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文献名1霊界物語 第64巻下 山河草木 卯巻下
文献名2第1篇 復活転活よみ(新仮名遣い)ふっかつてんかつ
文献名3第2章 逆襲〔1808〕よみ(新仮名遣い)ぎゃくしゅう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2018-03-17 15:39:56
あらすじ
主な人物ブラバーサ、マグダラマリヤ、菖蒲お花 舞台エルサレム街路、お寅アジト「御霊城」(トルコ亭という茶屋裏座敷) 口述日1925(大正14)年08月19日(旧06月30日) 口述場所丹後由良 秋田別荘 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年11月7日 愛善世界社版25頁 八幡書店版第11輯 504頁 修補版 校定版25頁 普及版 初版 ページ備考
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本文  ブラバーサは僧院ホテル祝祭は無事に済んだが、同じ日出島から出て来たお寅や守宮別が、乱暴極まるアラブに掻攫はれ行衛不明となつたで、「人情上、捨ておく訳にも行くまい。あく迄彼を探し出し救けねばなるまい」とマリヤと相談上、十二日月光を浴び乍ら、夜十二時頃からエルサレム町をうろつき初めた。
 市街十字路、キラキラと瓦斯灯きらめく側に皺苦茶婆が立つて、
『三千世界救世主、日出生宮所在は何処ぞ、亡びむとするエルサレム民よ、早く目を覚ませ。天来救世主在処を求めよ』
と叫んでゐる。神都雑音は愈ふくれ広まつた。荒々しい獣やうに行人目先を掠めて、夜分とは云ひ乍ら左右に黄色い砂塵に包まれた電車や、プーと不愉快な警笛をならし、最後屁を放り乍ら自動車が入り乱れて走り交ふ。どうしたもかエルサレム市中は俄に電燈が消えて、闇凝が天から落ちて来た。ブラバーサもマリヤも街路に佇立し、一心不乱に祈り初めた。
 電車も自動車も馬車も一時に運転を中止し、水を打つたる如く俄に静寂となつた。パツと一時に電燈がついた。家々大飾り窓に火がつくと、ここに佇んでゐた二人は俄に見分けつかなかつた黒暗凝にとけて、そ面相が判然として来た。よくよく見れば一人婆アさまはあやめお花であつた。お花は俯向いてシクシクと泣いてゐる。ブラバーサはツカツカと側により、
『ヤア、貴女はお花さまぢやありませぬか。お寅さまは、どこに行かれたか御存じではありませぬか』
『ハイ、所在が分るやうな事なら、コンナ処に誰が阿呆らしい、立つて居りますか』
『大変な御立腹ですな。実は私もマリヤさまと相談して、同じ日出島同胞でもあり、打ちやつておく訳にも行かぬからウロウロと尋ねて居るですよ』
『それはどうも御親切ありがとう』
と腮をつき出す、そ面憎さ。電燈火に二つ目が異様にぎらついて居る。
『誠に思はぬ御災難で厶いまして、あトンク、テク、ツーロと云ふ奴、実に仕方ない、アラブですよ。妾がいつぞや橄欖山に行きました際、危なく手込めにしようとするを、こブラバーサさまに救けられたですよ。実に険呑な人物ですから油断はなりませぬワ』
『ハイ、御親切に有難う。そ又悪い奴をお使ひ遊ばす、貴方等御腕前、感じ入りました。ようマア企みたもですわい、ウフヽヽヽ』
と又もや腮を二三寸つき出して見せる。
『お花さま、貴女は、吾々に何か疑をかけてゐらつしやるやうですが、吾々は迷惑に存じます。こ通り電車や自動車往来が多いで険呑でもあり、通行係がやつて来てゴタゴタ云はれるもつまりませぬし、何処か座敷でも借つてトツクリと御相談でもしませうか』
 お花はブラバーサがアラブを予め頼んでおいて、お寅をさらへさしたに違ひない、何れこ二人をとつちめて白状させた方が近道だと思つたか、俄に顔色を和らげ、
『ハイ、さう願へば結構で厶いますな。何と云つても、きつてもきれぬ同胞ですから、海洋万里を渡つて異境空に神様ために働いてゐるもですから、かやうな時は常は常として、親切を尽すが神様に対して孝行と云ふも、つきましては、私が常日頃心安くしてゐる茶屋がありますから、それへ参りませう。さア私について来て下さいませ』
と早くも南方を指して二三丁許り細い路地を潜つてトルコ亭と云ふ茶屋裏座敷へ案内した。ブラバーサとマリヤは黙つてお花後について行くと、ここはお寅が宣伝巣窟と見えて大きな看板がかかつてゐる。
『三千世界救世主、大弥勒生宮、日出神御霊城』
と筆太に掲げてある。さうして神殿には日掛軸が只一つブラ下てある。
『ヤアこれはこれは大弥勒様御霊城で厶いますか。私も永らくエルサレムに居りますが、こんな霊城が出来て居ると云ふ事は今日初めて覚りました』
『ホヽヽヽヽ、貴方も比較的ウツカリしてゐられますね。ポーランド人、トルコ人、ユダヤ人等が日々沢山に大弥勒さま教を聞きに参りますよ。貴方は一体信者が幾人許り出来ましたか、到底大弥勒さまには叶ひますまいがな』
『ナル程私如きは到底お側へも寄れませぬ。然し乍らあまり、さうエルサレム町では評判になつてゐないやうですが』
『そらさうでせうとも、……灯台下は真暗がり。遠国から分つて来る……と神様が仰有つたでせう。遠く海を隔て、エジプト、フランス、トルコ、伊太利等から日々数珠つなぎに昼は参拝者が厶いますよ。何と云つても大弥勒さま御名は世界に響いて居りますからな』
『ヘー、そりや感心だ。水清うして魚すまずとか云つて、ヤツパリ濁つて居らねばいかぬかいな。私も一つ方針をかへようかな。今迄方針はあまり清らかで効果が却てうすいだらう、なあマリヤさま』
『さうで厶いますな。あまり清浄潔白な誠許りをお説きになるもだから、魚鱗が寄つて来ないでせう、貴方も之から少し許り方針をお変へなさるが宜しいでせう。アメリカンコロニーでも、あまり教が清いもだから、却て発展して居りませぬわ。四十年もかかつてまだ百人位ほか出来ないですからな』
『マアマアおかけなさいませ、立話は足がしびれます』
と籐椅子をあてがい、丸い机を真中において三人は鼎座となつた。お花は二人に茶を汲み乍ら、
『今ブラバーサさま仰有る事を聞けば、濁つて居るから人が寄ると仰有つたが、日出神お寅さまは、清浄潔白ですよ。水晶身魂ですから、何処から何処迄澄んで居りますよ。世中が濁つてゐるから清めに来られたですよ。貴方も、ソレ橄欖山上でマリヤさまと云々されるやうな事で、どうして神業が発展しますか。よう考へて御覧なさいよ、国許には奥さまや娘さまもあるぢやありませぬか。そ奥さまや娘さまは朝晩水をかぶつて無事に神業をつとめて過失ないやうにと祈つてゐるに、処もあらうに橄欖山で天消地滅乱痴気騒ぎを遊ばすだから、イヤモウ、そ凄い腕前には、いかな守宮別さまだつて舌をまいてゐられますわい。オホヽヽヽ、イヤ之は失礼、どうかお気にさへて下さいますなや』
『お花さま、人事を云はうと思へば、吾頭蜂から払うてかからねばなりますまい。お寅さまだつて国には大将軍と云ふ立派な立派な夫があり、お子達も沢山あるぢやありませぬか。それに何ぞや守宮別さまとエルサレム三界迄手に手をとつてお越しになり、人目がだるいやうな事迄チヨイチヨイなさいますではありませぬか。こ事はエルサレムで誰一人知らぬもは厶いませぬよ』
『ホヽヽヽヽ、神界分らぬ人はそれだから困ると云ふだ。お寅さまと守宮別さまは切るに切られぬ神界御因縁があつて、ああしてゐられるですよ。俗人身として、どうして深遠微妙なる神界御経綸が分りますか。アレとコレとはてんで根本問題が違つてゐますよ。そ理由は、到底一朝一夕にはお前さま腹には入りますまいが、せめて三週間なりと、弁当持でお通ひなさい。先づ此問題から解決せねば貴方等得心が行きますまい。そ代りこ因縁が分つたら、いかなる鬼大蛇でも、改心してアフンとして開いた口がすぼまりませぬぞよ、ビツクリして暈来る大問題ですよ。それはそれは深い深い広い、先分らぬ三千世界お経綸ですも
と得意気に云ふ。
『それは又ユツクリ承はる事としまして、ブラバーサとしては焦眉問題としてお寅さま所在を探さねばなりますまい。お花さま、何か心当りが厶いませうかな』
『ヘンよう仰有いますわい。それは私方からお尋ねしたいと思つてゐましたよ。同じ日出島同胞ぢやありませぬか、そんな腹悪い白々しい、トボケ面せずに、アアした、コウしたとアツサリ仰有つたらどうですか、あまり罪が深う厶いますよ』
『之は近頃迷惑千万、貴女お口からかやうなお言葉を聞かうとは夢想だに致しませぬでした』
『私もアヤメお花と云つて難波里に於ては海千山千河千と云はれた女弁護士ですよ。チヤンと顔色を一目見たら、お前さま中が皆分るだから、サア、キツパリと白状しなさい。お寅さまが演説邪魔したら、かつさらへて、どつかへつれて行つてくれと金百両もアラブに与へて置いて生捕つたでせう。そんな事ア、チヤンとこお花天眼通に映じて居りますわいな』
 マリヤは息をはずませ乍ら、
『お花さま、そら、あまりぢや厶いませぬか。聖師さまは、そんな腹悪い方ぢやありませぬよ』
『おだまりなさい。好きな男御贔屓をなさつても私前では通用しませぬよ。二人がコツソリと心を合し、大それた大陰謀を企らみ乍ら、知らぬ顔半兵衛で私処で狐七化け、狸八化式に親切ごかしに人腹を探らうとヤツて来ても、尻尾が直に見えますから駄目ですよ。あマア迷惑さうな顔わいう』
『マリヤさま、もう帰りませう。到底こお花さまには、話が出来ませぬわい』
『コリヤコリヤ、マリヤ、ブランコ両人、尻こそばゆくなつて逃げ出すつもりか知らぬが、さうはさせませぬぞや。チヤンと警察署へ届けておいたから、待つて下さい。今に高等係がやつて来て、お前を拘引するだらう。さうすりや否でも応でも白状せねばなりますまい。そんな処で恥をかくよりも、ソツとアツサリ私前で白状しなさい。さうすりや警察へは私方から間違ひだつたと、願ひ下げをしてやるから、どうせ嫌疑かかつたお前さまだから、逃れつこはありませぬよ。フツフヽヽヽヽ。身から出た錆、己が刀で己が首、自縄自縛とはお前さま等今日場合だ。ようマアそんな心になれたもだと思へば可愛相になつて来たわいう、オーンオーンオーン』
と泣き真似し乍ら、ソツと目に唾をつける。そ、狡猾さ。酢でも、蒟蒻でも挺にも棒にも大砲でも行かぬ代物である。ブラバーサは『此方方から誣告を訴へる』と云ひ乍ら、憤然として立上り、細い路地を潜つてマリヤと共に大道をまつしぐらに己が草庵さして帰り行く。
(大正一四・八・一九 旧六・三〇 於由良海岸 北村隆光録)
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