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文献名1霊界物語 第51巻 真善美愛 寅
文献名2第1篇 霊光照魔よみ(新仮名遣い)れいこうしょうま
文献名3第5章 教唆〔1320〕よみ(新仮名遣い)きょうさ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-08-05 20:15:40
あらすじ高姫と妖幻坊はいちゃいちゃしながら酒を飲んでいた。そこへ初と徳両人が青い顔をして帰ってきた。高姫が首尾を尋ねると、初と徳は松姫が言うことを聞かず、杢助を兇党界化け物だと言っていると報告した。高姫と妖幻坊は、初と徳が松姫にしてやられたことを悟った。妖幻坊は二人に、今度はしっかり武装していくように言いつけ、松姫を倒した方が上役になるとけしかけた。初と徳は喧嘩装束に棍棒を携え、松姫館に進んで行った。お千代はスマートと共につつじ花をちぎりながら、向こう森林で遊んでいた。スマートはにわかに体をふるわせて、お千代袖をくわえて引っ張り始めた。そこへお菊が走ってやってきた。お千代とお菊はスマート様子がただならないで、もしや松姫身に何かあったではないかと松姫館に急いで戻り始めた。松姫はただ一人、神殿に向かって神示を伺っていた。そこへ戸を押し破って初と徳がやってきた。二人は樫棒を持って松姫に打ってかかる。松姫はそこにあった机を取って、神助を祈りながらしばらく防戦に努めていた。松姫は数十合も戦ってもはや体力尽き、二人棍棒に打ち殺されようかというとき、宙を飛んで駆けてきたスマートは、初と徳足をくわえて引き倒し、唸りながら睨みつけた。二人は起き上がり、ほうほう態で杢助と高姫ところに逃げて行った。初と徳報告を聞いた杢助と高姫は、なかなか松姫をやっつけるが容易でないと悟ると、初と徳が勝手に松姫に乱暴を働いたということにして、松姫を懐柔する策に出た。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月25日(旧12月9日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年12月29日 愛善世界社版71頁 八幡書店版第9輯 291頁 修補版 校定版73頁 普及版34頁 初版 ページ備考
OBC rm5105
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本文  妖幻坊、高姫は、イチヤイチヤ云ひながら酒を汲み交はし、ヘベレケになつた妖幻坊無理をなだめながら、初公、徳公両人が返答如何にと心待ちに待つて居た。そこへスタスタと青い顔して帰つて来たは、初公、徳公両人であつた。高姫は目敏く之を見て、
『オイ両人、えらい暇が要つたぢやないか、どうだつたな。松姫はウンと云つただらう』
初『へい、イヤもう何で厶いました。それはそれは偉いもですなア、本当に一寸手に合ひませぬわ』
『手に合はぬとは、松姫が義理天上申す事を聞かないと云ふかえ』
『オイ徳、貴様は高姫さま代理ぢやないか、お前代つて報告して呉れ』
徳『エエ高姫さま、貴女御命令によつて種々と申しました所、松姫奴、金毛九尾がり憑つて居るか、それはそれは偉い勢で、到底吾々云つた位ではかてつけませぬがな』
『かてつかぬとはどうしたと云ふだえ。つまり高姫云ふ事は聞かないと云ふかえ』
『ハイ、聞かないとも申しませぬが、お前さまにはいろいろが雑居してゐるさうですよ。さうして杢助さまは大雲山妖幻坊と云ふ妖怪だといつて居ましたよ。何とかして追つぽり出す積りだと意気込んで居りましたよ』
『何と、杢助さまを妖幻坊だと、いよいよもつて怪しからぬ。松姫奴、グヅグヅして居るとどんな事を申すか分つたもぢやない。これ杢助さま、起きなさらぬかいな。お前さまを本当杢助ぢやない、化州だと云つて居るさうですよ』
妖幻『ハハハハハ、化物と云つたか、さうであらう。変性女子御霊でさへも大化物と云はれて居るだから、俺も化物と云はれるやうになれば光栄だ。高姫喜べ、これでもつて俺人物偉大崇高なる事が分るだらう、アハハハハ』
初『それでも化物と松姫云つたは、そんな意味ではありますまいぜ、貴方は何でも大雲山妖幻坊だとか云つて居ましたよ』
『怪しからぬ奴だ、さう云ふ事を云はして置いては、吾々目的邪魔になる。こりや何とか致さねばなるまい。俺が行つて取り挫いでやるは容易い事だが、それでは余り大人気ない。オイ初、徳、俺最前言つたやうに思ひ切つてやつつけろ。お前達も俺両腕となつた以上は、今が手柄仕所だ』
初『ヘエ、エエやつつけますが、それがそれ中々強かもでげして、実はそ、エー何でげす』
と頭をガシガシ掻いて居る。
高姫『コレみつともない。松姫にやられて来ただな。時に杢助さま、やつつけろと仰有つたが、滅多に手荒い事をなさるぢやありますまいな。松姫は私弟子ですよ。何程反対致しても、私は彼奴を構うてやらねばなりませぬ』
妖幻『何と高姫さま、貴女は慈善家ぢやなア。ヤ、感心々々、それなら何故、珍彦に毒酸を盛つたり、虬血を盛つた盃を与へただ。やつぱり奥には奥があるかなア、アハハハハ』
『これ初さま、徳さま、きつと手荒い事をしてはなりませぬよ。併し正当防衛は此限りにあらずだから、どうか杢助さまお言葉に従つて一働きして下さいな』
『ヘエ私は何でも致しますが、こ奴が臆病ですから、気を取られて思ふやうに働けませぬわ』
妖幻『それならお前一人行つてやつて来たらどうだ。多寡が女一匹ぢやないか。それ位事が出来なくて、大望な御用が出来るか』
『私一人では、どうも都合が悪いぢやありませぬか、よう考へて御覧なさい。貴方両腕ぢやありませぬか、片腕では飯喰ふ事も、針仕事一つする事も出来ませぬだらう。それだから、どうしても徳を邪魔になつても連れて行かなくちや都合が悪いですな』
徳『馬鹿を云ふな、貴様が一番がけに霊縛にかかつてふん伸びたぢやないか』
『ふん伸びたは貴様も同然だ、偉さうに云ふない』
『それでも第一着に貴様がふん伸びただ。俺はおつき合にふん伸びて居ただ。余程松姫が怖ろしいと見えるう。そんな事で俺上役にはなれぬぞ。サアどうだ、茲で彼奴を倒した方が上役にして頂くと云ふ事を御両人様前で願はうぢやないか』
妖幻『アハハハハ、そりやさうだ、手柄があつた方が上役になるは当然だよ、ちやんと草鞋でもはいて足装束をし、身動きし易いやうにして行くだ』
『ハイ畏まりました』
と両人は、慌しく納屋に入り、喧嘩装束に身を固め、樫棍棒を携へて松姫館に進むべく準備に取り掛つた。妖幻坊、高姫は以前如く、ひそひそ何事か囁きながら飲酒に耽つて居る。
 お千代はスマートと共に躑躅花などをちぎり戯れながら、向ふ森林に何時とはなしに進み入つた。スマートは何とはなしに俄に体を慄はせ、遂にはお千代袖を銜へて引つ張り出した。お千代は驚いて、
『これスマートや、何をするだい。ちつと温順しうおしんか』
とぴしやつと横面をはる。其処へ慌しく走つて来たはお菊であつた。お菊はハアハアと息を喘ませ、お千代此処に居るを見てやつと安心したらしく、
『お千代さま、貴女此処に居た、私此処まで逃げて来たよ。あ杢助と云ふ奴化物だわ。さうして此館を横領しようと考へて居る太い奴だから、すつかり素破抜いてやつて、此処まで逃げて来た。きつと怒つて追駆けて来るに違ひないと思つたからねえ、本当に困つた奴が来たもだわ。そしてそ犬は何処から来た
『これはスマートと云つて、初稚姫さま愛犬だと云ふ事よ。どこともなしに賢い犬よ』
『こりやスマートさま、よう来て下さつたねえ。何さうお前は騒ぐ、些と静にしなさらぬか』
と頭を撫でる。スマートは益々落付かぬ風情をする。
千代『どうも不思議だわ、大方お母さま上に何か変つた事が出来たぢやあるまいか。俄に胸騒ぎがして来ましたわよ』
お菊『あ化物奴、お母さまを噛ひに行きよつたか知れませぬ。それでスマートが、こんなに騒ぐでせう、お千代さま、其綱を解いておやり』
 お千代は、
『さうねえ』
と云ひながら松株に繋いだ綱を解いた。スマートは一目散に、細くなつて谷を越え姿を隠した。
千代『何とまア早い犬だ事、もう姿が見えなくなつて仕舞つたわ。お菊さま、私気に掛るから一寸帰つて見ますわ。お前さまもそこまで来て下さいな』
『ハイお供致しませう。若しも化物が暴れて居つたら何うしませうかねえ』
『サア、神様をお願ひして助けて貰ふより仕方がありませぬわ』
とこんな事を話し合ひながら、覚束ない足許で小柴を分け、松姫館をさして帰り行く。
 さて松姫は唯一人戸を閉め切つて神殿に向ひ、いろいろと取るべき目下方針について神示を伺つて居た。其処へ裏と表戸を一度に押し破り入つて来たは初、徳両人であつた。松姫は驚いて、
『ヤアお前は初公、徳公、血相変へて何しに来ただ』
初『そんな事問ふだけ野暮だ。吾々は杢助さま命令によつて、頑固なお前をやつつけに来ただ。最前は馬鹿な事をしやがつて大きに憚りさま。今度は杢助さまから神変不思議魔法を授かり出直して来ただから、ジタバタしても駄目だ、覚悟せい』
と両人は樫棍棒をもつて打つてかかる。松姫は已むを得ず、其処にあつた机を取るより早く二人打ち込む棒を右へ左へうけ流し、暫く防戦につとめて居た。そして心中に厳御霊大神、瑞御霊大神、守らせ給へ、救はせ給へと念じつつ、命限りに二人荒男激しき棒先を受けて居る。
 松姫は数十合戦つて見たが、最早体力尽き、二人鋭き棒に打ち殺されむとする一刹那、宙を飛んで駆け来りたる猛犬スマートは、矢庭に初公足を銜へて引き倒した。続いて徳公足を又もや銜へて其場に引き倒し、ウウーウウーと眼を怒らし睨みつけて居る。されど霊犬スマートは二人体に些しも傷を負はせなかつた。二人は起き上り這々体にて杢助、高姫酒宴席へ、バラバラツと命辛々かけ込んだ。二人逃げ行く姿をお千代、お菊両人は、十間許り間隔をおいた地点より打ち眺め、手を拍つてワアワアと心地よげに嘲笑ひして居る。妖幻坊、高姫は二人様子に不審を起し、
妖幻『こりや両人、其態は何だ、些と確りせぬかい』
初『イヤもう大変で厶います。命辛々逃げて参りました』
『何が出たと云ふだ。松姫にとつて放られたか。エー、何と弱味噌だな』
『ヘエ松姫も中々豪傑ですが、松姫所か、どてらい奴が出て来て、イヤもう散々目に遇つて来ました』
高姫『エエ間に合はぬ奴だな、これ徳、一体何が出たと云ふだえ』
 徳は慄へながら、
『ハイ、松姫と渡り合つて居りました所へ、俄に小北山狼が飛び出し、吾等二人を銜へて倒しました。それ故俄に怖ろしくて、髪毛が縮み上り手足が慄ひ戦き、たうとう此処まで命辛々逃げ延びました。何程出世さして貰つても、こんな怖い事は孫子に伝へてお断りです。出世などはもうしたくはありませぬ』
妖幻『何とまア弱虫だな、狼位が何怖ろしいだ。狼なんかは友人だ……おつとどつこい、友人も同様だ、アハハハハハ』
初『もし杢助さま、貴方は狼が怖くないですか』
『狼が怖くて此世中に居られるか。今人間は、何奴も此奴も美しい顔をして人間仮面を被つて居るが皆狼だ。ちつと下れば狐、狸、蛇、鼬、蟇やうな代物だ。貴様も矢張四つ足霊と見えて、たうとう尻尾を出しやがつたな。口程にもない代物だ、アハハハハ』
高姫『どうも口ばかりで、間に合ふ霊はないもだ。これ杢助さま、中途半にして置く訳には参りますまい。お前さまがこれから行つて始末をつけて下さい。若し松姫が此処を逃げ出し斎苑館にでも行かうもなら、忽ち露顕して困るぢやありませぬか。何れは分る事ですが、仕組をするまでは、やつぱり三五教に化けて居なくちや、完全に目的が達せられないぢやありませぬか。ウラナイ教再興を企てるだから、今が肝腎要時ですよ』
『俺が行けば何でもないだが、併し茲は一つ工夫をして、下から出て松姫を懐柔し、樽爼折衝間に都合よく談判を済ませる方が無難でよからう。其代りに初公、徳公は乱暴を働いた奴だから、松姫前に連れて行つて尻を引きめくり、三百笞を加へてやれば、それで松姫も安心して此方云ふ事を聞くだらう』
『成程、刃に血塗らずして敵を降すと云ふ御方針、遉は杢助さまだワイ。私もそれなら賛成致します』
初『アアもしもし杢助さま、高姫さま、吾々両人は貴方御命令で荒仕事に行つたです。それに何ぞや、松姫さま前で尻を捲つて、三百も笞打たれて耐りますか、なア徳、本当につまらぬぢやないか』
徳『こんな事なら、云ふ事を聞くぢやなかつたになア。杢助さまは、さうすりや矢張悪神かも知れぬぞ』
妖幻『もう斯うなつた以上は、貴様等両人、逃げようと思つたつて逃がすもか。曲輪魔法によつて其方等両人を巻いてあるから逃げられるもか、カナリヤが鳥籠に入れられたやうなもだ』
初『う徳、余りぢやないか、命がけ仕事をさされて、其上尻三百も叩かれて耐るもかなア』
徳『アンアンアン、えらい事になつて来たわい、これと云ふも余り欲に呆けたから罰が当つただ。アンアンアン、三五大神様、えらい取違ひを致しました。何卒お許し下さいませ、惟神霊幸倍坐世』
と涙ながらに手を合す。
高姫『ホホホホ、正直男だな、態と芝居をするだから、お前尻を叩くやうに見せて地べたを叩くだから、些とも痛い事はない。そして甘く松姫を得心させ、無事事務引継をさして了ふだ。さうすればお前も立派なお役人になれるだからなア』
『ヤアそれでやつと安心しました。オイ初、矢張高姫さまや杢助さま智慧は偉いもだ。もう安心だ、尻を叩いて貰はうか』
『ウン、そんな尻叩きやうなら、百でも千でも、ビクとも致さぬ豪傑だ。何卒、高姫さま、杢助様、尻千切れる所までお叩き下さりませ。之位御用は屁お茶で厶います』
妖幻『アハハハハ、それなら是から愈第二作戦計画にかからうかなア』
高姫『オホホホホ、何とまア、腰抜英雄、有名無実豪傑だこと』
両人『ウエエエエー、ウエーハハハハハ』
(大正一二・一・二五 旧一一・一二・九 加藤明子録)
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