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文献名1幼ながたり
文献名2幼ながたりよみ(新仮名遣い)
文献名314 およね姉さんよみ(新仮名遣い)
著者出口澄子
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
ページ 目次メモ
OBC B124900c16
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本文の文字数3561
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本文  およね姉さんは教祖さま長女として生まれました。生まれてから死ぬるまで、こ姉も一生涯ひどい行がつづきました。
 およね姉さんは七つころから餅まぜをしていたそうです。これは貧しかった私家では手伝いため餅まぜをして働いたです。私七つときには、もう餅饅頭作りはやめていましたで、私は餅まぜをしたおぼえはないですが、およね姉さんは七つになると餅まぜをしていて、そころ綾部人びとは「新宮饅頭屋では七つ子が餅まぜしてる」と言うて評判にしたそうです。
 およね姉さんは小さい時からよく働いた人で、気立ても優しい人でした。十八ころ姉さんは角力士で“宮絹”という人に思いをかけられました。教祖さまも「宮絹ならおよねを嫁にやってもよい」と言ってられたくらいで、大うち屋という店に務めて真面目に働いていましたが、もう一人横恋慕をしている者がありました。
 それは侠客大槻鹿造でした。こ男がまたおよね姉さんに横恋慕して、宮絹と縁談ぶちこわしにかかりました。
 鹿造は大へんな親不孝者で、母親は鹿造ならずもを苦にして自殺したそうですが、十四ころ伏見辺りで茶もみ奉公をしているうち、そこでやくざになり、背中一面に弁財天女入れ墨をして綾部にかえった者です。
 およね姉さんも宮絹が好きになっていましたが、鹿造がうるさいで、綾部広小路与喜さんというところへ嫁入りしました。これはお父さん弟で捨薮に居られた叔父さん仲人でした。
 およね姉さんが広小路に嫁入りをしたことを知った鹿造は、力づくでおよね姉さんを連れだし、どこかにかくしてしまいました。世間評判も七十五日で、ほとぼりもさめた一年後、鹿造はおよね姉さんを自分にして、西町で今盛屋という屋号を上げたです。
 明治初めころは、綾部でも男女こういうことが、当たり前ことように思われていましたが、教祖さまは頑として、これをお許しになりませんでした。そしておよね姉さん弱いところをなげかれていました。
 そころは父も生きており、父は父で「鹿造ような博奕打と一緒になって俺んとこ暖簾に疵をつけた」と言って大そう機嫌を悪くしてしまいました。
 およね姉さんは、教祖さまや父が、自分ことをどう思っているかということは感じていたで、三年ほどは出口家によりつかず、内心何となく心落付かず淋しく気にしていたようです。私やおりょうさんと街ででも逢うと飴玉や煎餅を掌上にせてくれ、「父さん母さん、どうしてる」と言って家ことをくわしく聞きました。私はそたんび、子供心におよね姉さんを気毒に思いました。
 三年たったある秋朝、およね姉さんは裏口からしびよるように家にかえってきました。障子がたててある縁先に坐ったまま部屋中にはよう入りもせず、しばらくいましたそうです。お父さんが仕事にゆく前朝餉をとっているを聞きながら、お父さんが表に立つを待って、そっと障子を細目にあけ、持ってきた土産饅頭をさし入れると、畳ところに上がりもせず小声で「お母さん!これ食べて下さい」と言ったまま黙っていましたが、教祖さまが気づかずにおられますと、しばらくしてまた障子をもとようにたてて帰ってゆきました。
 後でおよね姉さんがきたことが分かったとき、父が「なにっ、よねがきた」いきまくを、教祖さまは哀しそうな顔をして面をくもらせておられました。そうしてハラハラしながら、「お父さん、よねことは私しつけが悪いですから、よねはかわいそうな子やと思うてやって下さい」と申しておられました。
 出口家が貧しくなるにつれて、およね姉さん家は「今日で綾部一金持ちは西町今盛屋じゃろ」と町人々に言われるくらいになっていましたが、およね姉さんは教祖さまがそ暮しにも困っていられるをみることなく、因縁ごとと言うもは不思議なことであります。
 およね姉さん肉体に、竜宮乙姫とも言われている神さま、いちばんみぐるしいメグリ深いときミタマがかかり、それに、こ世をみだした神が大勢眷族(狐)をつれて這入ってきたであります。
 およね姉さんはそれからも時どき家に帰ってきましたが、教祖さまにつらく当たるようになり、教祖さま難渋をよそに、目ぼしいもがあると提げて帰り、見廻して何もないときは教祖さま作られた饅頭をつぶして帰るということがありまして、だんだんと憑霊性来がはっきりとでてきました。
 教祖さまは、「およねもうちに居たころは穏やかなよい子であったが、鹿造ところにいってから手荒い子になってしもうた」といって歎かれました。
 およね姉さんは姿よし美人で、ことわけて後ろ姿立ち姿がきれいで、侠客などが見ると、ぞっとするように引きつけられたと言うことです。
 宮絹はどうしてもおよね姉さんを思い切ることができず、鹿造留守に、およね姉さんを誘い出しました。およね姉さんも宮絹は初恋人でもあり、会ってみると心を動かされたでしょう、今盛屋をぬけだし、宮絹といっしょに京に上る決心をしました。二人は三宮までゆき、そこ宿で休んでいると、鹿造子分が追いかけてきて、およね姉さんはまた西町につれもどされました。
 宮絹という男は、体は大きかったが度胸ない男だったでしょう。それだけ姉さんが好きなに体をはってまでおよね姉さんを自分女房にすることができなかったです。それから福知山自分家にすごすごと帰ったそうですが、およね姉さんことを思い思い、とうとう病床にねつきました。
 宮絹病いがだんだんに重くなり、もういよいよ危いという日、宮絹弟子がこっそり西町小料亭にきて、およね姉さんに耳うちして、宮絹に今一度だけ会ってやってもらえんかとたみました。およね姉さんは鹿造にかくれて福知山宮絹を見舞いにゆきました。宮絹家にゆき障子を明けて、宮絹臥ているそばによられると、宮絹はうれしげにニッコリと笑い、そまま他界したということです。
 宮絹が死んでから、宮絹霊がおよね姉さん体に這入りこみ、およね姉さんが死ぬまで離れなかったと聞いています。
 私が子供ころ、およね姉さんところへ遊びにゆきますと、およね姉さんが「おすみちゃんや、これ見い」と言うて、自分腕を出して、見せてくれました。腕中に玉ころようなもがごろごろしていました。私が見るとそ玉ころようなもが、アッチャ、コッチャへ走り廻っていました。およね姉さんはそ玉ころにむかって「わし体においてやるから遠慮するな」と言いきかせていました。そうして私に「これが宮絹霊やで」と言っていましたが、子供ごころにも気味悪いもでした。
 そうこうしているうちに、およね姉さんは神憑りになりました。
 およね姉さん神憑りはおよね姉さん三十七才時、明治二十四年でありました。こ明治二十四年に何鹿郡だけで二十七、八人気狂いができたと言うことです。そ中でも西町およね姉さん神憑りが一番はげしかったです。
 明治二十四年十二月二十八日、大槻鹿造家では暮餅搗きをしていました。鹿造はそ日、四斗五升餅を搗いて、そ水取りをおよね姉さんがしたそうです。そ時から気が逆上し初め、鹿造に時々おかしなことを言って驚かしたと言います。そ日からだんだん気が荒々しくなり、店大火鉢は引っくりかえす、料理業道具類は手当たり次第に投げちらかす、そたんびに大声でわめくで、綾部中評判になり、「西町今盛屋妻君は、綾部一金持ちになったと思うたら、気狂いになった」とおよね姉さん狂乱ぶりを見にくる人で、一時は押すな押すなと西町鹿造廻りは混みあったほどです。
 鹿造子分が大勢かかっておよね姉さん乱暴をとり鎮めようと腕を握り、足にすがりましても神憑りおよね姉さん力に撥ねつけられ、転んだり、倒されたりして手に合いませんでした。とうとう業を煮やした鹿造は「こいつは始末が悪い、白木綿を二反買うて来い」と若い子分に言いつけ、白木綿で遠巻きにおよね姉さんをグルグルと巻きつけてしまいました。
 こんな騒動ため鹿造は商売も続けることができず、およね姉さんをつれ妙見さんやお稲荷さんへ加持祈祷をしてもらいに行ったり、一しょに篭ったりしましたが、効目がなく、さしもに繁盛した今盛屋も傾いてゆきました。
 お筆先にもありますように、およね姉さん神憑りもすべて神様がなさっていたことで、これは大槻鹿造霊を改心さすためになされたであります。こ大槻鹿造は地球上一つ精神型であり、ある大国型であり、悪ミタマがうつっていたであります。
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