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文献名1霊界物語 第31巻 海洋万里 午
文献名2第3篇 千里万行よみ(新仮名遣い)せんりばんこう
文献名3第20章 脱皮婆〔886〕よみ(新仮名遣い)だっぴばば
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-04-14 18:22:50
あらすじ秋山別とモリスは、炎を避けて川辺にやってきたが、川幅が広く急流で渡ることができない。炎に追われて地団太を踏んでいると、おぞましいガリガリ亡者がやってきた。秋山別はぞっとしたが、わけわからないところへ来てしまって気を弱くしてはつけこまれると思い直し、強い口調で亡者にお前は誰かと問いかけた。亡者たちは、現世では色と金にはまってこような姿となり、河にはまった秋山別とモリス命を奪ったも自分たちだと答えた。秋山別とモリスは亡者たちと押し問答していたが、亡者たちは、二人が冥途へ来てまで二枚舌を使うと言って、やにわにくぎ抜きを持って二人に襲いかかってきた。秋山別とモリスは命からがら河に飛び込んで急流を渡り、なんとか亡者たち襲撃を免れた。二人はかやぶき粗末な小屋を見つけ、中婆に声をかけた。婆は、ここは焦熱地獄で自分は二人が来るを閻魔大王命で待っていただ、と告げた。焼け野が原脱皮婆と名乗る婆は、焦熱地獄はよほど罪重い者がやってくる場所だと言い、鬼が火車で二人を迎えに来ると告げた。そんな大罪を犯した覚えはないと訴える二人に対して、婆はあきらめるようにと諭す。そこへガラガラと大きな音を立てて赤鬼と青鬼が二台車を引き連れてやってきた。秋山別とモリスはあっと驚いてそ場に倒れ伏した。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月20日(旧06月28日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年9月15日 愛善世界社版231頁 八幡書店版第6輯 127頁 修補版 校定版238頁 普及版109頁 初版 ページ備考
OBC rm3120
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本文  二人は漸く広き河辺に辿り着いた。見れば非常な広い河で而も急流である。橋もなければ容易に渡る事は出来ない。後へ引返さむとすれば、岩石炎は盛に燃えひろがり、道を塞ぎ、グヅグヅしてゐると、煙に包まれさうな勢である。『アヽ如何にせむ』と川端に二人は地団駄をふみ、遂には泣声を出して藻掻き出した。どこともなしに厭らしき声が聞えて来る。フツと見れば、渋紙様な肌をした赤裸人間が肋骨を一枚々々表はしたガリガリ亡者である。一目見てもゾツとする様な、厭な姿であつた。此亡者は赤裸ではあるが、男とも女とも少しも見分けがつかなかつた。只骸骨上に渋紙様な色した薄ツペらな皮が、義理か役か様に包むでゐるみである。
 秋山別は心中に思ふ様……どうせ、こンな訳分らぬ所へ来ただから、ロクな奴は出て来る筈はない。余り気を弱く持つて居たならば、先繰り先繰りいろいろな奴が出て来て、何をするか分らない、強くなくては……と俄に決心臍を固め、声も高らかに、
『オイ我利坊子、貴様は現世奴か幽界奴か、返答をせい。現世には貴様様な奴はメツタに見た事はないが、大方娑婆に居つて吾れよし有り丈を尽した我利我利亡者連中が、欲川へ落込み濁流を呑ンで、こンな態になつただらう。一つ旅慰みに貴様来歴を聞かしてくれないか』
『俺は剛欲ハル国、身勝手郡、吾れよし村欲皮剥右衛門と云ふ男だよ。一人男は同国同郡同村金借踏倒しといふ亡者だよ。今冥途へ来てから、名を替へて、骨皮痩右衛門、墓原骨左衛門となつただ。お前はア自称色男秋山別、モリス両人に違いあるまいがな』
『貴様どうして俺素性を知つてゐるだ』
『きまつた事よ。余り貴様が此川上で立派なナイス様な化者を捉まへて、現を抜かしてゐるから、俺も金と色とにかけては、現界に居つた時から、天下無双豪傑だつたが、俺前で、余り巫山戯たことをしよるもだから、チツと計り癪にさはり、ナイスが川中へとつて放つたを幸ひ、河童となつて、貴様睾丸を引ちぎり、冥途旅をさしてやつただ。アツハヽヽヽ』
『オイ、モリス、此奴が俺達命を取つた餓鬼だと見えるワイ。サウもう斯う白状致した以上は、了見ならぬ。バツチヨ笠やうな、骨と皮と体をしよつて、洒落たことを致す亡者だナア。これから両人が踏みにじつて呉れるから覚悟を致せ』
『アツハヽヽヽ、女に捨られ、命迄棄てた腰抜亡者分際として、何を吐すだイ。コリヤ此欲皮は貴様見る通り、壁下地が表はれて、ニクもない可愛い男だが、併し俺体は満身骨を以て固めてあるだぞ。亡者なぶり骨なぶり、見事相手になるなら、なつて見よ』
 モリス始めて口を開き、
『コリヤ、我利々々亡者、欲皮剥右衛門とやら、俺を何と心得てゐるか』
『何とも心得て居らぬワイ。失恋狂川はまり、土左衛門成れ果て、恋焔におひかけられて、其情熱を消すべく、此川辺迄逃げて来よつたモリスぢやない、亡者だらう。亡者々々致して居ると、此欲川はモウ容赦はならぬぞ。女手を引張つて、都見物亡者引様に、見つともない何態だイ。チツとは恥を知つたが良からうぞ』
『何を吐しよるだイ。貴様は欲皮を剥いで、現界に居つた時は、人鬼と云はれて来た代物ぢやないか。其天罰が廻つて来て、河鹿か何ぞ様に、川住居をしよつて、ガアガア吐すと、本当蛙になつて了うぞ。蛙行列向う見ずと云ふ事があるぢやないか。蒸せ損ひ饅頭様に、かは許りにへばりつきよつて、現界でも喰へぬ奴だつたが、ヤツパリ茲へ来ても骨だらけで、味もシヤシヤリもない喰へぬ代物だなア。併し乍ら貴様も何時迄もこンな所に居つても仕方がないぢやないか。モリスさまに従いて来ないか。結構な結構な針山か、血池か、茨林へ連れて行つて、蜥蜴丸焼でも振れ舞うてやるからウ』
『そんならこ金借も伴れて行つてくれないか。只で貰う事なら蜥蜴だつて、蛙だつて構うもか、又只で案内してくれるなら、仮令針山でも血池地獄でも構やせぬワイ。兎も角俺は貰ふ事が好きな性分だい。出す事なら舌を出すも手を出すも嫌ひな亡者さまだよ。サア早く行かう』
『こりや嘘だ、貴様様な者を道伴れにして如何なるもかい。紅井姫がシーズン河へ飛込ンで、冥途道に待つてゐるだから、其様な者を連れて行かうもなら、それこそモリス男前が下がつて了うワイ』
『貴様は冥途へ来て迄二枚舌を使うだな。徹底的な大悪人だ。ヨシ今金借さまが其二枚舌を抜いてやらう』
と云ふより早く、川縁手頃石をクレツとめくると、其下から、沢山釘抜がガチヤガチヤする程現はれて来た。金借亡者は、矢庭に之を手に取り、モリスに向つて襲ひ来る猛烈な勢に、流石モリスも堪りかね、忽ちザンブと激流に飛込み、
『秋山別早く来れ』
と云ひ乍ら、抜手を切つて、流れ渡りに向う岸へヤツと取りつき、着物を脱ぎ棄て、力一杯圧搾し始めた。秋山別も辛うじて泳ぎ着き、之れ亦衣類を絞り、二人は川向う二人亡者に、腮をつき出し拳骨を固めて空をなぐり、十分に嘲弄し乍ら、一生懸命に何者にか引かるる様な心地して、北へ北へと走り行く。
 何とも譬へ様ない不快な血腥い風が吹いて来る。油で煮られる様な熱さを感じて来た。二人はヘタヘタになつて、どつか木蔭があれば、休まうと、目をキヨロつかせ、そこらあたりを眺めて居ると、何とも形容出来ない一本木が枯葉を淋しげに宿して立つて居る。せめては此木蔭にと立寄つて見れば、厭らしい種々毛虫がウジヤつてゐる。二人は肝を潰し乍ら、又もや焼きつく様な大地上を歩み出した。少しく前方に萱を以て葺いた小さい家が、珍しくも只一軒建つて居る。これ幸ひと立寄つてソツと草で編ンだ戸隙間から、中を覗くと、爺とも婆とも見当つかぬ老人が唯一人、水涕をズーズーと垂らし乍ら、切りに草鞋を作つてゐる。秋山別は外から、
『モシモシお爺イさまかお婆アさまか、どちらかは知りませぬが、吾々は旅人で御座います。余り暑いで、最早やり切れなくなりました。どうぞあなた涼しい御宅で、暫く休まして下さいな』
 小屋中より皺枯れた声で、
『ここは焦熱地獄八丁目だ。能うマア踏み迷うて御座つた。閻魔大王様から、お前達二人が茲へ来るから、茲に待伏せして居れと御命令を受けて、二三日前から待つてゐただよ。好い所へ来て呉れた。サアゆつくりと這入つて休息さつしやい。やがて赤鬼や黒鬼が火車を持つて、お前達二人を迎へに来るから、マア楽みて待つてゐるがよからう。一度は火車に乗つて見るも面白からうぞや』
『モシモシそりやちつと困るぢやありませぬか。如何して吾々がそンな火車に乗らねばならぬ様な悪い事を致しましたか。そりや大方人違ひぢや御座いますまいかなア』
『儂は焼野ケ原脱皮婆アと云ふ者だ。三途川には脱衣婆と云ふ者が居つて着物を脱がすが、そこを通る奴は罪軽い連中だよ。こ焦熱地獄旅行する奴は最も悪い罪人が出て来る所だ。それだから、お前皮をスツカリ剥ぎ取つて、剥製にして黄泉博物館に陳列し、皮を剥いだ後肉体は火車に乗せて、閻魔庁へ送り、鬼共が喜びて、塩焼にして食て了うだから、心配することはない。今となつて心配した所で駄目だよ。チヤンときまり切つた運命だから……』
『お婆アさま、そりや本当ですかい。チツとモリスには合点が往きませぬがなア』
『合点が往かぬ筈だよ。合点往かぬ事計りやつて来ただから、無理はなけね共、もういい加減に因縁づくぢやと合点をせなきやならなくなつて来たよ。お前を迎へに来る火車は自惚車といふ妙な脱線し転覆する車で危ないもだが、紅井様な赤い顔をして、目を剥いた女鬼が一人、又少し年増エリナと云ふ女鬼が一人、火車を二つ持つて、お前を迎へに来る段取がチヤンと出来てゐるだから、今間なりと気楽に歌でも唄つておかつしやい。火車が来たが最後、お前体は不動さまように、恋情火が燃え立つて、熱い目に会はねばならぬだからな。あゝ思へば思へば不愍なもだワイ。
 火車別に地獄にやなけれ共
  己が作つて己が乗り行く

とか云つて、お前が作つた完全無欠な火車だから、誰に遠慮も要らぬ。ドンドンと乗つて行かつしやれや。何事も世中は自業自得だ。善因善果、悪因悪果、蒔かぬ種は生えぬとやら、自分が蒔いた種が成長して、花が咲き実がり、又自分が収穫をせなくちやならぬ天地自然法則だからなア』
『エー、秋山別は別に女に対し、恋慕は致しましたが、まだ生れてから、女一人犯したことは御座りませぬ。何が為にそれ程重い罪を科せられるでせうか。是れ位な微罪を、さう喧かましく詮議立てをし、処罰をして居つたならば、地獄牢屋もやり切れますまい』
『軽い罪は皆見がして、三途川で衣を脱がし、それから生れ赤子赤裸にして、霊故郷へ帰してやるだが、お前様な罪人は何うしても帰す事が出来ないよ。又何程立派な審判鬼だとて、中には盲もあるから、お前罪は俺が聞いても、ホン軽い様に思ふが、火車に乗せられて、焦熱地獄へ落してやらうと判決されただから、此婆ア力ぢや如何する事も出来ない。閻魔さまだつて直接に調べるぢやないから、疎漏もあるだらうし、無実罪で来て居る憐れな人間もチヨイチヨイあるやうだ。何程冥途規則が立派に出来上つて居つても、それを運用する審判鬼が盲だつたら駄目だからな。マア諦めるより仕方があるまいぞよ。上大将からして、盲幽霊計りだから困つたもだよ。此婆アもお前には満腔同情を表してゐるけれど、上から押へられるだから、どうする事も出来やしない。お前言訳を一つでもせうもなら、それこそ大変だ。下癖に上役裁いた事を、何ゴテゴテ言ふかと云つて、一遍に免職さされて了うだ。さうすればお前が今渡つて来た欲川に居つた我利々々亡者様に骨と皮とになつて了はねばならぬ。アーア暗がり中と云ふもは情ないもだわい』
と婆アさまは鼻をすすり、そろそろと泣き出した。
 斯かる所へガラガラガラとけたたましき音を立て、いかめしき面した赤鬼、青鬼、金平糖を長うした様な金棒を携へ、二台車を引つれて、此場に向つて勢よく駆けつけ来る。二人は『アツ』と驚き其場に倒れ伏しける。
(大正一一・八・二〇 旧六・二八 松村真澄録)
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