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文献名1霊界物語 第14巻 如意宝珠 丑
文献名2第3篇 高加索詣よみ(新仮名遣い)こーかすまいり
文献名3第14章 一途川〔564〕よみ(新仮名遣い)いちずがわ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-12-31 16:52:15
あらすじ一行は小鹿峠四十八坂を越えると、水勢轟々と流れる谷川に行き当たった。弥次彦は、コーカス山へ参詣街道なに、自分たち意外に人が一人も通っていないことを不審に思う。勝公は、ここはまたもや幽界ではないかといぶかる。六公は、川べり下に、小さな家を見つける。与太彦は、ふざけて一夜宿を乞うこっけいな歌を歌う。家中から婆声がするが、ここは三途川ではなく、一途川だと言う。婆は四人を家に招き入れた。見れば一人病人が伏せっており、中年増婆さんが枕辺に座っている。婆は、常世姫お台様が病気で寝ているだ、という。そして自分は木常姫生まれ変わりであり、二十坂上で弥次彦らに憑依して苦しめたも自分だ、という。婆は、天国に行こうとする者魂を抜いて地獄に落とすために、偽日出神、偽乙姫となって信者をたぶらかし、変性女子を困らせてやるだ、という。寝ていた婆も起き上がり、包丁を持って四人に襲い掛かる。四人は奮戦するが、ついに勝彦は包丁でぐさりと腰を刺された、と思うと、一行は二十五峠谷間に、風に吹かれて気絶していたであった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年03月25日(旧02月27日) 口述場所 筆録者谷村真友 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年11月15日 愛善世界社版230頁 八幡書店版第3輯 243頁 修補版 校定版238頁 普及版109頁 初版 ページ備考
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本文  小鹿峠四十八坂をば、一行四人はやつと打越え、見渡す限り茫々たる雑草茂る広野原、足にまかせて進み行く。ピタリと行当つた、水勢轟々として飛沫を飛ばし、渦まき流るる谷川傍に辿り着いた。
弥『アヽ吾々はやうやうにして、小鹿峠四十八坂を越え、此処広野原を一行四人連れ、てくついて来たが、此処にピタリと行詰まつた、偉い川が横はつて居るワイ。これからフサ都へ渡り、コーカス山に行く迄は、随分長い道程だが、それまでには沢山難所が在るだらう。それにしても絡繹として続く日々老若男女参詣者は、一体何処を通つて行くだらう。こ頃街道は雑沓だと云ふ事だに、吾々通過する処は人子一匹居らぬぢやないか。ナンデも之れは小鹿峠下り終ひから行手に踏み迷ひ、反対方向に進んで来たではあるまいかなア』
与『何だか、ご気分冴えぬ天候と云ひ四辺状況と云ひ、まるで幽界旅行様だ。いつやら谷底に落ちて魂が宙に迷ひ、とうとう六道辻まで行つて銅木像に逢つた時様な按配式だぞ。どうやら此川も三途兄弟分ぢやあるまいか、何だか変な風が吹いて来るぞ。アヽ此奴は不思議だ、今今まで泰然自若乙に構へこみて居た山岳奴、知らぬ間に何処かへ消えて仕舞ひよつた、まるで三途やうな按配式だ、ナア弥次彦、貴様はどう思ふか』
弥『吾々言霊御神力に恐縮しよつて、山奴雲を霞と逃げ散りよつたなア。随分三五教吾々は豪勢なもだワイ』
勝『オイ此処は冥土を流るる三途川ぢやなからうかな。何だか娑婆川に比べて調子が違ふやうだ』
弥『調子が違つたつて御心配なさいますな、こ弥次サンはドンドンながらポンポンながら、カンカンながら、前後〆めて弐回までも、幽界探険実地経験を持つて居るお兄サン。最初与太公と遣つて来た時には、三途川は実に綺麗な水だつた、それが第二回目に来た時には何とも知れぬ、臭気紛々たる川風が鼻を突くやう、小便大便黒血鼻啖混合したやうな、汚くるしい物が流水代用芸当を静かにやつて居た。そ時三途渡守兼脱衣婆奴が、世奴が汚れた事をしをるから、こ清い川がコンナに汚くなつたと云ひよつた。どうせコンナ汚い娑婆が、さう俄に清潔になるもぢやないから矢張冥土にある三途川なら、依然として汚濁水が永久に満ち流れて居る筈だ。之はまた素敵滅法界な清流だ、これを思へば三途川とは、どうしても受取れないワ』
六『モシモシ皆サン、彼処枝振洒落た松根許に小さい家が現はれて居るぢやありませぬか、あれやきつと三途鬼婆本宅かも知れませぬぜ』
弥『ナーニ、あれや瓦葺だ。婆御館と云ふもは、それはそれは立派なもだ。どうしても比較にはならない黄金蔵様だよ』
与『黄金蔵つて何だい、こ前に貴様と旅行した時には見すぼらしい雪隠小屋様な庵じやなかつたかい』
弥『アハヽヽヽ、頭悪い奴だナ、雪隠小屋様だから、当世流に黄金蔵と言霊を詔り直しただよ』
与『何を吐しよるだ、然しどうも臭いぞ。一つドンナ奴が居るか訪ふて見やうかい』
弥『マア待て一つ考へもだ。熟思黙考余地は十二分に存する』
与『ヤア構はぬ当つて砕けだ。一つ善か悪か虚か実か爺か媼か、絶世美人かおかめか、検非違使別当与太衛門尉無手勝公が首実検に及ばうかい』
弥『アハヽヽ、又そろそろはつしやぎ出したなア、それほどはつしやぐと、日輪様が御出ましになつたら、貴様細腕が燻ぼつてしもうぞ』
与『何を言ふだ、燻つて来たら、こ川にザンブと浸れば好いだ。採長補短、水欠水補だ、ソンナ事に心配するな。自由自在天地を跋渉する、三五教宣伝使候補者だ』
と云ひながら小屋傍にツツと立寄り妙な腰付きをして、両手を蟷螂様に構へたまま膝をく字に曲げ、尻を振りながら、一軒屋無双窓を覗き、
『モウシモウシお媼サン  一夜宿を願ひます
 それはお易い事ながら  これなる部屋を開けまいぞ
 それは誠に有難う  今宵は此処にゆつくりと
 足を伸ばして寝るであらう  お婆は口を尖らして
 これなる居間を開けまいぞ  言ひつつお婆は谷川に
 手桶をさげて水汲みに  後に与太彦只一人
 今なるお婆云ふたには  これなる部屋を開けなとは
 てつきりおむす添伏しか  何は兎もあれ開けて見よ
 左手に襖カラリ開け  つらつら見ればこは如何に
 あちら隅には手がある  こちら隅には足がある
 今宵こ家にとまりなば  手足も骨もグダグダに
 出刄で料理つて塩つけて  おほかたお婆が喰ふであろ
 これやたまらぬと泡を吹き  裏口指して尻からげ
 スタコラヨイサ、ドツコイシヨ  ドツコイサエツサツサ、エンサ
 エツササエササ、エサササツサイ
 アハヽヽヽ』
弥『コラこ大馬鹿、何を洒落るだ、此処はどうやら三途川だぞ。まごまごして居ると本当に三途鬼婆が、又着物をすつくり取り上げて、親譲り洋服まで渡せと吐しよるぞ、君子危きに近づかずだ、早くこちらへ逃げてこぬかい』
与『エヽ今回も前回もあつたもかい、カイツクカイカイカイカイだ。オーイ三途鬼婆、先達来た与太公が又来たぞ。モウ何時ぢやと思ふて居るだ、好い加減に起きぬかい』
 家中より、中婆声として、
婆『誰れぢや誰れぢや、折角夜中夢を見て居るに、門口であた八釜しい吐す奴は何奴ぢやい』
与『誰でもないワイ、俺様ぢや』
婆『俺様と言つたつて名を言はな分るかい、貴様も智慧足らぬ奴ぢやなア、目に見えぬ肝腎なもを落として来よつたと見えるワイ』
与『コラコラ三途鬼婆奴、何を愚図々々と言つて居るだい。早く手水をつかつて与太サン一行に、渋茶でも汲まないかい』
婆『八釜しい言ふな、病人があるに病気に障るワイ、ゲン悪いことを言ふて呉れな、冥土か何ぞ様に三途川ぢやと、此処は一途川ぢやぞ』
与『ヤア時節柄物価下落影響を受けて、ドツと踏張りよつて二途を引き下げたな、サヽ投げ売り投げ売り、只より安い買ふたり買ふたり。こカリカリ糖は食べれやおいしい、食や美味い、ボロリボロリと歯脆うて歯につかぬ、湿る例しもなし、雨が降つてもカーリカリだ、アハヽヽヽ』
婆『エヽー、アタ八釜しい、お前は何処奴乞食じや。ソンナ芸位いしたつて一文もやらせぬぞよ』
与『一門残らず討死と、聞く悲しさは嵯峨奥、泣いてばつかり暮せしに、一途乞食小屋とやらに、鬼婆がお坐しますと、一行四人は手に手を取つて、此処まで来たがおみ仇、思へば思へばこ与太は、去年病気に、一層死んでしもうたら、斯うした歎きは在るまいも、娑婆塞ぎになるとは知りながら、半時なりと生き長らへたいと思ふて来たが吾身仇、今思ひに較ぶれば、なぜに三年も先にこ川へ、エーマ身を投げて死ななんだであらう、アヽヽヽチヤチヤ チヤン チヤン チヤン チヤン チヤぢや』
弥『また演劇気分になつて居よるナ、門附芸者様な、見つともない。洒落は止めたがよからうぞ』
婆『何処奴乞食か知らぬが、表戸をプリンと押して這入つて来なさい。田子宿で飲んだ様な小便茶なと汲んで上げやうかい』
与『オイオイ弥次公、何を怕々して居るだ、婆アサンが結構な茶をヨンデやらうと云ふて居るぞ。早う来て一杯グツと頂戴せぬかい』
弥『モシ宣伝使様、どうしませうかな』
勝『兎も角這入つて見ませうか』
 三人は与太彦後に随いて門口を跨げた。這入つて見れば外から見たよりは、比較的広き二間造り座敷に、こ主人と見え中年増婆が横はつて居る。そ傍に少し若さうな一人婆が、何かと病人世話をして居る。
勝『ヤア見れば当家には御病人が、おありなさると見える。是れは是れは御取込み中に大勢が御邪魔を致しました』
婆『ハイハイ、ようマア立寄つて下さつた。此処は一途川と云つて、お前サン等身魂洗濯をする処だ。二人婆がかたみ代りに、往来身魂皮を脱がして洗濯をする処だ。サア此処へ来たが幸ひ、真裸にして親譲り皮を脱がして上げやう。お前顔は蕪千枚漬ぢやないか、随分厚い皮だ。サア一枚々々隙がいつても仕様がない、年寄に苦労を掛けて困つた人だな、これもウラル彦神様御命令ぢやから仕方がないワ。お前等は三五教宣伝使や信者であらう、アヽ三五教と云ふやつは、男子ぢやとか女子ぢやとか吐して、俺達中を奪うとする奴ぢや。お前もそ乾児だからエーイ出刄でも持つて来て、そ厚い皮を剥いて遣らうかい。男子方はまだしもだが女子と云ふ奴は瑞御魂で、カメリオン様な代物だ。アンナ奴立てた教に呆けて、まだそこら中に開きに往くとは不都合千万、エーイ腰痛い事だワイ』
と右手に出刄を持ち左手を握り、腰辺を三つ四つポンポン打ちながら、
婆『アーエーイ、腰痛いこつちや』
弥『オイ貴様はウラル教悪神乾児だな。道理で星付いた布団を着たり、羽織まで星紋を着けてゐよるワイ、コラ婆アサン貴様こそ改心したらどうだい』
婆『エーイ八釜しいワイ、常世姫命様お台サンが病気で寝て御座るに、何をガアガアと騒ぐだ。神妙にせぬと十万億土と云ふ処へ、送り届けて万劫末代こ世へ上がれぬ様にして遣らうか』
与『何だ出刄を提げよつて、強圧的に矢張りウラル教はウラル式だ、奥州安達ケ原鬼婆見た様な奴だなア。貴様はかうして此川辺に巣を構へよつて、三五教宣伝使や信者身魂を引抜く奴ぢやな。コレヤ、そ手は喰はぬぞ、貴様身魂をこなサンが引抜いてやらうか』
婆『何ほど八釜しく、じたばたしても恟とも動くもかい。俺は善仮面を被つてヱルサレム宮に、出入をして居つた常世姫命家来、木常姫生れ替りだぞ、酢でも蒟蒻でも往く婆でないぞ』
弥『貴様は木常姫生れ替りだな、木常姫と云ふ奴は仕方ない奴だ』
婆『仕方がなからう、小鹿峠二十三峠上で、こ婆が貴様を苦しめた事を覚えて居るだらう、恐かつたか恐れ入つたか』
弥『エー何だか俺背に虻がとまつたかと思つたら、貴様だつたなア。何をへらず口叩きよるだ、愚図々々吐すと言霊発射だぞ』
木『オホヽヽ、仰有るワイ仰有るワイ、あ時に日出別と云ふ我楽多神が出て来よつて、いらぬチヨツカイを出しよるもだから、戦ひ利あらず、時非なりと断念して、茲に第二作戦計画を立て、手具脛引いて待つて居ただ。モウ斯うなつては此方だ、袋鼠も同様、これや此出歯言霊で霊なしにしてやらうか』
弥『アハヽヽヽヽ、婆癖に剛情な奴だなア。貴様やうな奴は屹度死んだら、三途脱衣婆後任者となつて、終身官に任ぜられる代物だナ』
婆『オホヽヽヽ、脱衣婆役は俺姉さま役だよ、わしは其妹だ、酢でも蒟蒻でも梃でも棒でも、いつかないつかな恟ともせぬ、我強い岩より堅いカンカン鬼婆だ。如何に三五教宣伝使でも此婆には敵ふまい。一遍に行かねば、二度でも三度でも、仮令十年百年千年かかつても、貴様身魂を抜き取らな置くもかい』
弥『何と執念深い婆ぢやないか、早く修羅妄執を晴らしよらぬかい。天国に往くが好いか、地獄に行くが好いか、此処は一つ思案仕処ちやぞ』
婆『俺は天国は大嫌ひぢや。天国へ往かうとする奴を片つ端から、霊を抜いて地底へ送るが、俺役だ。偽変性男子だぞ。此処に寝て居る常世姫懸る肉体は、偽出神ぢや、竜宮乙姫もタンマには憑つて来るぞ。三五教奴は、日出神を地に致して竜宮乙姫殿お活動で、こ世を水晶に致すとぬかしよつて威張つてをるが、こ世が水晶になつて耐るかい。日世になつたら、俺達居る処は無くなつてしまうワ、それだから貴様等やうな馬鹿正直な頓痴気野郎や、腰抜け女を鼠が餅を引くやうに、チヨビリチヨビリと引張り込んで、日神は此処ぢや、竜宮乙姫も此処に現はれて居ると、三五教奴を誑かして、女子霊魂を困らしてやるだ。アハヽヽヽ、気分好い事ぢや、心地が好いワイ、イヒヽヽヽ』
勝『ヨウ貴様等は不届至極な婆達ぢや、最早貴様口から自白致した以上は、弁解辞はあるまい。曲津と云ふ奴は賢い様でも馬鹿だなア、蛙は口から吾と吾手に白状致し居つた。アハヽヽヽ』
婆『ドウセ貴様は只で帰す奴ぢやないから、俺達企みを隠す必要もなし、因果腰を定めて、貴様霊を一々手渡しせい。愚図々々吐すと俺が手づから、貴様土手腹へ此奴をグサリと突つ込み、一抉りに抉つて取つてやるぞ』
弥『何を吐すだ。顋太許り叩きよつて、脅したりすかしたり貴様手は好く分つて居るぞ』
婆『貴様達は三五御教だと吐して居るが、そ月は運尽ぢや、片割月ぢや、ソンナ月が間に合ふか。
 十五夜に片割月はなきも
  雲に隠れて此処に半分

と云ふ事を貴様は知つて居るか、本当真如月は、此処に半分どころか、丸で隠れて居るだ、切れてばらばら扇要だ。三五教は自在天と盤古大神系統神に、ばらばらに骨を抜かれよつたぢやないか、肝腎要は此処に握つて居るぢや。神奥には奥があり、そ又奥には奥がある、そ又奥に奥がある、昔々去る昔、ま一つ昔其昔、そ又昔大昔から、こ世を自由に致さうと思うて、八頭八尾大神様や、金毛九毛お稲荷様、酒呑童子お身魂様が、こ一途片傍に、仕組を致して居るを知らぬか。好い加減に目を醒まして、魂をこちらへ潔く渡して、生れ赤子になつて悪神眷族にならぬかい』
弥『アハヽヽ、コラ二人婆、何を劫託ほざきよるだ。勿体なくも五六七大神様が地高天原に顕現なされた以上は、何程貴様等が火になり蛇になり猿になり狼になり狸になり、或は大蛇、狐、鬼になつて、黄糞をこいて藻掻いたつて駄目だぞ。一日も早く改心を致したがよからう』
婆『イヤイヤ、誰が何と言うても、仮令百遍や二百遍、生命がなくなつても、誠道は嫌ひだ。誠道と見せ掛けて悪を働くが俺達身魂性来だ。金は何処までも金ぢや、瓦は何処迄も瓦ぢや。俺達は善仮面を被つて、高い処へとまつて、熱さ寒さも知らず顔に、世界奴を睨み下ろして居る鬼瓦ぢやぞ』
与『こりや鬼婆、イヤ鬼瓦、道理で冷酷な奴ぢやと思うて居つた』
婆『定つた事だ、俺達眷属や系統が世界霊をスツクリ引抜いて、鬼瓦霊と入替へをして置いたから、世奴は皆冷酷無残な動物霊になつて、餓鬼修羅畜生境遇になり、優勝劣敗、弱肉強食体主霊従的非行を盛んに続けて居るだ。最早三千世界は九分九厘まで、俺儘に曇つて来居つたが、困るはモウ一輪所だ。変性男子身魂はどうなつとして、チヨロマカして来たが、歯切れせぬは金勝要神魂だ。そこへ我強い変性女子御魂や、木花咲耶姫御魂が出しやばりよつて、俺達仕組邪魔をさらすもだから、多勢難儀と云ふたら、口で言ふやうなもでないワイ。貴様等も変性女子やら木花姫、霊主体従教を開きに廻つて、俺等邪魔をする奴ぢや。何と云つても貴様霊を引抜かねば、常世姫命に対して申訳が立たず、第一盤古大神や自在天様に申訳がないワイ。婆ア一心岩をも突貫く、いい加減に因果腰を据ゑたが好からうぞ。イヒヽヽヽヽ』
勝『ヤアこ婆、貴様はよつぽど因縁悪い奴だ。本当にこ世界がほしいか、執着心きつい奴だ』
婆『ほしいワほしいワ、欲しい印に星紋が附けてあるも知らぬかい。星紋は米紋ぢやぞ。それが欲しいばつかりに夜昼なしにやきやきして居るぢや、オーン オーン アーン アーン、何でもかでも欲しいワイ欲しいワイ。三五教はどうしてもやめてほしい、此方方へ魂を渡して欲しい、是丈け梅干婆にほしいほしいが重なつて、目にまで星が這入つたワイ。蛙干乾様な痩た身体になつても、それでもまだ欲しいワイ。欲に呆けた為に俺着物も梅雨が来て、アチラコチラに星が入つて来た、早う土用が来てほしいワイ、土用干でもせな星がとれぬワイ』
弥『コラ婆アサン、そ星を取つたが好いか、とらぬが好いか、どつちやか返答が一寸きかしてほしいワイ』
婆『着物星は取つてほしいが、俺ほしいは取つてはならぬワイ』
与『イヤア此婆、五右衛門風呂やうな事を吐きよるな、入るときに要らぬ、入らぬときに要る風呂蓋だ。オイ風呂蓋婆、梅干婆、貴様も棺桶に片足突込んで居つて、好い加減に我を折つたらどうだい。ほしい、おしい、可愛い、憎い、欲に高慢、恨めしい、苦しい八つ埃と吐かす十九世紀転理数やうな奴だな』
婆『エーエー言はして置けば止め度なく、痢病患者やうにビリビリとよう垂れる奴ぢや。くだらぬ理屈を管々しく垂れ流してエヽ汚苦しいワイ。何も彼も綺麗さつぱり御塵払ひをして、こ婆に根こそげ奉納しよらぬかい。愚図々々して居ると、俺方から行動を開始するぞ。コレコレ常世姫神、もう起きてもよかろう、サア早く起きて下さい、二人寄つて此奴等四人を真裸にして、ソツと猫糞をキメやうかいな』
 伏婆むくむくと起き上り、
『ヤア最前から病人と詐はり、様子を考へて居れば、ようマア理屈を垂れる娑婆亡者、此処は三五教女子系統魂がほしさに、寝ても起きても一途脱衣婆アサンぢや、車両輪、飯食ふ箸、人間二本コンパス、両方からばばとばばが狹み打ちをしてやる、サアどうぢや』
 四人一度に身構へをなし、
『ヤア何と吐いた、サア来い勝負』
と手に唾し、グツと睨み付けた。婆は手に手に出刄をひらめかし、突いて掛るを四人は汗みどろになつて、前後左右に身を躱し、奮戦格闘すること殆ど半時ばかり、勝彦は常世姫出刄に、腰骨をグサリと突かれた途端に目を覚ませば、豈図らむや一行四人は二十五峠谷底に風に吹かれて落ちこみ居たりける。
(大正一一・三・二五 旧二・二七 谷村真友録)
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