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文献名1霊界物語 第59巻 真善美愛 戌
文献名2第2篇 厄気悋々よみ(新仮名遣い)やっきりんりん
文献名3第9章 暗内〔1509〕よみ(新仮名遣い)あんない
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ玉国別と真純彦は、長途旅路につかれて振る舞い酒に酔い、そ夜は熟睡してしまった。翌朝、神殿で祝詞を奏上した後休んでいると、バーチルが急いでやってきた。そして三千彦、伊太彦、デビス姫がいなくなっており、どうやらバラモン軍に連れ去られたようだと告げた。バーチルは、三人を取り戻すために村中から人を呼んで玉国別に加勢しようと申し出た。玉国別は村人に怪我人が出てはいけない、と真純彦と二人で乗り込むことに決めた。二人が出立しようとしていると、テクがやってきた。テクはこれまで悪いことばかりしてきたが、玉国別からいただいた酒を飲んだらすっかり改心してしまったと話した。そして、チルテル館にはあちこちに落とし穴があるから、自分が案内役として同行しようと申し出た。バーチルは、アンチーが暇を申し出たから、代わりに本当に番頭になってくれとテクに申し出て、テクも承諾した。アンチーもと一緒にチルテル館に乗り込みたいと申し出たで、玉国別は承諾した。四人は作戦会議を開いた。アンチーは、チルテルにはいろいろな企みがあるだろうから、できる限り事前に様子を探って、夕暮れ以降に忍び込んだ方がよいだろうと提案した。アンチー案が採用され、テクが斥候となって館様子を探ってくることになった。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年04月01日(旧02月16日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年7月8日 愛善世界社版117頁 八幡書店版第10輯 526頁 修補版 校定版123頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm5909
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本文  玉国別、真純彦は長途海路に草臥れきつた上、振舞酒にグツタリ酔ふて其夜は潰れた様に熟睡して了つた。先づ手洗を使ひ口をすすぎ、東天を拝し、次いで神殿に進み祝詞を奏上し、暫らく休息して居る。そこへバーチルは顔色を変へて出で来り、
バーチル『もし先生様、大変な事が出来致しました。誠に申訳ない事で厶います』
玉国『大変とは何事で厶いますか』
バーチル『はい、私もグツタリと草臥れて、よく寝込んで了ひましたで、夜中出来事は少しも存じませぬが、三千彦様、伊太彦様、デビス姫様お三方が、何程そこらを探しても行衛が分りませぬ。里人話によりますと裏門口を開いてバラモン軍人が三人様をフン縛り帰つたと事、実に申訳ない事を致しました』
玉国『何、三人がバラモン軍に誘はれたと、やア、それは大変だ。真純彦、こりやかうしては居られまい。之から両人がバラモン関所に押掛けて行つて様子を探つて見ようぢやないか』
真純『如何にも大変な事が出来致しました。さア参りませう』
バーチル『もし先生様、一寸お待ち下さいませ。バラモン関所には一中隊勇猛なる兵士が抱へて厶いますから、お二人様では険難で厶いませう。幸ひ斯うして村中者が昼夜別なく、祝に来て居りますから此中から強い者を選むで数十人お連れになつてはどうでせう。私も命を助けて貰つた御恩返しに今度は命を捨てます。何卒さうなすつて下さいませぬか』
玉国『いや、決して御心配下さいますな。又宣伝使が貴方等助力によつて多数を恃むで押掛けたと云はれては済みませぬ。又一方は武器を持つたも、里人に怪我でもあつては済みませぬから吾々両人が直接に出掛けませう』
バーチル『さう仰有れば是非が厶いませぬ。代りに私がお伴を致しませう』
玉国『いや、それには及びませぬ。然し乍ら僅かに二人、敵中へ参るで厶いますから之がお顔見納めになるかも知れませぬ。何卒貴方は神様御心をよくお覚りなさつて、此里人を導き可愛がつておやりなさいませ』
 かかる所へサーベル姫は襖をソツと押開き涙と共に転げる様にして入り来り、
サーベル『玉国別様、真純彦様、大変な事が出来致しました。何卒神様御神徳によつて御三方を救ひ出し、無事にお帰り下さいませ。妾は神様を念じ無事成功を祈ります』
玉国別『有難し君が情厚衣
  身に纒ひつつ進み行くべし。

 真心を深く包みし衣手に
  薙ぎて屠らむ醜輩を』

真純彦『曲神に苦しめられし吾友を
  助けに行かむ神まにまに。

 大神御前に額き願ぎ申す
  此首途を真幸くあれよと』

バーチル『真心を籠めて打出す言霊に
  刃向ふ仇如何であるべき。

 さり乍ら心配りて出でませよ
  企みも深き陥穽あれば』

サーベル姫『玉国別神命よ真純彦よ
  仇館に気を配りませ』

玉国別『有難し神に捧げし吾命
  よし捨つるとも如何で恐れむ』

真純彦『皇神糸に結ばれし
  身ながら今は解けむとぞする』

バーチル『吾僕アンチー連れて出でませよ
  彼は力強き益良夫』

玉国別『吾道は人を頼らず杖につかず
  只真心に進むみなり。

 折角思召をば無みするは
  心済まねど許し玉はれ。

 三千彦は嘸今頃は仇人と
  厳言霊打ち合ひ居るらむ』

真純彦『言霊戦ひなれば恐れまじ
  兇器を持ちし敵陣中も。

 曲神憑りきつたる仇人を
  言向和す日とはなりぬる』

アンチー『神司吾れを召し連れ出でまして
  真心限りを尽させ玉へ。

 よしやよし命を敵に渡すとも
  いかで悔いなむ捨てし此身は』

玉国別『玉命に代へて嬉しきは
  汝が心誠なりけり』

 斯く互に歌を取交し、玉国別、真純彦は今や宣伝使服を脱ぎ、バーチル与へたる衣服と着替へ乍ら立出でむとする所へ、泥酔者テクはツカツカと現はれ来り、
テク『ヘー、御免なさいませ。私は今日迄はバラモン教目付役下を働くスパイで厶いました。一方には海賊張本人ヤッコスと兄弟分となり、種々雑多と、よくない事許りやつて居ましたが、玉国別様に何とも知れぬ般若湯を頂き、それから心に潜む鬼が私身内から逐転しまして、今は全く人間心に立帰りました。就きましてはチルテル邸には沢山陥穽が厶いますれば此テクが御案内を致しませう。うつかり行かうもならえらい目に会ひます。そ秘密を知つてるは外には厶いませぬ。関所を守つてる軍人外は誰も知りませぬからお危う厶います』
玉国『おう、お前はテクさまだつたな。や、有難う、それ程沢山に陥穽が拵へてあるかな』
テク『ヘーヘー、彼方にも此方にも陥穽許りで厶います。あんな所へ落ちたが最後、上る事は出来ませぬ。さうして此頃は何とも知れぬ美しい女方が離家に只一人居られます。さうして其お名は初稚姫様だとか云ふ事で厶います。関守キャプテンがそ女に現を抜かし、それが為に夫婦喧嘩がおつ初まり、いや、もう内部醜態と云つたら話になりませぬ』
玉国『なに、初稚姫様が厶ると云ふか。どんな年格好なお方だ』
テク『はい、明瞭は分りませぬが一寸見た所では十七八才かと思ひます。然し何処ともなく十五六才幼い所も厶いますし、体中宝石を以て飾つて居られます。それはそれは綺麗なお方ですよ』
玉国『はてな、初稚姫様は、そんな宝石等を身に飾る様なお方ぢやないと聞いて居る。大方同名異人だらう。なア真純彦』
真純『そら、さうで厶いませう。世間に同じ名は何程も厶いますからな』
玉国『あ、そんなら屋敷案内をお願ひしようかな』
テク『いや早速御承知、有難う厶います。大抵所は皆私が知つて居りますから、私後に跟いて来て下さいますればメツタに不調法はさせませぬ。そして彼女に一度お会ひになれば真偽が分るでせう。大方貴方お弟子は陥穽に落ち込みなさつたかも知れませぬ。うつかりして居ると命が怪しう厶います。沢山な兵士が寄つて上から石を投げ込むですから、堪つたもぢやありませぬわ』
バーチル『テクさま、お前さまはアキスから聞けば宅番頭になつたと云つて居られたさうだが本当に番頭になつて呉れますか。アンチーも暫く休まして下さいと云つてるから、お前さまが番頭頭になつて下さらば大変都合が宜しいがな』
テク『承知致しやした。貴方からお言葉かからぬ中から已に番頭と一人で定て居りますから何異議が厶いませう。もとは悪人で厶りましたが神様光に照らされて最早悪が恐しくなり、そ罪亡しに一つでも善事を行ひ度いと決心をして居りますから何卒宜しくお願ひ申します。サア玉国別様、真純彦様、参りませう』
アンチー『是非とも私をお伴に願ひます』
玉国『それ程仰せらるるなれば御同行を願ひませう』
とバーチル夫婦に暇を告げ、裏口より一行四人キヨ関守チルテルが館を指して進み行く。テクは先頭に立ちヤッコス踊をし乍ら心イソイソ歌ひ初めた。
テク『バラモン教キャプテンが  部下に使はれ犬となり
 彼方此方と湖辺をば  尋ねまはりて三五
 神司や信徒を  一人も残さずフン縛り
 キヨ関所へ連れ行きて  褒美金を沢山と
 頂き好きなお酒をば  飲んで浮世を面白く
 暮さむもと心をば  鬼や大蛇と変化させ
 悪み辿りたる  悪党無頼此テクも
 玉国別神様  厚き心に感服し
 迷ひ夢も覚め果てて  バーチルさま子と
 仕ふる身とはなりにけり  バラモン教関守が
 如何程神力あるとても  如何で及ばむ三五
 誠一つ言霊に  敵する事は出来よまい
 屋敷中に沢山  陥穽をば穿ちつつ
 三五教やウラル教  道ピュリタンを
 否応云はさずフン縛り  皆悉く陥穽に
 落して喜ぶ悪神  醜器となり果てし
 チルテル司は魔か鬼か  思ひ廻せば恐しや
 かかる悪魔を逸早く  亡ぼし尽し世
 災難を早く救はねば  イヅミ人々は
 枕も高く眠れない  吾も元より悪人
 種ではなけれど止むを得ず  バラモン教勢力に
 刃向ひ其身不幸をば  招かむ事を恐れてゆ
 心にもなき間諜となり  吾良心に責られて
 苦しき月日を送りつつ  せつなき思ひを消さむとて
 朝から晩まで酒を飲み  浮世中を夢現
 三分五厘に暮さむと  金さへあれば自棄酒を
 呻つて過す浅間しさ  あゝ惟神々々
 神恵み幸ひて  愈今日は三五
 貴先走り  今迄犯せし罪科を
 償ひまつる今や時  皇大神よ大神よ
 テク心を憐れみて  今度御用を恙なく
 遂げさせ玉へ惟神  仮令天地は変るとも
 一旦神御前に  罪を悔いたる此テクは
 汚き心を露持たじ  敵は如何なる謀計を
 廻らし吾等を攻むるとも  何か恐れむ神心
 振ひ起して何処迄も  神御為世為に
 悪魔棲ひしチルテル  醜司を懲しめて
 世人為に災を  除かせ玉へ惟神
 御伴に仕へし此テクが  真心捧げて願ぎ奉る
 あゝ惟神々々  御霊幸ひましませよ』
 アンチーは又歌ふ。
アンチー『三年振りに吾主人  バーチルさまに廻り会ひ
 喜び勇む間もあらず  命神司
 危き敵館へと  出でます君を案じつつ
 主人許し受け  お伴に仕へ進む身は
 如何なる曲企みをも  如何で恐れむ敷島
 大和男子魂を  現はしまつりて高恩
 万分一に報ふべし  キヨ港は遠けれど
 勝手覚えし抜け道を  進むで行けば一時
 間には容易く達すべし  さはさり乍ら真昼中
 敵館へ進み行く  これが第一険難だ
 日暮れを待つてボツボツと  隅から隅まで探索し
 三千彦さま所在をば  探し求めた其上で
 あらむ限りベストをば  尽すもあまり遅からじ
 玉国別宣伝使  真純神司
 新番頭テクさまよ  貴方御意見詳細さに
 お知らせなさつて下されや  敵にも深い企みあり
 軽々しくも進みなば  臍を噛むとも及ぶなき
 大失敗を招くべし  省み玉へ神司
 此アンチーは意外にも  卑怯な男と皆さまは
 思召すかは知らねども  注意上に注意して
 行かねばならぬ敵中  あゝ惟神々々
 何れにしても大神  力に頼り進むべし
 玉国別御前に  更め伺ひ奉る』
と歌ひ終り、玉国別意見を求めた。玉国別はアンチー言葉に一理ありとなし、途上に佇みて暫し思案を廻らして居る。テクは無雑作に口を開いて、
テク『もし、皆様、私は幸い種々関係上チルテルに接近せなくてはなりませぬ。それについては色々とチルテル腹を探り、又敵様子や三千彦様以下所在を探索するに余程便宜を持つて居りますから、貴方は暫らく此密林に日暮るる迄御休息を願ひ、私が一応取調べた上、日が暮れてからお出掛けになつた方がよからうと在じますが貴方等お考は如何で厶いませうか』
玉国『成程、却つて夜分方が宜いかも知れない。御神諭にも「今迄は日暮が悪いと申したが之からは日暮に初めた事は何事もよい」とお示しになつて居る。そんならテクさま、御苦労乍らチルテル館に罷越し、能ふ限り偵察をして下さい。それまで此森蔭に祈願をして待つて居りませう』
テク『いや、早速御同意、有難う厶います。それなら此テクがうまく様子を探つて参ります。何卒此森奥で悠りと休息をして待つて居て下さい。左様なら』
と云ひ乍ら尻引紮げトントントンと夏草茂る細い野道を駆け出した。三人は森木蔭に腰を下し、時至るを待つて居る。
(大正一二・四・一 旧二・一六 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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