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文献名1霊界物語 第58巻 真善美愛 酉
文献名2第3篇 千波万波よみ(新仮名遣い)せんぱばんぱ
文献名3第17章 怪物〔1492〕よみ(新仮名遣い)かいぶつ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2016-09-02 19:39:14
あらすじ初稚丸はフク島に着いた。荒波が岸を噛み、剣呑にして寄りつくことができない大難関である。山中腹に大きな岩窟が自然にうがたれており、そ中に何かが動いているように見えた。バーチルは岩窟に動く影が、三年前に行方不明になった僕アンチー人影に似ているに驚いて、玉国別に報告した。玉国別は確認ために島に上陸することとした。船を海中岩島に寄せ、伊太彦、バーチル、メート、ダル四人が上陸した。船を認めて岩窟から駆け降りてきた男は、間違いなくバーチル僕アンチーであった。アンチーは主人と再会に涙を流し、こ島に打ち上げられてから、初稚姫という女神に助けられて命をつないだことを明かした。初稚姫は三日ほど前にもアンチー前に現れ、三年修業ができたから、これでアンチーも立派な人間になるだろうとお告げを残して、犬に乗って南方に去って行ったことを語った。一行はアンチーを船に助け上げて出航した。船中ではアンチー漂流譚に花が咲いている。アンチーは助け出された嬉しさに、島で一人作っていた唄を織り交ぜて舟歌を披露した。伊太彦は独り者同士仲良くしようとアンチーに呼びかけ、笑っている。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月29日(旧02月13日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年6月15日 愛善世界社版205頁 八幡書店版第10輯 443頁 修補版 校定版217頁 普及版81頁 初版 ページ備考
OBC rm5817
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本文  初稚丸は、漂渺たる海路を渡つて漸く周囲二十五町ばかりフク島についた。非常に荒波岸を噛み剣呑にして寄りつく事が出来ない大難関である。見れば山中腹に非常に大きい岩窟が自然に穿たれて其中に何か動いて居るやうに見えて居る。伊太彦は一目見るより、
伊太『猩々だ猩々だ、これバーチルさまお前御親類かも知れないよ。一つ何とかして島に漕つけ、正体を調べて見たいもだなア』
 バーチルは一目見るより、アツと叫んで倒れむ許りになつた。
伊太『ア、此奴は不思議だ。バーチルさま、彼怪物姿を見てお前さまはアツと云つて倒れかけたが一体何だ。何か心当りがあるかなア』
バーチル『ハイ、どうも明瞭は致しませぬが、何だか見たやうな男姿に見えましたから思はず叫んだで厶います』
伊太『矢張り別世界に棲んで居ただけあつて、神経過敏になつて居るだ。併しこんな離れ島に人間やうなもが棲んで居るとは不思議だよ。矢張難破船に遇つたもが、こんな島に打ち上げられて居るかも知れない。ヤヤ好奇心が起つて仕様がない、危険でも上つて正体を調べようぢやないか。一つ先生私に魔窟探険を仰せつけ下さるまいかなア』
玉国『ウン、一つやつて見たがよからう。バーチルさまは随分島になれて居るから、探険には適任だらう』
バーチル『ハイ、何卒私にもお許し下さい。どうしても調べなければならないやうな気がします』
 怪物は此船を見るより慌ただしく岩窟を出で険阻な岩角を猿如く下り来り、毛だらけ顔をさらし乍ら、
『オーイ、オーイ』
と手招きして居る。此時船は一町許り手前迄進んで居る。漸くにして海中に突出して居る岩島に船を寄せ、辛うじて、伊太彦、バーチル、メート、ダル四人は島に駆けつけた。実に危険極まる芸当である。一丈許り玉となつて竜天上する如く、落ち来る浪飛沫は実に悽惨気に打たれざるを得なかつた。四人は屈せず男傍に走り寄り、不思議さうに顔を覗いて居る。怪し男は四人顔をつくづくと眺め、
男『あ、貴方は御主人様ぢや厶いませぬか、ようまア来て下さいました』
バーチル『やア、お前は僕アンチーであつたか。どうしてこんな所に助かつて居ただ。あ荒波に呑まれて水藻屑になり、最早此世では会へないもと覚悟して居た、ようまア生て居て呉れた。私も今此船に助けられ帰る途中、潮流都合でこんな所へやつて来ただ。これも矢張神様お引き合せであつたか』
 アンチーは、髯だらけ顔に涙をハラハラと流し、男泣きに泣き出した。
伊太『これアンチーさま、何を泣くだ。確りせないか、サアこれからお前を連れて帰るだから、何もアンチル事は要らぬ、安心して跟いて来るだ。併し俺も何だか涙やつ、無断で両眼から飛び出して来る』
と、はや泣き声になつて居る。
 アンチーは涙を手にて拭ひながら、
アンチー『旦那様、私は貴方と一緒に浪に呑まれ、人事不省に陥り此島に打ち上げられて居ました処へ、初稚姫様とか云ふ綺麗な女神様がお越しになり、いろいろ介抱して下さいました。其お蔭で今日迄命を保つて居りました。幸此島には御存じ通り沢山鳥が居ますなり、又少し果物も実り、夫故どうなりかうなり一人食料は与へられました』
伊太『ハテ、合点ゆかぬ事を云ふぢやないか。初稚姫様は昨日此方へお通りになつた許りだ。さうして、船にでも乗つてお出になつたか、但は、犬にでも乗つて来られたか、合点ゆかぬ事だなア』
アンチー『いえいえ船も持たず犬も連れず、何処ともなくお出になり、又何処ともなく姿をお消し遊ばしました。夫から二三日前にも立派な姿を現はし、お前を迎ひに来てやるからと仰有いました、「お前も三年修業が出来たから、これで立派な人間になるであらう、夢々疑ふな」と仰有つたきり今度は犬に乗り荒浪を渡り、南方を指して帰つて仕舞はれました。本当に不思議ことで厶います』
伊太『成程初稚姫様は生神様だと聞いて居たが偉いもだなア。第一天国天人だと云ふ事だが、さうでなければこんな離れ業が出来るもでない。これを思へば俺達お師匠さまもまだまだ修業をせねば駄目だなア。何はさて置き、いつ風が荒うなるかも知れないから、こ危険区域を一時も早く去りませう』
と鬣を振ふて猛り狂ふ白浪中を潜り抜け、茲に五人は無事に船中人となり、急ぎ舳先を転じ、櫓櫂を操り、潮流に従うて、西南さして進み行く事となつた。船中にはアンチー漂流談に種々花が咲いた。
伊太『もし御一同さま、何と不思議事があるもですなア。此方はバーチルさま僕だつたさうです。三年前に難船して主従が何れも無人島に命を保ち、又吾々船に一時に助けらるるとは実に奇中奇ぢやありませぬか。こんな事を思ふと、吾々は一挙一動大神様綱に操られて居るやうな心持が致しますなア』
玉国『何事も人間は神様お道具だから唯惟神にお任せするより外、道はないだ。何事も皆神業だから、是からお前もどんな事があつても今迄やうにブツブツ小言を云つたり理窟を並べたりするもぢやありませぬよ。神様がよい実物教育をして下さつただからなア』
伊太『成程、実に有難いもで厶いますなア。オイ、真純彦、三千彦御両人、こんな事を思ふと、ゾツとするやうだなア、私はもう神様が恐ろしくなつて来た』
三千『如何にもお前云ふ通りだ。何事も人間考へではいくもでない。夫だから私も御用途中にデビス姫を連れて行くもではないと、一度は拒んで見たが、これも神様思召だと思ふて連れて来ただよ』
伊太『アハハハハ。何とまア、えらい所へロジツクが当て箝まつたもだなア。これも皆神様御都合かなア、エヘヘヘヘ』
三千『伊太彦さま、エヘヘヘヘ、と云ふ其言霊色には大に吾々夫婦を悔蔑嘲笑して居る形跡が見えるぢや無いか。本当に冗談ぢやない。私は真剣だからなア』
伊太『プツフフフフ、それや真剣だらう。私だつてこんなナイスと道連れになるなら、真剣も真剣、大真剣になるだがなア』
三千『エエどこ迄も馬鹿にしたもだなア。併し何と云ふても足弱女を連れて居るだから負て置きませう。行く所迄行つたら分りませうかい。万一女を連れて行くが悪いなら、玉国別先生がお留めなさるに違ひない、黙つていらつしやる所を見れば何か御都合ある事だらう。なア真純彦さま、貴方はどう思ひます』
真純『私は何とも申ませぬ。よいとか悪いとか云ふだけ知識も無ければ権能もありませぬ。何事も惟神だとお蔭を頂いて居ります』
伊太『ハハハハハ。さうすると伊太彦さま敗北かな、ヤ恐れ入りました。到底寡を以て衆に敵する事は出来ませぬ。もう此上は謹んで御夫婦前途を祝します。そして悋気がましい事はこれより止めますから、何卒神直日大直日に見直し聞き直しを願ひませう』
玉国『まアまアこれで内訌も治まり、一先づ安心だ』
 アンチーは嬉しさ余り、無雑作に生えた髯を撫で乍ら、島で作つて歌つて居た歌を交へて船唄を歌ひ、一同御愛嬌に供した。
アンチー『イヅミスマ里  バーチルさま子と
 仕へて茲に二十年  日日毎日主従が
 月夜と暗隔てなく  キヨメ魚を
 掻きまはしつつ殺生した  其天罰が報い来て
 漁舟は沈没し  力と思ふ吾主人
 行衛も知れずなり給ひ  後に残つたアンチーは
 人無き島に助けられ  鳥卵や果物を
 取りて漸く生命を  保ち居るこそ果敢なけれ
 沖を遙に見渡せば  幽かに白帆影見ゆる
 呼べど叫べど此島は  危険区域と知る故に
 鳥外より近寄らぬ  声を嗄して叫べども
 打ち寄せ来る波音に  呑まれて声は響かない
 八千八声時鳥  こ岩洞に姿をば
 隠して朝夕泣くばかり  もう此上は因果腰
 定めて島王となり  いや永久にセリバシー
 生涯此処に送らむと  思ひ定めし苦しさよ
 朝日は空に煌々と  輝きたまひ夜を守る
 月姿はテラテラと  昼と夜と隔てなく
 恵露を垂れたまひ  果敢なき身をば守ります
 此フク島につきしより  長年月人
 一度も聞いた事はない  鴎声や鵜鳥が
 夕空に帰り来て  翼をやすめ朝まだき
 朝日登るを待ちかねて  チンチン チユンチユン騒がしく
 さながら天女音楽を  奏する如く聞え来る
 此声こそは吾身をば  慰めたまふ神
 忝なしと伏し拝み  風に吹かれ雨に濡れ
 漸く茲迄ながらへぬ  明日をも知らぬ人
 人なき島に斃れなば  吾遺骸を如何にせむ
 せめて命ある中に  身を躍らして水底へ
 落ち込み此世苦しみを  逃れむもと幾度か
 思ひ煩ひ居たりしが  ハツと心を取り直し
 斯くも月日御守り  吾身上に照る上は
 いつかは海路風が吹き  助け現はれて
 恋しきスマ故郷へ  帰られる事もあらうかと
 気を取り直し手を拍つて  天地御恩を感謝しつ
 際限もなき海原を  眺めて又もや生かへり
 いつしか淋しさ悲しさも  歓喜涙となりかはる
 人は心持ちやうで  安全地帯此島も
 地獄底と感じたり  天国浄土と感じつつ
 悲喜交々生涯を  送りし吾ぞ奇びなれ
 ああ惟神々々  神御霊幸倍て
 今日生日生時に  三五教神司
 初稚姫お弟子なる  数多司に助けられ
 又もや恋しき御主  無事なお顔を伏し拝み
 久し振にて故郷に  帰り行くこそ嬉しけれ
 嬉し涙は胸に満ち  心はいそいそ飛び立つ思ひ
 夢か現か幻か  吾と吾が身がはかられぬ
 深き恵キヨ湖  浪間を辷り帰り行く
 スマ館へ帰りなば  主人サーベルさま
 嬉し涙を湛へつつ  手足に取りつきし噛みつき
 喜びたまふ事だらう  私は元より独身者
 ようまアお帰りなさつたと  訪う妻は有りませぬ
 思へば思へば味気なき  憂世を渡る独身者
 憫みたまへ惟神  神神司
 心に積りしありたけを  一つも残さず吐き出して
 救ひを願ひ奉る  三年振にて海
 目無堅間船に乗り  帰りて行くぞ有難き
 主従二人が謹みて  此世を救ふ大神
 御前に感謝し奉る  ああ惟神々々
 御霊幸倍ましませよ』
伊太『アハハハハ、矢張アンチーさまも一人は淋しいと見えるな、

 家へ帰つて精無い私
  門に迎へる妻はない。

と云ふ筆法ぢやな。それや私も同じ事だ。折角宣伝使様お伴して、功名手柄を現はし家に帰つた所で、考へて見れば妻もなし、ほんに思へば思へば淋しいもだよ。お前も三千彦さま夫婦連れを見て羨うなつて来ただな。併しこ伊太彦双手を上げて賛成だ。ヤア是で俺も一人知己を得たもだ。同病相憐れむと云ふ事があるからアンチーさま今後は私と堅い握手をして互に力にならうぢやないか。お前と私私交上事だから別に先生許しを受ける必要もなし、三千彦さまや、真純彦さまに気兼も要らぬ。一つ日英同盟でもやらうぢやないか。なあアンチーさま』
アンチー『ハイ、有難う、何分宜敷く願ひます。私も何時迄も御主人家に御厄介になつて居るも詮りませぬから、何とか国へ帰つたら身振り方を考へねばならないと思ふて居ます』
伊太『ヤア、そりや感心だ、さうなくてはならぬ。もし三千彦さま、私は同性女房を持ちましたから、何卒宜敷く御交際を願ひます、アハハハハ』
(大正一二・三・二九 旧二・一三 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)
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