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文献名1霊界物語 第49巻 真善美愛 子
文献名2第4篇 鷹魅糞倒よみ(新仮名遣い)ようみふんとう
文献名3第20章 山彦〔1294〕よみ(新仮名遣い)やまびこ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-07-06 13:33:38
あらすじ初稚姫は河鹿峠を降ってくる途中にお寅、魔我彦、ヨル一行に出会い、祠森に父・杢助がいることを知った。斎苑館にいるはず父が祠森にいることにいぶかしさを感じながらも、三人に別れを告げて祠森に向かった。一方、高姫と杢助は、珍彦夫婦に盛った毒が効きはじめたと思いこみ、彼ら死後に変身術を使って自分たちが入れ替わり成りすます相談をしていた。そこへ受付イルから、初稚姫がやってきて父・杢助に会いたいと言っていると報せがあった。杢助は、自分が高姫を後妻に取ったばかりで娘に会うは恥ずかしい、また宣伝使となった娘を甘やかしてはいけないと言い訳をして、森に隠れてしまった。杢助に化けた唐獅子化け物は、実はスマートが恐くて逃げ出したであった。スマートはにわかに唸りだして森林に駆け出して行ってしまった。初稚姫は不審に思いながらスマートが飛び込んだ森林を見ていると、スマートは前足に傷を受けて帰ってきた。初稚姫は高姫が止めるも聞かずに奥に進み入った。スマートも足を引きずりながら初稚姫後に従う。高姫は初稚姫が来たことを知らせるために声を限りに杢助を呼ばわったが、聞こえてくるは山彦だけであった。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月19日(旧12月3日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年11月5日 愛善世界社版287頁 八幡書店版第9輯 138頁 修補版 校定版296頁 普及版133頁 初版 ページ備考
OBC rm4920
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本文
 初稚姫はスマートを伴ひ、河鹿峠を宣伝歌を歌ひ乍ら降つて来る。途中に於てお寅、魔我彦、ヨル一行に出会ひ祠森に高姫や杢助居る事を聞き、訝かしさ限りよと心に思ひ乍らも、さあらぬ態を装ひ、三人に別れを告げて、祠森をさして急ぎ下り行く。
 話変つて、高姫、杢助両人は又もやヒソビソ話に耽つて居る。
高姫『杢助さま、世中に智慧位偉大なもはありませぬな』
杢助『うん、さうだ。何といつても智慧だな。もう斯うなる上は珍彦夫婦も、やがて倒死だらう。さうすれば彼が息をひきとると共に、変身術を以て、お前と私は珍彦夫婦にならねばならぬ。何時知れるか分らぬから今から、用意にかからねばなるまい』
高姫『其用意とは如何すれば宜いですか』
杢助『ア、さうだ。すこし嫌事だけど、私は珍彦放いだ糞を飯粒一つ位舐ねばならぬ。お前は静子糞を一掴み位舐るだ。さうすれば直に変身術が行はれる』
高姫『何ぼ何だつて糞が舐られますか。外に何か方法がありさうなもですな』
杢助『何と云つても此奴あやらなくては駄目だ。やがて毒がまはつて倒れるに間もあるまいから、早く身代りを拵らへて置かなくてはならぬ。高姫、実処は此処に両人糞を或方法を以て取寄せて置いただ』
と竹皮包みを懐から取り出した。
高姫『アーア、嫌だわ。まるで犬見た様な事をせなくてはならないかな』
杢助『犬でさへも糞を食へば目が見えると云ふぢやないか。糞からはアンモニヤと云ふ薬をとり、之等で種々薬を造り、パンだつて饅頭だつて之で膨れるだ。変身には之程利くもは無いだ』
高姫『アー、仕方がありませぬわ。之もヤツパリ義理天上日出神様ためだと思へば、辛抱して頂きませうかな』
杢助『実所は嘘だよ。お前気を引いてみただ。もつと外にいい薬があるだよ』
高姫『アーア、やつと安心しました。本当に腹悪い人だな。腹虫が食はぬ前から、厭がつてグレングレンしてゐましたよ』
杢助『これが……さア妙薬だ……之さへ飲めば、変身術は即座に行はれるだ』
と懐から又もや皮包を出す。
高姫『杢助さま、そりや何ですかい』
杢助『之は猿肝だ。猿胆と云ふもだ。チツとは苦いけど、之を飲めば直に変身術が出来る』
高姫『お前さまは、さうして何を飲む
杢助『此杢助は懐に持つてゐるが、此秘密を女に覚られたら、出来ぬだから暫く発表を見合して置かう。さア早く之を飲みなさい。いざと云ふ時に私が文言を唱へるから、之を合図にパツと化身するだ』
高姫『如何も有難う厶ります。そんなら頂きませうか』
杢助『さあ早う飲んだり飲んだり』
 高姫は目を塞ぎ苦さを耐へて猿胆をグツと飲んで了つた。そ六かしい苦相な顔は殆ど形容が出来ぬ様だつた。
杢助『ハヽヽヽ如何も六かしい顔だつた。三年恋も、あれを見ちや一度に冷める様だ。まるつきり猿様な顔をしたよ』
高姫『そら、さうでせうとも、猿肝を飲んだだも。然しお前さま、三年恋が一度に冷めるなんて、そんな薄情な事を思ふてゐなさるかい』
杢助『ハヽヽヽヽ如何も恐れ入りました。山神様逆鱗には智勇兼備杢助も降服仕る。南無山神大明神、義理天上日出神許させ玉へ、惟神霊幸倍坐世』
高姫『これ、杢助さま、私が斯んな苦い目をして苦しんでゐるに、陽気な事を云つてゐらつしやるだな。女房意思は夫意思、夫智性は女房智性、双方相和合してこそ、夫婦和合ぢやありませぬか。それ程私が苦しんでるが面白いですか』
杢助『ハヽヽヽ世中に何一つ恐い事ない此杢助も義理天上さまには恐れ入りますわい。南無お嬶大明神、許させ玉へ、見直し玉へ、アツハヽヽヽヽヽ』
高姫『杢助さま、よい加減にチヨクツて置きなさい。千騎一騎場合ぢやありませぬか。貴方は世中に怖いもはないけど、私が怖いと云ひましたね。それ程怖い顔なら何故女房になさつたですか』
杢助『ハヽヽヽさう短兵急に攻めかけられては聊か迷惑だ。拙者怖いもは犬位なもだよ』
高姫『エー、お前さまは耳が動くと思へばヤツパリ犬が怖いかな、ハテナー』
杢助『アツハヽヽヽ犬と云ふはスパイ事だ。も一つ怖い犬はワンワンワンと囀りまはすタ字とカつく犬だ、ハツハヽヽヽヽ』
高姫『私を犬と云ひましたな』
杢助『さうだ。二つ目には悋気してイヌイヌと云ふだから仕方がないわ。イヌ、走る、暇くれと、高ちやん常套語だからな』
高姫『何なと仰有いませ。ヘン、又晩に敵討をして上げますわ』
杢助『アツハヽヽヽヽ』
 斯く笑ふ所へ慌ただしくやつて来たは受付けイルであつた。
イル『もし、御両人様、只今イソ館から初稚姫様がスマートとか云ふ犬を連れてお立寄りになり「吾父杢助がゐるさうだから一目会はして呉れえ」と仰有いますが如何致しませうかな』
杢助『ヤー、初稚姫奴、親斯んな処に居るを悟りよつたかな。おい、高姫、何ぼ俺だつて年が寄つてから親だてら夫婦然として居るは子に対し恥しい様だ。俺は暫く森へ姿をかくすからお前行つて、うまく初稚姫を帰なしてくれないか。おい、イル、初稚姫に杢助さまはお留守だと云つてくれ』
イル『ハイ、承知致しました。然し乍ら折角娘さまがお訪ねなさつただから、会つてやつて下さつたら如何ですかな』
杢助『いや、却つて甘やかしちや娘ためにならぬから、此処は会ふてやらぬ方がよいだらう。それが親情だ。高姫、オイお前も表に出て初稚姫に得心さしてくれ』
高姫『はい、承知致しました』
と大きな尻をプリンプリン振り乍らイルを伴ひ、玄関口へ駆け出した。其間に杢助は化物正体を現はし、スマートが怖さに巨大なる唐獅子となつて裏森林へ飛び出し、山越に何処ともなく姿を隠しける。初稚姫が伴ひ来れるスマートは、俄に『ウーウー』と呻り出し、足掻きをし乍ら一目散に森林をさして駆け入りぬ。初稚姫は不審眉をひそめてスマート行衛は如何と案じ煩ふ折もあれ、スマートは前足に少しく傷を受け乍ら足をチガチガさせ初稚姫前に帰り来たり、「キヤーキヤー」と二声三声泣き乍ら、一生懸命に足傷を舐て居る。初稚姫は高姫とどむるも聞かず、無理に奥へ進み行つた。スマートは足をチガチガさせ乍ら、廊下を伝ふて初稚姫後に従ひ行く。高姫は吾居間に帰つて見れば杢助姿が見えないで声を限りに『杢助サーン杢助サーン初稚姫さまが見えましたぞや』と怒鳴り立ててゐる。向ふ谷間から木魂反響で、山彦が『杢助サーン杢助サーン初稚姫さまが見えましたぞや』と答へて居る。
 雪混つた初春寒い風が遠慮会釈もなく屋外を渡つて行く。
(大正一二・一・一九 旧一一・一二・三 北村隆光録)
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