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文献名1霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅
文献名2第4篇 神行霊歩よみ(新仮名遣い)しんこうれいほ
文献名3第19章 第一天国〔586〕よみ(新仮名遣い)だいいちてんごく
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-01-20 20:27:10
あらすじ神素盞嗚大神は、西蔵を越えてフサ国を打ち渡り、ウブスナ山山頂に隠れ家を定めて、密かに神徳を現していた。瑞霊元津祖・豊国姫神分霊である言霊別命は、国祖御退隠際に幽界にて少彦名神となっていたが、神素盞嗚大神が漂泊旅に出たと聞き、貧しい身分腹を借りて、再びこ世に現れて、言依別命となった。玉彦、厳彦、楠彦は言依別命供となり、月国を越えてフサ都・タールへと着いた。タール都では、吾勝命が日出別神と現れて、神政を敷いていた。言依別命一行は日出別神に面会し、神素盞嗚大神隠れ家を教えられ、喜び勇んで河鹿峠を越えていった。神素盞嗚大神はウブスナ山山頂、斎苑高原に宮殿を構え、八十猛神に守らせた。自らは千種万様に御姿を変じ、変幻出没して御国を守らせつつあった。斎苑館に至るためには、河鹿峠を越えていくが順路である。言依別命一行は、急坂を駒にまたがって進んで行く折、突風に煽られて谷底に転落してしまった。と思う間に、一行はとある風景よい高山麓に降ろされていた。一行は、ここは天国ではなかろうかと不思議に思っていると、天磐船が降りてきた。中から八人童子神が現れると、大神命であるとして言依別命一人を招きいれ、行ってしまった。残された玉彦、厳彦、楠彦は、足続く限り進んで行くこととした。途中、美しい河につかって禊をすると、三人衣服は、鮮花色に変じた。すると向こうから、多数奇妙な鳥を連れた男がやってきた。男は、言依別命命により、三人を迎えに高天原からやってきたという。男は言代別神・松彦と名乗った。松彦は鳥たちを辺りに放すと、三人を案内して進んで行った。すると、鏡ように輝く岸壁に行き当たった。ここは鏡岩と言い、三人が降り立った第二天国終点にあたるという。鏡岩を越えなければ、第一天国に入れない関門であるという。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年04月04日(旧03月08日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年12月5日 愛善世界社版237頁 八幡書店版第3輯 367頁 修補版 校定版235頁 普及版108頁 初版 ページ備考
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本文  久方高天原岩窟も  開けてここに天地
 百神達勇み立ち  あな面白やあなさやけおけ
 天数歌賑はしく  言葉開け口
 常夜闇は晴れぬれど  まだ晴れやらぬ胸
 神素盞嗚大神は  天地百神人
 百千万罪咎を  御身一つに贖ひつ
 情なき嵐吹くままに  千座置戸を負ひ給ひ
 高天原を後にして  天真名井を打渡り
 唐土山や韓原  印度国をば打過ぎて
 秘密国と聞えたる  高山四方に繞らせる
 由緒も深き西蔵  山野村々悉く
 太き御稜威を輝かし  猶も進みてフサ
 タール都を打過ぎて  雲を圧して聳り立つ
 百山々此処彼処  ウブスナ山山脈に
 かかる手前河鹿山  世荒風に揉まれつつ
 足もいそいそ上りまし  ウブスナ山上に
 四方景色美はしき  清き所を選みつつ
 八尋殿を建て給ひ  千代住家と定めつつ
 此世を忍ぶ佗住居  黒雲四方に叢がりて
 黒白も分かぬ世中に  神稜威もいや高く
 ひそかに四方を照します  そ神徳を慕ひつつ
 忍び忍びに遠近  山上や川瀬に
 現れます正しき神人は  吾も吾もと争ひつ
 尋ね来ますぞ尊けれ。
 瑞霊元津祖、豊国姫分霊、昔は聖地エルサレムに幸魂神として現はれ給へる言霊別命は、国治立大神御退隠に先立ち、千座置戸を負ひて、一旦幽界に出でまし少名彦神と改めて、常世国を永久に守り給ひけるが、瑞霊本津祖、神素盞嗚大神、高天原を退はれて、豊葦原国々を、心寂しき漂泊、旅路に上らせ給ひしと、聞くより心も安からず、再び此世に現はれて、賤しき人腹を籍り、言依別命となり、森鷹彦流裔、玉彦を御伴神と定めつつ、常世国を厳彦や、世人を救ふ楠彦、三人神を従へて、波路遥かに太平、海を渡りて月国、フル港に上陸し、印度御国を乗り越えて、歩みに悩むフサ国、タール都に出で給ふ。
 吾勝命は、フサ首府タール都に、日出別神と現はれて、神政を執り行はせ給ひつつありき。言依別命はタール出別神に面会し、神素盞嗚大神お隠宅を教へられ、喜び勇んで、玉彦、厳彦、楠彦と共に駒に跨り、河鹿峠を越えさせ給ふ。意外峻坂難路に、流石駿馬も進みかね、幾度となく駒転倒せむとする危険を冒して、徐々と山頂目がけて進ませ給ふ。
 こ地一帯山脈は、風烈しく、寒熱不順にして、百草木生育悪しく、見渡す限り屹立せる岩山、禿山、此処彼処に起伏し、眺望としては天下絶景なり。
 神素盞嗚大神は、ウブスナ山脈頂上斎苑高原に宮殿を造り、四方神人を言向和し給はむと、千種万様に御姿を変じ、此宮殿を本拠と定め、八十猛神をして固く守らしめ、自らは表面罪人名を負ひ給ひて、大八洲国に蟠まる大蛇、悪鬼、醜神々を根絶せむと心を砕き身を苦しめ、変幻出没極まり無く、斯くして御国を守らせ玉ひつつありき。言依別命は尊に拝謁し大御心を慰めむと、尊を思ふ真心より遥々此処に百千万艱苦を冒し、訪ね来り給ひける。河鹿峠を乗り越えて再び平野を渉り、ウブスナ山脈に掛るが順路なり。言依別一行は、板を立てたる如き急坂を駒に跨り四人連、ハイ、ハイハイと手綱引締め下らせ給ふ折柄に、俄に吹来るレコード破り山嵐に煽られて、馬諸共に河鹿峠千仭谷間に、脆くも墜落し給ひ、数多傷を負はせ給ひ、茲に一行四人連、河鹿峠谷底に、痛手に悩み坤吟し給ふこそ果敢なけれ。
 此谷間は河鹿名所なり。河鹿声は遠近に床しく、恰も金鈴を振るが如く、琴を弾ずるが如く、美妙音楽を天人天女来りて奏づるかと疑ふ許り雅趣に充ち居るなり。言依別一行は谷水を掬ひ、河鹿声を聞き乍ら、心ゆく迄渇きし喉を癒やさむとガブガブ嚥下し給へば、何時とはなしに玉行衛は何処と白浪水音諸共に、河鹿声に送られて消え失せ給ふぞ悲しけれ。
 夢とも分かず、現とも弁へ兼ねし旅空、言依別命一行は、涼しき河鹿声に送られて夢路を辿る心持、風に吹かるる木如く、地を離れて中空を五色雲に包まれつ、東を指して風まにまに出で給ふ。
 とある高山風景最も佳き大河辺に、一行姿は何時間にか下ろされ居たり。
言依別『オー玉彦、神素盞嗚大神御舎は、ど方面に当らうかなア。此処は河鹿峠山麓、河鹿河岸辺と見える。暴風に吹捲られ、吾等は脆くも此山麓に吹散らされ、何となく一種不可思議な心持になつて来たが、汝等はどう考へるか』
玉彦『仰如く河鹿峠烈風に煽られ、千尋谷間へ転落せしと思ふ間もなく、風に木散る如き心地し、フワリフワリと魂は飛んで大空高く東を指して進み来りしよと見る間に、不思議や吾等一行身は、名も知れぬ山風光明媚河縁に進んで来たです。吾々が熟ら考へまするに、此処は決して河鹿峠谷間ではありますまい、自転倒島中心点様に思はれます』
厳彦『さうだ、玉彦言ふ通り合点行かぬ四辺光景、現界とは様子が大変に違つて居る様だ、大方此処は天国ではあるまいかいなア』
楠彦『たしかに天国に間違ありませぬ、迦陵頻迦数限りもなく、アレあ通に舞狂ふ有様、吹き来る風は美妙音楽を奏し、空気は何となく香ばしく梅花香りを交へ、見るも聞く物一として快感を与へないもは御座いませぬ。……もしもし言依別命様、御案じなさいますな、あなた真心を大神は御見ぬき遊ばして、斯かる天国に導き下さつたでせう』
と語る折しも、天空を轟かして一道光明と共に天磐船に乗りて此場に下り来る神人あり。天磐船は静に一行が前に舞下りぬ。金銀珠玉、瑠璃、硨磲、瑪瑙、真珠、珊瑚等を以て飾られたる立派なる御船なりき。翼を見れば絹でもなければ、毛でもない、一種異様柔かき且強き織物にて造られてあり。手を伸べて此翼をスウツと撫でる刹那に、得も言はれぬ美妙音響が発するなり。玉彦は右左に翼に張り詰めたる織物を撫で廻せば、精巧なる蓄音機円板如く、種々美はしき音響聞え来る。此時磐船中より現はれ出でたる八人童子、頭髪は赤くして長く、肩あたりに小さき翼あり、歯は濡烏如く黒く染め、紅唇、緑滴る眼容、桃色頬に無限笑を湛へ乍ら、五六才と覚しき童子、言依別命前に現はれ来り、細き涼しき声にて、
『貴下は瑞霊分霊、常世国に生れましし言依別命にましまさずや、吾は高天原より大神命を奉じ、お迎へに来りし者、サ、サ、早くこ船に召させ給へ』
と言葉を低うし、礼を厚くして述べ立つるにぞ、命は何気なく此美はしき船に心を奪はれ、ツカツカと側に近付き給ふよと見る間に、磐船傍に装置せる美はしき翼、命身体を包みて御船中に入れ奉りけり。忽ち美妙音響轟き渡ると見る間に、磐船は地上を離れ、ゆるやかに円を描きつつ空中に上り行く。三人は突然此出来事に呆然として空を見上ぐるみなりき。磐船は空中高く舞上り、船首を転じ、中空に帯如き火線を印し乍ら、月光を目当に悠々と進み、遂には其姿も全く目に止らずなりにけり。
玉彦『常世国から遥々と、塩八百路を渡り、あらゆる艱難と戦ひ、雨風に曝され、汗と涙でフサ都に到着し、日出別神様お情深いお詞に、旅疲れもスツカリ忘れ果て、河鹿峠絶頂に辿り着いて四方風景を眺めた時愉快さは、何ともかとも譬へ方がなかつた。それより板壁如き峻坂を駒に跨つて下つた時心持は、全然地獄道一足飛でもする様な煩悶と驚異に充たされ、心中に神言を奏上し、やがて慕ひ奉る神素盞嗚尊様に拝謁が得られる事だと、一歩一歩苦痛を忘れ楽しみ進む折しも、俄に吹き来る山嵐に煽られ、身は千仭谷間に落ちて粉砕したと思へば、豈図らむや通力自在空中飛行、心イソイソ風雲に任す折しも、思ひきや、斯かる美はしき川べりに下ろされた。どう考へても此処は現界ではあるまい、ヤレ嬉しやと思ふ間もなく、力に思ふ言依別命は、神迎へ船に乗りて、中空高く月御国へ御上り遊ばした時嬉しき、悲しき、非喜交々混る吾等が胸中、アヽどうしたら宜からうか』
厳彦『何事も神まにまにお任せするより仕方がない、言依別命様は荘厳極まりなき天国に上られ、大神右に座し、地上経綸を言問はせ給ふお役と見える。吾々は最早言依別命様事は断念して、足続く限り進まうではないか、ナア楠彦サン』
楠彦『左様で御座います、それにつけても、何とした気分良い所でせう。何だか気がイソイソとして腰を下ろして休む気にもなりませぬ、サア早く前進致しませう』
と先に立ちて歩み出した。浅き広き大河は水晶水ゆるやかに流れて居る。三人は、
『アヽナント綺麗な水だナア、是れが生命真清水であらう。……どうでせう、一杯手に掬つて頂きませうか。身体各所に沢山、各自傷を負うて居ますれば、あ河中に浸つて見れば、こ疼痛も癒えるかも知れませぬぜ』
と堤をゆるゆる下り、真裸となつて河にザンブと飛込んだ。清き流れ河水は、河底金銀色砂利、日光に映じてきらめき亘る其美はしさ、三人は河中央にどつかと坐つた。深さは坐つて乳辺りまでよりない。水流れは緩やかに、冷からず、ぬるからず、水は名香を薫ずるが如く、味は甘露如く、身体傷は忽ち癒えて、肌は紫摩黄金色と変じ、荒くれ男肉体は淡雪如く柔かく、光を放つに至つた。三人は暫くにして此川を上り、衣服を着替へむとした。不思議や三人衣服は得も言はれぬ鮮花色に変じて居る。
玉彦『ヤア何時間にか吾輩御着衣を失敬しよつたな』
と其処をウロウロと探して居る。
楠彦『オー此処に綺麗な衣服が脱いである。恰度三組だ、これを着服したらどうだらうなア』
厳彦『ヤア止け止け、是れは天人羽衣だ。ウツカリコンナ物を着やうもなら、それこそ折角天国へ来た喜悦は忽ち変じて地獄道苦みに早替りするかも知れない、……エ何事も惟神に任せて裸まま進む事にせう。風暖かく、肌具合は良し、此儘に進まうではないか』
玉彦『ヨー此着物には、何だか印が附いて居るぞ』
と手に取上げ眺むれば、玉彦衣と印してある。
玉彦『ヤア此れは妙だ、何時間にか、吾輩汗に滲んだ衣裳と、コンナ新しい美はしい衣裳と交換した奴があると見えるワイ、……ヨウヨウ是れには、楠彦、厳彦と印してある、……吁、天国泥棒は変つた者だなア、サツパリ娑婆とは逆様だ。娑婆に居る時には、自分履き古した足駄と他人新しい足駄と、黙つて交換する奴許りだが、天国は又趣が違うワイ』
厳彦『そら、そうだらうよ、天国にはコンナ汚い物は珍らしいから、高天原徴古館へでも飾る積りで、吾々が河中に現をぬかしてる間に、泥棒が取つ換へこを仕よつただらう、本当に油断ならぬ世中だ。天国へ来てもやつぱり元は人間霊が来るだから、泥棒根性は失せぬと見えるワイ、アハヽヽヽ』
楠彦『ヤアナント軽い着物だナア、此れを着ると、体も軽くなつて、天へでも自然に舞上りさうだ。身軽になつたは、気分好いもだなア』
玉彦『定まつた事だよ、幽霊体は軽いもだ。此美はしい着物を着たが最後、現世衣を脱いで、神界羽衣と着替へただから、再び恋しき娑婆へ帰れない事は請合だ』
厳彦『娑婆だつて、神界だつて構はぬぢやないか、兎も角、神様為に働ける丈働けば、吾々は人生本分が尽せるだ。サアサア行かう、……ヤア体も足も滅法界に軽くなつた。アア気分も何となく、爽々として来た。神言を奏上し乍ら、往く所まで行かうかい』
と厳彦は先に立つて進み出した。前方より頭髪漆如く黒く、光沢豊に、身丈は六尺許り眉目清秀一神人、数多美はしき鳥を数百羽引きつれ、金杖を持つて指揮し乍ら此方に向つて進み来る。
玉彦『ヤ、何ンと綺麗な鳥が居るではないか、到底現界では、見られない、美はしいもだ』
 かく言ふ中、件男は一足一足近付き、三人を見て、
『ヤアあなたは高天原へ御参詣ですか』
と笑顔を以て、言葉優しく問ひかけた。
 三人は声を揃へて、
『ハイ、不思議事で、吾々は斯様な立派な国へ思はず参りました。高天原は何方を指して行けば宜しいでせうか』
男『マア急ぐ旅でもなし、こ美はしい草上で、皆サンゆつくりと休息を致しませうか、吾々は言依別命様命に依り、あなた方三人方をお迎へに参りました』
玉彦『エー、ナント仰有います、言依別命様は、最早高天原へお着きになりましたか、それやマアどうした事で、そう早くお着きになつたでせう……ハテ……合点行かぬ事だワイ』
男『神界には時間空間は有りませぬ、仮令幾億万里と雖も、一息間に往復が出来ます、それが即ち神界特長で御座いませう。アハヽヽヽ』
 茲に四人は美はしき花毛氈を敷き詰めた様な河辺芝生に腰うち掛け、脚を伸ばして種々話に耽るであつた。風は音調淑やかなる笛を吹いて、河面をよぎつて居る。魚鱗波は金色光を放ち、風に連れて河下より河上に流れ行く様に見えて居る。数多美はしき鳥を熟視すれば、人顔に翼生えたかつかう鳥様なもばかり、妙な声を出して呟き出した。
厳彦『モシモシ神界と云ふ所は、総物が変つて居ますな、此鳥は又何として人間に似て居るでせうか』
男『イヤ是れは人鳥と言ひます、高天原玩弄物になつたり、或はお使をするもですが、もとはヤハリ現界に居つて、高い所へ上つて訳分らぬことを囀り、バカセだとか、何とか云ふ保護色や、長い嘴を使つて人間頭をこついた報いで、コンナ者に変化して了つたですよ、今年も殆ど三千八百羽幽界から輸入して来ました。みな言語は明瞭ではありませぬが、各自に小賢しい事を喋る怪鳥ですよ』
厳彦『そうすると是れは神界、天国産物ではありませぬか』
男『無論事、コンナ畸形児的鳥類は、神界には一羽も有りませぬ。此れは要するに閻魔庁より、高天原には珍らしいと云つて、神界お慰み為に、輸入されたもです、言はば、舶来ですな。アハヽヽヽ』
厳彦『兎も角も妙なもだ、此奴等は娑婆に居る時には、自由恋愛だとか、共和だとか、民衆だとか何とか言つて、沢山な娑婆亡者を煽動した何々長とか云ふ怪鳥でせう。併し此綺麗な天国浄土に糞をひりさがされては、又もや娑婆様になりはしますまいかなア』
男『イヤ大丈夫です、此奴尻は最早糞詰りですから……娑婆に居る時には、何事も知つて知つて尻抜いた様な事を言つて、長い嘴を振りまはし、囀つては喰つて居ましたが、モウ娑婆でも此嘴が間に合はなくなつて口は詰り、尻は塞がり、行詰り悲境に陥つてる代物です。娑婆でもあまり喰へないで、糞をこく種もなし、清潔なもですよ』
厳彦『ソンナ話を聞くと、吾々も生物識聞噛じり学問をやつて来たが、コンナ事になると思へば、ガツクリして胸も学々致しますワ、アハヽヽヽ』
玉彦『一寸此鳥に物言はして見て下さいな』
男『ナンダか言語が通じ難いから、聞取れますまい、此奴は金鳥と云ひ、此奴は銀鳥と云ひます。娑婆で、椅子とか云ふ木に巣を作り、月給々々と鳴いたり、ホーホー俸給々々と囀つて居つた鳥ださうです。此天国へ輸入されてからと云ふもは、何だか鼠病人様にキウ窮と囀つて居ます』
 数多人鳥は、キウ窮、クウ苦々と鳴き乍ら、家鴨様に河にバサバサと飛び込み心地よげにかいつぶり真似をして、浮きつ沈みつ戯れて居る。
楠彦『ナント天国も変つたもですな、迦陵頻迦名鳥が沢山居ると聞きましたが、其様な鳥は余り見当らないぢやありませぬか』
男『其鳥は高天原を中心として、十里四方区域に限つて住んで居ます。此辺は要するに準天国と云つても宜い様な所ですよ、まだまだ此先へお進みになれば、立派な所があります。……私はウツカリとネームを申上げるを忘れて居ましたが、実は高天原使松彦と申す者、昔はヱルサレムに於て、言霊別命にお仕へ致した事ある言代別で御座います』
楠彦『ヤア昔語に聞いて居つた言代別はあなた事ですか、ヤアこれはこれは妙な所でお目に掛かりました』
松彦『然らば御案内致しませう』
と先に立つて行かむとする。
玉彦『もしもし松彦様、あ沢山な鳥は、連れてお帰りになりませぬか』
松彦『折角閻魔庁より輸入されたもですが、十里四方内には置く事が出来ないと大神様厳命に依りて、十里圏外に送り出して来ました。……あ様な鳥族には少しも執着心はありませぬ、どうなつと勝手に方針を立てるでせう』
と足をはづませ、飛鳥如くに進み行く。三人も何となく足許軽く、飛び立つ如くに追跡する。一時許り歩いたと思ふ頃、ピタリと岸壁に行当つた。此岩は鏡岩と云つて、浄玻璃如くに光り輝き、日光鏡面に映じて、得も云はれぬ美はしさ、一行姿は鏡に隈なく映つた。見れば自分背後に五色霊衣現はれ、優美にして、気品高き女神が現はれて居る。三人は思はず合掌した。
松彦『此処が鏡岩です。大抵者は此処へ来りて、後へ引返す者が多いですよ。天国にも上中下と三段区劃があります。此鏡を無事に通過すれば、最上天国です。此鏡さへ突破すれば、モウ占めたもです』
玉彦『アー、それは有難う御座いました。併し乍ら吾々は、第二天国を何時間に通過したですか、まさか途中で天国移転と云ふ様な事もありますまいが……』
松彦『あなた方は、言依別命様お蔭に依りて、第三天国は抜きにし、第二天国へ直接お下りになつたです。夫れも第二天国殆ど終点ですから、大したもですお喜びなさいませ』
三人『身分に過ぎたる有難き神様御待遇、恐縮至りだ、………此鏡岩をどうして突破すれば可いでせうか』
松彦『是より以内は宮内、此鏡岩は外囲です、これを突破しなくては、最上天国へ進む事は出来ませぬ。神界に於ても、斯う云ふ一つ苦しみがありますワイ。吾々は幾度も此処を往復致して居りますから、勝手も分つて居りますが、あなた方は始めて事各自に心をお開きになれば、自然に此鏡岩通過が叶ひます。神界厳しき警告に依りて、此事ばかりは御教へ申す事は出来ませぬ、是れが神界関門、霊試金石ですよ』
 三人は、
『ハテナア』
と双手を組み、首を項低る。
(大正一一・四・四 旧三・八 松村真澄録)
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