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文献名1霊界物語 第63巻 山河草木 寅
文献名2第4篇 四鳥よみ(新仮名遣い)しちょうわかれ
文献名3第18章 夜旅〔1625〕よみ(新仮名遣い)よるたび
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2018-07-15 10:27:46
あらすじ
主な人物 舞台ハルセイ山 口述日1923(大正12)年05月29日(旧04月14日) 口述場所天声社 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年2月3日 愛善世界社版243頁 八幡書店版第11輯 350頁 修補版 校定版252頁 普及版64頁 初版 ページ備考
OBC rm6318
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本文  伊太彦は、目前に最愛ブラヷーダ姫が悩み苦しみ、最後握手を求むるそ心根不愍さ、胸迫り嗚咽涕泣稍久しうし、又もや首をあげ涙を払ひながら、
伊太『ブラヷーダ姫よ、お前がこ様に苦しむも私意志が弱かつた為だ。テル里にて体よく断れば、お前迷ひもさめ、私も斯様な神誡めに遇ふではなかつたに、どうぞ許して呉れ。生死を共にすると誓つた女房其女に、唯一度握手も許さぬと云ふ程伊太彦も無情漢ではなけれども、使命を受けた此体、仮令肉体は朽果つるとも、何うして此誓ひを破る事が出来よう。本当に心底から其女を愛するために、かかる無残い所置をするだ、決して無情な男とせめて呉れるな。伊太彦思ひは千万無量。如何なる罪報ひにや初めて知つた恋苦しみ、其女もルーブヤ娘、ブラヷーダと云はるる女、よもや伊太彦言葉が分らぬ道理はあるまい』
ブラヷーダ『伊太彦さま、左様ならばこれにてお暇を致します。隠世大神守りたまへ幸倍たまへ』
と云ふより早く懐剣をすらりと抜き放ち、吾喉に突き立てむとす。伊太彦は驚いて其手を押へむとすれども、刻々と重る病為手足も叶はず、如何はせむと気を焦心り、あはや一大事と思ふ刹那、杣人は飛びかかつてブラヷーダ懐剣を捥取り、傍密林へ投げ込んで仕舞つた。杣人は忽ち容色端麗なる二人美人と化した。伊太彦はハツと驚き差俯向く。ブラヷーダ姫も忽ち、以前化身に弥益高尚優美なる女神と化して仕舞つた。伊太彦は漸うにして頭を擡げ見れば摩訶不思議、ブラヷーダ姫も杣人影もなく、三人女神が儼然として吾前に立つて居る。扨てはブラヷーダと見せかけ木花咲耶姫吾前に現はれたまひしか、あら有難や辱なやと思はず知らず合掌した。俄に伊太彦病は拭ふが如く、忘れたるが如く、どこへか散り失せて、さも爽快な気分に充たされ、坐り直つて両手を仕へ、
伊太『ハハー、有難や尊や木花姫命様、どこ迄もお心を籠められたる御教訓実に感謝至りに堪へませぬ。何卒々々此伊太彦が途中に於て悪魔誘惑に陥らざる様御守護を願ひます。又ブラヷーダ姫も繊弱き女一人旅、何卒々々御守護を願ひ奉ります』
木花姫『汝願ひ確に承知した。併し乍ら、玉国別上は何と致すだ』
伊太『恐れ入りました。これだけお試練に会ひながら、自分上や妻みをお願ひ申し、師御身上を後に致しました。どうぞお許し下さいませ』
木花姫『其方は、玉国別、真純彦、三千彦宣伝使は神徳備はり、神御加護も厚ければと、安心上願はなかつただらう』
と直日に見直し聞き直したまふ情言葉に、伊太彦は恐れ入り、両掌を合せて感謝涙を滝如くに流して居る。忽ち虚空に音楽聞え、芳香薫じ、カラビンガ祥鳥に取まかれて雲を霞と御姿をかくしたまふた。後振りかへり、伊太彦は幾度となく御空を仰ぎ見て、

『木一度に開く伊太彦が
  心空も晴れ渡りけり。

 天教山より天降りたまひたる
  木花姫恵尊し。

 いたづき身も健かになりにけり
  神深きをぞ知る。

 玉国別司君は今何処
  守らせたまへ天津神達。

 仰ぎ見る真純空は吾友
  心現はれとぞ知る。

 神徳を清き御霊に三千彦
  吾友垣を偲びてぞ泣く。

 三千彦も嘸今頃はデビス姫に
  心曇らせたまふなるらむ。

 デビス姫ブラヷーダ姫も御教に
  倣ひて山路一人往くらむ。

 鬼大蛇虎狼猛ぶなる
  野路往く人ぞ危まれける。

 さりながら尊き神ましまさば
  やすく進まむ女旅も。

 いざ立ちて珍都に進み行かむ
  国治立御あとたづねて』

と口吟みながら、元気回復した伊太彦は、ハルセイ峠を宣伝歌を謡ひながら下り往く。
伊太彦『三千世界花  一度に開く時は来ぬ
 此世を救ふ生神は  天教山に神集ふ
 斎苑館やエルサレム  コーカサス山や顕恩郷
 自転倒島聖場に  厳御魂を配りまし
 豊葦原国中に  潜みて世人を悩ませる
 醜大蛇や鬼神を  言向け和し天国を
 地上に建設せむために  神素盞嗚大神は
 厳御霊御言もて  神柱を四方八方に
 使はしたまふぞ尊けれ  吾は小さき身なれども
 神御言を蒙りて  玉国別君と
 魔神猛る月国  ハルナ征討に
 登る尊き神司  任けられたるぞ有難き
 朝日は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  誠力は世を救ふ
 スダルマ山麓にて  カークス、ベースに廻り合ひ
 スーラヤ山に玉ありと  聞くより心機一変し
 矢猛心伊太彦は  吾師許しを強請し
 間道潜りて三人連れ  テル磯辺に安着し
 思はぬ女に廻り遇ひ  妹背約を固めつつ
 八大竜王随一と  世に聞へたるウバナンダ
 ナーガラシャー岩窟へ  一行五人進み入り
 幽世現世境まで  進みし時恐ろしさ
 此世を造りし神直日  心も広き大直日
 見直しまして現世に  甦りたる尊さよ
 折から来る宣伝使  初稚姫に助けられ
 岩隙間明をば  目当に潜り出で見れば
 玉国別君が  磐樟船を横たへて
 吾等を待たせたまひけり  あゝ惟神々々
 神経綸はかりなき  千尋海も何
 御稜威は高くスメール  山も物かは伊太彦は
 喜び勇み師  御船に乗りてエル港
 順風に真帆をかかげつつ  事なく上ればこは如何に
 初稚姫一行は  埠頭に立たせ給ひつつ
 いと懇に待ちたまふ  吾師一行は
 無事再会喜びつ  前途を祝する折もあれ
 初稚姫御教訓  畏みまつり最愛
 妻に袂を別ちつつ  夜光玉を捧持して
 珍都に上り往く  一人旅路となりにける
 夜を日についでハルセイ山  峠上に来て見れば
 頭は痛み胸つかへ  手足も自由にならぬ身
 其苦しさに山頂  芝生上に座を占めて
 感謝祈願を凝らしつつ  懺悔涙に暮るる折
 二人杣にたすけられ  命辛々登り来る
 一人女は誰人と  窺ひ見ればこは如何に
 夢にも忘れぬブラヷーダ  妹命と知りしより
 心を鬼に持ち直し  神使命を守らむと
 心曲者と  力戦苦闘其結果
 漸く晴れし胸暗  ブラヷーダ姫と見えたるは
 いとも畏き木花姫  珍化身にましましぬ
 二人杣と見えたるも  木花姫お脇立
 かくまでいやしき伊太彦を  誠司に造らむと
 千々に心を砕きます  三十三相観自在
 天尊様御情  仰ぐも畏き次第なり
 あゝ惟神々々  身も健かになりぬれば
 これより進んでエルサレム  吾師後を追ひ
 誠道を一筋に  脇目もふらず進むべし
 旭は照るとも曇るとも  月は盈つとも虧くるとも
 仮令大地は沈むとも  吾身体は朽つるとも
 神に受けたる此魂  如何で曲霊に汚さむや
 直日に見直し聞直し  宣り直しつつ惟神
 教ままに進み往く  四辺景色は漸くに
 秋色をば湛へつつ  山野木草はさわさわと
 空吹く風に翻り  いとも床しくなりにけり
 あゝ惟神々々  一日も早くエルサレム
 神表はれましまして  黄金山下神館
 埴安彦や埴安  姫永久に
 鎮まりたまふ大前に  進ませたまへと願ぎまつる』
と謡ひ乍ら緩勾配山道をトントントンと下り行く。日は西山に傾いて殊更涼しき夕風、伊太彦が面を吹く。伊太彦は漸くにしてさしもに高き此大峠中程迄下りつき傍巌に腰打ちかけて、ウトリウトリと眠りについた。斯かる所へ峠方から、
イク『バラモン教に仕へたる  醜イク、サール
 清春山岩窟で  松彦司に教へられ
 三五教正道に  帰順しまつり玉国別
 神司に従ひて  伊太彦司と諸共に
 祠宮普請  仕へまつりて師君に
 惜き別れを告げながら  珍受付に
 暫し仕ふる間もあらず  三五教高姫や
 妖幻坊杢助が  ブラリブラリとやつて来て
 暴威を振るふ憎らしさ  斯かる所へ霊国
 天女と現れし初稚姫が  立ち寄りまして妖邪をば
 払はせたまひ吾々に  尊き教を伝へつつ
 又もや聖場を立ちたまふ  吾等二人は姫君
 其神徳に憧憬し  ハルナ御伴をば
 仕へむもと後や先  姫御身を守りつつ
 此世を照らす生神  日神に瑞宝を
 与へられたる嬉しさに  姫許しはなけねども
 誠一つを力とし  此処迄進み来りけり
 初稚姫は今何処  スマートさま声さへも
 今は全く吾耳に  聞えず遠くなりにけり
 あゝ惟神々々  神幸はいて
 一日も早く姫君に  遇はさせたまへスマート
 清き尊き竜声を  聞かさせたまへと願ぎまつる
 山野河海を打ち渡り  影に日向につき添ひて
 此処迄御身を守りつつ  水晶玉を捧持して
 来たりし吾等有難さ  あゝ惟神々々
 清春山岩窟で  いと懇切に交はりし
 伊太彦司上は  如何になり行きたまひしか
 聞かまほしやと思へども  神ならぬ身吾々は
 如何に詮術浪上  踏みも習はぬ山路を
 登りつ下りつ進み来る  あゝ惟神々々
 皇大神引き合せ  伊太彦司に今一度
 遇はさせたまへと願ぎまつる』
と謡ひつつ峠を下つて来るはイクであつた。伊太彦は疲れ果てて、ウトリウトリと眠つて居る耳に幽かに此声が聞えて来た。ふと目覚せば、二人男が吾前に近づいて来る事に気がついた。
(大正一二・五・二九 旧四・一四 於天声社楼上 加藤明子録)
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