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文献名1霊界物語 第64巻上 山河草木 卯巻上
文献名2第5篇 山河異涯よみ(新仮名遣い)さんがいがい
文献名3第25章 地図面〔1654〕よみ(新仮名遣い)あとらすめん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2017-11-26 00:23:50
あらすじ
主な人物虎嶋寅子、守宮別、曲彦、菖蒲お花、マグダラマリヤ 舞台僧院ホテルお寅部屋、アメリカンコロニー 口述日1923(大正12)年07月13日(旧05月30日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年10月16日 愛善世界社版274頁 八幡書店版第11輯 479頁 修補版 校定版276頁 普及版62頁 初版 ページ備考
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本文  守宮別は酔がまはるにつれて一人ようがつて何もかも打忘れ、喋り出したり。
『おい、高姫再来お寅さま、真黒々姫再来お花さま、曲彦再来、ヤツパリ曲彦さま、どうだい。ちつとビールでも飲んで浮く気はないか。エー、何だ、青い青い顔して心配さうに。酒飲めば何時も心が春めきて、借金取も鶯声。酒位笑顔よいもはないわ。土堤ぎり、ここで散財やつたらどうだい。自分だけ飲んでも糞面白くもないわい。チヤンダーをソレ……○○へ押込んだ時、住江神社へ詣つて茶屋で祝ひ酒を飲んだ時やうに、一つはしやがぬかい。お寅さまとお花さま、お前さまも日出島で、玉照彦様、玉照姫様御結婚後でチヤンダーが、調べられてゐる留守間にでもやつたぢやないか。あ時位愉快事はなかつたさうぢや。運悪く俺はそ時アよう行かなかつたけれど、お寅さま話に一寸聞いた。どうだ、一つ此処でそ気分になつて、やらうぢやないか』
『コレ、お寅さま、どうしませうか。肝腎通弁が、こんな態では、私等はどうする事も出来ぬぢやありませぬか。一層事シオン山とかへ行つて、ブラバーサに会つて来た方が近道かも知れませぬぜ』
『そりやいけませぬ。神が一言申したら何時になつても変らぬと仰有るだから、人民が勝手に予定を変更する事は大変なお気障りですよ』
『だと云つて、守宮別酔が覚めるをまつて居れば何時になるか知れませぬわ』
『アハヽヽヽヽ駄目だよ駄目だよ、此新聞を見ても分つてるぢやないか。ブラバーサ信用と云ふもは大したもだ。到底之を転覆させる訳には行きますまい。又スバール博士もお前さまを偽救世主と云つてゐたから、何程シヤチになつても、アキませぬわい。それだから、ヤケ糞になつてビールを飲んでゐるだ。オイ曲彦、貴様も飲めぬ口ではなし、一つ飲んだらどうだい。エー、訓狐と云ふ獣は、夜になると微塵虫でも見えるが、白昼になると目がくらむで大山さへ見ることが出来ぬと云ふ奴だが、お寅さまは何といつても金毛九尾訓狐さまだから駄目だよ。もういい加減に思ひきつたらどうだ』
と悪胴を据ゑて、ぐぜり出した。お寅はいろいろとすかしなだめつ、守宮別手を引張つて町外れアメリカンコロニーさして訪ね行く事となつた。行歩蹣跚として大道狭しと二人に両手を引かれ、漸くコロニー門口まで着いた。数多老若男女は怪訝な顔して見つめてゐる。守宮別は、
『エー御免なさい。拙者は日出島から救世主日出神お供をして、ここ迄やつて来た者で御座います。ここには天下無双ナイス、マリヤさまと云ふ方がゐられますかな。そして色男ヤコブさまといふ方が見えてゐるやうに今日都新聞で承はりましたが、御在宅ならば一寸会はして貰ひ度いもです』
 マリヤは門口騒々しいに、何事ならむと立出で見れば見慣れぬ四人男女が門口に立つて何事か囁いてゐる。マリヤはブラバーサに会つて余程日出島言葉を覚えてゐた。それ故大体意味は分るやうになつてゐた。
『貴方は何処からおいでになりました?支那からですか?朝鮮からですか?お見受け申しますと、よほど遠方方と見えますが』
 お寅は肩を聳やかし乍ら、稍反身になり、
『妾は日下開山、日出島小北山聖場に天降つた日出神生宮、底津岩根大弥勒様化身で御座いますよ。貴方達は日出島から救世主が此聖地へ降るといつて何十年も待つてゐられるさうですが、そ救世主と云ふは此肉宮ですから、そ積で居つて下さいや。そしてお前さまは、あ身魂曇つたブラバーサと云ふ男を大変信用してゐられるさうだが、あ男はバチ者ですよ。うつかり相手にならうもならドエライ事になりますよ。女殺し後家倒しと名をとつた悪性男ですからな。今日も新聞で見ますれば勿体ない……橄欖山上で何か芝居をなさつたさうですが、ようもあド倒し者と、阿呆らしい事をなさいますな。オツホヽヽヽヽ』
 マリヤはムツとして稍顔色を変へ乍ら、
『放つといて下さいませ。ブラバーサ様は貴女やうな偽救主ぢやありませぬよ。今日新聞を御覧になつたでせう。あんな聖人君子はメツタにありませぬわいな』
『えらう又、御贔屓ですな。大方性悪い男だから、世間見ずお前さまを○○したぢやありますまいかな。あゝあ不品行奴が来るから日出島名誉に関する事をしてるかも知れない。コレ守宮別さま、お前さま、どう思ひますか』
『どうも思ひませぬわい。ラブ・イズ・ベスト流行る世中だからな』
『それ又、何故ソンナ怪体な事を云ひますか。もう、チーチーパーパーは止めて下さい。外国魂マリヤさまでさへも、妾等に分る言葉を使つてるぢやないか。それだからいろは四十八文字で通用すると、変性男子お筆に出てゐるですよ。スバール博士なんて、つまらぬ事を云つていろは四十八文字が分らぬかいな。本当に学者といふもは訳分らぬもだわい。コレ、ブラバーサをここに隠してあるでせう。うまい事、シオン山麓に居る等と新聞に書かしたでせう。新聞に何程よく書いたとて、アテになりますかい。握らせさへすれば、よく書きますよ。今人間は皆新聞に騙されてゐるだからな』
『それでも新聞は社会耳目といひますからね。間違はありますまい』
『さあ、社会耳目だから、いかぬだよ。今日社会奴等耳や目は皆、死んだも同然だ。目があつても誠が見えず、耳があつても誠が聞えず、善が悪に見えたり聞えたり、悪が善に見えたり聞えたりするだから新聞記事なんか、アテになりますかい。そんな事いはずにトツトと出して下さい。グヅグヅしてゐると日出神生宮が踏み込んで家探しを致しますぞや』
 守宮別はヒヨロヒヨロし乍ら、
『もうお寅さま、去にませうかい。駄目ですよ。どうも、ここにや居りさうにありませぬわい。それよりもホテルへ帰つてユツクリと一杯やりませう。こんな処へ立つて談判してるも、気がきかぬぢやありませぬか。エー、グー、ウーウーあゝ苦しい苦しい、何と因果な婆アさまだらうかな。宿屋に居れば皆が慕つて来るにな。あゝ一も取らず二も取らずだ。あゝ苦しい苦しい、こんな事して一人後を追はねばならぬとは困つた事だな』
 マリヤは眉毛を逆立て、
『エ、お寅さまとやら、お前さまはブラバーサさまレコですか、それで遥々と後追つて来たでせう。何とブラバーサさまも年とつたレコを持たれたもだな。エーエ、妾も今迄騙されてゐたか、クヽヽヽ口惜しい!トツトと去んで下され』
『ホヽヽヽヽ阿呆らしい、誰があんな四足魂後追ふて、惚て来る奴がありませうか。私には済みませぬが守宮別……オツトドツコイ虎島久之助と云ふ大将軍様と云ふ立派な肉宮が御座いますぞや。ヘン、馬鹿にして下さるなや。ネーお花さま、貴女も一寸証明して下さいな』
『もしマリヤさま、初めてお目にかかります。私が今度日出神お伴して来たは決してブラバーサさまを慕ふて来たぢやないから安心して下さい。然し一度会ふて話しせねばならぬ事があるで来たですよ。ブラバーサは何と云つてるか知りませぬが、あ男はウヅンバラチヤンダーと云ふ濁つた魂教を受けた枉魂ですから、何云ふか分りませぬ。あんな男云ふ事を本当にしてゐれば、世間に顔出しが出来ぬ様になりますよ。一寸老婆心乍ら忠告して置きます。本当救世主は今ここに居る底津岩根大弥勒さまですよ。ようお顔を拝んで御覧なさい。どこともなしに違つて居りませうがな』
『ホヽヽヽヽホンに違つた所がありますわ。アトラス様な……お顔に縦横皺がよつて宛然地球儀様で御座いますわ』
『マリヤさま、お前さまは余程身魂が研けて居りますな。私顔が地球儀に見えますかな。あ、さうでせうとも、全地球を救済する底津岩根大弥勒ですもね。それだけ身魂が研けて居れば神政成就太柱になれますぞや』
と、自分顔を地球儀と悪口云はれて居り乍らも善意に解したは面白い。
『これお寅さま、此女はお前さま悪口を云つたですよ。チツト怒りなさらぬかいな』
『それでもオトラス顔と云ふたぢやないか。オトラス顔は地球儀様だと仰有つたは地球一般に顔がうれると云ふ謎ですよ。何事も善意に解さなくては駄目ですぞや』
 曲彦は吹き出し、
『アツハヽヽヽ』
 お寅は、
『これこれ曲やん、何を笑ふだい。チツト、たしなまぬかいな』
 曲彦は又もこらへ切れず吹き出し、
『アハヽヽヽヽイヒヽヽヽヽ』
 守宮別も又、
『ウツフヽヽヽヽエヘヽヽヽヽ』
 マリヤは呆れて、
『ホヽヽヽヽ何とまア、よう訳分らぬ救世主だ事、定めて聖地人々は尊敬されるでせう。左様なら、又来て下さいませと申上げたいが……二度と来て下さいますなや』
とピシヤツと戸を締め中から突張をかけて奥へ姿をかくしたりけり。
 四人は是非なくブツブツ小言を云ひ乍ら、ヨルダン川チヤーチを指して尋ね行く。
(大正一二・七・一三 旧五・三〇 北村隆光録)
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