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文献名1霊界物語 第50巻 真善美愛 丑
文献名2第4篇 神犬言霊よみ(新仮名遣い)しんけんことたま
文献名3第19章 逆語〔1313〕よみ(新仮名遣い)ぎゃくご
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-07-27 15:15:20
あらすじハルは、通りすがり者が受付に立ち寄っただととぼけたが、杢助と高姫は、斎苑館から使いがやってきたことを感知していた。杢助と高姫は、イルやハルたちが斎苑館に手紙をやって、自分たちを放逐しようと役員を呼んだだろうと気を回し、首謀者を白状させようとハルを手荒に責め立てた。妖幻坊杢助が拳骨を固めてハルを打ち据えようとしたとき、スマート吠え声が聞こえてきた。妖幻坊は体がすくみ、青ざめて自分居間に逃げ帰り、布団をかぶって震えている。高姫は自分もふるえながら、ハル尋問を続けた。ハルは、大方高姫たちに立ち退き命令を告げに来ただろう、とやけになって答える。高姫は怒り、珍彦に直接談判すると言って珍彦館に向かおうとした。そこにイルとサールに案内された安彦と国彦が入ってきた。イルは入ってくるなり、早く高姫に立ち退き命令を告げてくれと安彦と国彦に頼みこみ、高姫を嘲笑した。安彦と国彦は高姫に挨拶をし、来訪目的は珍彦に伝えてあるから、やがて高姫たちに沙汰があるだろうと伝えた。高姫は安彦と国彦を昔名前で呼んで馬鹿にし、挑発する始末であった。安彦は、高姫は放っておいて隣間で唸っている妖幻坊様子を見ようとした。高姫制止を聞かずに、イルと安彦は杢助居間ふすまを開けた。妖幻坊は樫棒を振り上げ、安彦頭を叩き割ろうとしたが、床下から聞こえてきたスマート吠え声にたちまち手がしびれ、一目散に裏森林指して逃げてしまった。高姫が居間に入ってみれば、そこはもぬけ殻だった。妖幻坊がどこかに行ってしまったで、高姫は大声で自説を怒鳴りたて、安彦と国彦を煙に巻いてしまった。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月23日(旧12月7日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年12月7日 愛善世界社版264頁 八幡書店版第9輯 247頁 修補版 校定版270頁 普及版133頁 初版 ページ備考
OBC rm5019
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本文  高姫居間には妖幻坊杢助、高姫両人、六ケしい顔をして上座に坐り、ハルをつかまへて油をとつてゐる。
妖幻『オイ、ハル、今表口に参つて何かゴテゴテ申して居つたは何者だなア』
『ハイ、何でも厶いませぬ。只道通が一寸受付へ立寄つたで厶います』
『馬鹿を申せ。其方は吾々に隠し立てをするだなア。斎苑館から直使が来たであらうがな』
『ハイ、エエ、それは、みえました。併しながら決して吾々に対して、御用もなければ何とも仰せられませぬ』
『珍彦館へ其方は案内をしたであらうがなア。様子は大抵知つて居るだらう』
『ヘーエ、イルに……イン、承はりますれば、此館総取締にイルを致す………とか云ふお使ださうで厶います』
『高姫や此杢助を放逐すると申して居らうがな』
『エー、そんなこた、一寸も存じませぬ。併しながら朝晩御給仕もせず、酒ばかり呑んでる人物に対しては、どういう御沙汰が下つたやら分りませぬな。直接私は何にも聞かないもですから、かう申したと云つて、決して之が事実だか事実でないか、保証限りで厶いませぬ。併し何だか妙な空気が漂うてゐますで。何と云つても杢助さまともあらうもが、スマート如きが怖いと仰有るもだから、ヘヘヘヘヘ、皆連中がチヨコチヨコと噂を致して居ります。それより外は何も厶いませぬ。これは一文生中掛値もない、ハル真心を吐露したで厶いますから、此上秘密は何も存じませぬ』
『馬鹿を申せ。まだ外に何か秘密があるだらう。今言葉から考へてみれば、貴様等は申合せ、此方や高姫悪口を申して、斎苑館へ手紙をやつたであらうがなア。それでなければ直使が出て来る筈がないぢやないか。なに頭を掻いて居るだ、ヤツパリ都合が悪いとみえるな。コリヤ白状致さぬか』
とハル襟首をグツと取り、剛力に任せて、座敷中央に突き倒し、一方手でグツと押へ、一方荒い毛だらけ手に拳骨を固めて振上げながら、
『コリヤ、白状致せばよし、隠し立てを致すと、此鉄拳が其方眉間へ触るや否や、其方脳天は木端微塵になるが、それでも白状致さぬか』
『イイ痛い痛い、アア誰か来てくれぬかいな、お直使様、早く、来て下さるといいにな、イイ痛い痛い』
『サ、痛くば早く申せ。白状さへすれば許してやらう』
『ハハ白状せと云つたつて、種ない事が白状出来ますか』
高姫『コレ、ハルさま、お前は五人中でも一番利巧な男だ。それだから私がお前をイル野郎代りに受付頭にして上げたぢやないか。これ程私がお前をヒイキにして居るに、なぜ隠し立てをなさるだい。サ、早く言つてみなさい。決してお前さま為に悪いやうにはせないからな』
『高姫さま、そんな無茶な事、あなた迄が言つて貰つちや、此ハルが何うして立ちますか。よい加減に疑を晴らして下さいな』
妖幻『此奴は何処までもドシぶとい、まてツ、今に思ひ知らしてやらう、サどうぢや』
と又もや拳骨を固めて、力限りに打下さうとする一刹那『ウーウー、ワツウ ワツウ ワツウ』とスマート声、妖幻坊は体がすくみ、色青ざめ、其儘ツイと立つて自分居間に逃げ帰り、蒲団を被つて慄うてゐる。スマート声は益々烈しくなつて来た。
 高姫は少々慄ひながら、
『コレ、ハルさま、お前はいい子だ。本当に様子を知つて居るだらう。サ、チヤツと言うてくれ、其代り、お前をここ神司にして上げるからなア』
『ハイ、お前さま、用心しなされ。どうやら立退き命令が来たやうな按配ですよ』
『ナアニ、立退き命令が、そりや誰に、大方珍彦にだらう』
『冗談云つちやいけませぬよ。珍彦さまはここ御主人です。お前さまは勝手に義理天上だとか云つて坐り込み、自分免許で日出神生宮と威張つてゐるでせう。それだからお前さまに立退き命令が来るは当然ですワ』
『エーエ、まさか時になつて、杢助さまも杢助さまだ。スマート位な畜生が、何程厭だと云つても、こんな正念場になつてから、自分居間へ這入つて寝て了ふといふ事があるもかいなア』
『ヘン、誠にお気毒様、すんまへんな。何れ、悪は永うは続きませぬぞや』
『エーエ、お前迄が、しようもない事を云ふぢやないか。サ、とつとと出ていつて下さい。こ館は仮令直使が来うが何が来うが、日出神生宮が守護して居れば、誰一人居らいでもよいだから、何奴も此奴も放イ出してこまそ。グヅグヅしてると先方方から立退き命令なんて吐しやがるから、先んずれば人を制すだから此方方から立退かしてくれるツ』
と珍彦館をさして行かむと立ち上る。そこへ安彦、国彦はイル、サールに案内され、襖をサツと開いて這入つて来た。
イル『エ、もし直使様、ここが所謂義理天上居間で厶います。何卒早く立退き命令を申し渡して下さい。コリヤ高姫、ザマア見やがれ、イヒヒヒヒ、誠に以てお気毒千万なれど、今日限りだと思うて、諦めて帰んだがよいぞや。油揚一枚も餞別にやりたいけれど、生憎今日は油揚も小豆もないワ。サツパリ、コーンと諦めて、ササ、帰つたり帰つたり』
『エー喧しい、スツ込んでゐなさい。ここは義理天上日出神神界から命令を受けて守護致す大門ぢやぞえ。そして直使といふは誰だなア』
安彦『ヤア高姫殿、久しう厶る』
『拙者は国彦で厶る。此度、斎苑館より一寸様子あつて参拝致した者で厶る。境内様子を見む為、此処まで調査に来たですよ。そして直使趣は珍彦に申渡しあれば、やがて其方に対し、何とか沙汰があるであらう』
『ヘン、阿呆らしい、人民命令位、聞くやうな生神ぢやありませぬぞや。勿体なくも高天原霊国天人、義理天上日出神生宮ぢやぞえ。此肉体は常世姫命再来で、変性男子御系統だ。何と心得てござる。……ヤアお前は北山村本山へやつて来て、トロロ丼鉢を座敷中にブツつけた、国公ぢやないか。そしてお前は安だらう。ヘン、阿呆らしい、直使なんて、笑はせやがるワイ、イツヒヒヒヒ、大きに憚りさま。これなつと、お喰へ』
と焼糞になつて、大きなだん尻を引きまくり、ポンポンと二つ三つ叩き、体を三つ四つゆすり、腮をしやくり、舌をニユツと出し、両手を鳶が羽ばたきしたやうにしてみせた。
安彦『仮令、拙者は神力足らぬ者にもせよ。天晴三五教宣伝使、今日は又八島主命様より直使として参つた者で厶る。粗略な扱をなさると、斎苑館へ一伍一什を申し上げますぞ』
『ヘン、仰有いますわい。八島主教主が何だ。青い青い痩せた顔しやがつて、まるで肺病親方みたやうな面をして、此方に立退き命令、ヘン、尻が呆れて雪隠が躍りますワイ。お茶一杯も上げたいは山々なれど、左様な分らぬ事を云ふ奴さまには、番茶一つ汲む訳には行きませぬワ。サア、トツトとお帰りなさい。高姫は斯う見えても、斎苑館総務杢助妻で厶るぞや。何程安や国が立派な宣伝使だと云つても、吾夫杢助家来ぢやないか。今こそ杢助様は様子あつて役を引いて厶るが、ヤツパリ御神徳は三五教切つて偉者だ。どうだ両人、義理天上申す事を聞いて改心を致し、此方部下となつて、此処で御用を致す気はないかな』
国彦『安彦殿、困つた者で厶るな。論にも杭にもかからぬでは厶らぬか』
『コリヤ与太、ソリヤ何を云ふだ。勿体なくも日出神生宮を目下に見下し、直使面をさげて、馬鹿らしい、何を云ふだい。弥次彦、与太彦両人奴、又一途出刃庖丁を、土手つ腹へつつ込んでやらうかな。あ時は黒姫と二人だつたが、モウ、今日は神力無双勇士、杢助さま女房ぢやぞ。何だ、糊つけもやうに、しやちこ張つて、其面は、マアそこに坐つたが宜からう』
 隣間にウンウンと唸る妖幻坊声、耳をさす如くに聞えて来る。
イル『モシお直使様、こんな気違ひは後まはしと致しまして、杢助居間を取調べませう、何だか唸つて居るやうですよ』
安彦『ヤ、国彦殿、エー、サール殿とハル殿と三人、此発狂者を監督してゐて下さい。拙者は杢助と称する人物正体を見届けて参りますから』
と行かうとする。高姫は両手を拡げて、
『コリヤコリヤ安、イヤ弥次彦、イル、メツタに義理天上さま許しもなしに、行くことはならぬぞや。さやうな事を致すと、忽ち手足も動かぬやうに致すから、それでもよけら、行つたが宜からう』
イル『モシ直使様、行きませう。此婆は何時もあんなこと言つて嚇しが上手ですからなア』
安彦『なる程、参りませう』
と次杢助居間をパツとあけた。杢助は樫棒を頭上高くふりかざし、力をこめてウンと一打、今や安彦頭は二つに割れたと思ふ一刹那、床下より響き来るスマート声、
『ウーツ、ワアウ ワアウ ワアウ』
 杢助は忽ち手痺れ、棍棒をふり上げた儘、一目散に裏森林指して、雲を霞と逃げて行く。高姫は矢庭に杢助居間に入つて見れば藻抜け殻。
『コレ杢助さま、何処へ行つただい。卑怯未練にも程があるぢやないか、サ早く帰つて下さいな。エーエ、何と云ふ気弱い人だらう、本当に優しい人は、こんな時になると仕方がないワ。併し無抵抗主義三五教だから、相手になつてはならない。こんな奴に掛り合うて居つたら、カツタイと棒打ちするやうなもだと思つて、逃げなさつたかな。兵法三十六計手は、逃げるが一番ぢやといふ事だ。ヤツパリ杢助さまは、どこともなしに賢明な方だなア。到底ここらに居るガラクタには比べもにはなりませぬワイ。日出神も杢助さまには感心致したぞや。コレ弥次彦、与太彦、どうだい。感心したかい。チツトお筆先を頂いたらどうだい。結構なお筆先が出てるぞや。此イルも知つて居る通り、一字々々文字が動くだから、そして正体を現はして竜となり、天上をするといふ生きたお筆先ぢやぞえ。どうだ、折角此処まで来ただから、頂いて帰る気はないか。頂くというても筆先は直筆でも写しでもやりませぬぞや。お前中へ容れて帰ればいいだから……』
安彦『ああ困つたもだなア、上げも下しもならぬ奴だ。阿呆と気違ひにかかつたら、どうも手つけやうないもだ』
『ヘン、お前もお筆先をチツとは頂いてをるだらう。変性男子様が……阿呆になりてをりて下されよ。此方は三千世界大気違ひであるぞよ。気違ひになりて居らねば此大望は成就致さぬぞよ。此方は誰手にも合はぬ身魂であるぞよ。鬼門金神でさへも往生致すぞよ。中にも義理天上日出神神力は艮金神も側へもよれぬぞよ。結構身魂が世におとしてありたぞよ。余り神を侮りて居りたら、赤恥をかいて、大きな声で物も言へぬぞよ。日出神を地に致して三千世界御用をさしてあるぞよ。何も知らぬ人民が、ゴテゴテ申せど、何も心配致さいでもよいぞよ。訳分らぬ人民からいろいろと申されるぞよ。それを構うて居つたら御用が勤まらぬぞよ。神はいろいろと気をひくぞよ。トコトン気を引いて、これなら動かぬ身魂と知りぬいた上、誠御用に使ふぞよ……といふ事をお前達は知つて居るかい。知らな言うてやろ、そこに坐りなさい。あああ一人霊を改心ささうと思へば、随分骨折れた事だわい。誠を聞かしてやれば面をふくらすなり、ぢやと申してお気に合ふやうなことを申せば、すぐに慢心を致すなり、今人民は手つけやうがないぞよ。神も誠に声をあげて苦しみて居るぞよ。中にも与太彦、弥次彦やうな八衢人間が、善面をかぶりて、宣伝使などと申して歩く世中だから、困つたもであるぞよ。八島主命も言依別命も、学で智慧出来た途中鼻高であるから、霊国天人申すことはチツとも耳へ入らず、誠に神も迷惑致すぞよ。これから義理天上肉宮が、斎苑館へ参りて、何も彼も根本から立替を致してやるぞよ。そこになりたら、今まで偉さうに申してをりた御方、首尾悪き事が出来るぞよ。神申す中に聞かねば、後になりて何程苦しみ悶えたとて神は聞き済みはないぞよ。改心が一等ぞよ。神は人民が助けたさに夜目もロクによう寝ずに、苦労艱難を致して居るぞよ。神事は人民等分ることでないぞよ。早く帰つて下されよ。四つ足霊がウロウロ致すと、神気障が出来るぞよ。早く帰つて下されよ』
べつ幕なしに大声で呶鳴り立て、安彦、国彦直使を烟にまいて了つた。
(大正一二・一・二三 旧一一・一二・七 松村真澄録)
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