半に初雁啼く
ゆふべ空をあふぎつつ初雁音を旅にききたり
月見むと端居しあれば雲間より影ちらちちと落つる初雁
おほぞらに初雁たかく聞ゆなり高峯にぼる月さやかにて

   佐渡ケ島
雲棚引きて佐渡ケ島に夕陽落ちゆくわが目前に
称へても称へつくせぬ美はしき佐渡島根を包む夕
穂を踏みて渡りし佐渡島に見るもさやけし夕映え
いにしへ流され人も佐渡夕空いろに慰さまれけむ

   白河関にて
夜さらば白河月眺めむと待ちしもむなし曇りけるかも
草山に常磐ちらちらとたてるが見えて雨けぶるなり

   原始的人間
風通し悪い猿股ひつぱづし原始的人間になりすましても見た
やがて地球と彗星が衝突して世界が全滅するとぬかす天文学者近眼
血圧が高いと医者診察を聞いてるブル青さよ
自動車に競争せむと人力車一区七銭で街かけまはる
臨検と尖つた声に耳をさされ膝を直した濁房朝だ

   百姓
寝ながらに月かげが見えるあばら家淋しいくらしだ、螽蜥が鳴いてゐる
不景気風吹きまくつてゐる今年秋は庭萩など見る気にならず
曼珠沙華が赤赤と咲いてゐる田畔!憂欝な百姓顔を見ろ

   月
久方み空月は神つ代すがたを今に変へずありけむ
高台銀杏にかかる月かげを愛でつつ秋夜をふかしをり
わがかげもかくろひにけり天心にこりて動かぬ月光に
月高くみ空に冴えて青訓喇叭音も更けわたりつつ
夜あらしは松に吹けども大空月たかだかと青雲
昨日より遅く出づると知りながら月待つ夜半もどかしきかな
白萩花に月かげさしそひて庭面いまだ暮れあへぬかな
大空に月澄みきりてこ夕べを雨降りしとは思へざりけり
根に腰うちかけて愛宕山尾上にさゆる月に見あかず
庭石窪みに雨降りたまりかげを宿して月さやけさ
真葛花見わかずなりし夕暮空につめたき新月かげ
風もなきこ夜に漣たつとし思へば五位鷺浮ける
吾妹子旅より帰る宵も待たで惜しやかくれぬ三日月かげ
川沿ひ梢ほそぼそとやさしくかかる三日月かげ
待つほど月にあらねど思ふどち同じ筵に語る楽しさ
苫屋にまとゐしてわが思ふどち月を見しかな
百津桂生ひ茂りたる庭面に十二夜月清く冴えたり
朝あけ海辺に立てば波奥に低くうかべる月かげかな
山松こずゑに残る有明しらけたるかな
鉛筆文字見ゆるまで十六夜月は澄みつつ冴えわたりつつ
かた庭にさむしろ敷きて十六夜月を賞でつつ虫を聞きつつ
月かげ冴ゆるにつれてわが庭が木群いよいよ暗くなりつつ
遊びふけて野路を帰ればひむがしぼる二十日月かげ
帰りゆく人をひそかに見送りつ空にかかれるありあけ
待ち佗びし人は来らず小夜ふけて二十日月は山に昇れり
鳴く虫声ばかりなる田面に昇る二十日静けさ
何時までも飽かで眺むる月かげに稲田面はほ明けにけり
風さゆるみ空を月渡るかげ心さえざえと見あかぬかも

   十和田百景うち
小波しづかに寄する三室岬岩にしげれる樹樹さやけさ
八郎大蛇が血糊記念てふ五色岩ケ根に浪ただよふ
ちはやぶる神斧もてけづりたる千丈幕すがたゆゆしき
にぶき浴びたる神代浦わが遊ぶこ船とどめたき
よりてなれるか剣岬岩はさながら劒に似たる

   秋雨
秋雨しと降る庭に苔むしてこ手水鉢さびふかかり
山めぐる雲あなたに青空高くぞきて降る時雨かな
木木風さやぐをみれば間もあらず音立てて降る夕つ秋雨
やれ窓障子ぬらして忙しげに風にりゆく秋
ひとしきり風にざわめく銀杏葉に露を残して時雨はれたり
日日なめて長雨降りしく秋田に見るかげもなく立つ案由子かな
足引尾上に小夜ふけて鹿音さむく時雨ふるなり
秋萩こずゑをしばく夕雨さびしさ風窓を打つ
逝秋小雨つめたき窓辺にさびしく鳴けるこほろぎ

   秋雑歌
うたたね窓にさし入る月かげに夢覚むれば松虫鳴く
月は星なき大空に高くかかりて虫音すがし
あまりにも月よろしさ想ふどち曼珠沙華咲く野路をひろひぬ
光りを浴びて中空にシオン舘白く映えたり
秋風に吹きなやまされ刈萱乱れみだる露はら
紅葉照る庭に夕陽直刺して遣水音ゆるやかなりけり
にぶき陽は芝生にさしてりんだう花むらさきに匂ふ夕暮
朝ばれ面を渡る秋風にわが居間窓稲香ただよふ
かげ見えわかぬまで茂りたる稲葉を渡る風さやけさ
日並べてつづく旱に庭萩いくばくならず咲きてしなへぬ
木犀花咲き揃ひわが住める庭面は秋ふかみゆくなり
大空に雲ふさがりて寒けきに百舌鳥声ばかり高く聞え来
銀杏実はあるとしもなき秋風にゆられて落ちつ音たてにけり
遠方とどろかし近寄り来る飛行機おと
かさこそと足音近く聞えつつ人かげ見えぬ森ふか霧
立ちこめし天ぎりあひを洩れて来る秋日光静かなるかな
枇杷茂りゆ透けて玻璃窓にさし入る朝日すがしかりけり
車井釣瓶おと聞えつつ人かげ見えぬきりふかき朝
おしなべて秋は朝夕たしけれ春たね蒔きし七草はな
一つ家軒に吊られてあかあかと秋陽に柿がかがやいて居り
野分に吹きまくられて刈萱しどろもどろになびく夕暮
夕嵐吹きつよむ空をたわたわに片寄りて鴉飛びて行くなり
大空に七日月かげぼんやりと夕日にぼけて薄くかかれり

   秋祭
しとしとと雨にくらせる秋祭人往来まれなる町かな
うぶすな神まつる夜霧ふかみ御神楽おとさやかに聞ゆ

   秋傷心
月はうごかず庭面を照らせど暗きわが恋心
たまたまに訪れ来つれば君かげ見えぬ夕を淋ししぐるる

   天恩郷雑詠
あかとき雲たなびきて神苑松にすがしく鵲鳴く
まだ明けぬ心地こそすれ窓外つつむあした霧深くして
拍手みぞして何人か見わかぬ霧神ぞ
あかときにピア起りたり光照殿奥深きあたりに
高天閣起き出で見れば旭かげ斜にさしぬ膝あたりに
さわがしき雀声に起き出でて見上ぐる空に雨は晴れつつ
あかる思ひや朝ぼらけ神苑に立ちて鵲を聞く
大愛宕峰白雲はれわたりヴエランダを吹く風音高し
今日もまた檪林をさまよひて兎墓に花手向けたり
月見むとゆふべ庭をさまよへば向つ山峡きり立ちぼる
半国いただき冴えながらわが庵いまだ月昇らず
ありあけ月はみ空にうすれつつ濠芦間ゆ五位鷺たつ
旧城趾銀杏下にたたずみてわれ回天偉業をおもふ

   鶴山
雨はれ本宮山朝庭あちらこちらに水たまり居り
町を行く祭神輿屋根ばかりかがやき見ゆる秋鶴山
小雲川かはぎり立ちて鉄橋をわたる汽車みぞきこゆる

   産土
朝霧に包まれ見えぬ産土鳥居に鳴く村すずめ

   丹波霧
丹波路はくまなく霧につつまれて大枝やまに旭ぼり来
愛宕山いただき見えて保津川渓間渓間に霧たちぼる
汽車音とどろき過ぎて目には見えね丹波深きに
愛宕山朝霧深く立ちこめてケーブルカーみ聞ゆる
朝霧たちこめてみえず水車小屋臼搗く音みしづかに聞ゆ
大堰川霧立ちこむる真夜中そらわたりゆく五位鷺こゑ

   伊吹山
小波志賀うらわに朝霧晴れて見え初む伊吹高山

   子病む時
いとし子病いかにと日に夜に魂を馳せけり聖地空に

   壱岐・対馬
秀に林栄丸は踊りつつ甲板上にうしほ飛び散る
鼓打つ音風間に聞えつつ村賑はしき壱岐
壱岐神楽とほくきこえ来向ひゐる海うへには月冴えながら
葉みな秋陽しみじみ吸ひてをり真昼ひそやかにして
辻峰にうすもやこめにつつ秋立つらむか壱岐島根に
壱岐島芦辺港乗り出でてわが目路かすむ対馬あたりか

    ○

玄海灘あなたに青青とひ浮ぶ壱岐島!新しい塗料やうに
山には獣が一匹もゐないといふ壱岐島、野菜鮮かな色彩だ
何処へ行つても黒い顔蜑女ばかりゐる壱岐島がさみしくなる
路傍干鰯にほひをかぎながら島へ来たといふ感じである
やまなみひくい壱岐しまに空を支へる巨大な松がある
巨大な鯨が捕れたと郷人気がわきたつてゐた、朝

    ○

浅海湾船乗り来れば白嶽いはほ神さび雲群れ立つも
白嶽上にしろじろと巌立ち並ぶ秋陽映えつつ
洲藻さとはやたそがれて白嶽上に夕陽暮れこりつつ
白嶽嶺に送られ白嶽に迎へられつつ三根につきたり
千引岩家毎にたたみこ島は人こころも雄雄しかりけり
家は家ごと門ごと海鯣干したり秋日なたに
おもしろや若人八人おもおも鎌持ちをどる稲刈り踊
尾にましろき巌立ちならぶ白嶽山夕陽すがしき

   大島行
真玉なす喜界ケ島薯喰へばあぢはひたへに薯と思へず
ひとしきり時雨れてあとに日照らふ大島美はしきかも
新聞音高くひびきつつ時雨いたれり名瀬大空

   琉球
灯台灯は追追ととほざかり四日月ひくく海面照せり
足びき常磐木があをあをと朝日に映ゆる美はしき島
石垣島かげ見えそめて風音波響きも高くなりけり
ひさごなす緑青そらを新しきいろと仰ぎみて心すがしき
沖津波あらぶる海をうちわたり那覇港に吾が船入りぬ(久吉丸)
暦なきこ昔しまびとは月かたちに日数さとりけむ
山脈はたてにはしりて砂おほし水ともしきあはれこ
大空にたかだかとそびえ濃緑にフクギガジマル繁るこ
かみ王尚邸をおとづれて茶をよばれつつ庭にしたしむ

   刑務所
祈り且つ働けと刑務所草むしりゐる
見ろあ会社太い煙突からもやもや昇る黒煙は汗と油燃える焔だ
浅間山噴煙様に燃えて四方に飛ぶそ飛沫がどうなるか知るまい
労働歌を唄つても睨まれる世中だ、みんな黙つて考へろ、考へるは自由だ
終日労働を慰する一合酒にも国税を負はされてゐる俺達だ

   蒙古行
大正甲子三月三日あさわれふんぜんと蒙古にむかふ
十萬兵をひきゐて蒙古に入るわが銀鞍を照らすつきかげ
腹どろにひたりて身うごきもならぬ月夜を敵襲ひ来ぬ
喇嘛廟には白砂箒目ただしくつける暁すがしも
目路かぎり山羊しろじろと群れて居り喇嘛廟高く聳ゆる野
喇嘛廟にうす日かげりてひともと枯木は風に揺れゐつ
川はみな春あつければ荷馬車つづきて越えゆくが見ゆ
蒙古女は写真を嫌ひなかなかにわがカメラには入らず迯ぐるも
いくさびと数多ひきつれ九日ひかりに駒すすめける
朝津日ひかりきらめく蒙古野につゆふみわけて軍進めし
ホンモトホントルモト木下陰に駒憩はせて地図披きみる
大英子児兵不利にして敵すでに索倫山ちかくおしよせ来る
張猿三張桂林をひきぐしてわれ先頭に立ちてたたかふ
あかあかと山一面に李桃花にほふ蒙古初夏は清しき
牛糞をたきて芋など焙り食ふ蒙古野営に月冴えわたる
数十頭山羊追ひて行く牧童は馬上しづかに口笛吹けり
風強き五月蒙古は萬丈黄塵空に捲き上げて吹く
蒙古野も夏さり来れば草むらに名も知らぬ虫かすかに鳴けり
目路限り青草茂れる荒野原に群がる山羊ごと見ゆ

   秋より冬へ
黄ばみたる稲田中にあかあかと畦を区ぎりて曼珠沙華咲く
神苑に秋はふかめど桐わかわかしきが風にゆれ居り
来年は土ことごとく入れかへてあらたに菊苗をささなむ
今日よりは袷ころもかさね着ていよいよ冬ここちするかな
大空にやうやく冬いろ見えてこがらしつよし天恩さと
柿をむく利鎌に渋くろぐろと染みてつめたし夕暮
久方み空月は冴えにつつこ夜をさむみ霜はふるらし
霜にやけし草葉上に息づける蝗うごかずこがらし
手水鉢水は凍れり小夜更けて月はうごかずばら雪散る
何人奥都城ならむ野すゑに立てる老松にあられたばしる

   霜
ありあけ月はこほれりしろじろと板橋上に置ける朝霜
霜がれ面ににほふ山茶花花をめでつつ君思ふ宵
しろじろと霜おく小野笹原を狩人らしも犬ひきて行く
しろじろと霜おく道に荷ぐるまわだちあと二筋残る
竹竿にならべつるせる大根しもしろじろとさむさ身にしむ
月照山みろく尖端に月は動かずしもよは更けゆく
霜さむき冬ゆふべ水枕誰がために病みてこみづまくら
しろじろと霜おく保津渓間路舟曳きぼる賎男あはれ

   焚火
ちよろちよろと焚火光見えながら人影もなし夕奥都城に
一人一人鉋屑をば抱へ来て焚火にぎはふ作事場あさ
杣人が焚火小柴しめじめと燃やしなやめるふかぎり

   烟る霜
二人が立つてはなす空に月がたかい、橋には霜が煙る
愛宕山上から見下す谷間、むらむら起る雲果てしもない秋だ
花明山高台公孫樹が真つ裸になつてゐる、寂しいが朗かな朝空気だ
ひたと凍りついた月たかさ、霜を吹きさらす風遠さ
雲だ、切れ切れを月がくぐる、あとから雁かげ、平凡な冬宵だ
うすい星が西空に、ああ二つ六つ七つ、地上は電線が唸るだけ
ざくりざくり霜柱が工夫靴に崩れる、其大きな赫い靴に
贈賄!
収賄!
何をいつてやがるんだ
金からして一体どこから持つて来たんだ!

   冬
鶏頭はな鶏冠にしも降りて色くろずみぬ冬立ちにけり
わが庭湯津桂木にひよどり今朝も来りて冬をささやく
わが居間障子をかすめつつかげ過ぎゆく庭雀かも
みじか日障子をたたく凩に庭木こずゑさゆれうつれる
うち続く冬曇りにふさぎたる心はらさむと窓あけ放つ
蓑虫蓑にこもりてさがる枝冬木楓に時雨そぼふる
千葉椿花珍らしとうなる児が髪かざしにさして遊べる
花として見れどもあかぬ冬床にさしたるこ梅もどき
病む入床を見舞ひて冷えわたるガラス障子に襖たて見し
梢みな散りたる銀杏はだか木にかかりてふるふ冬

   寒椿
葉みな散りたるあとに寒椿花は青葉陰にぞけり

   霰
ひとり寝夢を覚ましてはらはらと窓をうちつつ霰逃げゆく

   雪
朝戸出雪に驚くはした女声さむげなる床に聞きをり
隣り家電燈かげも見えぬまで風に降りしく雪ぶすまかな
積む雪まばらに消えし芝生上に兎湿りたる見ゆ
柏木並木松に積む雪をゆりおとしつつ汽車ゆくなり
雪ゆすればおもき音してわが竹笠にかたまり落つる
雪どけ筧を落つる音冴えて雨気夜半あたたかき
雪ふかき愛宕尾根に煌煌とケーブルカー灯はともりをり
いただきは雪につつまれ愛宕山夜目にもしるき星月夜かな
風立ちてにはかに寒し冬夕ぐれそめて雪降りいでつ
吹きおろす木枯さむし破れしまどに愛宕やま夕暮
小夜ふけて冷ゆると思へば窓外雪おともなく降り積みてをり
下駄ゆき払ふ足音きこゆなり夜半にや君訪ね来ぬらむ

   冬籠り
山里伏家軒にたきぎ積みてこもらふ冬となりにけるかも

   水仙花
朝露おく庭面に黄水仙はつかに咲きてかたむきにけり
葉みな散りたる庭にすがしくも冬を匂へる水仙
亡なき父年忌まつり水仙しろきを床に活けてわびしも

   地震
ドドドドツと地震が来た、飛び下りた庭何と静かな雪だ、白さだ
上下動だあ、鳴りきしむ座敷にすわつて不可思議しづけさ
空へ巻き上るこがらし!床にさした南天実が急に親しい寝覚めだ
玻璃障子が微塵になりさうな嵐礫だ、わづかに自己を支へてゐる

   出雲路
吾妹子と出雲旅に立つゆふべよみがへり来も若き日
雨はれ今日真昼あたたかさ旅やどりに妻としゐるも
霰ふる古江うぶすな杜にちらちら灯ともる見る
かがやきわたる宍道湖みづ面はさざ波もなし
三軒家居よりなきこゆふべあられふれば寂しき

   年末雑詠
定まれる月日ながらも暮れてゆく年瀬こそは惜しまるるかな
幾千選歌残して矢ごとく今年冬も暮れにけるかな
春立てば台湾島に渡らむと飾走部屋にひとへも縫ふ
貧しけれどむかふる春をことほぎて街に物買ふこ
村人は冬をはりと山をいでて年木積むなり家ごと軒ごと
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