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文献名1霊界物語 第56巻 真善美愛 未
文献名2第4篇 三五開道よみ(新仮名遣い)あなないかいどう
文献名3第15章 猫背〔1445〕よみ(新仮名遣い)ねこぜ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ玉国別一行は、ライオン河を渡るやバラモン軍残党に襲われ、伊太彦は槍に刺されて傷を負い生死ほどもわからなくなり、玉国別と真純彦もどこに行ったかわからなくなってしまった。三千彦は一人先に進み、テルモン山アン・ブラック川までやってきた。三千彦は師や仲間たち無事を神様に祈っている。こときにわかに強い川風が吹いて、堤上にいた三千彦は泥田中に転げ込んでしまった。泥にはまって苦しむ三千彦を、霊犬スマートが救い上げた。これは初稚姫が三千彦難儀を前知して、救援に向かわせたであった。三千彦着物にはヒルが喰いついてはなれない。困っていると、スマートがバラモン教宣伝使服をくわえてきた。三千彦はこれも神様思し召しだろうと、服を着てバラモン教宣伝使格好になった。スマートはすでにはるか遠く山を駆け上って行ってしまった。三千彦はバラモン経文を唱えながら進んで行く。するとテルモン山神館を守る小国別妻・小国姫と名乗る老婆一行に出会った。小国姫は三千彦を館に招いた。名を尋ねられた三千彦は、自分は鬼春別軍に同行していた従軍宣伝使であったが、鬼春別敗北よりここまで逃げてきたと身上を語り、とっさに名前を川から取ってアン・ブラックと名乗った。小国姫は、アン・ブラック川岸辺に行けば自分を助けてくれる真人に会える、という夢お告げがあったことを語り、川と同じ名前宣伝使に会えたことを喜んだ。三千彦背中にはいつまにか、ブクブクとしたこぶができて猫背ようになっていた。案内されて館に入ると、いつ間にか猫背は元とおりに直っていた。これはスマート霊が三千彦を無事に館内に送り、かつそ身辺を守るためであった。スマートは館床下に隠れて守っている。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月17日(旧02月1日) 口述場所竜宮館 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年5月3日 愛善世界社版219頁 八幡書店版第10輯 227頁 修補版 校定版231頁 普及版104頁 初版 ページ備考
OBC rm5615
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本文 三千彦『厳御霊と現れませる  高皇産霊大御神
 瑞御霊と現れませる  神皇産霊大御神
 珍御水火に現れませる  三五教大神は
 埴安彦や埴安姫  神命を世に降し
 天地百神人  霊を浄め天国
 清き聖場に救はむと  心を配らせ玉ひつつ
 神素盞嗚大神に  其神業を任け玉ひ
 茲に瑞大神は  神漏岐神漏美二柱
 神御言を天地に  麻柱奉り常暗
 世を平けく安らけく  治めて松御世となし
 日出守護に復さむと  百司を養成し
 豊葦原中津国  国八十国八十
 残る隈なく巡らせて  天国浄土福音を
 拡充せしめ玉ひけり  天足彦や胞場姫
 曲すさびにつけ入りて  此世を紊す曲津神
 八岐大蛇や醜狐  曲鬼共は天
 治むる国司人  其外百人々に
 憑りて所在曲わざを  縦横無尽に敢行し
 日に夜に世界を汚し行く  醜すさびぞうたてけれ
 斎苑宣伝使  玉国別弟子となり
 神教を四方国  伝へむもと真心
 思ひは胸に三千彦が  ライオン河を渡りてゆ
 広野中に日をくらし  やむなく眠る露宿
 暗路を辿る折柄に  バラモン教落武者が
 幾百人とも限りなく  手に手に兇器を携へて
 三五教宣伝使  鏖殺せむといきり立ち
 吾一行身辺を  十重や二十重に取囲み
 剣をかざし石を投げ  勢猛く攻め来る
 玉国別君や  真純彦は言霊を
 力限りに打出して  防戦したる折もあれ
 敵突出す槍先に  股をさされて伊太彦が
 其場にドツと倒れ伏す  見るより驚き真純彦
 伊太彦小脇にかい込んで  敵重囲を切りぬけつ
 何処ともなく逃げ行きぬ  吾師君も大勢に
 取囲まれて何処となく  姿を隠し玉ひける
 後に残りし三千彦は  俄に言霊渋りきて
 詮術もなき悲しさに  命カラガラ囲をば
 突破し乍ら漸くに  吾師跡を尋ねつつ
 此処迄進み来りけり  ああ惟神々々
 尊き神御守  吾師上に顕れまして
 神に受けたる使命をば  完全に委曲に果すべく
 恵露を賜へかし  真純彦は今何処
 伊太彦司槍創は  最早癒えしか或は又
 深手に悩み山奥に  隠れて病を養ふか
 聞かまほしやと思へども  曇りし霊吾々は
 神に伺ふ由もなく  道行手を気遣ひつ
 バラモン教籠もりたる  テルモン山近く迄
 知らず知らずに着きにけり  油断ならぬ敵
 企み陥穽  数多拵へ三五
 教司来るをば  手具脛ひいて待つと聞く
 ああ惟神々々  尊き神御前に
 吾師君を始めとし  吾等一行幸運を
 謹み敬ひ願ぎまつる』
と密々唄ひ乍ら、テルモン山より流れ落つるアン・ブラツク河川辺に着いた。頃しも夏半にて半円月は西天にかかり、利鎌やうな鋭い光を投げてゐる。三千彦は日暮れたを幸、川堤に腰をおろし、小声になつて天津祝詞を奏上し、終つて独り言、
三千『ああ、水流れと人行末、変れば変るもだなア。玉国別お伴をなし、去年冬斎苑館を立出でてより、浮つ沈みつ、種々雑多艱難苦労、其中にも吾師君は、懐谷に於て猿に眼を破られ玉ひ、止むを得ず祠森に立て籠り、御神勅まにまに、祠宮を建設遊ばし、吾等三人弟子と共に潔く月国ハルナ都へ、神依さしメツセージを果たさむと、勇み進んで来る折しも俄雨にライオン河大激流、目も届かぬ許り川巾を水馬に跨り、命カラガラ此方へ渡り、日を暮らして、広野中に一夜を眠る時しも、バラモン教残党数多襲ひ来り、吾友伊太彦は敵鋭き手槍に刺され、生死程もさだかならず、師君を初め真純彦は今何処へ行かれたか、何便りも夏、月に向つてなく涙、乾く由なき袖露、憐れみ給へ月照彦神』
と述懐を述べ、一生懸命に祈つて居る。
 三千彦は漸くにして、川青草上に眠に就いた。沢山蚊が人間匂ひを嗅ぎつけて、珍らしげに集まり来り、ワンワンワンと厭らしい声を立て、三千彦体一面に折重なつて喰ひついてゐる。此時俄にレコード破り川風吹き来り、堤上に眠つてゐた三千彦体を鞠如く転がして、あたり泥田中へ吹き込んで了つた。三千彦は驚いて立ち上らうとすれ共、泥深くして腰あたりまで体がにえこみ、何うする事も出来ず、チクチクと身は泥田に没し、最早首丈になつて了つた。此儘にしておけば全身泥に没し、三千彦生命は既に嵐前に灯火如き運命に陥つて了つた。三千彦は一生懸命に天津祝詞を奏上し、せめて肉体は泥田中に埋めて死す共、吾精霊を天国に救はせ玉へと、声を限りに祈つてゐる。斯かる所へ黒い四つ足影、何処ともなく現はれ来り、三千彦泥土をかきけ、泥ついた着物を喰わへて、自分も亦体を半分以上泥土に没し乍ら、漸く堤上に救ひ上げた。三千彦は如何なる獣か知らね共、自分を助けてくれたは、全く神様使に違ひあるまいと、双手を合せて、黒い獣を一生懸命に拝み、泥だらけ着物を着けたまま川浅瀬に飛入り、ソロソロ洗濯を始め出した。黒い影獣は復川中にバサバサと飛込み、自分体を洗つてゐる。
 三千彦はザツと衣類洗濯をなし、夏事とて、白く焼けた河原砂利上に着物を干し、自分は蚊を防ぐ為に、全身を水に浸けて夜を明かすこととなつた。獣影は何時しか見えなくなつてゐる。夏一夜を漸く明かし、能く能く自分衣類を見れば、着物一面に毛生えた如く、厭らしい蛭が喰付いて居る。粘着性強い蛭で容易におちない、手を以て落とさうとすれば手に喰付き、どこ迄も離れてくれぬ。『エー一層事、此着物は川へ棄て、裸道中で、行く所迄行つてやらうか』と思案を定めてみたり、『いやいや待て待て、夜分になれば、又蚊襲撃を防ぐ事は出来ぬ、ぢやと云つてこれ丈沢山ついた着物を身につけば又血を吸はれる、ハテどうしたらよからうか』と身不遇を嘆き、再び堤に上つて、涙にくれてゐた。
 遙向方方より夜前見た黒い獣が矢を射る如く此方に向つて走つてくる。これは初稚姫が三千彦難儀を前知して、スマートに言ひ含め、救援に向はしめ玉うたである。スマートは、立派なバラモン教宣伝使服を喰わへて来た。そして三千彦前に二声三声、ワンワンと吠乍ら、尾を振つて、之を着よとすすむる如き形容を示した。三千彦は感涙に咽び乍ら、
三千『ああお前は畜生にも似ず、賢い犬だなア、よう助けてくれた。キツと神様お使に違ひなからう。ついては此服は私が頂戴する。併し乍らバラモン教宣伝使服だ。之も何か神様深い思召があるだらう。之を幸、バラモン教宣伝使と化け込んで、此テルモン山を向方へ渉つてみようかなア』
と独ごちつつ、手早く服を身に纒うた。フツと足許を見れば、最早犬影はなくなつてゐた。遙向方禿山を駆け登る犬影、猫ほどに見えてゐる。三千彦は浅瀬を渡つて西岸へ着き、ワザとバラモン宣伝使気取になつて、経文を唱へ乍ら進んで行く。
 六十許り白髪交り婆々アが二人侍女を伴ひ、杖をつき乍ら此方に向つて進み来る。三千彦は道片方に立止まり、『ハテ不思議な婆々アだ。毘舎や首陀とは違つて、どこ共なしに気高い所がある。之は大方小国別奥方ではあるまいか』と独ごちつつゐる所へ早くも三人は近づき来り、
婆『お前さまはバラモン教宣伝使と見えるが、私はテルモン山館を守る小国別妻小国姫で厶います。何卒むさ苦しい所で厶いますが、一寸立よつて下さいますまいか、そしてお名は何と申しますか』
と矢つぎ早に尋ねられ、三千彦は俄に仮名を思ひ出す訳には行かず、
三千『ハイ私はお察し通り、バラモン教宣伝使で厶います。此度、鬼春別将軍様陣中に交はり、宣伝使専門役を勤めて参りました所、お聞及びも厶いませうが、鬼春別様は敵為に手いたく敗北遊ばし、やむを得ず私は只一人で此処まで参つたで厶います。テルモン山御旧蹟を拝したいと存じ、ヤツとことで夜を日についで、霊地へ足を踏み入れたとこで厶います』
と長い口上を云つて、其間に自分名を考へ出さうとしてゐる。もしもバラモン教宣伝使や錚々たる人物名に匹敵した事を喋つては直に看破さるる虞があると気遣ひ、どう云つたら無難であらうかと考へた末、今渡つて来た川名を思ひ出し、俄に元気よく、
『私は宣伝使と云つても、ホンホヤホヤで厶いますから、名あるやうな者では厶いませぬ、アン・ブラツクと申すヘボ宣伝使で厶いますが、何卒一度お館に参拝をさして頂きたいもで厶います』
姫『あ、左様で厶いますか、貴方お名はアン・ブラツク様でしたか、何と目出たいお名で厶いますなア、此アン・ブラツク川は昔から濁つた事ない清川で厶いますが、其名を負はせ玉ふ宣伝使に出会うとは、何といふ結構な事でせう。之でテルモン山館も、万世不動基礎が固まるでせう。実所は夢お告に「アン・ブラツク川岸辺に行け、さうすればお前を助ける真人が現はれる」と事で厶いましたで、信頼ない夢を力として参りましたが、矢張り神様お告げと見えて、尊い名宣伝使に会ふ事が出来ました。ああ有難い有難い』
と嬉し涙をたらし乍ら合掌する。三千彦は真面目な顔して、
三千『ハイ承知致しました。然らばお世話に与りませう』
姫『早速御承知、満足に存じます。……コレ、ケーや、セミスや、宣伝使お荷物を持たして頂きなさい』
ケー『ハイ何でも持たして頂きますが、別に何もお持になつてはゐないぢや厶いませぬか』
姫『それでもお背に沢山荷物を負うてゐらつしやるぢやないか』
ケー『奥様、あれは荷物ぢや厶いませぬ、宣伝使様が猫を負うてゐらつしやるですよ。なア、セミスさま、さうぢや厶いませぬか』
 三千彦は何時間にやら背中にブクブクとした瘤が出来てゐたが、背中事とて少しも気がつかなかつた。
三千『アハハハハ、猫に見えますかな、どうで犬に……』
と云ひかけて俄に口をつぐみ、
三千『犬か猫やうな霊ですから、仕方がありませぬ。まアさう仰有らずに可愛がつて下さいませ』
 小国姫は『サア参りませう』と先に立つて行く。三千彦は半安半危面持にて門内深く進み入り、小国姫と共に直ちに神殿に至つてバラモン教経文を称へた。三千彦は只聞き覚へに経文そしり走りを知つてゐる許りで、余り大きな声を出し、間違つた事を言つては、忽ち看破さるる事を恐れ、ワザと小声になり、教服に添へてあつた数珠を爪繰り乍ら、一生懸命に念じてゐる。何時間にやら三千彦猫背は元通りに痕跡もなく直つてゐた。これはスマート霊が三千彦を無事に館内に送り且つ其身辺を守らむが為であつた。スマートは館床下に隠れて守つてゐる。
(大正一二・三・一七 旧二・一 於竜宮館 松村真澄録)
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