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文献名1霊界物語 第64巻上 山河草木 卯巻上
文献名2第4篇 遠近不二よみ(新仮名遣い)えんきんふじ
文献名3第17章 強請〔1646〕よみ(新仮名遣い)ゆすり
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-05-24 12:07:26
あらすじ
主な人物ブラバーサ、テク、トンク、ツーロ 舞台シオン山谷間ブラバーサ隠れ家 口述日1923(大正12)年07月13日(旧05月30日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年10月16日 愛善世界社版203頁 八幡書店版第11輯 453頁 修補版 校定版203頁 普及版62頁 初版 ページ備考
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本文  シオン山谷間に草庵を結んで、恋鋭鋒を避けて居たブラバーサ隠家へ慌だしくやつて来たは三人アラブである。ブラバーサは橄欖山上に於て、ゆくりなくもマリヤ愛情に絆され、自分も何時間にやら恋虜となり、夫婦約束をしたも、今となつて考へてみれば、何とはなしに重罪を犯したやうな心持がして来出した。……あゝなぜ私は之丈愚昧だらう。一度ならず二度迄も恋誘惑におち、はるばる聖地から万里海を渡りてここ迄来乍ら、かやうなことで何うして神様に申訳が立たう。又ルートバハー教主に対しても言訳がない。困つたことになつたもだ。……と朝早うから草庵中に端座して悔悟涙にくれてゐた。そこへ三人アラブが柴戸押あけドヤドヤと入来り、
テク『ヤ、お早う。わつちは何時も橄欖山シオン大学工事に使はれてゐるアラブだが、夜前一寸面白いことを吾々三人が見たで御相談に参りやした』
『して又あなた方が私草庵を訪ねて下さつたは、何か変つたことが御座いますかな』
『ヘン、トボケまいぞ。夕べ活劇は何うだい。誰も知らぬかと思つてゐても、天知る地知ると言つて、チヤンと吾々三人さま耳につつぬけるほど響いただ。イヤ耳ばかりでない、此二つ黒い眼で、作事場隅から覗いておいただ。二組男女が随分立派な活劇をやつたでせう。之でも違ひますかな』
『之は聊か迷惑、拙者は此草庵よりここ二三日、一歩も出たこともありませぬ。ソリヤ大方何か間違ひでせう』
と聞くよりトンクは、
『ヘン、馬鹿にするない。おれは聾でも盲でもないぞ。お前も日出島からやつて来たルートバハー宣伝使だといふことだが、宣伝使はウソを云つて可いか。此聖地へ各国人々が出て来てるが、ウソをつく奴アお前ばかりだ。お前は日出島代表者とも認めらるべき者だ。其代表者が嘘つきとあれば日出島人間は一体に嘘つきと定つて了ふが夫れでも可いか。キリスト再臨に間もなき今日、嘘を云ふ国民は世界連盟から排斥され、今迄ユダヤ人様に放浪民とならねばならないぞ。しつかり性念を据ゑ、本当事を云つたら何うだ。お前一人嘘が日出島全体嘘になるだ。ここには都新聞も聖地新報も亦回々教新聞も発刊されてゐるから、俺達が記者に会うて夕べ実状を喋らうもなら、汝は此処に居るこた出来ないだ。ユダヤ女をチヨロまかしやがつて……ユダヤ人全体敵としてハリツケに会はなならぬが、それでも可いか。汝出様によつて此方にも考へがある、サアどうだ。判然と返答を聞かして貰はうかい』
『此奴ア近頃迷惑至りだ。拙者はソンナ覚は決して御座らぬ』
『馬鹿云ふない。汝が隠したつて駄目だ。サロメにもヤコブにもチヤンとテクが調べ上げて来てあるだ。グヅグヅしてると、四人奴ア、ユダヤ人怨府となつて、忽ち寂滅為楽運命に陥るが、それが可哀相だと思つて、おれ達三人が談判に来ただ』
『何うすれば可いと云ふだ』
『ザマア見やがれ、ヤツパリ覚があるだらう。汝命とつり替へ一万両、ここへオツぽり出せ。さうすりやおれ達や沈黙を守つてやる。俺達三人外にやお月さまより見たもはないだから、お月さまが仰有らぬ限り分る気遣はない。こんな事を都新聞記者にでも話さうもなら、二万両や三万両報酬を呉れるに違ひない。何しろ一方はルートバハー宣伝使、一方は貴族娘サロメさまといふだからな……何しろ可い金儲種を見つけたもだ。イヒヽヽヽ』
『ナアニ、一万両到底ソンナことは出来ない、アヽそこは世界同胞よしみで、一封包むことにして辛抱して呉れ。又何か……埋合せをすることもあらうから……』
『一封だと云つても、一銭でも一封だ。十千万両でも一封だ。一封なら一封で可いからいくらと云ふ事を表へ現はして貰はうかい』
 ツーロは、
『オイ、テク、さう尻から火ついたやうに喧しく云はなくても可いワ。何と云つてもサロメ、マリヤといふ別嬪を自由自在に翻弄するといふ抜目ない宣伝使だから、そこは俺達潰れるよなことはなさる筈はない。マア聖師意志に任す方が可からうぞ』
『ソンナラ、お任せせう。テクつぶれないやうに頼みますぜ』
 ブラバーサは是非なく百円を包んで、前につき出し、
『サア之で辛抱してくれ。おれも災難だ。別に自分方から恋したでもなし、自然成行であやうな災難に会うただから……』
 テクは其包を受取り、
『成る程エライ災難に会うたもだなア。俺達もアンナ災難に幾度も会うてみたいもだワイ……モシモシ聖師さま……エー一寸ここで中をあらためて見ましても宜しいだらうな』
『どうぞ御勝手に開いて下さい』
 テクは包をほどいて見て、ふくれ面、
『エーツ、馬鹿にするない。たつた百両位な目くされ金に誰がコンナイヤな事を云うて来るもかい』
と言ひ乍ら其場にブツつけたり。
『大切なお金、必要がなければ元へ納めておきませう』
と手早く拾うて懐に入れる。トンクは、
『オイ、テク、ツーロ、コンナ奴に相手になつて居つても駄目だ。命より金が惜いとみえるワイ。モウ構ふことはない、都新聞へ行つてドツサリと褒美を貰うて来う。此奴とあと三人には気毒だが自業自得だから仕方があるまいサア帰らう』
 ツーロは二人に向ひ、
『オイ、一寸待て。おれ達は金よなもが目的だない。夫れよりもマリヤを此方へ渡してさへ貰へば可いだ、……オイ先生、一万両代りにチツと高いけれどマリヤを此方へ渡すといふ証文を書いて貰はうかい。無い懐をしぼつて出すよりも、お前もそれ方が可いだらう』
『マリヤは拙者女ではない。又仮令自分女房にした所で、彼意志を無視してお前達にやるといふ訳には行くまい、マア二三日考へさしてくれ』
『ヘン何をぬかしやがるだい。マリヤをとらうと取ろまいとテク勝手だよ。こないだも橄欖山上でマリヤを物にせうとしてる所へ、汝がせうもない事吐しやがるもだから、役人が来たと思つて逃たが後で汝と分り、歯がみをしただ。オイ兄弟、此奴を縛りシオン谷へ葬つて了へば、マリヤは此方者だ。サアやつて了へ一イ二ウ三ツだ』
『ヨーシ来た』
と両人は手ンでに棍棒を打振りブラバーサに打つてかかる。ブラバーサは一生懸命に神言を奏上した。三人は其言霊に打たれ、『エー此奴ア大変だ』とこけつ転びつ先を争ひ逃げ散りて行く。
(大正一二・七・一三 旧五・三〇 松村真澄録)
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