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文献名1霊界物語 第64巻上 山河草木 卯巻上
文献名2第2篇 聖地巡拝よみ(新仮名遣い)せいちじゅんぱい
文献名3第6章 偶像都〔1635〕よみ(新仮名遣い)ぐうぞうみやこ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2017-11-25 18:18:34
あらすじ
主な人物ブラバーサ、マグダラマリヤ 舞台エルサレム市街 口述日1923(大正12)年07月11日(旧05月28日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年10月16日 愛善世界社版71頁 八幡書店版第11輯 403頁 修補版 校定版71頁 普及版62頁 初版 ページ備考
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本文の文字数4739
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本文  ブラバーサ、マリヤ二人は又もやエルサレム市街を巡覧し始め、市内で一番重要なモニユーメントになつて居る聖セバルクル寺院を見るべく寺門を潜りぬ。
『聖師様、此お寺は聖キリスト様を磔刑に処した場所で、ゴルゴタ上に建てられてあるだと伝へられて居りますが、併し聖書に由つて考へてみると、ゴルゴタは市外部に存在して居なければ成らぬ筈です。若しも現在城壁が当時よりも拡張して居るもとすれば、問題にも成り得るでせうが、同一場所にありとすれば、ダマスカス外にある一見頭骸骨状目下墓地になつて居る岩丘を以て、ゴルゴタ地と認めなければ成らないと思ひますわ』
『吾々人間としては到底真偽は判りませぬ。大聖主が御降臨上御定めなさることでせう。時に、こ寺院由来を聞かして頂き度いもですな』
『こお寺由来を申せば、コンスタンチン帝命令に由つて発掘された結果、キリスト様埋葬され遊ばした洞窟が発見せられましたで、帝母上なる聖ヘレナ様がエルサレムに巡礼して来られ、爰でキリスト十字架を発見しられたで、弥こ地をゴルゴタ聖蹟と認めて、紀元三百三十六年初めてここに寺院を建立されたと云ふことですが、それを又六百十四年に波斯人ために焼亡ぼされた為、直に改築をされましたと云ふことです。そ後に於ても幾度となく破壊改築修繕等相次ぎ今日に至つただと聞いて居ります。一度お寺内部を拝観なさいませぬか。妾が御案内いたしますから』
『ハイ有難う』
とマリヤ後より寺内へ深く進み入る。
 寺院内へ這入つて見ると、迷宮様な構造で随分複雑して居て、加ふるに太陽光線が十分徹らない薄暗闇で、何んとなく寂しい感じがする。それぞれ手に蝋燭を携帯せなければ成らなくなつて居る。寺内空気は重くしめり勝で余り気分良い所ではない。敷石は全部湿気で濡れて居るため、ウカウカして居ると脚下が辷つて転倒せむとすること屡である。平和にして清潔なるもは寺院だと思つて居た高砂島明るい生活に馴れたブラバーサ心に取つては意外感じに襲はれ、危険がチクチクと身に迫る様に何となく不安雲に包まれにける。
 外ユダヤ人街から来るか、内部から発したか知らぬが、一種異様厭な臭気が襲つて来る。そして内部は凡てキリスト磔刑に関するあらゆる由緒ある場所に由つて充されて居て、何となく物悲しい寂しい感じを与へる。精霊が八衢を越えて地獄入口に達した時様な気分になつて来る。
 マリヤはブラバーサを顧みながら初めて口を開き、さも愁た気に、
『聖師様、こ長方形石はニコデモがキリスト様体に油布を以て捲くために御身体をせたと伝へられるもで御座います。これがヨセフ墓で此方がアリマヂエ墓で、そ少し向ふにあるはニコデモ墓で御座いますよ。そして彼所がキリスト復活された後母眼に現はれたまふたといふ聖所ですよ』
 キリストを刺した鎗、キリストを投入した牢獄、兵卒がキリスト衣をわかつた場所なぞ一々叮嚀に指し示すであつた。
『天下万民ために犠牲とお成り下さつた救世主御遺跡を拝観いたしまして、何とも言ひ得ない程私は御神徳を頂きました。何時世にも善人は俗悪世界人間から迫害されると云ふ事は古今一徹ですな。ルート・バハー大聖主も肉体こそ保存されて在りますが、精神的に牢獄に投げ込まれ銃剣にて突き刺され、あらゆる社会侮辱と嘲罵とを浴びせられ、且つ大悪人如く扱はれて居られますが、何うか一日も早く天晴れ世界人類が真救世主を認める様になつて欲しいもで御座いますよ。ツルク大聖主墓は官憲手に暴破れ聖壇は破壊され数多聖教徒は圧迫に堪へ兼ねて四方に離散し、今は純信な神に生命を捧げたもばかりが殉教的精神を以てウヅンバラ・チヤンダー聖主夫妻を唯一力と頼んで、天下万民ために熱烈なる信仰を続けて居るです。アヽ惟神霊幸倍坐世』
 マリヤは涙に暮れながら、聖師先に立つてキリスト十字架を建てた正確な地点や、聖母マリヤが十字架から降ろされたキリスト亡骸を受取つた場所を案内するであつた。是等地点には、それぞれそれに因んだ名を附したチヤペル(礼拝堂)が設けられありぬ。
『是がアダム墓で御座いますが、一番に聖地でも不思議と呼ばれて居ります。そしてキリスト聖き御血が岩裂れ目からそ頭に浸み込むや否や、こ原人アダムは忽ち蘇生したと言ひ伝へられて居るですよ』
と少しく怪し気に笑つて居る。
 ブラバーサは感慨無量思ひに充ちて一言も発せず、マリヤ後から心臓動悸を高め乍ら従いて行く。寺院方には聖ヘレナ礼拝堂が建つて居る。北神壇はキリストと共に十字架に釘付けられた一人悔改めたる盗人ために捧げられたもだと伝へて居る。主なる神壇は皇后聖ヘレナために捧げられたもと伝へられて居る。そ側面を地下へ十三段下つた処に、又十字架発見チヤペルが建てられて居る。茲に聖ヘレナが夢啓示に由つて三つ十字架を発見したと云ふ。
『聖ヘレナ様が夢啓示に由つて三つ十字架を発見されまして、爰にチヤペルをお建てになつたですが、そ発見された三つ内でも何れがキリスト架けられた十字架だか分らなかつたで、そこで一つ一つ大病人に触れさせて試みた所、そ一つが病人を癒したでそれをキリストとして保存されてあると云ふ事で御座います。そしてキリスト縛り付けられなさつた円柱が在るですが、併しそれは神壇奥に深く隠れて居るで容易に拝することは出来ないです。所がそ壁には丸い穴があいて居て、信心深い礼拝者はそこにおいてある摺子木様棒をそ穴に差し込み、そ円柱にふれて棒に接吻するです。サア是からキリスト様御墓を御案内申し上げませう』
とマリアは前導に立ちて奥へ奥へと進み入る。
 寺中央に独立した長方形大理石で造られたキリスト前についた。両人は恭敬礼拝稍久しふして救世主を追慕する念に打たれ、思はず知らず落涙して居る。沢山な古風を帯た燭灯に由つて照され、十八本柱から成つた円形建築中に置かれてある。そこに一人番僧が居て、
『良くこそ御参拝に成りました。どうかキリスト様御墓へ御賽銭をお上げ成さいませ。後生ため現世幸福ためで御座います』
と抜目なき言葉でお賽銭を強要して居る。
 ブラバーサは心内にて、
『アヽ聖キリスト様もお気毒だ。賤しき番僧等糊口種に使はれたまふか。世は実に澆季末法だなア』
と歎息しながら懐中を探つて少しばかり賽銭を墓前に捧げた。番僧は餓虎如く其場で賽銭を拾ひ上げ、懐中へ隠して了つた。
『こ寺院内各種チヤペルや墓や、神壇や其他寺内各部分、又は聖き墓を照して居るランプに至るまで、ギリシヤ・オルソドツクス及びローマ・カトリックや其他アルメニヤ派間にそれぞれ所有がきまつて居るです。それは此お寺ばかりでは無く、エルサレム内外に散在して居る宗教上由緒ある場所に付いても同様です。実に皮肉なアイロニーぢやありませぬか。そしてこお寺が彼有名な十字軍戦争目的物であつたです。「聖墓を記憶せよ」と声は、第二回十字軍出征に際して欧羅巴諸国町々や村落を通じて叫びだつたで御座います』
『欧州国々が聖墓を慕つて十字軍まで起した時代は、そ信仰も至つて熱烈なもだつた様ですが、今日では最早信仰も堕落して了つて物質的観念み盛んになつて来ました為に、斯る聖地聖蹟も余り世人に顧みられない様ですなア。時節には神も叶はぬとルート・バハー教にも示されて在りますが、一時も早く聖キリスト再臨されて聖地をして太古隆盛に復活させ、世界万民を安養浄土悦落に浴せしめ、キリスト恩恵を悟らせ度きもですなア』
『左様で御座います。妾加入して居ます聖団は只々キリスト・メシヤ再臨みを待つて居るです。一時も早く高砂島とやらに再誕されたメシヤ此地に再臨して下さる事が待ち遠しく成つて参りましたわ』
 是より両人は寺門を出て市街を歩行し初めた。肉屋や野菜物店や、其他土地にふさはしい物を売つて居る雑貨店等が、みつしりと軒を並べて居る狭いオリエルタルな通りを過ぎて所謂「苦痛路」へ出た。
『聖師様、ここは苦痛路と謂つてキリスト様がピラト宮殿からゴルゴタ地即ち今聖セバルクル迄歩ませられたと伝ふる旧蹟で御座います。そして此路上には十四地点が指定されてあります。サア是から一々御案内申しませう』
と前に立ちて進む。
 ブラバーサは「成る程成る程」とうなづき、趣味深く味はひながらついて行く。
『爰がキリスト様が磔刑宣告を受けたまふた悲しい場所で御座います。そ次が十字架を負はせ奉つた場所です。こ東側チヤペルを拝して御覧なさいませ。其時光景がチヤンと浮彫で以て現はしてあります』
と話しながらズンズンと歩みを進め、
『爰がキリスト様が母上様に会見遊ばした所で、熱烈な信徒立止まつて動かない地点で御座います。彼所に「此人を見よ」アーチが御座いませう。あれはピラト訊問を受けた後にキリスト様がユダヤ人群集前に引出され種々迫害と嘲罵とを受けたまふた所です』
と涙ぐまし気にそろそろと歩みながら、後ふり返つてはブラバーサ顔を見詰めて、
『イエス荊冕を被ぶり紫袍を着て外に出づ。ピラト彼等に曰ひけるは「見よ是人子也」と馬太伝に誌されてある事実で、キリスト様が二度目に倒れたまふた地点は爰だと云ふ事です。そしてキリスト様に従つて来たと話された地点は爰ですわ。こチヤペルにチヤンと彫込んであります』
と叮嚀親切に案内したりける。
    ○
 キリスト教偶像を以て飾られたる聖地エルサレムは、異教徒場合よりも勝つてブラバーサ心を痛めしめたは、後世僧侶輩が聖書に録されたる一々場所や由緒なぞを捏造して、巡礼者財布をねらつて居ることである。一寸見ると単純なる信仰発露だらうと、神直日大直日に見直し聞直し宣り直すことも吾々に採つては出来得ない事も無いが、一般信仰なき民衆やデモ基督教徒眼には却つて不快に感ずるもたる事を恐れたである。又後世僧侶や信者がそ内部的知識に空なるがため、外部に徴を求めむとして居る事嘆ずべき一つ証拠では有るまいか。アヽ後世まで唯一遺宝たる福音書中に彼れ自身姿を認め、それから霊泉を汲み得ること出来ない信徒等淋しさより、斯様な偶像を作り出してせめても慰安料にして居るでは有るまいか、なぞと又もや心内にて長大嘆息をして居る。
『聖師様、沢山偶像的事物を御覧になつて非常に嘆息されて居る様で御座いますが、何時世にも聖キリスト様は正しくは信仰され、又理解されなかつた様で御座います。キリスト様が迫害されなさつた当時と、今日とを問はず、世間から誤解されて居られます。そして普く世界から崇敬され玉ふ様になつた後世は真キリスト様では無くて人間が勝手にキリスト様に似せて作つた偶像を崇め、キリスト教そを信ずる代りに、それから流れ出づる美しい果実みを夫と誤認して了ひ、終にキリスト教は肝心精神を失ひ神教である代りにそれは良き意味に於てではありますが、地上幸福をもたらす手段と堕落して了つたで御座います。夫れゆゑ妾も此聖地が偶像みにて充たされ飾られ、真キリスト様を認識し得ない事矛盾を悲しむで御座います』
と悔やみながらマリヤは猶も市中を歩み続ける。
(大正一二・七・一一 旧五・二八 加藤明子録)
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