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文献名1霊界物語 第65巻 山河草木 辰
文献名2第1篇 盗風賊雨よみ(新仮名遣い)とうふうぞくう
文献名3第5章 独許貧〔1661〕よみ(新仮名遣い)とっきょひん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2018-07-15 10:29:10
あらすじ
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年07月15日(旧06月2日) 口述場所祥雲閣 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年4月14日 愛善世界社版61頁 八幡書店版第11輯 632頁 修補版 校定版63頁 普及版30頁 初版 ページ備考
OBC rm6505
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本文 伊太彦『吾師君に相別れ  ハルセイ山をスタスタと
 登りつめたる折もあれ  木花姫御化身に
 吾魂を試されて  ここに悔悟花開き
 身魂に芳香薫じつつ  蓮匂ふ野を
 あてどもなしに進み来る  山又山谷間を
 神御稜威を杖となし  力となして漸くに
 ハルセイ沼辺まで  来りて見れば虎熊
 山雲表に聳え立ち  雲に被はれ居る中ゆ
 音に名高き噴火口  天を焦せる凄じさ
 吾師君は今いづこ  ブラヷーダ姫は嘸や嘸
 行く手になやみ足痛め  苦しみ艱む事だらう
 魔神猛る月国  もし悪者に捕らへられ
 身も世もあられぬ苦みに  会ふてゐるぢやあるまいか
 心せいか知らねども  何だか胸が騒がしく
 不安空気が襲ふて来た  あゝ惟神々々
 皇大神御威徳に  繊弱き女一人旅
 いと安らけく平けく  神あれますエルサレム
 貴都へ送りませ  吾は男身にしあれば
 如何なる艱難も枉神も  少しも恐れず進み行く
 デビス姫やブラヷーダ  二人身魂が気にかかり
 進みかねたる膝栗毛  神司となりし身は
 実に断腸思ひをば  幾度となく嘗めて行く
 実に味気なき人世と  朝な夕なに愚痴こぼす
 伊太彦司過ちを  直日に見直し聞直し
 詔直しつつ許しませ  雲霧深き虎熊
 麓を進む森林地  猛獣毒蛇は云ふも更
 心汚き盗人  頻りに出没すると聞く
 心もとなき吾旅路  守らせ給へ三五
 神瑞御霊  神素盞嗚大御神
 此世大御祖  国治立大神
 貴御前に願ぎ奉る  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  仮令大地は沈むとも
 誠力は世を救ふ  誠力は世を救ふ
 誠一つ宣伝使  神教を蒙りて
 進まむ道に枉神  妨害らむ筈はなけれども
 どうしたもか近頃は  姫上気にかかる
 あゝ惟神々々  御霊恩頼を給へかし
 此世を造りし神直日  心も広き大直日
 直日に見直し詔直し  勇気を鼓して虎熊
 魔神猛ぶ山坂を  吾は淋しく進み行く』
と歌ひ乍ら密林小径を、スタスタ登つて来るは、伊太彦司であつた。
 道傍に又もや二人男が、ヒソビソ話に耽つて居る。
エム『オイ、タツ、お前もいい加減に、トランスを止めたらどうだ』
タツ『ヘン、そりや何を云ふだ。貴様だつてトランスぢやないか。豆腐屋は豆腐を造つて売り、酒屋は酒を造つて売り、泥棒は人懐を狙つて自分懐を肥やすが商売だ。此世中は自分商売に、勉強せなくちやならないよ。税金要らぬ資本要らぬ、こんないい商売があるか』
エム『一寸聞くとボロい商売様だが、一月に一度か二度、収入があつても、大部分は親方に取られ、食ふや食はずで戦々恟々と此広い世中を狭く暮すと云ふ詮らぬ事はないぢやないか。俺等は元はバラモン軍人だから、泥棒も面白いと思ひ又人を殺すも何とも思はなかつたが、あ虎熊山セール、元親分鬼春別将軍様が比丘姿となり、法螺を吹いておいで遊ばすに出会ひ、結構な話を聞いて改心した処だ。ところが俺相棒タールと云ふ奴、どこ迄も悪を立通すと云ひやがるもだから、袂を別ちてここ迄来ただ。すると此処迄来ると、お前が居るで、俺は神様に救はれただから、お前も善人にしてやり度いと思つて意見するだから、些と身を入れて聞いてくれ。決して悪い事は云はぬだからな』
タツ『ウン、さう聞けばさうだな。俺だつて泥棒が好きでやつてるぢやない。親譲り財産が沢山あつただが、一つ新奇発明商売をやつて、ガラリと失敗し、国所にも居れぬで乞食となつて、ここにやつて来た処が、セール親分が拾ひ上げて呉れたで鼻下丈け、どうなり、かうなり、濡らせる様に成つただ。三丁町、五丁町歩いて一文金を貰ひ、乞食々々とさげすまれ、人軒に寝ては足蹴にされ、辻堂に一夜明かしては追ひ立てを喰つてゐた今迄境遇に比ぶれば、余程気が利いてると思つて泥棒になつただ。然し何かいい商売があれば、こんな事ア為度くないだが、之も因縁だらうかい』
エム『お前商売をしたと云ふが、どんな商売して失敗したか』
タツ『ウン、マア一つ聞いて呉れ。俺は凡て若い時から発明好きで専売特許を十二三も取つて居るだ。併し乍ら専売特許は農商務省で許して呉れたが、然し之を売出す段となると一つも動かぬだから困つてゐるだ。それがために親譲り財産を、スツカリすつて了つただ』
エム『どんな物を発明しただい』
タツ『エー、ワツトが鉄瓶湯気を見て蒸汽を発明したり、ニュートンが林檎落ちるを見て地球引力説を称へたやうに、俺も何か動機がなくちや、発明が出来ぬが、或時ランプホヤ掃除してゐただ。あホヤ黒くなつたをホヤ掃除器で上下へ擦ると云ふと、全然埃が除れる。真黒奴が元透明体ホヤになるだらう』
エム『ウン成程、随分綺麗になるな。それからどうしたと云ふだ』
タツ『それからお前、百日百夜、首をひねつて考へた結果、人身清潔器と云ふを発明しただ』
エム『成程、そりや面白からう。お前医学でも研究した事があるか』
タツ『何、医学なんか駄目だよ。今時医者に本当病を直すもはない。病気は決して薬なんか呑んでも癒るもぢやない。癒る病気はホツといても癒るもだ。俺はそれよりも病気起らぬやう人身清潔器を作つただ。即ちランプホヤ掃除するブラシと云ふ器械を八尺程迄延長し、向上虫這つて居る様な格好に作り上げ、大地に並べて見た処、大蜈蚣が這ふてる様なもが出来上つた。それを人体掃除器として売出しただ。兎角酒を呑み過ぎたり、飯を食ひすぎたりすると腹を悪うし塵芥がたまるから、ランプ掃除する様に口から尻穴へ通して、上下へギユーギユーと擦ると云ふと、スツカリ腹垢目が出ると云ふ考案だ。さうした処が人間口と尻とが余り細うて腹が太いで、口と尻とは掃除が出来るが肝腎掃除が駄目だ。それで誰も彼も使ひもせずに、くさして買つて呉れぬだ。売出す積りで一万本許り作つたが駄目だつたよ』
エム『ハヽヽヽ、そいつア話にならぬわい。それからどうしただ』
タツ『それからお前、今度は余り資本金要らぬ天造物を売出す事を発明しただ。それはそれは実に奇想天外考案だつた』
エム『そ奇想天外を一つ聞かしてくれないか』
タツ『是は大々的秘密だ。口外しないと云ふことを誓ふなら話して遣らう。実は華氏二十七八度と云ふ寒さ時に採取するだ。当世は床屋から商売屋百姓まで需要多いガラス代用品を発明しただ。池面に張つて居る厚さ一分乃至二分位薄い氷を引割つて之を石油空箱につめ込み鏡や障子用として売出すだ。夏なぞは氷ガラスを障子にハメ込んで置くと、自然に氷に風が当つて夏最中でも居間が涼しうなつて来る。何分原料が只だから斯んなボロい金儲けはないと思つて、セツセと寒いに池中へ小舟を浮べて切採り、家に帰つて秘蔵し、新奇発明「清涼ガラス夏知らず」と名を付けて、広告料を沢山に都鄙大新聞に払つて開業した所、世間奴は馬鹿にして一人も注文して呉れない。何故だらうかと庫を開けて調べて見たら倉中はズクズクに水が溜つて居た。大方鼠が小便でも垂れよつたかと思ひ乍ら氷ガラスを納めた箱を調べて見ると、一枚も残らず皆解けて居よつただ。そこで氷解防止法をまだ研究中なだ。是さへ成功すれば、馬鹿らしい泥棒なんか稼がなくても、立派な紳士として暮らされるだからなア』
エム『オイ、お前そんな事を真面目に考へて居るか。実に感珍至りだ。古今独歩だ。珍奇無類飛切り考案だ。アハヽヽヽ、お前モウ夫れだけ発明でしまひか、君事だから、まだ外に発明品があるだらうなア』
タツ『ウン、それからお前、今度はも一つ脳味噌を圧搾して用心箱と云ふもを造つて売り出す事を考へ出しただ。俺も元はハルナ生れだ。ハルナ都は大変に風が烈しうて土埃が立つだ。それで道行く人二つ目へ埃が這入り、そ為め目を病んで盲になるもが沢山出て来る。盲になりや大抵奴が三味弾になつたり、三味線師匠になるから猫皮が必要だ。それでハルナ種が殆ど絶えて了ふだらう。そしたら鼠が自分天下だと云ふやうな顔して家々に持つてゐる着物や道具を噛るに違ひない。又箱類等も噛りさがすに違ひないから、今中に箱を沢山作つて売出したら儲かると思つて今度は、乗るか反るかで、ある丈け財産を放り出し、沢山箱を作つた処が、一つも売れず、到頭貧乏して了ひ、国所にも居れぬやうになつて乞食になつただよ。俺位不運は世中にありやせぬわ。あれ丈け金があればハルナで僕三人も使ひ、妾一人も置いて紳士で暮されるだが、困つた事をしたわい』
エム『ハヽヽヽ、其奴ア駄目だわい。お前も随分賢い割とは知恵がないわい。余り気が利き過ぎると間がぬけるからな。そんな頓馬では、泥棒しても駄目だぞ。矢張りもと乞食が性に合ふとるわ。それだから、改心をして泥棒をやめ、何か俺達と一所に、よい商売にありつかぬかと云ふだ』
タツ『兎も角、兄貴に任しておくわ。ヤア、何だか宣伝歌声が聞えて来るぢやないか、何と恐ろしい声だう』
エム『ヤア、ありや三五教宣伝歌だ。マア気を落付けて、ここに待つて居らうぢやないか。もう泥坊をやめた以上、別に人間も恐くないからな。それよりも貴様、此間、岩窟中へ引込まれた二人美人は、素敵な者ぢやないか』
タツ『本当に凄いやうな美人だつたね。大方大将がレコにするだらうよ。アツハヽヽヽ』
 かかる所へ近づいて来たは伊太彦であつた。
伊太『一寸物を尋ねますが此山道を十六七女は通らなかつたですか』
エム『ハイ、二三日前に、それはそれは立派な女宣伝使が一人、又そ翌日、今貴方仰有つた様な若い若い御婦人が一人、ここをお通りになつた処、此山で働く大泥棒親分に捕へられ、岩窟中へ連れ込まれて了ひましたよ。本当に可憐さうでたまりませぬわ』
伊太『そ女はデビス姫、ブラヷーダと云ふ名ではなかつたか』
エム『ハイ、エベスだとか、ブラブラ婆アだとか云ふ事ですが、仲々どうしてどうして婆ア処ですか、水垂るやうな別嬪でした。今はセール親方居間近く牢獄に打ち込んで厶います』
伊太『コリヤ、そ方は泥棒だな』
エム『いえ、滅相もない。私は真人間で厶います』
伊太『馬鹿申せ、真人間が岩窟中に姫が隠してある事が、どうして分らうか。大方貴様は乾児だらう』
エム『ハイ、今日迄は泥棒乾児で厶いましたが、実所は鬼春別将軍様が比丘となつて、ここをお通り遊ばし、結構なお道を教へて下さつたで、漸く改心しまして、仲間目を忍び、ここ迄逃げて来ました処、ここに又一人小泥棒が休んで居ましたで、早く改心したらどうだ、と今も今とて意見をして居つた所で厶います』
伊太『お前ももはや善心に立帰つたか。それに間違はないかな』
 両人慄ひ乍ら口を揃へて、
両人『ハイ、間違は厶いませぬ』
伊太『然らばそ岩窟とやらへ案内してくれ。二人姫を救ひ出さねばならぬから』
エム『どうも沢山な泥棒が居りますで、貴方お一人では危なう厶いますから、お止めになつたらどうです。現に鬼春別様が親分を改心さすと云つて六人子分をつれて御出でになりました。やがて一件落着して無事にお帰りになるでせうからな』
伊太『何、あ比丘姿将軍様がおいでになつたと云ふか。それなれば尚事だ。之を聞いた以上は見逃す訳には行かぬ。サア案内をせい』
エム『ハイ、案内をせいと仰有れば、せぬ事はありませぬが、私は最早泥棒を改心したですから、彼奴等に見付けられたら命が厶いませぬ。何卒之許りは御堪弁を願ひ度う厶います』
伊太『ナニ、心配は要らぬ。私は此通り神変不思議ウバナンダ竜王から頂いた夜光玉がある。之があれば百万敵も恐るるに及ばないだ。サア案内せい』
 此言葉に二人は不安念にかられ乍ら、伊太彦が恐さに、屠所如くスゴスゴと先に立つて、岩窟目がけて進み行く。
(大正一二・七・一五 旧六・二 於祥雲閣 北村隆光録)
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