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文献名1霊界物語 第52巻 真善美愛 卯
文献名2第2篇 文明盲者よみ(新仮名遣い)ぶんめいもうじゃ
文献名3第8章 巡拝〔1344〕よみ(新仮名遣い)じゅんぱい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-11-18 20:32:57
あらすじイクとサールは大広前神殿を拝礼し終わり、蠑螈別、魔我彦、お寅など旧跡を巡っては歌を四で回った。そして木花姫神、金勝要神、玉依姫を祀った祠を廻り、それぞれ述懐歌を歌った。日大神、月大神、そして最上段国常立尊前に参拝した。二人は拝礼を終ると、互いにからかい合いながら、枝ぶりよい松七八本かたまった下に、あまり広からず狭からざる瀟洒な館が立っている。それが松姫館であった。二人は館前にやってくると、さすがに恥ずかしくなり、互いに先に初稚姫ところへ行けと押し合いを始めた。スマートは二人を認めると、喜んで走ってきて二人にじゃれついた。イクとサールは軽口を叩き合いながら思い切って門口に立ち寄り、恐そうに中を眺めた。初稚姫と松姫は、何事かにこにこと話最中である。サールはガラリと戸を開け、松姫に挨拶した。松姫は二人を仲に招いた。二人は、初稚姫にびくびくしながら中に入る。初稚姫は二人を見ると、言葉静かに話しかけた。二人は頭をかき、もじもじとして土間にしゃがんでしまった。初稚姫に促されて、イクは思い切って、自分たちはどうしても初稚姫お供をしたいと申し出た。初稚姫は山口森で起こったことを二人に問いかけ、二人が水晶玉だと思っていたは、夜光玉といって筑紫島から現れたダイヤモンドだと明かした。そして、いったん妖魅手に入ったからには、玉は汚れているから清めなければならないと忠告した。そして、イクが玉に執着していることを看破して諭し、こ玉は自分が日出神に祈願して、二人熱心に応じて神様から授けられたことを明かした。二人身魂が一つになった証拠であり、一人が独占すべきないことを二人に諭した。こ宝は世界救世ため御神宝でもあり、人間が私すべきもでないこと、大切に保存して、祠森に帰って玉を保持すべきことを説いた。しかしサールは、それなればこ神宝を返上するから、どうかお供させてくれ、と熱誠を面に表し涙を流して頼み込んだ。初稚姫は、単独で神業遂行が自分へ神命であることを歌に詠んで二人に諭した。松姫は互い仲裁をなし、二人に初稚姫言葉を聞くように促し、時間をおいて省みるように諭した。二人は自分たち思いを歌に伝え、しばらく時間をおいて身振り方を考えることにした。イクとサールはどうしても初稚姫がお供を許してくれないで、進退窮まり涙に暮れていた。初稚姫は松姫に別れを告げ、いちはやく小北山を発って征途に上った。イクとサールは初稚姫が先に発ったことを知らずに一夜を明かした。そして文助が危篤と聞いて、夜中ごろに館を飛び出し、河鹿川に降って水垢離を取り、そ回復を祈った。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月29日(旧12月13日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年1月28日 愛善世界社版107頁 八幡書店版第9輯 418頁 修補版 校定版112頁 普及版48頁 初版 ページ備考
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本文の文字数5229
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本文  イク、サール二人は、大広前神殿を拝礼しをはり、蠑螈別が籠りしと云ふ館前に立つて、

サール『蠑螈別お寅婆さま古戦場
  見るにつけても可笑しくなりぬ』

イク『こ館土瓶が踊り徳利舞ひ
  盃われし古戦場なり』

サール『魔我彦やお寅婆さまが改心を
  なしたる場所も此館なり』

イク『酔ひドレ熊公さまが飛込んで
  脅し文句で金を千両(占領)。

 一段と高く築ける段梯子
  登りて行くも姫を訪ねて』

 二人は木花姫を祀りたる小さき祠に参拝し拝礼を了り、

イク『木花姫神恵は目あたり
  開き初めにき木々梢に』

サール『木御前に
  そ鼻高をさらすイクなり。

 天教山より下りし皇神は
  わが馬鹿面を笑ひますらむ。

 イク奴狸曲に魅まれて
  恥も知らずに大前に来つ』

 斯く歌ひ、今度は金勝要神前に進み拝礼を了り、

イク『縁結ぶ畏き神と聞きしより
  ゐたたまらずして詣で来にけり』

サール『其面で何程神を拝むとも
  妻となるべき人あるべき』

イク『吾輩顔を眺めて笑ふより
  一寸見て来い水鏡をば』

サール『顔容姿で妻が出来ようか
  魂麗しき人でなくては。

 此様に見えても俺はをちこち
  女にチヤホヤされる曲者』

イク『其様に慢心ばかりするでないよ
  乙女に馬鹿にされた身ながら。

 要神貴御前にこんな事
  囀る奴は鰥鳥かも。

 さア行かう大神様に恥かしい
  女なんぞと言ふ面でなし

 アハハハハハ』
と笑ひながら玉依姫(竜宮乙女)様を祭つたる祠前に進みよつた。

イク『いろいろ宝をためて海底に
  隠し給ひし欲な神様』

サール『馬鹿言ふな乙姫様は今は早
  物質欲に離れた神よ』

イク『これはしたり失礼な事を言ひました
  聞直しませ乙姫神』

サール『神様は宝を以て人々に
  与へ給へどお前には列外』

イク『列外か又案外か知らねども
  宝なくては世に立つを得ず』

サール『物質宝求めて何になる
  朽ちぬ宝を霊につめよ』

イク『馬鹿云ふな水晶玉も物質よ
  されど暗夜を照らしましける。

 金なくて何れが人間かと
  世人々は相手にもせず。

 それ故に俺は金銀財宝を
  むげには捨てぬ冥加者ぞや』

サール『イク奴イク地足らぬ証拠には
  宝々と憧れゐるも。

 神様は何程宝あるとても
  貧乏面にくれるもかは。

 サア行かう目正月をするよりも
  宝忘れて宝拾ひに。

 俺云ふ宝といふは金銀や
  水晶でない教宝よ』

 かく歌ひ終つて、今度は中段前に進んだ。此処には日大神祠が建つてゐる。

イク『伊弉諾皇大神を斎りたる
  こ御舎は殊に麗し』

サール『其筈だつくし日向立花で
  禊ぎ給ひし神に坐しませば』

イク『許々多久罪や汚れに溺れたる
  霊を洗へ神御前に』

サール『曲神に騙られたる愚さを
  許し給へと詫びよイク公』

イク『かもてなや頭打たりよが打たりよまいが
  お前知つた事でなければ』

サール『道伴れ一人が狸に叩かれて
  吠面かわくを見るつらさかな。

 天教山に天降りし日
  宮は殊更高くおはせり』

 又此処を去つて、今度は月大神を斎りたる祠前に進んだ。

イク『素盞嗚御霊を祀りたる
  社前に月大神』

サール『古狸梟奴に馬鹿にされ
  乙女にまでも笑はれにけり。

 さながらに愛想も月大神が
  貴様面を笑ひ給はむ』

イク『馬鹿云ふな善言美詞神様だ
  必ずよきに見直しまさむを』

サール『此男世界に稀な馬鹿なれば
  守らせ給へ月大神』

イク『サールこそ馬鹿証拠にや水晶
  玉をばイクにせしめられける』

サール『イク奴イク地がないと知つた故
  玉を持たせておいたばかりよ』

イク『サア行かう月光に照らされて
  何とはなしに恥かしき宵』

 今度は最上段国常立尊前に参拝した。

イク『掛巻も畏き神御前に
  詣で来りし吾は罪人。

 さりながら悔い改めて大神
  道に仕へしイク身魂なり』

サール『われこそは皇大神御恵に
  与りました未サール神』

イク『罰当りサールやうな面をして
  坤とはよくもいはれた。

 お前こそ世人がサール人真似と
  嘲るとても仕方あるまい』

サール『三五道にサール者ありと云ふ
  此神司知らぬ馬鹿者』

イク『国所立き彦狼と
  人に言はれた馬鹿者は誰』

 斯く二人は拝礼を終り、次いで互に揶揄ひ合ひながら、枝振りよい松七八本かたまつた下に、余り広からず狭からざる瀟洒たる一棟が建つてゐる。それが所謂松姫館であつた。

イク『常磐木木蔭に建てられし
  松姫館をなつかしみ思ふ』

サール『吾慕ふ初稚姫います上は
  一しほ恋しき館なりけり』

イク『小北山要となりし此館は
  扇如くに建てられにける』

サール『常磐木緑は青々と
  とめどもなしに伸び立てるかも』

イク『初稚姫神司がますと聞けば
  胸轟きて進みかねつつ』

サール『臆病風又吹き荒みイク
  イク地なきを暴露せりけり』

イク『そんな事言ふなら俺が先に立ち
  一つ肝をば見せてやらうかい』

サール『面白い初稚姫前に出て
  叱り飛ばされベソをかくだろ』

イク『水晶玉を抱きしわれなれば
  初稚姫も褒め給ふべし。

 そ時は指をくはへてサール奴は
  恨めしさうに見てゐるがよい』

サール『姫様に会うたら皆素破ぬき
  一伍一什を申し上ぐべし。

 そ時は赤い顔をばせぬがよい
  梟鳥にもなぶられる奴よ』

イク『イクらでも人悪口言ふがよい
  首吊りそこねし死損ね奴が』

サール『貴様とて矢張首吊り仲間ぞや
  何うして姫に顔があはせよう』

 二人は流石に恥かしさに堪へかね、松姫四五間ばかり側までやつて来て、互に「お前から先へ行け」「イヤ貴様から先へ」と、押合ひをやつてゐる。スマートは二人影を見るより、喜んで走り来り、胸に飛びついたり、背中に抱きついたり、頬をなめたり、勇み出した。
イク『ヤア、スーちやんか、先づ先づ御無事でお目出度う。漸く此処までお後を慕つて参りました。何卒姫様に宜しうお取りなしを願ひますよ』
サール『ハハハハハ馬鹿だなア。此頃衆議院候補者やうに、犬にまで追従してゐやがる、犬がも言ふかい』
『主人に威勢があると、何だか犬に迄頭が下がるやうな気になるもだ。そこが人情然らしむる所だよ。娘を嫁にやつてある在所へ入ると、其親は野良犬にでも辞儀をするといふぢやないか。貴様も訳分らぬ奴だなア。そんな事で今日虚偽万能中に、どうして生存が続けられると思うてるか、時代遅れ骨董品だなア』
『ほつといてくれ、何程偉さうに云つても、姫様に叱られるかと思つて、ビリビリしとるやうな腰抜言葉に、何うして権威があるもか、マア、俺することを見てをれ、エヘン』
と云ひながら、思ひ切つて門口に立寄り、怖さうに中を眺めた。初稚姫と松姫は何事か一生懸命に、ニコニコしながら話最中であつた。サールがガラリと戸を開け、
『へーご免なさいませ。松姫様、始めてお目にかかります。私は祠サールと申す者、モ一人従者はイクと申します。イヤもう意気地ない野郎で厶いますから、何卒可愛がつてやつて下さいませ』
松姫『それは それは よくマアいらせられました。サ、どうぞお上り下さいませ』
サール『スマートさまも御壮健で、大慶至極に存じます』
と初稚姫に御機嫌を取らうといふ考へか、切りに犬に追従してゐる。イクは不在家へ盗人が這入るやうな調子で、ビリビリもで、足音もさせず這入つて来た。
 初稚姫は二人を見て、言葉静に、
『貴方はイクさま、サールさま、神様へお参りで厶いますか』
 二人は、
『へー、あ、何です』
と頭をかき、モヂモヂとして土間に踞んで了つた。
初稚『妾に何ぞ御用が厶いましたか、何卒早く仰有つて下さいな』
 イクは思ひ切つて、
『イヤ実所は姫様、何処までもお供をさして頂かうと思ひまして、お後を慕ひ参つたで厶います。吾々両人真心をお汲み取り下さいまして、是非にお供をさして頂きたう厶います』
『貴方、山口森で何か変つたことは厶いませぬでしたか』
『ハイ、イヤもう面白いこつて厶いましたよ。結構な御神力を戴いて鬼奴、二匹迄遁走させました。それはそれは随分愉快なもで厶いましたよ』
『それはお手柄で厶いましたな。そして貴方、何だか神様から頂いたでせう』
『ハイ、頂きました』
『無事に此処まで、貴方は守護して来ましたか。途中に他手に入るやうなことはありませなんだかな』
『へ、此通り、此処に所持して居ります。実に立派な水晶玉で厶います』
『それは夜光玉と云つて、水晶ではありませぬ。筑紫島から現はれた結構なダイヤモンドですよ』
『へーエ、さうで厶いましたか、誠に有難いこつて厶いました』
『貴方、途中で妖怪につままれ、一旦ふんだくられるやうな、不都合な事はなさいますまいな』
サール『イヤもう恐れ入りました。実所は、古狸に騙かされ、取られて了つたですが、お千代さまお蔭で再び元へ返つたです』
『其玉は一旦曲神手に入つた上は、大変に汚れて居りますよ。これは今うちに禊をなさらぬと、役に立たなくなりますからねえ』
イク『塩水を貰つて清めませうかなア』
『貴方無形魂をお清めになれば自然に玉は浄まります。そしてお前さまは其玉に執着心を持つてゐるでせう。なぜサールさまに渡さなかつたですか。一旦貴方手に入り、妖魅に取られただから、貴方は玉に対して、監督権を自然に放棄したやうなもです。今度はサールさまに持たせておくが宜しい。実所は妾より日出神様にお願ひ申し、貴方等熱心に感じて、お二人様中へ一個をお与へ申したですから、此玉は二人身魂が一つになつた証拠です。決して一人が独占すべき物ではありませぬ。即ちイクさま心はサールさま心、サールさま心はイクさま心、二人一体となり、神界為に活動なさるやうに仕組まれてあるです』
サール『オイ、イク州、どうだ。ヤツパリ宝独占は許されまいがな。貴様が自分やうにして、俺にも碌に見せず、懐へ捻ぢ込んで来よつたもだから、神罰が当つて、狸野郎に一旦取られて了つただよ』
『モシ姫様、さうすると此玉は、これからサールに渡すべき物で厶いますか』
『誰物といふ訳には参りませぬ。お二人さまが交代に保護なさるれば宜しい。そして此宝は世界救済御神宝で、人間私すべき物ではありませぬ。暫く拝借してゐる考へになつて、大切に保存なさいませ。そして其玉が手に入つた以上は、妾について来る必要はありませぬ。一時も早く祠森に帰つて下さい。貴方御親切は有難う厶いますが、妾は神様が沢山に守つて下さいますから、決して淋しい事は厶いませぬからな』
サール『それなら、此玉を貴方に御返し致します。何卒、どんな御用でも致しますから、そんな事仰有らずに、サール一人でも、ハルナ都までお供を許して下さいませ。モシ此通りで厶います』
と熱誠を面にあらはして、涙を流しながら頼み込むであつた。

初稚姫『夜光る宝を神に得し君は
  祠森に帰り行きませ。

 こ玉は日出神賜ひてし
  暗夜を照らす珍御宝。

 曲神たけり狂へる月国へ
  かかる宝を持ち行くべしやは。

 汝こそは此御宝を守るべく
  計り給ひし神御心

 ハルナへは供を連れ行く事ならず
  神厳しき仰せなりせば』

イク『姫様御言葉には背かれず
  さりとて此儘帰るべきやは』

サール『いかならむ仰せ受けさせ給ふとも
  許させ給へ見直しまして』

初稚姫『益良夫花は匂へども
  手折らむ由もなきぞうたてき』

イク『さりとても此儘これが帰らりよか
  仮令死すとも姫に仕へむ』

サール『どうしても許し給はぬ事ならば
  われは此処にて腹を切るなり』

松姫『姫君言葉を聞かずして
  迷へる人ぞ憐れなりけり。

 赤心溢れ出でたる益良夫が
  心はかりて涙こぼるる。

 さりながら皇大神御心に
  背くべしやは宣伝使われ』

初稚姫『イク、サール二人司よ村肝
  心鎮めてかへりみませよ』

イク『今暫し思案定めていらへせむ
  何は兎もあれ頼み参らす』

サール『姫君言葉を背くにあらねども
  弥猛心を抑ゆるすべなし

 さりながら暫し彼方に休らひて
  身振方を胸に問ひみむ』

 斯く歌を以て姫に答へ、蠑螈別、お寅住居せし元教主館に退きて、二人は茶を啜りながら、腕を組み、吐息をもらし、進退谷まつて、涙に暮れてゐた。これより初稚姫は松姫に別れを告げ、二人隙を窺ひ、スマートを伴ひ、逸早く聖場を立ち出で、征途に上ることとなつた。イク、サール両人は、依然として初稚姫は松姫館にいます事と確信し、お菊に酒を勧められ一夜を明かした。そして文助危篤を聞いて、夜中頃館を飛出し、河鹿川に降つて水垢離を取り、一生懸命に其恢復を祈つた。
(大正一二・一・二九 旧一一・一二・一三 松村真澄録)
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