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文献名1
文献名2よみ(新仮名遣い)
文献名3新憲法と愛善運動よみ(新仮名遣い)
著者
概要
備考出典:『愛善苑』第8号(昭和21年12月1日発行)p2~3「巻頭言」/署名はないが出口王仁三郎著作ではなく、委員長出口伊佐男(宇知麿)等幹部が書いたもだと思われる。
タグ データ凡例 データ最終更新日2018-11-12 11:02:21
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本文

新憲法と愛善運動

一、新憲法へ自覚と責任

 日本国立直し基調となる新憲法は、十一月三日世界注視を浴びて発布された。それは前文及び十一章百三ケ条より成り立ち、そこに一貫して流れるもは平和へ希求である。もとより新憲法特徴としては主権在民確立、神秘性を捨てた天皇制、戦争永久放棄等々、多くを挙げ得るが、そ悉くはあくまでも平和な日本を樹立しようとするもに外ならない。日本民族が祖先より受け継いで来た心平和愛精神を、こ憲法ほどに強く、しかも具体的に表明した条文は史上かつて類例を見ないことである。

 これをして満州事変以来廿年間にわたって災ひを及ぼした軍国主義が、敗戦によってそ根底より崩壊し、而して辿るべき当然方向といふには余りにも徹底し、余りにも理想が高きに過ぎる。

 今日世界趨勢を見るに、物質文明進歩は漸く唯物主義範疇を脱して、精神科学門扉を打ち開かんとしてゐる。そして高度な文明を持つ民族は近代社会に相応しい宗教心上に立って、思索し、計画し、実践しつつある。即ち人類理性は神より与へられた本然に加ふるに科学智性により、遂に宇宙真理を究明把握し、新世界創造に偉大な寄与をもたらし始めただ。かゝる世界進運と新憲法とを思ひ合せるとき、これは敗戦てう偶然結果ではなく必然な歴史流れ、世界動きに順応したもといふべきだ。暗示的に解すれば正に「天時至れり」である。

 新憲法発布は只に時宜を得た、といふばかりでなく、そ意義は「世界に遅れをとらざるも」であり、「万世に太平を開く」もである。けだし新憲法は時流尖端を往くもで、これを実践する国民は断じて世界最後尾につく敗戦国民でもない筈だ。否、むしろ精神的に世界に率先するもで吾人はそ自覚と責任を忘れてはならない。

二、新憲法と宗教家役割

 世界を挙げて深刻な戦争へ反省と科学文明進歩は、宗教へ理解を深め、「平和と宗教」は全人類脳裡に強く浮び上ってゐるやうだ。しかし、それは今日なほ模索時代であって、それ故に宗教家使命は日と共に重大性を加へてゐる。こことは新憲法に就てもいひ得る、例へば憲法産み苦闘をつづけた金森国務相は、第三章を説明して

『之は個人主義権利を排除して共同世界に重点を置いてゐる。しかし共同世界は如何なる理念によって統一して行くかといふことはこ憲法は触れてゐない。即ち将来国民及び思想発展上には触れてゐないであって、それらことは将来学問及び思想発達上に残して置くといふ趣旨になってゐる。』と述べ、又前文中に『日本国民は恒久平和を念願し、人間相互関係を支配する崇高な理想を深く自覚するであって、平和を愛する諸国民公正と信義に信頼して、われら安全と生存を保持しようと決意した。われらは平和を維持し専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会に於て名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界国民がひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和うちに生存する権利を有することを確認する。』

とあるが、人間相互関係を支配する崇高な理想や全世界国民がひとしく恐怖と欠乏から免れることが宗教を離れて得られるかどうか、こゝに宗教による安心立命境地が具体的に人類教となり、現実力となって現はれねばならぬこと示唆してゐる。

 もし新憲法にして宗教心が裏付けられなかったならば形式に走り理念に空転して、アメリカ新聞が評したやうに空想化恐れがある。新憲法に魂を吹き込み所謂画龍点睛をなすもは政治家でも司法官でもなく実に宗教家であることを認識すべきである。

三、戦争放棄基本理念

 第二章は世界に向って敢然戦争放棄を宣言する重大な一ケ条である。これは敗戦によって武装を解除され、軍国日本が再起しないやう徹底的に強ひられてやむを得ないことと心ひそかに解するもがあったならば、それは世界をあざむき、しかも今後再び戦争悲哀をなめようとするもだ。平和な日本を樹立するにはどうしても国民一人々々が真理に目ざめて、心ドン底から戦争放棄するでなくては相叶はぬことである。

 こ第九条に就て金森国務相は

「わが国は兵力を持たぬといふことから凡ゆる危機とあらゆる損害を覚悟しなければならぬ、そんな覚悟して何に役立つかといふ疑ひを起す気持ちもあらうが、かく如き疑ひこそは世界をして災ひ巷と化し永久に戦争絶えることをなからしめるであって、こゝに大乗的な心を奮ひ起して、よいと思ふ方向に真しぐらに猪突するといふ心にこ憲法極めて真剣な態度がハッキリしてゐると思ふ。如何なる戦争も自衛戦争名をもって行ふが実情であって、自衛戦争を認めるといふことは一切戦争を認めるといふことに帰着するわけであって、真理を追及する熱情を持つもはさういふところに何ら未練もなく、これを振り捨てゝ突進する、而して世界がわれわれ後に追随して来るやうにさせるだけ心構へがなければならぬと思ふ。」

と述べてゐる。まことにわれわれ意を盡した説明である。たゞしかし、戦争放棄したといふ事は、今後日本は無抵抗主義であって、国際紛争を生じた場合には、安全保障理事会がそ兵力をもって防衛に当って呉れるだと安易に解する事危険である。こ考へ方は結局「人褌で角力をとる」類ひで戦争を自ら手足に訴へてはやらないが、他手段では依然戦争すると考へで、これではやがて又可能なる対抗手段を持たうとする過渡的弁法に過ぎないことになる。即ち戦争放棄とは闘争精神までも捨て去るもでなくてはならぬ。そして闘争に非ず又敵を生まざる理念とそ手段とが今後人類社会を根本的に支配するやうにならねばならぬ。こ理念源泉をなす真理が愛善である事は吾人信じて疑はざるもである。

四、民主政治と神愛

 新憲法目指す眼目一つは民主政治徹底である。第三章「国民権利及び義務」は民主国家を建設する根幹であって、こために天皇制が厳密に批判され、「主権在民」となったである。然らばそ民主政治とは果して神御意思に添ふ方法であるかどうか。

 われわれはこ問題とらへ方として第十一条示す『国民は、すべて基本的人権享有を妨げられない。こ憲法が保障する基本的人権は、侵すことできない永久権利として現在及び将来国民に与へらる』を明確に認識することが必要である。民主政治先進国であるアメリカ独立宣言は『人は造物主より或る譲るべからざる権利を与へられた。生存、自由および幸福追求はこ権利に属する」といひ、またフランス民選議会が発布した宣言は『人は出世および生存において自由、平等権利を享有する』と述べてゐる。

 これよりして民主政治はアメリカ独立宣言が鮮明に表現してゐるやうに、造物主より与へられた所謂人類へ神愛を現代社会に於て自由に、平等に享有せしめんとする方式であることを知る。もし民主政治実施に当ってこ基本的人権がいさゝかと雖も擁護されなかったならば、民主政治がなほ未発達であり、欠陥を有するもであって、こ政治形態改善を要するである。しかし乍ら政治現段階に於てこ方式が基本的人権を擁護せんとしても満たされぬもであるならば不可避で、それを直に「悪仕組」なりと断定、排撃する態度は慎しまねばならぬ。同時に民主政治に愛善精神が反映して神愛がより厚くより広く人類生活に浸透するやうに吾人感化を及ぼして行く事が大切である。

 次にこ第二十条は信教自由に就て規定してゐる。これまでとても信教自由は建て前であったが、神社宗教にあっては政治上権力を行使して特別に擁護される余り、国民にこれが信教を強制した結果、信教自由は多分に歪められて来た。これに対して新憲法はいかなる宗教団体も同一線上に於て遇してゐるで、宗教的活動は刑法にふれざる限り自由であり、信教もまた何ら制約なく、従って近き将来に健全なる日本宗教発達を見る事であらう

五、結語

 以上に於て本論は新憲法にたいして吾人は如何に自覚し、どう責任を感ずべきか、特に宗教家果すべき役割、戦争放棄と民主政治問題について触れた。憲法条文についていへば前文と第二章及び第三章一部分である。しかしこ部分は内的には新憲法精神を形成するもであり、外的には全文基幹をなしてゐるもである。こ点が真に理解されるならば日本憲法は容易に実践に移される筈である。

 最後に強調せねばならぬことは新憲法は今日ところ文章ができたといふだけであって、そこには本来さして意義はないである。故に新憲法如き世界史を転換せしむるに足る構想が──語をかへれば愛善精神を成文化したが如き高遠な理想を現実化す憲法を今後国民が如何に完成して行くかといふことが緊要なである。そこに憲法精神を国民に正しく理解せしめる運動が当然起って来ねばならぬ。戦争より平和へ闘争より愛善へと新憲法指向してゐるもすべてがわが愛善運動中軸をなしてゐるを思ふとき、われら運動は当然新憲法完成に向って、何人よりも熱心に、しかも徹底して行はるべきで、愛善世界第一歩は新憲法完成からといふも断じて過言でないことを吾人は肝銘すべきである。

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