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文献名1霊界物語 第66巻 山河草木 巳
文献名2第1篇 月高原よみ(新仮名遣い)つきこうげん
文献名3第2章 祖先恵〔1684〕よみ(新仮名遣い)そせんめぐみ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
主な人物【セ】照国別、梅公、照公、サンヨ(老婆)、タクソン、エルソン【場】-【名】ミール(タクソン妻、20歳)、大足別、ジャンク(タライ里庄)、スガコ姫(ジャンク娘)、花香(サンヨ娘) 舞台タライサンヨ 口述日1924(大正13)年12月15日(旧11月19日) 口述場所祥雲閣 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年6月29日 愛善世界社版21頁 八幡書店版第11輯 736頁 修補版 校定版21頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm6602
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本文  デカタン高原大暴風は岩石を飛ばし樹木を捻倒し、棟低い此家迄もキクキクと梁を鳴らしてゐる。併し乍ら老婆サンヨは日課如く吹き来る大風に馴て少しも意に介せず、前後左右に揺れる家中に平然たるもであつた。照国別、照公、梅公、タクソン、エルソンは車坐となつてバラモン軍荒したる跡実況談につき問答を始めてゐた。
梅公『何とマア素敵滅法界に強烈な風が吹くぢやないか。お婆さま、お前さまはこんな風が吹いても平然としてゐるが、恐ろしい事はないかい』
サンヨ『此風はデカタン高原名物で厶います。年に一度や二度は家も空中に吹き上げるやうな強風が吹きます。それ故、何れ家も地下室を掘り避難する事になつてゐます。こんな風はまだまだ宵口です。それよりも恐ろしいはバラモン風で厶います』
梅公『フン、非常な風荒い国だな。之が所謂風国強塀と云ふだらう、アツハヽヽヽ』
照公『バラモン風と云ふは、どんな風が吹くですかな』
サンヨ『ジフテリヤよりもインフルエンザよりもひどい風で厶います。家を焼き、財物を奪ひ、人家へ這入つて女房や娘嫌ひなく、皆何処かへ、攫つて行く鬼風で厶いますよ。何よりも、かよりも、之位恐ろしい風は厶いませぬ』
梅公『成程、弱味につけ込む風神と云ふ謎だな。これこれタクソンさま、エルソンさま、バラモン実況を聞かして下さらないか。吾々にも対抗策があるからなア』
タクソン『ハイ、お尋ねなくとも逐一事情を申上げ、お助けを乞ひ度いと思つてゐた所で厶います。私妻はミールと申しますが、まだ二十才花盛り、数日以前にバラモン軍が此里に駐屯致し、老若男女を縛り上げ、一切食料や金銭等を奪ひ、私女房なり、村中綺麗な娘と見れば全部掻ツ攫へて参りました。それみならず、之から数里隔てたオーラ山山続き、シワ谷と云ふ所には馬賊団体が数千人割拠して、時々遠近村落に入り来り、金品を徴発し、女房娘嫌ひなく皆掻ツ攫へて参りますで、吾々人民は一日も枕を高くして眠る事が出来ないで厶います。シワ谷馬賊を退治して下さるかと思へば、バラモン軍大足別は馬賊に勝る悪逆無道、吾々バラモン信者は最早生活途もきれ、塗炭苦みを嘗め、不運に泣いて居ります。どうか三五教御神徳によつて、此苦難を免れさして頂きたう厶います』
梅公『先生、聞けば聞く程気毒ぢやありませぬか。現、幽、神三界を救済すべき吾々宣伝使として看過出来ないぢやありませぬか。アヽ血は湧き腕は躍る。愈自分活動舞台が開かれたやうぢや厶いませぬか』
照国『成程、お前いふ通りだ。愈真剣に自分等活動すべき舞台を与へられただな。併し乍ら梅公、あまり事を軽率にやつては失敗するから、ここは一切万事を神様にお任せして、徐に神策を進めて行くが万全策だらうよ』
梅公『成程、御尤千万、水も漏らさぬ貴方お考へ。併し乍ら此惨状を聞いては、余り泰然自若と済まし込んでる訳にも行かぬぢやありませぬか。オイ、タクソン君、君も掛替ない一人女房をバラモン軍に掠奪されて男らしくもない涙をこぼしてゐるよりも、どうだ、俺家来となつて女房奪回戦に参加する気はないか。精神一到何事か成らざらむやだ。お前に信仰と熱心と勇気とさへあらば、キツト此目的は達し得られるだらうよ』
タクソン『ハイ、有難う厶います。併し乍ら女房を取られたと云つて男目から涙を流してゐるぢやありませぬ。天下万民為涙を濺いでゐるです』
梅公『ハヽヽヽヽ、ヤア大きく出よつたな。さうなくては男子は叶はぬ、見上げた男だ、愈気に入つた。梅公別弟子にしてやるから、吾輩云ふ事を忠実に守るだよ』
タクソン『イヤ、有難う厶います。併し乍ら私は先生家来にして頂きたいです。貴方には先生があるでせう』
梅公『先生は余り御神徳も高く智慧証覚程度も、お前とは非常に距離があるから、直々お弟子には勿体ない。罰が当るぞ。それより身魂相応理によつて俺弟子にしてやる。神は順序だからな。順序を離れて神もなく道もない。なア先生、暫く私直接弟子にしても宜いでせう』
照国『信仰は自由だ。兎も角タクソンさま意志に任すがよからう。相応理によつてなア』
照公『ハヽヽヽ、オイ梅さま、どうですか、先生お目から見れば君とタクソン君とは甲乙区別がつかないやうだよ。バラモン教で余程魂が研いてあると見へて、どこともなしに面貌に光が輝いてゐるやうだ。流石先生は偉いわい』
梅公『そんなら、タクソン君、君意志に任す。オイ、エルソン君、君は相応理によつて僕弟子にしてやる。満足だらうなア』
エルソン『ハイ、御親切に有難う厶います。併し乍ら私は年は若うても、神様お道は聊か、学んで居りまする。仮令バラモン教でも誠教には二つは厶いますまい。私はタクソンと竹馬友で厶いますから、行動を共にする考へです。何卒貴方は教兄弟となつて下さいな』
梅公『ハヽヽヽヽ、偉い馬力だな』
照公『又梅公、凹まされたか、それだから「吾程なきやうに思うて偉さうに申してをると、スカタン喰ふぞよ」と御神諭にお示しになつてゐるだ。梅え事考へて居つても、さう梅え事には問屋が卸さないよ。マア此度は御両人兄弟分となつて仲良く神業に奉仕するがよからう。俺達は少しも乾児は欲しくない。兄弟分が欲しいだ』
梅公『親分、乾児関係ならば、マサカ時には命令が行はれ秩序整然と、物事埓があきよいが、兄弟と云ふもは水臭いもだよ。「兄弟は他人初まり」と云ふからな』
照公『馬鹿云ふな。「兄弟は他人が初まり」と云ふだ。他人同志が寄つて兄弟約束を結ぶだ。それで特に義兄弟と云ふだ。四海兄弟も、ここから初まるだ。兄弟力を合せて弱小な団体も遂には強大となるだ。あゝ強大なるかな強大なるかな。兄弟(鏡台)は所謂鏡台だ。互に勇み交して短所を補ひ長所を採り、悪を去り善をとり、神業に奉仕するが所謂四海兄弟、天下同胞義務だよ』
梅公『イヤ、重々御説法、豁然として白蓮華咲き香ふが如く、胸中新天地が開けたやうだ。そんなら之から吾々四人は親友兼兄弟となつて、世界善悪正邪を明かに裁く所鑑とならうぢやないか。国公は親子対面嬉しさにアーメニヤに帰つて了ひ、三人兄弟が二人になつて、稍寂寥気分にうたれてゐた所だ。ここに天より二人補充兄弟を与へられ、愈四魂揃うて轡を並べてハルナ都へ進軍と出掛ようかい』
 婆さまは勝手覚へし家中、真黒気に燻つた土瓶に白湯を沸かし、天然竹を切つた其儘竹製茶碗に湯をなみなみと注いで一行に饗応し、裏瀬戸口に枝もたわわに実つてゐた棗実をむしり来り、
サンヨ『折角おこし下さいまして、何お愛想も厶いませぬ。之は此里にて有名な棗で御座いますが、此間バラモン軍がやつてきて大方拗りとりましたが、僅か残つてゐるを、浚へて持つて参りました。何卒お食り下さいませ』
 照国別一行は、
『美事な大きな棗だ。頂戴しませう』
と各自に舌鼓を打つて食ひ初めた。
梅公『何と、うまい果物だな。種は小さく実は大きく、まるつきり林檎を喰つてるやうだ。婆さま、此村には此棗は沢山あるだらうなア』
サンヨ『ハイ、此村名物で厶いますが、今年は余程不作で厶いました。併し乍ら二人や三人年中食料は、どうなり、かうなり続けるで厶いませう』
梅公『天然恩恵だな。肥料もやらず世話もせず、神様から実らして下さる実を勝手に食はして貰つていいか。それでは、あまり冥加がよくないだらう。人間が遊惰になるも無理がないわい』
サンヨ『此棗はコーラン国から取寄せたもで厶いまして、此村にも余り沢山は厶いませぬ。さうして日々虫取りに骨を折らねば、一日油断すれば其虫が繁殖して葉を一枚も残らず噛んで了ひます。葉が無くなれば木が枯れるです。仲々油断は出来ませぬよ。仲々生活は楽ぢやありませぬ』
梅公『さうかな、ヤツパリ天然に生える果物でも世話が要るもかいな。其代り肥料は要らないだらう。此辺は地が肥てゐるから』
サンヨ『此棗を頂く家は祖先恩恵によるです。さうですから、余り何処にも、沢山はありませぬ』
梅公『祖先恩恵と云ふが、其祖先と云ふは神様を指して云ふか、或は此家祖先を云ふか。世人間は何れも神祖、人祖恩恵を受けないもはない筈だ。此棗に限つて先祖恩恵とは、チツト受け取れぬぢやないか』
サンヨ『此棗を植る時には犠牲が要ります。私大祖先は子孫を愛する為めに自分腹を切り、そ血潮を根に染め、肉体は木根に葬らせ、祖先霊肉共に此棗肥料となり、万古末代子孫安楽為に守つて下さるです。それ故、此棗は生命と申しまして、あまり沢山は厶いませぬ。今お食りに成つたでせうが此棗は酸ぱくて甘いでせう。之は人間血液や肉味で厶います。吾々は祖先血を啜り、肉を食べて安全に暮してゐるですから、云はば、あ棗は先祖肉体も同様で厶います』
梅公『何と先祖恩と云ふもは尊いもだな。吾々祖先も国を肇め徳を樹て、道を開き、子孫を安住させむ為苦労をして下さつただ。三五教も実所は祖先崇拝教だ。人類愛神教だ。あゝ惟神霊幸倍坐世』
と、流石、洒脱な梅公も思はず知らず感涙に咽んでゐる。
照国別『遠津御祖、神恵みは雨となり
  土となりてぞ子孫をば救ふ。

 親々恵み露に生き乍ら
  親を忘るる邪神もあり。

 親恩忘れし時は身も魂も
  亡びに向ふ初めなりけり』

サンヨ『春夏別ちなくして此棗
  実るも祖先恵みなりけり。

 親々恵忘れし酬いにや
  今日歎き身にふりかかる。

 今よりは心柱樹て直し
  祖先祭厚く仕へむ』

梅公『村肝心一度に開け行く
  白梅花咲き初めてより。

 梅林檎棗味も皆同じ
  主大神恵なりせば』

照公『此家祖先恵を居ながらに
  受けし吾等は神賜物。

 親々踏みてし道を辿りつつ
  世犠牲にならむとぞ思ふ』

タクソン『吾家にも祖先棗あり
  いざ之よりは詫言やせむ。

 御恵を忘れ果てたる酬いにや
  吾恋妻は攫はれにけり』

エルソン『吾恋ふる妹は枉霊に奪はれて
  袖乾く間もなし。

 如何にして姫所在を探らむと
  只思ふより外なかりけり』

タクソン『御一同様に申上げ度う厶いますが、此タライ里庄ジャンク様娘、スガコ姫は絶世美人で厶いますが、バラモン軍隊が出て来る数日以前に、何者にか掻攫はれ、今迄行衛が分りませぬで、ジャンク一家歎きは一通りぢや厶いませぬ。私もジャンク様子として、先祖代々仕へてゐますが、家宝をとられ、嬢様行衛を探す暇もなく、女房行衛について頭を悩めてゐます。何卒貴方お伴となつて、嬢様や女房行衛を探し度う厶いますが、どうか、お伴にお加へ下さいますまいか』
照国『委細承知しました。御心底お察し申します。何事も神にお任せなさいませ』
タクソン『ハイ、有難う厶います。之で私も甦つたやうな心持が致します』
エルソン『先生、私もお願ひ致します。何卒、お伴にお引連れを、強つてお許し下さいませ。私は独身者で御座いますから、家に系累もなく宣伝使お伴には最適任者と存じます』
照国『よしよし、お前も一緒に来るがよからう』
梅公『オイ、エルソン君、君は何だか心に秘密を抱いてゐるやうだな』
エルソン『ハイ、私も相思女が厶いました。そ行衛を尋ね、此お婆さまに会はして上げねばなりませぬ』
梅公『ハヽヽヽヽ、さうすると当家妹娘と以心伝心とか、相思とか、経緯があるだな。これ、お婆さま、あなたは此エルソンに娘を与らうと云つたですか。さいぜん、私に娘上を依頼すると仰有つたでせう』
サンヨ『ホヽヽヽヽ油断ならぬは娘で厶います。何時間にか此エルソンさまと親に秘密で約束をしたかも知れませぬ。宅娘は年をとつても子供だ子供だと思つてゐましたが、油断ならぬは娘で厶います。これこれエルソンさま、お前は娘花香と何か約束でもなさつたかい』
エルソン『ハイ……イーエ……エー……まだ予定で厶います』
サンヨ『お前さま方で定めてゐるだらう。娘花香はお前さまから一回交渉も受けてゐないだらうなア』
エルソン『花香さまに対し、どうせう、こうせう(交渉)と胸を痛めてゐる最中、お行衛が分らなくなつたで、私も憤慨極に達し、おれバラモン軍、吾愛人仇だ仮令天を駆り地を潜る妙術、彼にありとも恋愛至上真心は金鉄も熔かす勢ひ、あく迄も花香様を奪ひ回し、私赤心を買つて貰ふ考へで厶います。どうかお婆さま、私が花香さまを無事に連れて帰りましたら、そ御褒美として当家養子にして下さるでせうな』
サンヨ『ホヽヽヽヽ何とマア抜目ない男だこと、仲々お前さまも隅には置けませぬわい』
梅公『ハヽヽヽヽそれで一切事情が判然して来た。世中には変則的恋愛に熱中する連中もあるもだな。オイ、エルソン君、それだけ熱心があればキツト成功するよ。実所は俺がお婆さま委託を受け、舐つて喰はうと焚いて喰はうと自由自在と事だつたが、それ丈けお前に執着心があるを聞くと、何だか俺も君心理情態が憐れになつて来た。僕は花香姫に対する一切権利を君に譲渡するよ。なアお婆さま、それで宜いでせう。云はば生死不明美人を托されただから、お婆さまだとてエルソンさま女房にするに不足はありますまい』
サンヨ『エルソンさまも村中褒めもなり、模範青年と云はれて居るから、キツト娘も喜ぶでせう。此事については私は何も申しませぬ、梅公さまにお任せ致します』
梅公『比較的開けたお婆さまだ、いや感心々々。これお婆さま、之から三五神様教も聞きなさい。然しバラモン神様を捨てよとは云はないからなア』
サンヨ『ハイ有難う厶います。貴方等吾家においで下さつたをいい機会として、今日から信仰に入れて頂きませう』
タクソン『もし宣伝使様、どうかお邪魔でも厶いませうが、一度私主人と会ふため、里庄宅へお立寄下されますまいか。里庄はキツト喜ぶで厶いませうから』
照国『里庄宅も嘸御心配して厶るだらう。兎も角お尋ねする事にしよう。さア一同出立用意をなされ……、イヤお婆さま、永らくお邪魔を致しました。もう大丈夫ですから御安心なさいませ』
と言葉を残し里庄宅に向つて宣伝歌を歌ひ乍ら進み行く。老婆サンヨは杖にすがり乍ら門外迄見送り、名残惜しげに一行姿見えぬ迄見送つてゐた。あゝ惟神霊幸倍坐世。
(大正一三・一二・一五 旧一一・一九 於祥雲閣 北村隆光録)
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