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文献名1霊界物語 第52巻 真善美愛 卯
文献名2第4篇 怪妖蟠離よみ(新仮名遣い)かいようばんり
文献名3第18章 臭風〔1354〕よみ(新仮名遣い)しゅうふう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-12-15 16:23:01
あらすじ浮木見やぐら前庭園で、狸にだまされて一夜を明かしたガリヤ、ケース、初、徳四人は、あたりを見回しながら互いに苦笑していた。そこへ美しい女が一人現れて、四人前後左右を丸に十を書いて回り、臭い屁を放ってどこかに姿を隠した。一同はこ怪異を平定しなければと気焔を上げている。四人は物見やぐら最上階に上り、座敷に陣取った。すると押入れ隅からコトコト音がする。戸を開けると、さきほど屁こき女が小さくなってふるえていた。女は、自分はおならというこ界隈で有名な屁こき女であり、そために村においてもらえずに物見やぐらに追いやられているだ、と語った。女は四人に自分屁がいかにすごいか、そためにどうして嫁ぎ先を追い出されたかなど身上を面白おかしく語って聞かせた。徳は、おなら耳が動くに気付いて言い立てた。ガリヤは、自分は初めからこいつはイタチ化け物だと知っていたとおならを詰問する。おならは、間違いないと自ら正体を明かし、最後っ屁を放った。四人は息がつまり、階段を降って逃げるうちに階下に転落して唸っている。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年02月09日(旧12月24日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年1月28日 愛善世界社版223頁 八幡書店版第9輯 459頁 修補版 校定版231頁 普及版99頁 初版 ページ備考
OBC rm5218
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本文  浮木見櫓庭園に、悪狸に騙されて一夜を明したガリヤ、ケース、初、徳四人は、瘧おちた様な顔をして、四辺をキヨロ キヨロ見廻しながら、互に面を見合せ苦笑してゐた。そこへ何とも知れぬ美しい女が一人、何処からともなく現はれ来り、四人前後左右を○に十を描いて足跡を印し、一歩々々尻から欠伸をしながら、臭い匂ひを遠慮なく放出し、どこともなく足早に姿を隠した。四人は鼻を撮んで、息も塞ぐばかりに苦んでゐた。サツと吹来る一陣風に、四辺臭気はスツカリ払拭された。
ガリヤ『あああ、エライ目に遇うた。狸にはつままれ、鼬お化には屁を嗅がされ、本当に踏んだり蹴つたりな目に遇うた。オイ皆連中、長居は恐れだ、一時も早く此場を退却しようぢやないか』
ケース『何と云つても日下開山天下力士だ。退却は断じてやらない。退却後にはキツト追撃が伴ふもだ。宣教師後には必ず大砲ありだ。俺達も一つ宣教師となつた以上は、大砲でも放射して、鼬お化に応戦せなくちや、此儘予定退却は出来ぬぢやないか。幸ひここに物見櫓がある。此櫓に陣取つて、大に騙サレ組気焔を上げようぢやないか』
『さうだな、何とかせなくちや馬鹿らしくて此儘帰る訳にも行かない。マア一つ上へ上つて悪魔を平定するか、或は屁輪快議でも開かうかな』
『何と云つても、吾々に因縁ある此物見櫓だ。百日以前は俺達がここで羽振を利かして居つた所だから、誰に遠慮はいらぬ。又ランチ将軍様から払下になつたでもなし、其儘においてあるだから、特定持主がある筈もない。サア上つたり上つたり』
と茲に四人は、ランチ、片彦が恋伊達引をやつて、幽界旅行をしたと云ふ新しい歴史残つた最高座敷に陣取つた。上つて見るとコトコトと押入スミから音がするで、ケースはコハゴハ戸を開けると、以前屁こき女が小さくなつて慄うてゐる。ケースは矢庭に胸倉をグツと取り、押入から引張り出して、
『コラあまつちよ、失敬千万な、武士前に屁を嗅がすといふ事があるか。何か之には理由があらう、サ、一々白状致せ』
『ハイ、私はおならと申します。ここら界隈切つて屁こき女で、それが為に村にもおいて貰へず、此物見櫓が空いてゐるを幸ひ、村衆に送られて、ここへ放り込まれたですよ。そして余り物を食はすと、屁をたれるからと云つて、食ふももロクにくれず、腹がへつてたまらない。そこへ又オナラが止め度もなく出るもですから、すいた腹が猶すいてたまりませぬ』
『ハハハハア、此奴アさうすると鼬生れ変りだな。オイおならとやら、貴様随分綺麗な面をしてゐるが、どこに欠点はないけれど、屁たれるだけが尻点とみえるう。何とかして此病気を直してやりたいもだ、否ヘーユさして見たいもだ。オイ初公、徳公、何かいい考へはあるまいか。こんな奴が側に居ると、何時屁をひられるか分つたもぢやない。本当に最前に懲りてるからなア』
初『これが所謂屁和女神といふだらうかい。屁といふもは随分笑顔いいもだからなア』
ケース『コリヤおならとやら、お前はそれだけ屁が出るといふと、到底完全な夫を持つ訳には行くまいう』
『ハイ、私も一度は嫁入を致しましたが、屁為に失敗つて帰つて来たですよ』
 一同は、
『アハハハハハ』
と倒けて笑ふ。
ケース『ヤア面白い、屁をこいて離縁されたとは初耳だ。オイおならさま、一寸其顛末を聞かして貰へまいかなア』
『へーへー、今更隠した所で仕方がありませぬ、随分名高い話ですよ。ヘコキおならと云つたら、此界隈に知らぬ者はありませぬ。私お父さまは文助、お母さまはお久と云ひまして、私がおならと申します。私も今年は十八になつたもだから、一寸渋皮剥けた所から、屁こき娘でも、随分矢入れが沢山あつて困りましたよ。何と云つても、女にスタリ者はありませぬ。……さて、ピラト平助さま家へ嫁入ることにきまりました所、家お母さまが今までは、自分家だから、何程屁をひつても差支ないが、他家へ行つて花嫁が屁をこくと外聞が悪い。それが不縁元になつちやならないから、辛抱して居れと仰有いました。それで私も正直に親言葉を守り、平助さま嫁になつても、屁出ないやう屁出ないやうと尻に詰をしてきばつて居りましたが、屁が逆流して欠伸となり、臭い臭い息が出ますよ。それでもヤツパリ屁ではないと思うて、ゴミを濁して居りましたが、体はブウブウと膨れて来る、毎日日日顔は青うなる、どうにもかうにもこらへ切れなくなつたで、一遍親家へ帰つて、思ふ存分屁をひつて来ようと思ひ、お福といふ姑さまに、何卒一寸帰して下さいと願つた所、お福さま仰有るには……コレおなら、お前は私家へ来てから、私に親切に仕へて下さるなり、平助を大事にしてくれるさうだから、大変に喜んでゐるに、家へ帰りたいといふは、何が気にいらぬだ……と問はれましたで私も包み隠さず……実所は、屁出る病があつて、こきたくてこきたくて仕方がありませぬけれど、家お母さまが、嫁にいつたら、決して屁は一つもこいちやならぬ。もしそんな事があつたら、一遍に不縁になるぞと仰有いましたから、それでようこかずに辛抱して居りましたら、こ通り膨れたで厶います……と、コハゴハ申上げた所、姑お福さまも開けた人で……ナアニおなら、そんな心配はいるもか。お前名からしておならぢやないか。屁といふもは笑ひ神さまだから、あいさに屁一つもこいて貰はなくちや家庭が面白くない。サアサア遠慮はいらぬ。鳴物入りで嫁を貰つたと思へば結構だ。サアサアこいたりこいたり……と気よう言うて下さりました。それを聞くと矢も楯もたまらず、私命令を下さぬ先に、屁奴勝手に連発銃様に、ポンポンポンと際限なく放出し、屁風勢で、とうとう姑婆さまを天井まで吹き上げて了ひ、姑さまは天井裏にヘバリついて両手を合せ……コレコレおなら、モウ沢山だ、一時も早く屁口をとめてたも……と仰有つたで、俄に止めようと思つても止まらず、仕方なしに平助さま着物を尻につめて、ヤツト事で屁口をとめました。そした所が、俄に屁風がやんだで、吹上げられてゐたお婆さまが、風抵抗力が取れたとみえ、パタツと鼠がおちたやうに、座敷真ん中にふん伸びて目をまかして了つた。それから又もや屁が切りに催して来た。エエ焼け糞だと、雪隠へ飛込み、尻ひんまくつて放射した所、出るワ出るワ、まるで火事太鼓やうな音がして来ましたよ。ホホホホ、余りことで、吾ながらケツが呆れて雪隠は踊る、音はポンポンとするで、近所合壁から火事だと思ひ、杢平、田吾作、八助どんや、其他沢山連中が寄つて来て、火元はどこぢやどこぢやと駆けまはる可笑しさ。仕方がないで、屁元はここだと尻を捲つて飛んで出ました。それつきり平助さまに愛想をつかされ、忽ち不縁となり、平和家庭は破れて、親家へつき戻された時残念さ、御推量して下さりませ、アンアンアン ホホホホ』
と泣いたり、笑うたりやつてゐる。
ケース『成程、随分豪ケツだな。俺も豪傑だと思うてゐたが、お前ケツは又格別だ、古今無双ケツ物だ。俺ならそんな屁こきさまなら、喜んで妻君に貰ふだけれどなア』
『お前さまは駄目ですよ。あ位な屁を嗅がされて、鼻が曲るどうと云つて悔むやうなこつては、私夫になる資格はありませぬよ。世中には物好があつて、平助さま家を屁で失敗つた私を貰はうと云ふ方があつて、同じ在所ベコ助さま所へ貰はれて行きました。所がそこ姑婆さまがおキツというて、本当にキツくて、悋気がひどくて、流石おならもやり切れない。怪我拍子に屁でもひらうもなら、スツたもんだと云つて苦しめるで、私も腹が立つてたまらず、飯を焚きよつた所へ、婆さまがやつて来て、しつこ しつこ小言をいふもだから、正勝姑さまを叩く訳にも行かぬで、傍に居つた羊を婆さまに当てつけて、もえ杭でコン畜生と云つてくらはした所、羊毛に火がつき、羊は驚いて藁小屋中に飛び込み、其藁小屋に火がついて、とうとうベコ助さま家が焼けてしまひ、又も放り出され、こんな所へ押込められて居るだ。本当に困つたもですよ、ヘヘヘヘ』
初『プツプツプツプツ』
ガリヤ『イヤもう、お前さま経歴は、ガリヤもスツカリ承はりました。其処まで徹底すれば偉いもだ』
『ねえ貴方、さうでせう、貴方だつて、へーたれさまと云つて、毎日日日プツプツプツと口からラツパを吹いてゐたでせう。男は口から屁を吹き、女は尻からラツパを吹くは当然ですわねえ』
徳『オイおならさま、お前耳が動くぢやないか、チツと徳さまには可笑しいぞ』
『ホホホホ、耳が動くが可笑しいかいな。今耳から屁を殺して出してるから、耳たぶが屁風に揺れて動いとるだよ』
『まるで化物みたやうな女だなア』
ガリヤ『徳公、化物は始めから定つてるぢやないか。此奴ア古鼬化けただ。マア兎も角、俺も狸に騙された腹いせに、此化鼬を、騙されたやうな顔して、ガリヤが反対に騙してやつただよ……コリヤ鼬、どうだ、間違ひはあらうまいがな』
『間違ありませぬよ、最後屁をひつて上げませうか。さうすりや、お前さま等息がとまつて了ふがな、ホホホホ』
と云ひながら、ブスツと臭い奴をひつた。そこら一面黄色になつて、鼻ふさがり息つまり、四人は、此奴はたまらぬと階段を下るうち、雪崩如くなつて階下に顛落し、腕や向脛をうち、四人共ウンウンと唸つてゐる。春風はかむばしき花香を送つて、あけつ放し居間を通つて行く。
(大正一二・二・九 旧一一・一二・二四 松村真澄録)
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