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文献名1霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅
文献名2第3篇 神山霊水よみ(新仮名遣い)しんざんれいすい
文献名3第12章 一人旅〔579〕よみ(新仮名遣い)ひとりたび
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-01-16 01:42:46
あらすじ追放された素盞嗚尊は、母神に会おうと地教山にやってきた。しかし、バラモン教鬼掴一団に囲まれてしまう。尊が鬼掴を放り投げると、そ勢いに辟易したバラモン教一団は逃げてしまう。尊が山を登っていくと、大蛇に道をさえぎられた。困惑している尊前に、母神・伊邪冊命が現れ、世界を遍歴して八岐大蛇を退治し、叢雲剣を得て天照大御神に奉るように、と命じた。尊は母神命を奉じることとし、山を降った。降る途中、帰順した鬼掴を共とし、西南指して進んでいった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年04月02日(旧03月06日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年12月5日 愛善世界社版145頁 八幡書店版第3輯 334頁 修補版 校定版145頁 普及版66頁 初版 ページ備考
OBC rm1512
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本文  天津神達八百万  国津神達八百万
 百罪咎身一つに  負ひてしとしと濡れ鼠
 猫に追はれし心地して  凩荒ぶ冬野を
 母命に遇はむとて  出ます姿ぞ不愍しき
 天岩戸も明放れ  一度清き神代と
 輝き渡るひまもなく  天足彦や胞場姫
 醜霊魂荒び来る  山尾上や河瀬は
 風腥く土腐り  河は濁水満ち溢れ
 雨は日に夜に降り続き  流れ流れて進む身
 蓑もなければ笠もなく  とある家路に立ち寄りて
 一夜宿を訪へば  はつと答へて出で来る
 荒くれ男顔みれば  こは抑も如何にこは如何に
 鬼雲彦夫婦づれ  地教
 奇石怪巌立ち並ぶ  谷辺に細々と
 立つる煙も幽かなる  奥に聞ゆる唸り声
 神素盞嗚大神は  物をも云はず戸を開き
 つかつか立ち寄り見給へば  八岐大蛇蜿蜒と
 室一面に蟠まり  赤き血潮は全身に
 洫み渉りて凄じく  命を見るより驚愕し
 忽ち毒気を吹きかくる  鬼雲彦と思ひしは
 全く大蛇化身にて  鬼雲姫と思ひしは
 大蛇に従ふ金毛  白面九尾古狐
 裏口あけてトントンと  後振り返り振り返り
 深山をさして逃げて往く  神素盞嗚大神は
 天津祝詞太祝詞  声爽かに宣りあげて
 こ曲津霊を言霊  御息に和め助けむと
 心を籠めて数歌  一二三四五つ六つ
 七八九十数  百千万言霊に
 さしもに太き八つ岐  大蛇も煙と消えて行く
 あゝ訝かしと大神は  眼を据ゑて見たまへば
 家と見えしは草野原  跡方もなき虫
 不審雲に蔽はれつ  地教山を目標とし
 息もせきせき登ります  折柄吹き来る山颪
 八握ぼうぼうと  風に吹かれて散り果つる
 木々紅葉も  命が赤き誠心を
 照らしあかすぞ殊勝なる。
 素盞嗚尊は、地教山中腹なる道巌に腰打ち掛け、高天原に於ける磐戸隠れ顛末を追懐し、無念涙にくれ居たまふ時こそあれ、忽ち山上より岩石も割るるばかり音響陸続として聞え来る。
 怪し物音は刻々に近づき来たる。素盞嗚尊は又もや大蛇悪神襲来せるかと、ツト立ち上り、剣握に手をかけて身構へしつつ待ち居たまへば、雲突く許り大男四五十人手下と共に、尊前に大手を拡げて立ち塞がり、
『ヤア、其方は天教山高天原に於て、天岩戸に、皇大神を閉ぢ込めまつりたる悪魔張本、建速素盞嗚尊ならむ。一寸たりともこ山に登る事罷りならぬ』
と呶鳴りつくるを、尊は言葉優しく、
『吾は汝が言ふ如く、高天原を神退ひに退はれたる、素盞嗚尊なり。さりながらこ地教山には、吾母永久に鎮まり居ませば、一度拝顔を得て、身進退を決せむと思ひ、遥々此処に来れるもぞ。汝物哀れを知るならば、一度は此道を開きて、吾を母に会はせかし』
と下から出ればつけ上り、大男は鼻息荒く仁王如き腕をニウツと前に出し、
『男子言葉に二言は無いぞ、罷りならぬと云へば絶対に罷りならぬ。仮令天地は上下にかへるとも、ミロク世が来るとも、いつかな、いつかな、吾々が守護する限りは、一分一寸たりとも当山に登る事は許さぬ。たつて登山せむと思はば此方腕を捻ぢて登れ、此方は天教山に坐し在す大神命を奉じ、素盞嗚尊万一此山に登り来らば都牟刈太刀をもつて斬りはふれ、と厳しき御仰せ、万々一其方を此岩より一歩たりとも登すが最後、吾々一族は天地間に居る事は出来ないだ。汝も元は葦原主宰ならずや、物道理も分つて居らう、下れ下れ、一時も早く此場を立ち去らぬか』
『アヽ是非に及ばぬ、然らば汝勝手に邪魔ひろげ、吾は母に面会ため、たつて登山致す』
と群がる人々中を悠然として登り往かむとしたまふを、大男はぐつと猿臂を延ばし、
『コラコラコラ、俺を誰方と思うて居るか、実事を白状すれば、バラモン教大棟梁、鬼雲彦お脇立と聞えたる、鬼掴なるぞ』
と云ひながら尊胸倉をぐつと取りぬ。尊はエヽ面倒と云ひながら、片足をあげてポンと蹴り玉ひし拍子に、鬼掴体は四五間ばかり空中滑走をしながら片辺中に、ドスンと倒れさまに着陸し、頭蓋骨を打つてウンウンと唸り居る。尊は委細構はず大手を振つて急坂をとぼとぼ登りたまへば、数多家来は此勢に辟易し、蜘蛛子を散らすが如く四辺森林に姿を隠したりけり。
 尊は猶も足を速めて急坂を登りたまふ時しもあれ、傍茂みより、又ツト頭を出したる滅法界巨大なる大蛇姿路上に横はり、尊通路を妨げて動かず。
 尊は大蛇に遮られ、稍当惑体にて暫し思案に暮れたまふ時、山上より嚠喨たる音楽響き来り、数多美はしき神人列を正し此場に現はれ給ひ、中に優れて高尚優美なる一柱女神は、素盞嗚尊に向ひ、
『ヤヨ、愛らしき素盞嗚尊よ、妾は汝が母伊邪冊命なるぞ、汝が心清き事は高天原に日月如く照り輝けり。さりながら大八洲国になり出づる、数多神人罪汚れを救ふは汝天賦職責なれば、千座置戸を負ひて洽く世界を遍歴し、所在艱難辛苦を嘗め、天地に蟠まる鬼、大蛇、悪狐、醜女、曲津見心を清め、善を助け悪を和め、八岐大蛇を十握剣をもつて切りはふり、彼が所持せる叢雲剣を得て天教山に坐し在す天照大神に奉るまでは、唯今限り妾は汝が母に非ず、汝又妾が子に非ず、片時も早く当山を去れよ、再び汝に会ふ事あらむ、曲津猛び狂ふ葦原国、随分心を配らせられよ』
と宣らせ給ふと見れば、姿は煙と消えて後には地教山峰吹き渡る松風みにして、道に障碍りたる大蛇影も何時しか見えずなりぬ。
 素盞嗚尊は止むを得ず此処より踵をかへし、急坂を下らせたまへば、以前男、鬼掴は大地に平伏し尊に向つて帰順意を表し、
『私は実を申せば鬼雲彦家来とは偽り、高天原或尊き神様より内命を受け、貴神当山に登らせたまふを道にて遮断せよと厳命を頂きしも、嗚呼併しながら此度岩戸変は貴神罪に非ず、罪は却つて天津神方にあり、何れ神も御心中御察し申上げ居る方々み。吾は之より心を改め貴神境遇に満腔同情を表し奉り労苦を共にせむと欲す、何卒々々世界万民為に吾が願を許させ給へ』
と誠心表に現はれ涙を流して歎願したりける。尊は、
『其方は頭傷は如何なせしや』
と尋ね玉ふに、鬼掴は畏みながら、
『ハイ、お蔭様にて思はず知らず、神素盞嗚大神様と御名を称へまつりし其刹那より、さしも激烈なる痛みも忘れたる如くに止まり、割れたる頭も元如くに全快致したり。瑞霊御神徳には恐れ入り奉る』
と両手を合して涙をホロホロ流し居る。素盞嗚尊は大に喜びたまひ、
『吾れ、高天原を退はれしより、時雨一人旅、実に淋しい思ひを致したるが、世中は妙なもかな、一人同情者を得たり。いざ之より汝と吾とは生兄弟となりて大八洲国に蟠まる悪魔を滅し、万民を救ひ天下に吾等が至誠を現はさむ、鬼掴来れ』
と先に立ち、柴笛を吹きながら足を速めて何処ともなく天数歌を歌ひつつ、西南指して進みたまふ。
(大正一一・四・二 旧三・六 加藤明子録)
(昭和一〇・三・二〇 於彰化神聖会支部 王仁校正)
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