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文献名1霊界物語 第66巻 山河草木 巳
文献名2第4篇 恋連愛曖よみ(新仮名遣い)れんれんあいあい
文献名3第16章 恋夢路〔1698〕よみ(新仮名遣い)こいゆめじ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
主な人物【セ】梅公、花香姫【場】4~5人荒くれ男【名】照国別、大黒主、ジャンク、スガコ姫、サンダー、国治立大御神、神素盞嗚大神、サンヨ、天降坊(梅公変名)、エルソン 舞台バルガン城へ向かう原野、西(オーラ山)へ向かう原野 口述日1924(大正13)年12月17日(旧11月21日) 口述場所祥雲閣 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年6月29日 愛善世界社版227頁 八幡書店版第11輯 814頁 修補版 校定版231頁 普及版67頁 初版 ページ備考
OBC rm6616
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本文 梅公『三千世界花  一度に開く神
 開いて散りて実を結ぶ  月日と大地恩を知れ
 此世を清むる生神は  高天原に神集ふ
 神が表に現はれて  黒雲包む天地を
 厳伊吹に吹き払ひ  瑞清水に清めつつ
 天国浄土を永久に  此地上に建設し
 百八十国民草を  常住不断信楽に
 救はむもと遠近に  神よさし宣伝使
 まくばり給ふぞ尊けれ  照国別に従ひて
 産砂山霊場を  後に眺めて河鹿山
 沐雨櫛風苦を忍び  夜を日に継いでデカタン
 風も激しき高原地  トルマン国に来て見れば
 ハルナ都に蟠まる  八岐大蛇悪霊に
 左右されたる曲津神  大黒主軍勢が
 人住家を焼き払ひ  金銀物資を掠奪し
 人妻娘分ちなく  魔手を延ばして掻ツ攫ひ
 深山奥へと忍び行く  此国民は戦きて
 夜も日も碌に寝むられぬ  塗炭苦しみ見るにつけ
 如何にもなして救はむと  心駒はあせれども
 吾師御許しを  得ざる悲しさ村肝
 心駒を押へつつ  義勇軍に従ひて
 バルガン城に進み行く  士気は俄に昂舞して
 其勢は天を衝く  吾師君やジャンクさま
 これ軍を指揮なして  進ませ給へばバラモン
 勇士は如何に多くとも  荒野を風渡るごと
 服ひ来るは目当り  吾梅公は唯一人
 軍に在らうが有るまいが  此全局戦ひに
 いくら影響あるべきぞ  師御心に叛くとは
 吾も覚悟上ながら  はやりきつたる魂は
 タライ花香姫  スガコ姫やサンダーさま
 三人哀れな境遇を  救ひ出して天国
 花咲き香ふ喜びに  救はにやおかぬと雄健びし
 吾師目を忍び  夜陰に紛れて嘎々と
 駒に鞭うち今此処に  限りも知らぬ荒野原
 目的もなしに来りけり  オーラ峰を見渡せば
 夜な夜な光る妖光は  曲神共集まりて
 醜企みをなしつつも  世人を苦しめ居るならむ
 心せいかは知らねども  オーラ山が気にかかり
 寝ても醒めても忘られぬ  命を的に唯一騎
 駒続く迄  如何に山途嶮しとも
 如何でひるまむ大和魂  思ひつめたる鉄石
 心征矢ははや既に  真弓弦を放れたり
 最早返らぬ吾意気地  彼等三人あで人を
 まんまと救はせたまへかし  三五教を守ります
 国治立大御神  神素盞嗚大神
 御前に畏み願ぎまつる』
 梅公はジャンク家に宿つた時、スガコやサンダー何者にか攫はれた事を聞き、何となくオーラ山に悪漢為めに閉ぢ籠められて居るやうな、暗示を何者にか与へられた。さうして婆アさま家を訪ねた時、サンヨ娘花香がバラモン軍に捉はれたと聞いた時、之も何処か山奥に隠されて居るやうな気がした。自分は恋でもなく色でもなく何となく同情心に駆られ、こ可憐な女を助けてやりたいと義侠心に充たされて居た。けれども自分は照国別従者であり勝手気儘に列を離れる事は出来ぬ。如何はせむかと兎つ追ひつ思案に暮れながら、照国別、ジャンク義勇軍に従ひ駒に鞭打つて渺茫たる大広原を駆け出したが、黄昏時になり、自分乗馬は何程鞭打つてもいましめても一歩も前に進まうとはしない。其間に数多義勇軍は梅公を大広原中に残し馬蹄に砂塵を捲き上げながら暴風如き勢にてバルガン城をさして進み行く。梅公は馬上にて双手を組み暫し思案に暮れて居たが……吾馬に限つて何故進まぬだらう、何か深き御神慮ましますならむ……と試みに右手綱を一寸引けば駒は頭を西に立直し、星明り原野をあてどもなく一瀉千里勢で駆け出した。梅公は……あゝ師君には済まない、併し乍ら肝腎駒が進まないは何か特別使命が神界から下つただらう。今となつては何事も神まにまに行動するみ……と決心臍を固めた。乗馬は漸く梅公心を知つたか如く、フサフサとした太い長い尾を左右に振り乍ら、勇ましく高く嘶きつつポカリポカリと静に歩み出した。
 蒼ずんだ空に金銀色星は金箔を打つたる如くキラリキラリと輝いて梅公行動を監視するも如くに思はれた。天は高くして静に、地は際限なき茫々たる原野、猛獣声も聞えず、そよと吹く風響もなし、唯駒鼻呼吸、蹄み砂地草ツ原を駆け行く音が柔かにポカポカと聞ゆるみであつた。左手、コンモリとした小山をみれば木立間からチヨロチヨロと火が燃えて居る。梅公は……あ山麓に人家あり、何は兎もあれ立ち寄つて様子を探りみむ……と左手に馬首を廻らせば、駒は勢ひ込んで驀進に進みゆく。梅公は火を目当に駒足音を忍ばせながら、木蔭に近づき眺むれば、バラモン落武者と見えて四五人荒くれ男、一人美人を後手に縛り、何事か荒々しく叫びながら女体を所かまはず鞭にて打ち据ゑてゐる。其度毎に女はヒイヒイと悲鳴を上げ、髪振乱し、無念歯を喰しばり美人乍らも形相凄じく、遉梅公も肝を潰す許りであつた。梅公は……如何にもして彼女を助けてやりたい。今や彼は血に餓ゑたる豺狼餌食たらむとするであるか、あゝ不愍なもだ。併し乍ら敵は数人荒武者、自分は一人だ。されど、千里駿足を力として万一失敗した時は一目散に逃げ出せばよい。一つ試しに脅かして見む……と、密樹蔭に駒を寄せ馬上より大音声、
梅公『ウハヽヽヽ、某はオーラ山に鎮まる天降坊と申す大天狗だ。汝等不届き至極にも、繊弱き婦人を弄び、無体恋慕を企て、非望を遂げむとする憎き曲者、今や当山眷族共が報告により、汝等一同悪人共を征伐せむ為め、今此処に立ち向ふたり、不届者奴、其処動くな、ウーウー』
と唸り立つるや、寝耳に水バラモン共は忽ち度を失ひ、女を捨てて、
『天狗だ天狗だ』
と呼ばはり乍ら軍服や帽や靴、剣などを其場に捨ておき、思ひ思ひに逃げ散つて了つた。
梅公『アハヽヽヽ。案に相違弱虫共、吾言霊に辟易して脆くも逃げ散つたるそ可笑しさ。ても扨ても愉快な事だわい』
と独語ちつつ駒手綱を引きしめ引きしめ女傍に進みより、ヒラリと駒を飛び降りて女縄目を解き水筒水を口に含ませ、二つ三つ背を叩けば、ウンと女は呼吸吹きかへし、梅公顔を星影に透かし見て、
女『どうかお助け下さいませ。何と仰有つても私は許嫁が厶いますから、身を汚す事は出来ませぬ。これ許りは御勘弁を願ひます。いくらお責め下さいましても命にかへても操を守らねばなりませぬ』
と掌を合す。
梅公『これこれお女中、拙者は決してバラモン軍ではない。三五教梅公と云ふ神使だ。お前さまが大勢男に責められて居るを見るに忍びず、命を的に敵を追ひ散らしてやつただ。安心しなさい。決して操を破るやうな事を申さないから、安心なさいませ。こんな所に長居して居ては又もや敵が引返して来るかも知れぬ。詳しき話は途々承はりませう。吾馬にお乗りなさい』
と云ひながら女を抱へて自分と共に駒背に跨り、再び元高原を西へ西へと進み行く。梅公は馬上ながら女に向つて遭難顛末を尋ねた。
梅公『これお女中さま、お前さまは、どうして又、こんな所へ誘拐されて来ただ。何か深い訳があらう。差支ない限り、一伍一什を話して貰ひたいもだなア』
女『ハイ、御親切に預りまして、お蔭様で危難を免れました。妾はタライ花香と申す娘で厶いますが、二三日以前バラモン軍人が吾が村に屯営致し、其際母を縛り上げ、妾を無理無体に縛つて馬背に乗せ、其処辺中を引き廻し、遂にはあ洞ケ丘森林に誘き出し、寄つてかかつて獣欲を遂げむとして居ました所、貴方様がお出下さつて危い所を救はれ、何ともお礼申しやうが厶いませぬ』
梅公『何、お前さまが、花香さまか、何と不思議な事があるもだ。実は一昨朝事、お前家へ立ち寄つて見ればサンヨさまは、雁字搦みに縛りつけられ、眉間から血を出して、虫息になつて居られた所、吾お師匠様照国別様一行がお救ひ申し、漸く全快された。其時にお前さま話を聞いただ。サンヨさま仰有るには「娘は到底命無いもと諦めて居ます。併し乍ら、貴方御神徳で娘を救うて下さつたならば、娘上を一切お任せする」と頼まれました。併し乍らお前さまにはエルソンと云ふ意中男があるでせう』
 花香は驚いて、
花香『ハイ、母迄が豪いお世話になりましてお礼申しやうも厶いませぬ。そして母が妾上を貴方様にお任せ申しますと申しまして厶いますか』
梅公『確に頼まれましたが、併し乍ら其処へエルソンさまが見舞に見えてサンヨさまに心丈を打ち明けられたで、大変にサンヨさまもお喜びになり、お前さまが無事で帰つたなら、きつと夫婦にしてやらうと云ふお約束が出来て居ますよ』
花香『あれまア、母がそんな事を申しましたか。貴方様に妾上をお任せすると云つたぢや御座いませぬか。何うも母言葉として二人男に任すと云ふは合点が参り兼ねます』
梅公『ハヽヽヽヽ。これ花香さま、さう深く考へてはいけない。私は宣伝使、天下を股にかけて旅行するも、サンヨさまが、私に任すと云つたは、そんな夫婦関係やうな深い意味ぢやない。要するに……娘を救助して呉れ……と云ふ意味だ。エルソンさまに云はれた事と私に云はれた事とは大に意味が違ひますよ』
花香『ハイ、分りました。偉い御厄介をかけまして誠に済まない事で厶います。併し乍ら妾は貴方が何だか恋しく思はれてなりませぬわ』
梅公『これこれ花香さま、さう脱線してはいけませぬよ。今貴女が悪漢にさいなまれて居た時、木蔭に隠れて聞いて居れば、どこ迄も……女操を破らない……と云うて、命に代へて操を守つたぢやありませぬか。夫はきつとエルソン為めでせう』
花香『いいえ、エルソンなんか一回も約束した事はありませぬ。彼方方から何とか彼とか云うて幾度となく云ひ寄られた事は厶いますが、いつとても体よくお断りを申て居るです』
梅公『そんなら、貴女恋人はまだ外にあるですか』
花香『ハイ、立派なお方が唯一人厶います』
梅公『其恋人と云ふは今何をして居られるですか』
花香『ハイ、お恥かし乍ら今妾と一緒に馬に乗つて居られます』
梅公『ハヽヽヽヽ。これ花香さま、冗談云つちやいけませぬよ。貴女は私を揶揄つて居るですな』
花香『イエイエ勿体ない、命恩人、神与へた恋人に対し、どうして揶揄なんぞ致しませう。妾言葉は熱血より迸つて居ります
梅公『どうも合点ゆかぬ事を云ひますね』
花香『妾は夜な夜な夢に麗しき神人と遇つて居ります。其御方はいつも馬に跨り、妾を山野に導いていろいろ教訓をして下さいますが、今貴方お顔を拝みまして、初めて夢恋人に遇へたと思つて喜びに耐えませぬ。妾は夢中なる恋人と深く契を結びました。其夢に現はれた方は貴方にそつくりです。お顔と云ひお声と云ひ馬乗りかたと云ひ、こ馬迄がそつくりですも。これが何う疑はれませう』
 梅公は吐息をつきながら、
梅公『ハテナ、これや夢ではあるまいか。どうも合点ゆかぬ事があるもだ。宣伝使お伴をしながら女房を連れて歩く訳にもゆかず、困つた事が出来たもだなア』
花香『もし貴方は梅さまと云ふ名ぢや厶いませぬか。いつも夢中で、梅公さま梅公さまと云つて交際つて居ましたよ』
梅公『成程私名は梅公だ。さうしてお前さま名は花香。三千世界一時に開く梅香りと云ふ所だなー、ハヽヽヽヽ。何だか訳が分らなくなつて来ましたわい』
花香『貴方は……二人仲は神定めた真夫婦だ……とお感じになりませぬか』
梅公『まア悠り思案さして下さい。馬上では分りませぬわ。何処かへ下りて悠りと考へませう。や、幸ひ此処に、好い場所がある。花香さま、貴女はこまま馬に乗つて居て下さい。私は一寸鎮魂をして神勅を伺つて見ませう』
と云ひ乍ら馬をヒラリと飛びおりた。
花香『もし梅公様、女が馬に乗つて居るは、何と云ふ謎で厶いませうかな、一寸考へて下さいな』
梅公『女に馬、フン、成程、媽と云ふ洒落だな。かかる不思議な事は開闢以来誰も味はうたもはあるまい』
と云ひ乍ら双手を組み瞑目して鎮魂行に入つた。花香も馬をヒラリと飛び下り傍に同じく座して鎮魂姿勢を取つた。無心馬は目を閉つて四辺草をむしつて居る。暫くあつて梅公も花香も互に何とも云はず、再び相乗り馬にて際限もなき広野をオーラ山峰を目蒐けて、野嵐に吹かれ乍ら進み行くであつた。
(大正一三・一二・一七 旧一一・二一 於祥雲閣 加藤明子録)
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