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文献名1霊界物語 第57巻 真善美愛 申
文献名2第2篇 顕幽両通よみ(新仮名遣い)けんゆうりょうつう
文献名3第12章 三狂〔1462〕よみ(新仮名遣い)さんきょう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ三千彦はシャルと共に小声で宣伝歌を歌いながら八衢街道とは知らず、現界道路を通過する気分で進んで行く。八衢関所にさしかかると、赤守衛が一人男を調べている。それは鰐口曲冬であった。仏教は研究してゆくと何もなくなってしまうから止めた、と言う曲冬に対し、赤守衛は、霊界消息を洩らした仏教に対して尊敬帰依心を捨てて研究に走ったために、何も掴めなかっただと曲冬を叱責している。赤守衛説に納得した曲冬は、それでは一つそ方向で研究しなおしてみよう、と言ってさらに諭されている。そして、聖書や三五教も研究したが、何も得るところなく脱会したと答えた。赤守衛は、霊界物語筆録者までやって直接に教示を受けながら何もわからないは、曲冬慢心した研究的態度が原因だと指摘した。曲冬は悪びれるところもなく、十分に研究をしなければ、社会に施してよい教えかどうか調べられない、と自説を展開する。赤守衛は、ここである一定時間を経なくては、曲冬ような汚れた魂は天国に行くことができないと伝えた。現世において心にもないことをいい、おべっかを使ったり体をやつしたり種々外念をすっかり取り外して第二内部状態に入り、内的生涯関門を超える必要があると説いた。内的とは、意志想念ことであり、そ意志が善であり真であれば天国へ昇ることができると続けた。内的状態になってからエンゼル教えを聞いてそれが耳に入るようならば、天国へ行く資格が具備しており、どうしても耳に入らなければ地獄に行く。これが第三状態といって、精霊去就を決するときだという。そこへ高姫が追いかけてきてシャルに毒づくと、守衛に対して、こ二人は悪人だからこらしめるようにと命令した。赤白守衛は高姫屁理屈に辟易し、白守衛がしゅろ帚ではき出すと、高姫とシャルは逃げて行ってしまった。赤守衛は三千彦に、川に悪者に投げ込まれて精霊が霊界に来ているが、霊犬スマートが体を助け上げて介抱している、やがてスマートが迎えに来るから現界に帰るようにと伝えた。そしてテルモン山にはまだ悪人がはびこっているから注意するようにと気を付けた。三千彦は、高姫は亡くなったはずが霊界で脱線振りを発揮していることを不思議に思い、守衛に尋ねた。守衛は、高姫はまだ現界に寿命が三十年ばかり残っているが、あまり現界で布教邪魔をするで、時置師神が伊吹戸主大神に願い出て、三年間中有界で修業をさせているだと答えた。そ間に高姫肉体は駄目になってしまうで、現界で三年後に亡くなる他人間肉体に移して、残り三十年寿命を与えるだと説明した。三千彦と守衛が話していると、南方から一頭猛犬が走ってきて二声三声高く叫んだ。こ声にはっと気がつけば、八衢光景は消え失せて、三千彦はアンブラック川青芝上に横たわっていた。スマートは行儀よく側に座ってうれしげに三千彦顔をながめて尾を振っている。テルモン山方を見ると、黒煙もうもうと立ち上り、黒雲ごとく空を封じている。月は黒煙間に見え隠れし足早に去るごとくに見えている。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月25日(旧02月9日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年5月24日 愛善世界社版157頁 八幡書店版第10輯 317頁 修補版 校定版165頁 普及版75頁 初版 ページ備考
OBC rm5712
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本文  三千彦はシャルと共に小声にて宣伝歌を歌ひ乍ら、八衢街道とは知らず現界道路を通過する気分にて進み行く。八衢関所には例如く赤面、白面二人守衛が儼然と控へて居る。見れば一人男が赤面守衛に何事か調べられて居た。
赤『そ姓名は何と申すか』
男『ハイ、私は鰐口曲冬と申します』
赤『其方は何か信仰を有つてゐるか』
曲冬『ハイ、別にこれと云ふ信仰も厶いませぬが、神儒仏三教を少し許り噛つて居ります』
赤『其中で何教が一番お前心に適したか、否徹底して居たと考へたか』
曲冬『ハイ、初めは一生懸命に仏教を研究致しました。さうした処が何処に一つ拠る所がないで止めまして厶います。要するに仏教は百合根様なもで、一枚々々皮を剥いて奥深く進みますと、何にも無くなつて了ひます、所謂仏教は無だと思ひます。能書計り沢山並べ立て、まるで薬屋広告見た様なもですからな。売薬広告ならば「此薬は腹痛とか、疝気とか、肺病に用ゆべし。又日に何回服用とか、湯で飲めとか、水にて飲めとか、食前がよいとか、食後がよいとか、大人ならば何粒、小人ならば何粒、何才以下は何粒」と御叮嚀に服用書が附いて居ますが、仏教経典は只観音を念じたら悪事災難を逃れるとか、阿弥陀を念じたら極楽にやると書いてあるみで、八万四千経巻も何処にも其用法が示してないで駄目だと思ひました』
赤『お前は霊界消息を洩らしたる仏教に対し尊敬帰依心を捨て、なまじひに研究等と申してかかるから、何にも掴めないだ。霊界幽遠微妙なる真理が物質界法則を基礎として幾万年研究するとも解決つく道理がない。暫らく理智を捨て、意志を専らとして研究すれば神愛、仏善、及び信と真と光明がさして来るだ。仏教がつまらない等と感ずるは、所謂お前精神がつまらないからだ。仏清きお姿がお前曇つた鏡に映らないからだ』
曲冬『さう承はれば、さうかも知れませぬが、如何も分り難う厶います』
赤『人間分際として仏御精神を理解しようとするが間違ひだ。仏は慈悲其もだ、至仁至愛意味が分れば一切経文が分つただ』
曲冬『ア、さうで厶いましたか。それは、偉い考へ違ひをして居りました。之から一つ研究をやつて見ませう』
赤『駄目だ。二つ目には研究々々と口癖様に申すが、お前云ふ研究は犬に炙だ。ワンワン吠猛るばかりが能だ。止めたら宜からう。左様な心理状態では到底仏御心を悟る事は出来ない。それから次は何を信仰しただ』
曲冬『ハイ、別に信仰は致しませぬが、ヤハリ聖書を研究致しました』
赤『旧約か、新約か』
曲冬『勿論旧約で厶います』
赤『何か得る処があつたか』
曲冬『ハイ、売る処も買う所も厶いませぬ。これもヤツパリ私性に合ひませぬで五里霧中に逍遙ふ所に、或人勧めによつて三五教に入つて、可なり真面目に研究して見た所、どうも変性女子言行が気に喰はないで、弊履を棄つる如く脱会し、今は懺悔生活に入つて居ります』
赤『そ方は霊界物語筆写迄やつたぢやないか。直接に教示を受け乍ら、分らぬとは扨ても困つた盲だな。矢張研究的態度を以てかかつて居るからだ。結構な神教を筆写し乍ら、ホン機械に使はれたやうなもだ。さうして幾分か信ずる処があつたか』
曲冬『ハイ、女子方は幾分か信じて居りましたが、然しこれは宜い加減なペテンだと考へて居りました。それよりも変性男子神諭に重きを置いて居つた所、其原書を見て余り文章拙劣なに愛想をつかし、信仰が次第に剥げて了ひました』
赤『馬鹿だな。神教は文章巧拙によるもでないぞ。文章なんかは枝葉問題だ、そ言葉中に包含する密意を味ふだ。目はあれども節穴同然、耳はあれども木耳同然、舌はあれども数子同然、鼻はあれども節瘤同然、そんな事で三五教が善い、悪い、男子がどう、女子がどうと云ふ資格があるか。よくも慢心したもう』
曲冬『別に慢心はして居りませぬ。世界人間に宣伝しようと思へば信仰も信仰ですが充分研究を遂げ、これなら社会に施して差支ないと云ふ所まで調べ上げねば社会に害毒を流しますからな。云はば社会為に忠実なる研究ですよ』
赤『お前は未だ我執我見がとれぬからいけない。異見外道、自然外道、断見外道と云ふもだ。そんな態度では何処迄も神様は真理を悟らして下さらぬぞ。神様は愚なるも、弱きも、小さきもをして誠道を諭させ玉ふだ。決して研究的態度を採る様な慢心者には、密意はお示しなさらぬ。お前は大学を卒業して一廉学者積りで居るが、其学問は八衢や地獄では一文価値もない。いや却て妨げとなり苦悩因となるもだ。お前両親も困つた事をしたもだな』
曲冬『お前は門番癖に文士に向つて偉さうに云ひますが、日進月歩文明中に学を排斥するとは以て外ぢやありませぬか。国民が残らず無学者であつたなら皆外文明国に奪られて了ふぢやありませぬか。人文発達を図り、国威宣揚を企図する為には、どうしても大学程度学問がなければ駄目ですよ。お前等は僅か小学を卒業した位だから世間事に徹底して居ない。それだからポリス代用門衛をして居るだ。到底拙者論説に楯突く事は出来ますまい。何科あつて調べらるるか知らぬが、もつと確りした分る方を呼んで来て下さい。知識階段が違うてるからお前さまには分りますまい』
赤『馬鹿を云ふな、此処は霊界八衢だ。博士も学士も皆出て来る所だ。無学でどうして此門番が勤まるか。お前等は自然界下らぬ学説に心身を蕩かし、虚偽を以て真理となし優勝劣敗弱肉強食制度を以て最善方法と考へてる亡者だから到底真理蘊奥は分らないだ。お前やうなもが霊界へ来ると訳分らぬ理窟を云つて精霊を汚すから、ここで現界で研究して来た下らぬ学術を皆剥奪してやらう』
曲冬『コレ赤さま、お前は発狂してるか、但は酒に酔うて居るかい。ここを霊界八衢だ等と、それは何を云ふかい。霊界や八衢や地獄があつて堪りますかい、人間は子孫を残して死ねば、それ迄だ。チツト哲学的知識を養うて置きなさい。社会落伍者となつて遂に門番も勤まらなくなりますよ』
赤『門番が、それ程、其方は賤しいと思ふか。便所掃除や塵捨場掃除は如何だ。それ方が矢張尊いか』
曲冬『さうですとも、大慈大悲心を以て人嫌がる事を喜んでするが、人間人格を向上する所以です。便所掃除する者や塵掃除する者が無ければ、世中は尿糞塵泥濘混濁世界となるぢやありませぬか。それで私等は伊吹戸主神様御用をして居るだ。汚いもを美しうする位神聖な仕事はありますまい。私は賤しい仕事とも汚い商売とも思つて居りませぬ』
赤『ア、さうか、それではお前最も愛する処へやつてやらう。地獄には塵捨場もあれば堆糞塚も沢山にある。娑婆亡者がやつて来て腐肉に蠅が集る様に喜んで嗅いで居る。現世にある時所主愛によつて身魂相応処に行つたが宜からう。夜もなく冬もなき天国に於て、総て御用に仕へまつり無限歓喜に浴するよりも、其方は臭気紛々たる地獄道へ行くが得心だらう。サア遠慮は要らぬ、トツトと行つたが宜からうぞ』
曲冬『はてな、さうすると此処は矢張霊界ですかな』
赤『定つた事だ。霊界か現界か分らぬ様な亡者が如何なるもか。それだから心盲と云ふだ』
曲冬『然らばどうか天国へやつて頂き度いもです』
赤『マアここで或一定時間を経なくては、お前様な汚れた魂は直に天国にやる事は出来ない。先づ外部的要素をスツカリ取らなくてはならぬ。現世に於て心にもない事を云つたり、阿諛を使つたり、体を窶したり、種々とやつて来た其外念をスツカリ取り外し、第二内部状態に入り、内的生涯関門を越えるだ。内的とは意志想念だ。果してそ意志が善であり真であらば天国へ上る事が出来るであらう。併し乍ら内的状態になつてからエンゼル教を聞き、其教が耳に這入る様ならば天国へ行く資格が具備してるなり、如何しても耳に這入らねば地獄行きだ。之を第三状態と云つて精霊去就を決する時だ』
曲冬『ヘー、随分難いもですな。矢張天国も地獄もあるもですかな』
 斯く話す所へ高姫は皺嗄声を張り上げ乍ら、
高姫『オーイ、三千彦、シャル、待つた待つた。云ひ度い事がある』
と天塩昆布様になつた帯を引摺り乍ら走り来り、
高姫『こら、シャル、恩知らず奴、妾が此三千彦極道に引倒され、苦しんでゐる間に悪口をついて逃げて来たぢやないか。コレコレお役人さま、此奴は悪党者で厶います。義理天上が直接成敗する処なれど神界御用が忙しいから、お前さまに任すから厳しく膏をとつてやつて下さいや』
赤『ヤ、お前は高姫ぢやないか。霊界へ来て迄噪やいで居るか。モウいい加減に外部的状態から離れたら如何だ。一年にもなるに何と渋太い奴だな』
高姫『ヘン、よう仰有りますワイ。一年にならうと二年にならうとお構ひ御免だ。いつやらも杢助さまを隠しやがつて、量見せぬだが何を云つても大慈大悲大弥勒さま生宮だから、大目に見て居るだ。グヅグヅ申すと此生宮が承知致さんぞや』
赤『白さま、此婆アさまは、邪魔になつて仕方がないから何処かへ突き出して下さい』
高姫『ヘン、お邪魔になりますかな。そりや、さうでせう。誠言葉は悪人耳には、きつう応へませう。お気毒様乍ら此生宮は世界万民救済為、チツトお耳が痛うても云ふ丈け云はして貰ひませう。弥勒様因縁を知つて居ますか、一厘仕組が分りますか、エー、よもや解りますまい。ヘン、一厘仕組も分らぬ癖に偉さうに云ふもぢやないわ』
赤『白さま、早く何処かへやつて下さい』
白『コレコレ高姫さま、ここは八衢だからお前は早く何処かへ行つて下さい。職務邪魔になりますからな』
高姫『コウリヤ白狐、お前は赤狐云ふ事を聞いて此日出神を放出さうとするか。ハテ悪い量見だぞえ。よう考へて御覧なさい。天地間は何一つ弥勒様お構ひなさらぬ処はないぞえ。お土とお水とお火御恩を知つてますか。そ本を掴んだ底津岩根大弥勒さまを何と心得て厶る。扨ても扨ても盲程困つた者は無いワイ。ヤ最前から怪体な男が立つて居ると思つたが、お前はアブナイ教菊石彦だな。先程は大きに憚りさま、ヨー突き倒して下さつた。コレコレ赤に白、日出神が吩咐ける。此菊石彦は此生宮を引倒した悪人だから一つきつい制敗に遭はしなさい。屹度申付けて置きますぞや』
 白守衛は止むを得ず、棕櫚箒を以てシャル、高姫両人に向つて掃出した。二人は驚いて雲を霞と南を指して逃げて行く。
三千彦『モシ、門番様、ここは実際霊界で厶いますか』
赤『ハイ、さうです。貴方はアンブラック川へ悪者に縛られ投げ込まれなさつた一刹那、気絶なさつた為、精霊が此処へ遊行して来たですよ。神化身スマートと云ふ義犬が矢場に川に跳び込み、貴方死骸を啣へて堤へ引上げ、縛を解いて今一生懸命に貴方肉体に対し介抱をして居ります。軈てスマートが迎へに来るでせうから一緒にお帰りなさい。まだ此処に来る時ではありませぬ。そしてテルモン山に悪者が跳梁つて居ますから充分注意して臨まねばなりますまい』
三千彦『さう承らば幽かに記憶に浮んで来ます。矢張私は溺死したですかいな。霊界と云ふ所は現界と少しも違はない所ですな。一つ不思議なは、あ高姫さまは命がなくなつたと聞いて居りましたに随分えらい脱線振り、あ方も矢張霊界に居られるですかな』
赤『まだ現界に三十年許り生命が残つて居りますが余り現界で邪魔をするで、時置師神様がお出になり、伊吹戸主大神にお願ひ遊ばして、三年が間中有界に放つてあるで厶います。三年すれば屹度外肉体に憑つて再び現界で活動するでせう。今精神で現界に行かれちや、やりきれませぬから、あと二年間に充分修業をさして現界に還す積りです』
三千彦『成程、何から何まで、神様なさる事はよく行き渡つたもですな。併し乍ら三年後には高姫肉体は最早駄目でせう』
赤『三年後に生命尽きて霊界に来る肉体がありますから、其肉体に高姫精霊を宿らせ、残り三十年を現界で活動させる手筈となつて居ります』
三千彦『ア、さうですか。三年先になれば誰か肉体に憑つて脱線的布教をやるですな、困つたもですな』
赤『もう已に一年を経過しただから、後二年ですよ。あ我執我見を此二年間に何とか改良せねばならぬですから、霊界に於ても大変手古摺つて居ます。今は岩山麓に小さき家を建てて一人暮しをして居ますが、マア一人で暮して居れば余り害がないから大神様も大目に見て厶るですよ。エンゼルが行つても減らず口計りたたいて、受付けぬから困つたもです。人間精霊も、あれ丈け我執に固まつて了つては仕方無いもですワイ』
 斯く話す時しも南方より宙を跳んで走り来る一頭猛犬、『ウーウー、ウワツ ウワツ』と二声三声高く叫んだ。此声にハツと気がつき四辺を見れば今迄八衢光景は影もなく消え失せ、アンブラック川青芝上に横たはつて居た。側には猛犬スマートが行儀よく坐つて嬉しげに三千彦顔を眺め尾を掉つて居る。テルモン山方を眺むれば黒煙濛々として立ち上り黒雲如く空を封じて居る。月は黒煙間に隠顕出没しつつ足早に走る如く見えて居る。
(大正一二・三・二五 旧二・九 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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