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文献名1霊界物語 第66巻 山河草木 巳
文献名2第1篇 月高原よみ(新仮名遣い)つきこうげん
文献名3第4章 里庄悩〔1686〕よみ(新仮名遣い)りしょうなやみ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
主な人物【セ】ジャンク(タライ里庄)、インカ(コマ村侠客)、タクソン(ジャンク家旧臣)、セール(ジャンク家しもべ)、照国別【場】梅公、照公、エルソン【名】ジャンク妻、大自在天大国彦、スガコ姫(ジャンク娘)、サンダー(スガコ姫許嫁、マルク息子)、マルク(コマ村里庄)、大足別、タクソン妻、照国別、アンコ、バンコ、国王、国王使い 舞台タライ里庄ジャンク 口述日1924(大正13)年12月15日(旧11月19日) 口述場所祥雲閣 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年6月29日 愛善世界社版51頁 八幡書店版第11輯 748頁 修補版 校定版51頁 普及版67頁 初版 ページ備考
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本文  タライ里庄ジャンクは重なる悲運に悄然として奥間に火物断ちをなし、顔色青ざめ、殆ど此世人とは見えぬ迄にやつれ乍ら二絃琴を弾じて、心煩悶苦悩を慰めてゐた。
ジャンク『久方、空すみ渡り日月  光は清く万有を
 照らし玉へど醜神  其勢猛くして
 真澄空も瞬間に  墨を流せし常暗
 淋しき世とはなりにけり  地には百草繁茂して
 紫紅赤白  目出たき花は遠近と
 所狭き迄咲匂ふ  さながら花莚をば
 布きし如くに見ゆれ共  天に叢雲花に嵐
 静な波も風吹かば  海底ひも白波
 立髪ふるひ大津辺  岸に噛みつく世習ひ
 天国浄土と頼みてし  タライ吾家も
 世変遷にもれずして  柱と頼む吾妻は
 十年前に病気  身を横たへて幽界に
 果敢なき旅をなせしより  忘れがたみ一人娘を
 家杖とし力とし  這へば立て立てば歩めと朝宵に
 心を配り育くみて  漸く二九春迎へ
 ヤレ嬉しやと思ふ間も  なくなく醜荒風に
 吹きまくられて情なくも  後に残りし吾独り
 天に歎き地に哭し  呼べど叫べど行方さへ
 空白雲当もなく  無限涙干もやらず
 憂きに苦む吾不運  憐れみ玉へ自在天
 大国彦御前に  偏に願ひ奉る
 此家柱と頼みてし  スガコ姫は今いづこ
 雨夕や霜朝  心痛むる足乳根
 父心を思ひ出て  胸に万斛涙をば
 湛へて苦みゐるならむ  さは去り乍ら吾娘
 如何なる曲に捉はれて  苦み悩みあるとても
 神賜ひし玉  命此世に在る限り
 日頃頼みし家子を  四方に遣はし所在をば
 尋ね出して老  涙にぬれし衣手を
 天津御空かげに  乾かし喜ぶ事もあらむ
 それを一途望みとし  老命を永らへて
 味なき月日を送るなり  憐み玉へ自在天
 仮令天地は失するとも  忘れ難きは恩愛
 吾子を思ふ赤心に  まさりしもはあらざらむ
 あゝなつかしやなつかしや  夢になり共スガコ姫
 恋しき父よと一言  言あげせよや惟神
 神深ければ  又も逢瀬川波
 会うて流るる愛海  救世舟に救はれて
 父館へイソイソと  帰り来ませよ吾は汝
 身魂幸を祈りつつ  朝な夕なに歎くなり
 あゝ惟神々々  神霊恩頼を願ぎまつる』
 かかる折しも玄関番に導かれて隣村侠客インカが隔て襖を押しあけ、叮嚀に辞儀をし乍ら、
インカ『エー、旦那様御免下さいませ』
 此声にジャンクは琴手を止めて、涙をかくし乍ら、
ジャンク『ヨー、ア、其方は、音に名高き隣村侠客インカ親分であつたか、ヨウ、マア来て下さつた。そして御用筋はどんな事かなア、早く聞かしてもらひたい』
インカ『ハイ、お嬢様御行方を探し求め、一日も早く旦那様に喜んで頂かうと思ひ、五十人手下を遠近四方に間くばり、大捜索を致しましたが、今にお所在は分らず面目次第は厶りませぬ。貴方御心中は此インカ御察し申します』
ジャンク『ア、それはお心を煩はし、誠に申訳がありませぬ。何れ貴方御威光と御親切によつて、娘スガコはやがて帰るで厶いませう。何卒々々宜しう願ひます』
インカ『ハイ、承知致しました。面目次第も厶いませぬが、痩てもこけても、遠近に名を売つた侠客私、力限り活動を致し、お心に副ふ様努めるで厶いませう。併しかかるお歎央へ、又もや御心配事を申上るは私身に取つて、実に心苦しい次第で厶いますが、お嬢さま許嫁サンダー様は、日夜怏々として楽まず、遂には御行方が分らなくなり、お父上マルク様より私に捜索方を依頼され、これも又二三日前から骨を折つて探してゐますが、どうもお行方が分りませぬで、私顔も台なしで厶います』
ジャンク『何、マルクさま御子息が、行方不明とな。左様な事が……出来てゐるなら、これ程眤懇な間柄、なぜに直ぐに知らしに来て下さらなかつただらう。サテ不思議な事だなア』
インカ『実所は、マルク旦那様も直様御通知遊ばす筈で厶いましたが、旦那様が嬢様事に就いて御心配最中へ、こんな話を申し上げたら、嘸お力おとしをなさるだらうと思召され、ソツと人知れず捜索を始められ、御子息サンダー様が御帰りになりさへすれば、それで貴方様に御心配をかけるに及ばないと、今迄包んでゐられましたで厶いますが、どうしても行方が分らぬとすれば、当家御養子と定まつたサンダーさま事で厶いますから、旦那様に報告せずには居られないで、今日は私に「一寸、お使に行つて来てくれぬか」と御頼み、罷出ました次第で厶います』
ジャンク『何と、憂が重なれば重なるもだなア。吾娘紛失といひ、許嫁養子サンダー行方不明といひ、あゝ天道は是か非か。かく迄歎き打重なるもだらうか、如何なる宿世罪業かは知らね共、これは又余り惨酷だ、あゝ』
と吐息をつき差俯き、熱い涙をポロリポロリとおとしてゐる。
インカ『お歎は御無理も厶いませぬが、歎いて事すむもでも厶いませぬ。先づ心を落つけなさいませ。きツと神様が御助け下さるでせう』
ジャンク『ヤ、有難う、悔んで帰らぬ事を、又しても年老愚痴、つい涙がこぼれるだ、アハヽヽヽヽヽ。これもしインカさま、サンダーはバラモン軍に捉はれたではありますまいか』
インカ『神ならぬ身吾々、何うとも申上げかねますが、サンダー様は何時も女装をしてゐられますから、大足別軍勢が女と過つてつれ帰つたかも知れませぬ。私も一身を賭して、バラモン陣中に駆け込み、実否を査べむかと存じますけれど、何を云うても目に余る大軍、血に飢ゑたる虎狼共群、可惜犬死を致すよりも……と存じ、卑怯かは知りませぬが、何とかして安全にお救ひ申したいと苦心惨澹最中で厶います。義を見ては命を惜まぬ侠客なれど、目的も達せずに犬死するは、男子意気でも厶いますまい。湧きかへる胸を抑へて、時を待つて居るやうな次第で厶います。併し邪は正に勝つもぢや厶いませぬ。きつとお嬢様もサンダー様も無事にお帰りなさるでせう。心丈夫にお待ちなさいませ』
ジャンク『ハイ、弱肉強食中、誰にたよる術もなき腑甲斐なき里庄身、只貴方様を唯一助け神として、細き息根をつないで居ります。何分宜しく願ひます』
 斯く話す所へ旧臣タクソンは慌しく入来り、頭を畳にすりつけ乍ら、
タクソン『旦那様、御愁傷程御察し申し上げます。まだ嬢様お行方は何便りも厶いませぬか』
ジャンク『ア、其方はタクソンか、よう来て下さつた。娘行方に付て、今インカ親分と相談をしてゐた所だ。お前も大切な女房を取られ、さぞ心配してゐるだらう』
タクソン『旦那様、勿体ない其お言葉。私女房なんか、物数でも厶いませぬが、大切な、只お一人嬢様を、お捕られ遊ばした旦那様お心、立つても居てもゐられないで厶いませう。早速御見舞に参り、嬢様御在所を探し出さねば済まないで厶いますが、バラモン軍跋扈跳梁為に、吾女房はかつさらはれ、又村妻女は残らず毒手にかかり、阿鼻叫喚地獄有様で厶いますから、旦那様にはすまぬ事とは知り乍ら、其方に手をとられ、いろいろ善後策を講じ、つい、御無沙汰を致しました』
ジャンク『ナニ、そんな心配はしてくれな。お前も村人為に非常に力を尽してゐるといふ事を聞いて、蔭乍ら私も感涙にむせんでゐただ。私娘はどうでもよい。村災難を救ひさへすれば、之にまさつた喜びはないだ』
タクソン『旦那様慈愛に深き其お言葉を、村人が聞いたなら、さぞ喜ぶ事で厶いませう。私も貴方お言葉は神慈言やうに心にしみ渡り、有難さ勿体なさ、自然に落涙を致します。あゝ時にインカ親分さま、御親切に有難う御座います。どうかお嬢様為に一臂力をお添へ下さいますやう、旦那様に代り、お願申します』
 インカも涙ぐみ乍ら、許嫁サンダーが又もやさらはれたといへば、歎上に歎をかさねる道理だ。此タクソンには知らさない方が可いだらうと思つたから、サンダー事は口にせず、
インカ『お嬢様事は御心配下さいますな。キツト神様がお救ひ下さるでせう。又私も神様お力に仍つて最善努力を尽さして頂きませう』
タクソン『ハイ有難う厶います。モウ斯うなれば、神様に何事もおすがりするより途が厶いませぬ。時に、旦那様、インカ様、お喜び下さいませ。斎苑館より派遣されたる三五教宣伝使、照国別といふ活神様が此村にお出でになり、サンヨ家にお立寄り下さいまして、婆さま危難をお救ひ下され、其上、バラモン悪神を言向和してやらうと仰有いましたで、吾々奉ずる宗旨は違ひますけれど、神助に二つはないと存じ、お願致しまして、只今当家玄関迄お伴を致しました。宣伝使にお尋ねになつたならば嬢様所在も判然するだらうかと存じましたで、旦那様に照会もせず、だしぬけに、失礼ながら御案内申して参りました』
ジャンク『ナニ、三五教宣伝使様を御案内申して来たといふか。あ、何はともあれ大自在天様御引合せだらう。サアサア玄関にお待たせ申してはすまない。早く奥へ通つて頂くやうに……セールは居らぬか、セール セール』
 呼ばはれば『ハイ』と答へて、セールは此場に現はれ、
セール『旦那様、何御用で厶いますか』
ジャンク『お前は、玄関にお客様が見えてゐるを知らぬか、早くお迎へ申して来い。玄関番もせずにどこへ行つて居つただ』
セール『ハイ、誠に不都合を致しました。実は表門に当つて、騒々しい声がしますで取る物も取敢ず行つてみれば、アンコ、バンコ大喧嘩、バンコは鉄拳をくらつて気絶致しましたで、いろいろと介抱を致し、漸く蘇生させましたが、どうやらすると再び昏睡状態に入り相なで、目も放されず介抱致してをりました。旦那様御歎央へ、かやうな下らぬ門番争事迄申上げては済まないと存じ、差控えて居りました』
ジャンク『そりや怪しからぬ奴だ。アンコといふ奴は、酒くせ悪い男だからなア。併し何は兎もあれ、宣伝使を御案内申して来い』
 『ハイ』と答へて、セールは玄関に立現はれ、一同を案内した。照国別始め梅公、照公、エルソン四人はジャンク居間に、一礼を施し座に着いた。
ジャンク『これはこれは三五教宣伝使様、賤が伏家を能くお訪ね下さいました。何分宜しく御願申します。私は此村里庄を勤むるジャンクと申す者で厶います』
照国『お初にお目にかかります。此村入口にてタクソンさまにお目にかかり、承はればお館にはお取込お有りなさるといふ事、それを聞いては宣伝使吾々、聞捨にもなりませぬから、御邪魔を致し、御機嫌を伺ひに参りました。何分神力足らぬ、修業中吾々で厶いますから、何もお間に合ひませぬが、神様お力によりて、最善方法を尽さして頂きたいと思ひます』
ジャンク『尊き有難き其御言葉、老木も若芽を吹出し、花に合ふ春陽気が漂ふ様で厶います。此処に厶るお方はインカ親分といつて隣村侠客で厶いますが、此方にもいろいろと御心配にあづかつて居るで厶います』
照国『あゝ、これはこれは、お初にお目にかかります。あなたが有名な侠客インカ親分で厶いましたか。何卒お見知りおかれまして、今後は御眤懇に願ひます』
インカ『貴方様は、今承はれば尊き三五教宣伝使様。ならず者取締を致す野郎で厶います。どうか私やうなケチな奴でも、男はしくれと思召し、何卒お目をかけ下さいませ』
 斯かる所へセールはあわただしく此場に現はれ、
セール『旦那様に申上げます、今国王様お使がみえまして厶います。如何取斗らひませうや』
ジャンク『ハテ国王様お使とは何事だらう。何は兎もあれ、別殿に御案内申せ。すぐさまお目にかかるから……』
セール『ハイ畏まりました』
とセールは足早に玄関指して出てゆく。一同は面見合せ、何事起りしならむかと不審眉をひそめて居た。
照国別『三五あれます上からは
  いかなる事もゆめな憂ひそ』

照国『世中は相身互、まして四海兄弟と申しますれば、何卒御眤懇に願ひませう』
 ジャンクは小声で『ハヽヽヽヽヽ』と笑い乍ら、
ジャンク『先生様暫く失礼を致します。オイ、タクソン、お使にお目に掛つて来るから、お前は宣伝使様接待をしてゐてくれ』
タクソン『ハイ承知致しました。勝手覚えし御家中、御安心なさいませ』
ジャンク『タクソン、落度ないよう、御無礼をせぬ様に頼んでおくぞや』
と言葉を残し、別室に入つて、礼服を着用し、別殿さして進み行く。
(大正一三・一二・一五 旧一一・一九 於祥雲閣 松村真澄録)
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