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文献名1幼ながたり
文献名2獄中記よみ(新仮名遣い)
文献名3一本木と蝉よみ(新仮名遣い)
著者出口澄子
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
ページ 目次メモ
OBC B124900c39
本文のヒット件数全 77 件/ノ=77
本文の文字数1093
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本文  こうして明け暮れを達磨ように面壁して、念うこともなく未決監房に馴れ染めようとした何日目、私瞳に、一本木がうつり初めました。
 それは、かつて丹波山野に眺めたような、すくすくと伸びた樹姿ではありませんが、監房かたい庭一隅に、年々秋には枝をきられながらいたいたしく生きている一本桐でありました。しかしそ私には──今、こ同じ地上で、常に冒と目を合わせて生きているたった一つ生き物──という懐かしい──私とお前──というような仲間を得た喜びを感じました。ことに単調なコンクリート色四面小さな窓枠間から、青いもが見られるということは、私中からあるもを甦らせてくれるでした。
──とにかく心慰めといったら、こ一本木だけで、そ色を見るということは、夏旅人が、清水湧きいでる泉を見つけて走りよる時喜びようなもです。
 世間におれば、山も見られる、川流れに立つこともできる、吹く風にそよぐ野草路を行こうと自由自在であります。しかし未決監というようなところに入れられると、自分自由意志きかぬことは想像他であります。そんな時、こ一本桐が、どれだけ私心を慰めてくれたか分かりません。
 私は毎日々々桐と話をしていました。秋になると──桐一葉落ちて天下秋を知る──という言葉ように、大きな桐一葉が風もないに落ちるをじっと見つめることができます。裸木になるころは冬美しさや樹膚が目に染みてきます。春になると角芽を吹き、やわらかい葉が一日一日びて、葉姿ができ、形が大きく進むにつれて、緑色が濃くなり、夏には、こもごも葉を重ねて茂り合います。こうして毎年々々春夏秋冬が過ぎ幾度か、こ感傷を繰り返したです。私は春になると桐木にいいました。
「昨年秋、お前葉が散ってゆくを見たとき、来年は、再びお前新しい葉をつけて陽を吸っている顔を見ることは出来ぬであろうと想っていたが、また今年お前晴れ姿を見ることが出きてう……」と自分生きていることをしみじみと話しました。夏初めある日、こ木にも蝉が鳴き出していました。幼い声蝉が桐幹にとまって鳴いているとシィーンとした空気がただよい、そ中で桐が自分大きな呼吸づかいをこらしながら、幼い蝉をとまらせているように思えていじらしく、また自分何十倍もある樹幹にとまって、無心に啼いている蝉をみていると、私も一つ心になって、呼吸をしずめて聞き入り、万物が愛し合って生きているいい知れんなぐさめを感じ喜びにひたったもであります。
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