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文献名1霊界物語 第51巻 真善美愛 寅
文献名2第3篇 鷹魅艶態よみ(新仮名遣い)ようみえんたい
文献名3第15章 餅皮〔1330〕よみ(新仮名遣い)もちかわ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-09-13 17:48:56
あらすじ高姫は宮子を外に出すと、鏡前で自分を映して悦に入っていた。着物を脱いで鏡に映していると、侍女少女たちに化けていた豆狸が戸開いたところから侵入し、飛びついた。高姫は驚いてひっくり返ってしまった。あわただしく着物を直し、なおも鏡に向かってうぬぼれていると、戸隙間から宮子が半ば狸正体を現し、どんぐりような目でにらんでいる。高姫は思わずコラッと叫んだ。宮子はおどろいてそ場を立ち去った。高姫がなおも鏡前で自惚れながら独り言で蠑螈別を懐かしんでいると、宮子が戸を外から叩いた。宮子は言われるままに庭園を散歩してきただ、と高姫に答え、どんぐり怪物を自分も見たと報告した。高姫は、宮子と共にパンと葡萄酒食事をとり、宮子耳をはばかって、それとわからないように蠑螈別を思う恋歌を歌った。宮子は高姫様子を見て、蠑螈別名前を出して探りを入れた。高姫は、蠑螈別は自分と妖幻坊を付け狙う三五教仇だとごまかした。すると戸外から、妖幻坊高宮彦がやってくると五月が知らせる声がした。高姫は宮子に命じて部屋を片付けさせた。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月26日(旧12月10日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年12月29日 愛善世界社版216頁 八幡書店版第9輯 344頁 修補版 校定版223頁 普及版99頁 初版 ページ備考
OBC rm5115
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本文  高姫は宮子と共に吾居間へ帰り、直に襠衣をぬぐ筈だが、マ一度自分盛装した姿をトツクリと見てからでなくては惜しいと思つたか、鏡前にスツクと立ち「ウーン」と云つたきり、わが姿に見とれてゐる。宮子は高姫後に行儀よく坐つてゐた。高姫は益々感心して「ウーン ウーン」と息を詰め、余り気張つて感心したで、上へ出る息が裏門へ破裂し「ブブブブーツ」と法螺貝を吹いた。宮子はビツクリして「クスクス」と鼻を鳴らせながら、二歩三歩後しざりした。此宮子に化けた化物は妖幻坊片腕で、数千年劫を経た獅子やうな古狸であつた。忽ち鼻が歪むやうな奴を吹きかけられ、思はず知らず正体一部を現はして、クスクスと云つたである。高姫は四辺を見廻し、
『アレマア、宮ちやまとした事が、行儀悪い、こんな所でオナラを弾じたり、ホホホホホ』
『アレマア、お母さまとした事が、自分がオナラをひりながら、殺生だワ』
『コレコレ宮子さま、お前は侍女ぢやないか。侍女といふもは、主人がオナラを弾じた時に、不調法を致しましたと自分が引受けるだよ、それが侍女第一務めだからな。これから日に七回や八回は出るかも知れないから、其時はキツトお前さまがあやまるだよ』
『それでも私、閉口だワ』
『狸やうに、クスクスなんて、これから笑つちや可けませぬぞや』
『それでも、お母さま、余り臭かつたで、狸屁かと思つたよ』
『コレ宮さま、一寸外へ遊びにいつて来ておくれ、お母さまはチツトばかり、内証用があるから』
『ヘヘヘヘ甘い事仰有いますワイ。私を外へ出しておいて、又自惚鏡前で、独言を云つて喜ぶでせう』
『どうでも宜しい、お前さまは子供だから、やつさなくても美しいだ。女は身嗜みが肝腎だからなア。黒い顔や乱れた髪を、夫や人に見せるは失礼だ。女として慎しむべきことは第一身嗜みだから、お前さまが居ると、気がひけて、十分に化粧が出来ないから、半時ばかり、田圃へいつて遊んで来なさい。田圃が遠ければ、一遍城内庭園をみまはつて来て下さい』
『それなら行つて参ります、十分おやつしなさいませ』
『エー、いらぬ事を云ひなさるな、トツトとお行きんか』
『ハーイ』
とワザと怖さうに腰を屈め、這ふやうにしてドア外に飛出し、三つ四つポンポンポンと足踏みをして床板を鳴らし、それから同じ所をドスドスドスと一歩々々低くし、遠くへ行つたやうなふりを装うた。高姫は足音がだんだん低くなるで、廊下を伝つて遊びに行つたもと思ひ、やつと安心して自惚鏡に立向うた。そして余り一心になつてゐたで、ドア開いてあるに気がつかなかつた。宮子は観音開ドア三角型に開いた一寸ばかり隙から、丸い目を剥いて中様子を窺つてゐた。
『あああ、何とマア、見れば見る程、フツクリとした頬べた、それに紅うつりよい唇、天教山木花姫やうな鼻形、鈴をはつたよな目許に、新月眉、雪肌、耳朶フツサリとした、髪よさ、なぜマア造化神は、私許りにこんな美貌を与へて、世間女には、可愛相に、あんな不器量な顔を与へただらう。どう考へてみても、背恰好といひ、高からず、低からず、太からず、細からず、肉は柔かにしてシマリあり、此指だつて、一節々々、梅開きかけやうだワ。爪色は瑪瑙やうだし、ああ神様、私はなぜにこれ程美しいでせう、イヤイヤさうではあるまい、義理天上日出神生宮だから、ヤツパリ人間ではないだ。杢助さまが、お前は高天原最奥霊国天人だと仰有つた。成程、それで人間とはすべて点が違ふだ。あああ、顔や手ばかり見て居つた所で、自分姿も全部査べてみなくちや分るもぢやない。ドレドレ侍女をらぬを幸に、赤裸となつて、肉体曲線美を査べてみようかな』
と独語ちつつ、着物を全部脱ぎ、鏡に打向ひ、
『ヤア、どこからどこまで完全無欠なもだ。乳房フツクリとした、そしてツンモリとしてゐる所、何としたいい恰好だらう。胸は扇形になり、腰あたりは蜂やうだワ。そして尻はポツクリと丸う丸う太り、肌ツヤは瑠璃光やうだし、膝頭位置から踵と距離、大腿骨太さ、長さ、どつから見ても、これ位理想的に出来た身体は、マアあるまい。ドレドレ肝腎如意お玉も、一つ鏡に映してみませうかなア』
とパサパーナをやる時やうなスタイルで、一生懸命に御玉をうつしてゐる。
『ああ恰好いい事、ホホホホ、こんな所を人にみられちや、大変だがな、併し此御殿は中から開かなくちや、外から開かぬだから都合好くしてあるワイ』
と夢中になつて鏡に映してゐる。八人少女に化けてゐた豆狸は、妙な匂ひがするで、戸あいた所からスツと侵入し、ドブ貝食ひ頃に腐つたが落ちてゐると思つて、矢庭に飛び付いた。高姫はキヤツと驚き、赤裸儘ひつくり返つた。豆狸は驚いて、雲を霞と逃げ出して了つた。
『此座敷には、劫経た鼠がゐると見える、うつかり裸にはなつては居れまい。どつかで猫子でも貰つて来て飼つておかねば、夜分も碌に寝られたもぢやない、アイタタタタ、杢助殿貴重品を台なしにして了つた』
と慌しく着物を着かへ、チヤンと振を直して、尚も自惚れながら、ソツと入口を見れば、観音開戸は三角型に外へ開き、二寸ばかりスキから、宮子が半正体を現はし、団栗やうな目で睨んでゐる。高姫は思はず、
『コラツ』
と叫んだ。宮子はビツクリして、其場を立去つた。
『まるでここは化物屋敷みたやうな所だ。あドアを確に締めてある筈だに、音もせずにあいて田螺が睨んでゐた。諺にも美人には魔がさすといふ事がある。私が余り美しいもだから、鼠や田螺までが秋波を送るかなア。それ程恋慕うて来るに、私も何とか挨拶をしてやりたいけれど、こればつかりは、博愛主義は実行する事は出来ぬ。愛といふもは普遍的、公的だが、恋愛となると一人愛に限る遍狭な愛だから、何程森羅万象が私に惚れた所で、こればかりは仕方がない。天地万物、必ず必ず高姫を愛するはよいが、恋愛などはしてくれな。今高姫が天地万有に向つて宣示しておく程に、ホツホホホ、余り自惚れすぎて、エライ事を云つたもだ。併しながら事実は事実だから仕方がない。あんな年よつた姿時でも、秋波を送つてくれた蠑螈別さまに、一度此姿を見せて上げたいもだなア。ああ、ママならぬは浮世だ。かかる金殿玉楼に、尊貴を極め栄耀を極めて、而も義理天上日出神、霊国第一天人と現はれた身でさへも、世中に儘にならぬ事があるもだなア。双六賽と河鹿川流れと蠑螈別さまと密会は、此高姫儘にならぬ所だ、モウ一つ困るは三五教宣伝使共だ。併しながら上見れば限りなし、下みれば程なし、マアここらで満足せなくちやなりますまい。てもさても幸福な身上ぢやなア。此上杢助さまがコレラでも煩つてコロツと亡てくれた其後へ、蠑螈別さまがヌツケリとお越しにならば、それこそ何も云ふ事がないけれどなア。北山村でスキ焼鍋を真中に、ハモや鯛や玉子あばれ食ひ、香ばしい酒に酔うて、狐やうに釣上つた蠑螈別さま目元をみた時は愉快であつた。せめて死ぬまでに、モ一度、蠑螈別さまに、此立派な御殿で会うて見たいもだなア』
と何時間にか声が高くなり、喋り立ててゐる。外からポンポンと叩く礫音。
『誰だなア、何用だい』
『ハイ、私は宮子で厶います、何卒開けて下さいな』
『ササお入りなさい、いい子だつたな』
と云ひながら、ドアを開いて、宮子を引入れ、厳しく戸をとぢて錠を卸した。高姫は今独言を、もしや宮子が聞いてゐなかつただらうか、聞かれたら大変だと、稍不安念にかられながら、
『コレ宮さま、お前どこへ行つてゐた、余り早いぢやないか』
『ハイ、お母さまが庭園をまはつて来いと仰有いましたから、一生懸命に這うて廻りました。そした所が、犬遠吠が聞えたで、ビツクリして逃げて帰つて来たよ』
『這うて帰つた、犬声にビツクリしたと、まるで狸か何ぞやうな事を云ふぢやないか』
 宮子はウツカリ喋つてしまつたと思つたが、稍落着かぬ体で、
『イーエ、どつか人が四這に這つてゐたよ。そして犬か鼠か知らないが、お尻あたりを咬まれて走つてゐたを見ました
と高姫事は知らねども、うまく其場をつくらうてみた。高姫は自分が鏡前で赤裸となつて身体を映してゐた事を、外事によそへて言つただと思ひ、稍不機嫌な顔しながら、
『コレ宮ちやま、お前は私が裸になつてゐた所を覗いてゐただな』
『イーエ、知りませぬワ』
『それでも、ドア外に立つてゐただろ』
『チツとばかり立つてゐましたが、田螺やうな目を剥いたもが向ふから来ましたで、ビツクリして逃げました。そして庭園を一廻りして来ましたよ』
『お前もあ田螺やうな目を見たかい』
『ハイ見ました。あれは大方浮木森に居つた猿妄念でせう。さうでなければ犬かも知れませぬワ』
『コレ、宮さま、猿だ犬だと、ここでは云つちや可けませぬよ。お父さまが大変にお嫌ひだから』
『さる嫌なはお母さまぢやありませぬか、お父さまは犬が嫌ひなよ』
『オホホホホ、何とマア口達者な子だこと』
『如意宝珠片割れだも、チツとは口が達者よ。お母さま口から入つて口から出ただから、其口がうつつて、此様によくはしやぐだよ。姉さま高ちやまは懸河弁、私は富楼那弁ですよ』
 高姫はキチンと坐り、パンをパクつき、宮子にも割つて与へ、葡萄酒を二三杯、グツと引かけ、ホロ酔ひ機嫌になつて、思ひを遠く海彼方に走せ、蠑螈別上を案じ煩ひながら、宮子耳を憚つて、思ひも深き恋歌を唄つた。

『沖を遥に見渡せば
 淋しく聞ゆる潮
 空すみ渡る青白き
 月御蔭に飛ぶ海鳥
 星は深し冷たき魚如き
 真青に慄ふ海
 胸轟き恋
 悲しげに歌ひ続ける
 白い波
 風は物凄く吹き渡り
 冷たい月は雲間に慄ふ
 逃れゆく海鳥
 憐れげな叫び声
 衰弱せる海歎き
 ああ神秘海は
 悲しき歌を永久に
 弥永久に歌ひつづくる』

と恋述懐をもらしてゐる。今まで杢助に現をぬかし、斯かる美はしき金殿玉楼に栄華を極むる身となつては、またもや萌す恋暗、烈しき焔に包まれて、今は悲しき涙にかきくれてゐる。宮子は不思議さうに高姫顔を見て、
『アレまアお母さま、泣いてゐらつしやる、お父さまが気にくはないですか』
『コレ宮さま、何といふ事を仰有る、天にも地にも高宮彦さまやうな偉い人がありますか、どこに一つ欠点ない男らしい、勇壮活溌な、そして気品高い、筋骨逞しい、摩利支天様御霊、勿体ない、嫌ふなんて、そんな事がありますもか』
『それでもお母さま、いま泣いてゐたぢやないか』
『そらさうよ、よう考へて御覧なさい。お父さまは同じ館に住みながら、女房側にやすんで下さらぬだも。私だつてチツとは淋しくもなり悲しくもなりますワ』
『それでも蠑螈別とか、何とか言つてゐらつしやつたぢやありませぬか』
『其蠑螈別といふ奴、私敵だよ。お父さまを常につけ狙ふ悪い奴だ。そして今は三五教にトボけてゐるだから、神変不思議術を習つて、何時私を攻めに来るか分らないワ。けれども、モウ斯うなつた以上は、お父さま御神力と如意宝珠神力で蠑螈別を往生させ、此結構な所を見せびらかしてやりたい。エー、それが出来ぬが残念だと思つて泣いてゐたよ。こんな事をお父さまに言つちやなりませぬぞや』
『決して、左様な詰らない事は申上げるやうな馬鹿ぢやありませぬワ。そしてお母さまお側に可愛がつて貰つてゐるだも、チツト位お母さまに不都合があつても、隠しますワ。それが母子情ですからなア』
『成程、お前はヤツパリ私子だ。どんな事があつても、善悪に拘はらず、喋つてはなりませぬぞや。女子は口を慎しむが一番大切だからなア』
 斯かる所へ又もやドア外から、五月声として、
『モシモシ奥様、宮子様、旦那様がお出でになりますから、此処をあけておいて下さい』
 高姫は此声に驚き、俄に涙を拭き、そこらを片付けて、宮子に命じて錠を外させ、高宮彦入り来るを今や遅しと待つてゐる。
(大正一二・一・二六 旧一一・一二・一〇 松村真澄録)
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