文献名1惟神の道
文献名2よみ(新仮名遣い)
文献名3愛善の実行よみ(新仮名遣い)
著者出口王仁三郎
概要
備考出典不明
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ページ310
目次メモ
OBC B123900c095
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本文
平家一度天下を掌握するや、源氏の血族をことごとく斬伐し、或ひは遠島に流罪して後憂の禍根を絶ち、以て平家の天下を万代に伝へむとした。源氏また勢ひを得て平家を打ち滅ぼすや、平門の全族を鏖殺して、以て不易の基礎を永遠に樹立せむとした。しかし力を以て敵を打ちしものはまた力によって自らを滅ぼすものである。我が国における武門七百年の争ひは世界列強興亡の移写であって、覇道精神の推移を如実に描き出したものである。
しかして明治御一新に際し、徳川氏三百年の大政を奉還するや、たとへその間ここに至るまでに幾多流血の惨が演ぜられ、尊き犠牲が払はれたにせよ、明治天皇はいささかもその責を徳川氏に問ひ給ふことなく、徳川氏の一族に賜ふに位人身を極むるの栄誉を以てし給うたのである。それは大国主命、事代主命が国土を天照大御神に返上されし功によって、国津神の主神として祀られて今に至れると同様である。ことに最後まで頑強に神軍に反抗した建御名方神も、武勇の神として信州諏訪神社に祀られ、神国日本の守護神として今もなほ大なる働きをして居られるのである。
実に皇徳は太陽の如く地上の万物を養ひ育む愛の源泉である。山は崩れて河となり、陸は移りて海となる。地上の変遷移動は幾十度に及ぶか知れないが、太陽は今も昔も変ることなく、その偉大なる光輝を万有に放射してゐる如く、有史以来幾千年、民族に盛衰あり国土に興亡あるうちに、独り我が国のみが皇統連綿、宝祚弥栄、天壌とともに窮まりなき所以のものは、皇統の神系に発するは申すも畏し、まことに御歴代の聖徳の天とその徳を一にし給へるが故である。
皇道は一切を敵としない、何物をも憎まない愛善の大道である。耶蘇の言った「敵を愛せよ」の精神をそのまま行なって来たのは、実に吾ら日本民族なのである。日本人はことごとく兄弟姉妹である。祖先に神を通じて同胞であり頭に天皇を戴いて一家族なのである。その兄弟である日本人の間に、その家族である日本国の中に、今日あまりにも憎悪の心が燃え盛ってゐる。あまりにも敵愾心が横溢してゐる。まことに悲しむべき現象である。いやしくも国家問題に関し主義主張を異にする者の戦は、あくまで公明正大であらねばならない。武芸を争ふものの気高い気魄がなくてはならない。露いささかもその中に私怨を混じてはならない。いはんや己の利を擁護せむが為に、一人の同胞をも犠牲にしてはならないのである。かくの如く公明正大なる戦によってのみ弥栄日本の道が開ける。憎みの争ひや怨みの闘ひは遂に世を混沌と破壊にのみ導く。この地上から一切の怨恨を払拭せよ。我が日本から総ての憎悪を一掃せよ。それ以外に世界の平和も日本の更生も望み得ない。
過去の歴史はことごとく現在吾々の進むべき道を教へる指南車である。覇道は如何に人為の限りを尽しても最後は必ず破滅である。しかして永遠の生命、弥栄の大道は万有を育む愛の心であらねばならぬ。吾々は「正義、正義!」の声は聞き飽きた。今や世界は千の正義の叫びよりも一の愛善の実行を要望する時代となった。
だがここに一言する。今や皇道を否定するいはゆる自由主義者の唱ふる世界主義や国際主義はことごとく我欲精神の発露であって、偸安姑息、愛悪の最なるものであることを。愛善はなほ太陽の光の如く生成化育の原動力であるが、また黴菌を殲滅し毒虫を遁走せしむる威力を持ってゐることを知らねばならぬ。