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文献名1霊界物語 第51巻 真善美愛 寅
文献名2第4篇 夢狸野狸よみ(新仮名遣い)むりやり
文献名3第18章 糞奴使〔1333〕よみ(新仮名遣い)ふんどし
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-09-16 16:48:58
あらすじ救世主詠んだ詩を吟じながら旅装束に身を固めて月夜にやってきたは、ランチ将軍副官であったガリヤであった。ガリヤは浮木陣中で、村美人マリーに慕われ密会を続けていたが、マリーはほどなくして亡くなってしまった。ガリヤはひそかにマリー死骸を浮木墓所に葬り、墓石を目印に立てていつか時を見て立派に祀ってやろうと思っていた。治国別に帰順して三五教使徒となり、治国別添書を持ってケースと共に斎苑館に修業に行く途中、一人で墓所に参るためにケースを先に行かせたであった。ガリヤはマリー墓にて慨嘆久しうし、涙をそそいだ。そしてまた宣伝歌を歌いながら月夜を進んで行った。ガリヤは椿木蔭までやってくると、石に腰かけて煙草をくすべながら、浮木森をながめて自分たち移り変わりに想いを馳せていた。ガリヤはいつ間にか大きな城郭が立っていることをいぶかしんでいる。すると人声がするで探り寄ってみれば、三人男が真っ裸となって萱茂みに何やら言い合っている。ガリヤが様子を見れば、初、徳、ケース三人が狸に化かされたことに気が付き、互いに名乗りあっていた。ガリヤは狸にだまされた三人目を覚まそうと臍下丹田に息をつめ、ウーと発生した。三人は椿根元に集まってきた。一同が確認してみれば、初と徳が泉だと思っていたは肥壺であった。枝にかけられた糞まみれ着物は異様臭気を放っている。四人はこれはたまらぬと北へ北へと逃げて行った。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月27日(旧12月11日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年12月29日 愛善世界社版260頁 八幡書店版第9輯 360頁 修補版 校定版266頁 普及版120頁 初版 ページ備考
OBC rm5118
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本文 『文明花発三千国
 道術元通九万天。
 時節花明三月雨
 風流酒洗百年塵。
 黙然坐通古今
 天地人共進退。
 片々霊碁一局
 家々灯天下花。
 北玄武従亥去
 東青竜自子来。
 去者去来者来
 有限時万邦春』

と救世教主詠んだ詩を吟じながら朧月夜光を浴びて、草鞋脚絆に身を固め、蓑笠金剛杖扮装にてやつて来たは、ランチ将軍副官たりしガリヤであつた。道傍に新しき墓が沢山に並んでゐる。ガリヤは陣中に於て浮木マリーと云ふ妙齢美人に慕はれ、滞陣中は間がな隙がな密会を続けて居た。マリーと関係がついたは、ランチ将軍が命令を下して、四辺女は老幼区別なく残らず引捕へて陣中に連れ行き、炊事其外軍務に就かしめむためであつた。此時ガリヤは其役目に当つて、マリー家にふみ込み来り老人夫婦に、
『此村女は残らず軍務に徴集さるべし。就いては炊事みならず、数多猛悪なる兵士に凌辱を受くる惧あれば、今宵中に女は残らず逃げ去れ』
と親切に云つて呉れた。マリー父は此村里庄であつた。直ちに村に其由を内通し、勝手覚えし山道を辿り、或は小北山又は思ひ思ひにパンを負うて山林に身を隠したである。マリーは、ガリヤ親切な計らひによつて、村中女は危難を救はれただ、自分は、
『村中女を代表し人身御供に上つても構はぬ。況んやバラモン軍人とは云へ、之位やさしき武士が何処にあらうか。自分も夫を持つならば斯様な武士と添ひ度いもだ……』
と妙な処へ同情を起し、早くバラモン軍が自分を捕縛に来てくれまいかと、両親止めるも諾かず只一人家に待つてゐたである。そして幸ひに此マリー家はガリヤ宿所と定められたである。ガリヤは他同僚が一人も女を連れてゐないに、自分み女を侍らして居つては将軍手前は如何と気遣ひ、倉中に忍ばせて隙ある毎に密会を続けてゐたである。然るにマリーは身体日に日に痩衰へ、遂には鬼籍に入つた。そこでガリヤは夜密かにマリー死骸を此墓所に葬り、目標を建てて置いたである。俄に適当な目標もないで外石を逆様に立て、何時か時を見て立派に祀つてやらうと思つてゐる矢先、治国別に帰順したである。ガリヤはクルス森で百日薫陶を受け、それよりテームス峠に於て、又もや第二回薫陶を授かり、治国別添書を得て、ケースと共に斎苑館へ修業に行く途中であつた。彼は一度マリー墓に詣り弔つてやらねばならぬ、それにはケースと同道しては都合が悪いと思つたで、
『一寸其辺まで芋を埋けに行つて来る、君は一足先へ行つてくれ、何れ浮木森で追付くから……』
とうまくケースをまいて自分は谷川に入り、水をいぢり或は蟹を追ひかけ等して日を暮し、東空からボンヤリとした月出たを幸ひ、此処までやつて来たである。ガリヤはマリー墓に近づき、涙ながら述懐して云ふ。

『水色月光は流れ
 真青に墓は並び立つ
 ああされどマリー君よ
 君は情焔人魚に非ず
 死を願ひつつ墓を抱き
 吾を見捨てて遠く行きましぬ
 後に残りし吾身は
 潛々と涙を濺ぐ
 君紅絹は
 ガリヤ心を巡り
 やがて桃色雰囲気は
 あたりを包む
 されど青き墓は
 地に影さへも動かさず
 君姿み幻如く月にふるひぬ
 ああ花は半開にして散りぬ
 惜しむべきかな桃色
 月眉、雪
 一度見まく欲りすれど
 一度君に会はまく欲りすれど
 今は詮なし諸行無常
 是生滅法生滅々已
 寂滅為楽頓生菩提と
 弔ふ吾を
 仇には棄てな桃色君よ』

と慨歎久しうし、形ばかり墓場に涙を濺ぎ、残り惜しげに墓場を辞し、又もや宣伝歌を歌ひながら、風薫る朧夜月を浴びて進み行く。
『四方山々春めきて  吹き来る風も暖かく
 今を盛りと咲き匂ふ  マリーに似たる桃
 三月三日今日宵  瑞御霊御教を
 頸に受けてトボトボと  天津御空に照りもせず
 曇りもやらぬ春  朧月夜風光に
 如くもなしと誰が言うた  吾は心もかき曇り
 朧月を眺むれば  千々に物こそ思はるれ
 嘆ち顔なる吾涙  乾く暇なき夜
 定めなき世と云ひながら  花を欺くマリー嬢
 吾を見捨てて墓を越え  幽冥界に旅立ちぬ
 悔めど帰らぬ恋仲  神や仏は坐さぬかと
 思はず知らず愚痴が出る  汝をば慕ふ吾心
 仇に聞くなよマリー嬢  向ふに見ゆるは浮木里か
 印象益々深くして  恋に逍ふ益良夫
 心空は烏羽玉  暗夜とこそはなりにけり
 ああ惟神々々  御霊幸はひましまして
 惑ひ来りし恋雲を  晴らさせ給へ三五
 皇大神御前に  謹み敬ひ祈ぎまつる
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 大地は仮令沈むとも  星は空より落つるとも
 神に任せし此体  三五教御為に
 尽さにや置かぬ益良夫  ひきて返らぬ桑
 弥猛心を何処までも  貫き通す神
 進ませ給へ惟神  神御前に願ぎまつる』
と歌ひながら椿花咲く木蔭までスタスタやつて来た。
 ガリヤは椿天然ベンチに腰を打掛け、火打を取出し煙草を燻べながら、浮木彼方を眺め感慨無量息を洩らしてゐる。
『有為転変は世習ひ、変れば変るもだな。僅か四ケ月以前にはバラツク式陣営が沢山に建て並べられてあつたが、何時間にやら、大なる城廓が建つてゐるやうだ。はて、何人住宅であらうか。合点行かぬ事だな』
と独語ちつつ目をつぶつて考へ込んでゐる。何だか間近方から人声が聞えて来る。ガリヤはツと立つて人声を当に月に透かしながら探り寄つた。見れば三人男が萱茂つた中に真裸となつて四這となり、思ひ思ひ事を囀つてゐる。
『はて不思議だ。春とは云へど夜分はまだ寒い。それに何ぞや、斯様な萱草中に荒男が而も三人、何をして居るだらう。ハハア大方、浮木豆狸につままれよつただらう。一つ気をつけてやらねばなるまい』
と思つたが、又思ひ直して、
『待て待て彼等三人言ひ草を聞いてから、何者だと云ふ事、凡そ見当をつけてからでなくては、如何なる災難に遇ふかも知れない。まづ凡て掛合は相手を知るが第一だ』
と思ひ直して杖にもたれて覗く様にして考へ込んでゐた。
一『おい、転田山、あ摩利支天と云ふ奴、口ほどにない弱味噌だな。俺反にかかりやがつて、土俵ド中央にふん伸びた時態と云つたらなかつたぢやないか』
二『貴様は負田山だと名乗つてゐるが妙に強かつたぢやないか。大方向ふが力負したかも知れないう』
『馬鹿云へ。俺が強うて向ふが弱かつただ。弱いもが負けると云ふは何万年経つたつてきまつた規則だ。然し、彼奴は吃驚しやがつて雲を霞と逃げたぢやないか』
『ナーニ、そこに居るぢやないか。アー、臭い臭い貴様、屁を垂れやがつたな。俄に臭くなりやがつたぞ』
『馬鹿云へ、貴様も臭いわ。最前から何だか臭いと思つたが、よう考へりや相撲に呆けて忘れて居たが、古狸に撮まれて糞壺へ貴様と俺とが落ち込み、椿泉で衣服を洗ひ、木に掛けて乾かす間に、寒さ凌ぎに相撲を始めたぢやなかつたかね』
『ウン、さう云ふと、そんな気も……する様だ。此体が臭いは洗ひが足らなかつたに違ひないぞ。何程雑兵だと云つても、こんなに臭い筈はないからな』
三『こりや、二人奴、貴様は狸に騙されよつただな。馬鹿だな』
一『アハハハハハ、あれ程沢山相撲取や見物が来て居つたは皆狸だ。オイ何処奴か知らぬが、弱相撲、貴様だつてヤツパリ騙されて居つただよ』
三『馬鹿云へ。俺は貴様と相撲とつただ。貴様こそ狸を相手に挑み合つてゐただよ。あれほど沢山居つたが、人間はただ三人より居なかつたと見える。本当に馬鹿寄合ひだな。オイ、貴様本名は何と云ふか。負田山、転田山では、テーンと分らぬぢやないか』
『俺本名が聞きたくば、貴様から名告れ、そしたら云ひ聞かしてやらう』
『俺名を聞いて驚くな。バラモン軍ランチ将軍が副官ケース君だぞ』
『何だ、そんな肩書をふり廻したつて今時通用しないぞ。某こそは三五教未来宣伝使初公別命だ。もう一人は徳公別命だぞ』
ケース『お名を承はりまして初めて呆れ返りました。如何にも下賤愚劣お方で厶るな』
初『きまつたことだ。神変不思議力を有する、何うしても解せぬ男だらう。酒を飲めばグレツく事は天下名人だ。小北山初公と云ふより下賤愚劣と云つた方が、よく通つてるからな、アハハハハ』
 ガリヤは、
『ハハア、ケース奴、狸にチヨロまかされ相撲とりよつただな。そして糞壺へはまつた奴と取組みよつたと見える。何だか臭くなつて来たぞ。一つ大声を出して呶鳴り、眼を醒してやらなくちや駄目だ』
と云ひながら臍下丹田に息をつめ(大声)『ウー』と発声した。三人は猛獣襲来かと早合点し、赤裸タと這ひ出し、何れも云ひ合した様に椿根元に集つて了つた。
ガリヤ『オイ、お前はケースぢやないか。拙者はガリヤだ。何だ、こんな処へ赤裸になりよつて……』
ケース『ウン、兄貴か、もう一足早く来ればよかつたにな。大変狸相撲がはづんでゐたよ、アハハハハ』
初『エヘヘヘヘ』
徳『臭い臭い臭い、ウツフフフフ、糞面白うもない。糞にされて了つた』
ケース『揃ひも揃つて臭い野郎だな』
ガリヤ『アハハハハ、ああもう夜が明けた』
 三人は泥まぶれ顔をして其処等を見まはした。糞まぶれ着物は異様臭気を放ち、傍青木枝に烏死んだを水に漬けた様な形になつてブラ下つて居る。椿清泉は……と覗いて見れば臭気紛々たる肥壺であつた。金色蠅がブンブンと四人顔を目標に襲撃し、目をせせつたり鼻穴へ潜伏したり、口角などを頻りにいぢり出した。
『此奴ア堪らぬ』
とガリヤ及び三人裸は一生懸命に北へ北へと逃げて行く。
(大正一二・一・二七 旧一一・一二・一一 北村隆光録)
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