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文献名1霊界物語 第64巻上 山河草木 卯巻上
文献名2第2篇 聖地巡拝よみ(新仮名遣い)せいちじゅんぱい
文献名3第8章 自動車〔1637〕よみ(新仮名遣い)じどうしゃ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2017-11-25 18:22:21
あらすじ
主な人物ブラバーサ、マグダラマリヤ 舞台エルサレム市街近郊 口述日1923(大正12)年07月11日(旧05月28日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年10月16日 愛善世界社版90頁 八幡書店版第11輯 410頁 修補版 校定版90頁 普及版62頁 初版 ページ備考
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本文の文字数3854
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本文  マリヤはそ翌早朝から又もやブラバーサを訪問して、聖地エルサレム市街附近案内を為すべく、愴惶として僧院ホテルへやつて来た。ブラバーサも聖地附近様子を一応調査しておく必要もあり、高砂島故国へも報告せなくてはならないで、此婦人親切な案内振を非常に感謝誠意を以て迎へたである。マリヤもブラバーサ人格には非常に尊敬念を払つて居た。独身者マリヤに取つては実にブラバーサこそ唯一友であり力となりしなり。
 ブラバーサは今日も早朝からマリヤに導かれて、聖地巡覧にホテルを立ち出づる事となつた。ジヤツフア門外から出発する乗合自動車でベツレヘムに往復する事とした。自動車は土埃を立てながらゲヘンナ谷へと降つて行く。
 元はエルサレム西南にあつて、北はシオン山、南は岡で以て区画された深い細長い谷である。此処は昔ユダヤとベニヤミン族境になつて居て、ソロモン以後、ここで恐ろしい人犠牲が行はれたが、そ後は屍体や市汚穢物を捨る場所となつて了つたである。悪人運命に付けて、『ゲヘンナに投げ入れらるべし』と云はれて居るは即ち此処である。
 急がしく馳走しつつ自動車は高みになつた豊饒な平野を横ぎる。古い橄欖樹植わつた野や小丘である。道路は九十九折になつて、緩勾配坂道を上つて行く。左手遠方に前景ときはだつて違つた長い一列山脈が見える。そ深き所に、竹熊終焉所なる有名な死海が照つて居るである。
 自動車が小高い丘上に来たで、窓から首を出して眺めると死海面が強烈な太陽光を受けてキラキラと輝いて居るが見える。驢馬や駱駝に乗つた田舎人群が幾組ともなく通つて居る。
 自動車を丘上に停めて、ブラバーサとマリヤ二人は四方景色を瞰下しながら、沿道色々伝説や場所に就て問答を始め出した。
『マリヤ様、聖地附近色々歴史や伝説を聞かして頂きたいもですなア』
『こ上で四方を見晴らしながら、聖地案内物語も又一興だと思ひます。妾が記憶限り申上げませう。伝説や口碑と云ふもは随分間違つた事が多いもですから、万一間違つて居りましてもそれは妾責任では御座いませぬ。伝説や口碑が悪いですから』
『ハイ承知致しました。何分宜敷くお願ひいたしませう』
『有名なマヂ泉から発端として申上げます。マヂ泉は一名マリア泉と云つて居ます。そ由来は幼児キリストを拝すべく、星導きを便りに遥々と尋ねて来た東方博士等は爰まで来て其星を見失ひ、途方に暮れて居たところ、こ井戸水を汲み、疲労を癒やさむと立止まつた時に、案内に立つた星が泉水に反映して居るを見付け、歓喜に充たされて彼等は再びこれに従つて進んだでマヂ泉と称へられたと云ひます。第二名は聖なる家族がベツレヘム道に爰に息つたと想像される処から、マリア泉と称へられたと伝はつて居るで御座います。またこ丘を下る途中右側小石が無数に沢山ゴロ付いて居る小豆原が御座いますが、伝説に拠るとキリストが或時こ場所を御通りになると、一人野良男が畑で働いて居たで、キリストがお前は今何を蒔いて居るかと問はれたら、彼男は豆を蒔いて居ながら石を蒔いて居るだと答へた、それから後収穫時になつて彼男は豆代りに石ばかりを収穫しなければ成らなかつたと云ふ事で御座います』
『高砂島にも空海事蹟に就て石芋なぞ伝説もあります。凡て伝説と云ふもは古今東西相似多いは不可思議と云ふより外はありませぬ。何かこ小豆ケ原にも神秘的意味が含まれて在るかも知れませぬから、伝説だと云つて余り馬鹿にも成りますまい、アハヽヽヽ。時にマリア泉に映つた星は、高砂島に今日も現はれて玉水に影をうつし、万民罪穢を洗ひ清めて居られます。私はこマリア御話を聞いて何となく崇高偉大なる瑞御魂聖主俤が偲ばれてなりませぬわ。一度玉水を汲み取るもは、直ちに天国門に進み得る良い手蔓に取り付くことが出来るです』
『ウヅンバラチヤンダー聖主が一日も早くこ聖地に降臨されて、霊清水にかわいた吾々に生命恵みを与へ玉ふ日が待ち遠ほしく御座います』
『マリヤ様、有名なラケル墓は何れ方面に御座いますか』
『ラケル墓ですか。それはこ道端小さい近代的建築物でありますが、そこにヤコブが愛妻亡骸を葬つたと伝へられて居ります。それよりも美しい物語こつて居るはダビデ泉ですわ』
『そ美しい物語を拝聴いたしたいもですなア』
『或る時ダビデが敵軍に取り囲まれ、疲れ果てて彼故郷なるベツレヘム門外にある此清泉一杯水を渇望して止まなかつた。所が忠実なる部下一人がダビデ泉水を渇望して居る事を探知して、黙つて一人で出かけて非常なる危険を冒した後、漸く少しばかり水を汲んで帰つて来たです。ダビデは部下が自分に対する真心愛から、種々危険を賭してこ霊水を汲み得て帰つて来たそ辛苦を思ふて、そ水をば一介人間飲み物にするには余り勿体ないから神様供物にせむと、恭しく神に感謝を捧げた上、大地にそそいで了つたと云ひ伝へて居ります。信仰も其処まで行かないと駄目ですなア』
『信仰力は山嶽をも移すとか申しまして、世中に信仰心ほど強く清く且つ尊いもは有りませぬなア』
『左様です、信仰力ほど偉大なもは有りませぬわ。妾だつて三十坂を越え乍ら未だセリバシー生活に甘んじて居りますも、依然信仰心ためですも。ベツレヘム町が幾つも上に美しく位して居りますが、彼は世界に於ける最も小さきもとしられて居ります。併しながら妾は決して小さきもとは思ひませぬ。何故ならば信仰対照物いな御本尊なるエスキリストを、イスラエル民族みならず世界全人類救ひために主を産み出しましたからです』
『如何にも救世主を現はしたこパレスチナ聖地は偉大です。いな荘厳味が津々として湧くやうです。再臨キリストを出した綾聖地も亦、偉大と云はねばなりませぬわ』
『こ聖地には近代的教会やホスピースや僧院が諸所に沢山建つて居りまして、まだ古い古いユダヤ人街が彼方此方に残つて居りますで、妾はそこを通行する度毎にキリスト当時を偲ぶで御座います。アレ彼通り、往来真中に駱駝が呑気さうに寝そべつて噛みなほしをやつて居ます。サア是から車は止めにして、徐々テクル事に致しませうか。自動車で素通りばかり致しましても余り有益な見学にもなりませぬからなア』
 ブラバーサは何事も一切マリヤに任して居たで、言ふが儘にマリヤ後から従いて行くであつた。二人は後になり前になりしながら道を行くと、相貌良いユダヤ人に幾人も出逢ふた。
 ブラバーサは心中にて、
『成程イスラエル流れを汲んだユダヤ人は何処ともなしに気品高い、犯し難い処がある、是では神選民だと言つても余り過言では無い。吾身は名に負ふ高砂国から遥々出て来たもだが、神選民と称するユダヤ人気品高い所を見て、何だか俄にユダヤ人崇敬気分が頭を擡げて来さうだ。そして神独子と称するキリスト聖跡を尋ねて居る自分は、層一層神様より重大なる使命を与へられて居るやうだ』
と心に種々感想を抱いて居る。
『聖師様、聖地に於て第一番に見るべきもが御座います。それは聖誕場所に建てられたと称して居る「聖降誕寺院」です。是から其寺院へ拝観に参りませう。現今にては、ローマ・カトリックやギリシヤ・オルソドツクスやアルメニヤ教会分有になつて居ます。そして此寺院も昔にコンスタンチン帝が建立されたもだと云ふことです。そ当時は金銀や大理石もモザイツクで贅沢に飾られて居たさうです。今ではモザイツクが少しばかり残つて居りますが、妙に冷やかな荒廃した厭な感じを与へます』
と云ひながら、漸くにして寺門前に着いた。
 背低い、肩先までも届かぬ様な長方形入口を潜ると、コリント式カピタルを持つた十本づつ四列円柱が寺院内部を仕切つて居て、質素な様だが何となく荘厳な感じがする。こバシリクは実に現在に残つて居るキリスト教建築物中では最も古きもだらうと謂はれて居るである。大神壇下には聖誕洞窟があつて、チヤペルに造られ三十二箇小さいランプで薄暗く照らされてゐる。誕生地点は神壇下に大理石を据ゑ、其上を銀浮彫でキリスト聖誕地と云ふ事が録されてある。こ地点は聖地における他何れ場所よりもズツと古くして、最も信憑に足ると云ふことである。何故なればこ場所は紀元前四世紀頃に生きて居た聖ジエロームよりも、二百年以上も前から既にキリスト教徒によつて非常に畏敬されて居たからである。
 其他寺院地下には色々な由緒を附したチヤペルが散在してゐる。馬槽チヤペルもそ一つである。そ馬槽は大理石で立派なもが出来て居るが、幼児キリストがそ中に置かれたマヂ礼拝神壇──幼児チヤペル──そ場所へ母達が隠しておいた幼児をヘロデが殺さしめた聖ヨセフチヤペル──そ場所で彼がエヂプトに避難せよと啓示を受けた。そ他聖ジエローム住居であつた所に設けられたジエロームチヤペル、及び岩中に掘られたこ聖者墓などが黙然として三千年昔を物語り居るなり。
(大正一二・七・一一 旧五・二八 加藤明子録)
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