文献名1霊界物語 第76巻 天祥地瑞 卯の巻
文献名2前付よみ(新仮名遣い)
文献名3波斯の宇宙創造説よみ(新仮名遣い)ぺるしゃのうちゅうそうぞうせつ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ
データ凡例
データ最終更新日----
あらすじ
主な人物
舞台
口述日1933(昭和8)年12月05日(旧10月18日)
口述場所水明閣
筆録者内崎照代
校正日
校正場所
初版発行日1934(昭和9)年3月23日
愛善世界社版
八幡書店版第13輯 422頁
修補版
校定版10頁
普及版
初版
ページ備考
OBC rm760005
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本文の文字数5254
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本文
世界の初めにアフラ・マズダと言ふ尊い神とアングラ・マイニウと言ふ邪悪な精霊とがあつた。アフラ・マズダは限りなき光明の世界に住んで居り、アングラ・マイニウは涯もない暗黒の深淵に住んでゐた。そして其の光明の世界と暗黒の深淵との間は、何一つも存在しない空の空であつた。
アフラ・マズダは種々の生物を造り出した。併し始めは目に見える形を持つてゐなかつた。この尊い神は、自分が造り出した総ての生物を、三千年の間考へることも無ければ、動くことも無い無形の霊の姿にして置かうと思つたのであつた。邪悪なアングラ・マイニウはアフラ・マズダが色々な生物を造り出したと言ふことを聞き込むと、
『何を小癪な、おれがアフラ・マズダの世界に行つて何もかも叩きつぶしてやる』
と言つて暗黒の深淵から脱け出して光明の世界にやつて来た。併しいよいよアフラ・マズダの所に来て見ると、威儀堂々として力が強く徳が高かつたので、
『これは驚いた、とてもおれなんか敵ひさうにない』
と始めの凄じい勢ひはどこへやら、這々の体でもとの暗黒世界に逃げ帰つた。そして、
『アフラ・マズダがあんなに偉くては、おれ一人の力では何うする事も出来ぬ。よし、おれを助けてくれるものを造ることにしよう』
と言つて数々の悪魔をこしらへた。
アフラ・マズダは早くも光明世界からそれを見てとつて、
『今のうちに何とか片を付けて置かねばならぬ』
と思つた。そこでわざわざ暗黒世界に降つて行つてアングラ・マイニウに会つて、
『お前や、お前がこしらへた生物は寿命に定まりがあるだろう』
と言つた。
アングラ・マイニウは口惜しさうな顔をして、
『さうだよ、それがどうしたと言ふのかね』
と言つた。
『どうぢや、わしが造り出した総ての生物を助け讃へて呉れないか、さうしたら、お前にも、お前のこしらへた生物にも、不滅の命を与へることにしてやるが……』
とアフラ・マズダが温順しく相談を持ちかけると、アングラ・マイニウは凄まじい声で唸り出して、
『それは御免を蒙むらうかい。わしはお前のこしらへた生物を助けたり讃へたりすることは出来ぬ。わしは彼等を滅ぼして了ふか、それともお前の許を離れて、わしの心に靡くやうにするつもりだ』
とどこまでも挑みかかつた。併しアフラ・マズダは落ちついた様子で、
『それでは、わしたちはめいめい自分の好きなやうにするより外は無い、わしたちはお互に争ひ合ふまでぢや。併しいつまで争つてゐても仕方がない。どうぢや、争ひの期限をきめようではないか』
と言つた。よからうとアングラ・マイニウが応じた。
『では其期限を九千年としようではないか』
とアフラ・マズダが言つた。よかろうと又アングラ・マイニウが答へた。
アングラ・マイニウは九千年を過ぎても自分の勢力がまだ続くものと思つて、ウカと斯んな約束をしてしまつたのだが、尊い神にはチヤンと未来の見透しが付いてゐるのであつた。始めの三千年の間はアフラ・マズダの思ふことが何でも叶ふのであつて、邪悪の霊はこれを妨ぐることが出来ぬ。次の三千年の間は二人の思ふことが互にかち合つて、どちらもうまく行かぬ。そして最後の三千年の間に、邪霊アングラ・マイニウは全然アフラ・マズダに征服されてしまふのを看破つてゐるのは尊い神だけであつた。
始めの三千年が間はアフラ・マズダが拵へた生物は、何の害も受けないで、無形の霊潜める力として生き続けた。その時期がをはるとアフラ・マズダは形のある種々の物を造り始めた。彼は先づ天空を造り、次に星を造つた。星の数は六百四十八万に及んだ。アフラ・マズダは、それらの星を夫れ夫れ大空の四方に配つて、四人の首領に司配させることにした。東の方の首領はチシュトリアと呼ばれ、西の方の首領はサタヴェースと呼ばれ、南の方の首領はヴァナンドと呼ばれ、北の方の首領はハブトーク・リングと呼ばれる。星くづが出来上ると、アフラ・マズダは次に月を拵へて、それから太陽を拵へた。
その間邪霊アングラ・マイニウは昏々として眠り続けて居た。ジャヒと呼ばれた女性の悪魔がそれを見て、
『どうも仕方が無いナア。アフラ・マズダはどしどし色々の物を造り出してゐるのに、うちの首領は暢気に眠りこけてゐる』
と頻りに気を揉んでゐたが、たうとうたまり兼てアングラ・マイニウの側に駈けつけて、
『お首領お起き下さい、わたしたちは、この世界に騒動を起さうではありませんか』
と叫んだ。
併しアングラ・マイニウは内心アフラ・マズダが恐いので、女魔の呼ぶ声に目を覚ましても依然眠つたふりをして居た。ジャヒは気を苛つて、
『お首領、早く起きて下さい。アフラ・マズダが勝手なことをして居ますよ。早く邪魔をしてやりませう』
と叫んだ。そして女魔が三度叫ぶと、三度目にアングラ・マイニウがむつくと起き上つた。そしてジャヒの頭に接吻をしながら、
『そなたは、わしに、何か望むことがあるのかね』
と尋ねた。
『エエさうですよ、若い男の姿が見たいのですよ』
と女魔が答へた。と、其の言葉が終るか終らないうちに、魔王アングラ・マイニウの姿は十五歳位の男に変じた。女魔は大に喜んで、
『サア、直ぐに天界に行つてアフラ・マズダの仕事の邪魔をしてやりませう』
と言つた。
『よし、承知ぢや』
アングラ・マイニウは斯う叫んで、数多の悪魔どもを引き連れて、まつしぐらに天界目ざして駈け出した。彼は天空を見ると、
『ほう、おれの知らぬ間に変なものが出来たな』
と言つて蛇のやうにそこに躍り込んで行つた。空は狼に襲はれた羊のやうに、顫ひ戦いた。勢ひに乗つたアングラ・マイニウは、アフラ・マズダが造り出した総てのものに飛びついて行つて、片端からそれを傷つけ汚した。見る間に世界が暗黒になつた。
『ウマイウマイ、今度は斯うしてくれるぞ』
とアングラ・マイニウは数多の惑星を拵へてアフラ・マズダの任命した星座の首領たちに対抗させた。惑星は凄まじい勢ひで、神が造つた星くづにぶつつかつて行つたので、満天の星どもは駭き畏れて、右往左往に逃げ惑うた。アフラ・マズダに率ゐられた天使の群アメシヤ、スペンタやヤザタたちは天下の一大事と、必死となつて邪霊に率ゐられた悪魔の群と戦つた。そして大小の悪魔どもを引つ掴んでは、天界から暗黒の深淵へと投げ落し続けた。
全世界を揺り動かすほどの激しい戦ひが昼を九日、夜を九夜行はれた。さうしてゐるうちに大空に堅固な塁壁が築き上げられたので、さすがの悪魔軍も最早手の出し様がなくなつて、スゴスゴ暗黒世界に引返して了つた。
戦ひが止むとアフラ・マズダは復創造の仕事を続けた。尊い神は、今度は数多の水の流れを拵へた。是等の流れは一所に集まつてヴールカシヤ(広大なる深淵)と言ふ海となる。ヴールカシヤ海はアルブールズ山の南の果に当つて大地の三分の一を占めてゐる。それは一千の湖の水を含んでゐると信じられた。
世界の所在水はアルドヴイ、スーラー、アナーヒタ(潤ひて強く且つ汚れ無きものの義)といふ泉から流れ出る、その流れ出た水は数多の河となつて大地をうるほすのであつた。
邪霊アングラ・マイニウは是を見ると、復むらむらと悪気を起して、旱魃の悪魔アバオシヤを呼び出して、
『お前、天界に上つて、水の流れの邪魔をしてやれ』
と言ひつけた。アバオシヤは直ぐに天界に上つて行つた。そして夏の間大地に水を恵むことを司どつてゐるチシュトリアの所に来て、流れを堰き止めようとして、二人の間に烈しい争ひが起つたが、たうとうアバオシヤの力が尽きて天界から投り出された。
アフラ・マズダは更に創造の仕事を続けて、今度は新たに大地を造ることにした。尊い神は先づチシュトリアに言ひ付けて、古い大地の上に大雨を降らせた。忽ち大地は一面の水となつて、邪悪な生物の毒をすつかり洗ひ浄めた。水が減くにつれて三十三種の陸地が造られた。尊い神はこれを七つの部分に分けることにした。それを見た邪霊アングラ・マイニウは、
『アフラ・マズダ奴、色々の物を造り出すな、癪にさはる奴だ、一つ邪魔をしてやらう』
と言つて、大地の腹の奥に潜り込んだかと思ふと、内側から激しく之を揺り動かしたので、今まで平坦であつた大地の所々に大きな山が出来た。真先に出来上つたのが、アルブールズ山であつた。この山が現はれると、大地の所々がそれにつれてムクムクと動き出して、さながら大きな樹のやうに雲を貫くほど聳え立つた。
次にアフラ・マズダは種々の草木を拵へることにした。天使の群アメシヤ、スペンタの一人である、アメレタートが尊い神の仰せを受けて、ありとある植物を細かに搗き砕いて、それを水に溶かすと、狼星がその水を普く大地に撒き散らしたので、やがて人間の頭に髪の毛が生えるやうに到る所に草木が芽を出した。その中の一万の草木は、邪霊アングラ・マイニウが生物を苦しめるために造り出した一万の病気も逐ひ退けるに足る力を持つてゐた。
大海ヴールカシヤのただ中には特に『あらゆる種を含む樹』が生え出した。大地に現はれた総ての草木が、いつまでも絶え果てないやうにと言ふアフラ・マズダの有難い考へからである。それから又『あらゆる種を含む樹』の側に尊い神はガオケレナ(牛角の義)と言ふ植物を生ひ出でしめた。この植物はあらゆる草木の首領で、これを口にするものは悉く不滅の命を得るのであつた。尊い神は宇宙をいつまでも生々とさせて置かうと思つて、此の霊樹を造り出したのであつた。
之を見て邪霊アングラ・マイニウは甚く機嫌を悪くして、
『アフラ・マズダの奴、ほんたうに癪にさはる事ばかりしでかすな。よし、おれがあの樹を枯らしてやるぞ』
と言つてヴールカシヤ海の水底深く一匹の魔の蜥蜴を造り出した。
蜥蜴はガオケレナの根を咬んで、いつかはそれを枯らさうとしてゐたのを、尊い神は早くもそれを悟つて、カルと言ふ魚を十尾拵へて魔の蜥蜴に当らせることにした。十尾のカル魚は、交る交る蜥蜴の側を泳ぎ廻つて、ガオケレナの根の咬まうとすると直ぐに飛びかかつて行くのであつた。
次にアフラ・マズダは火を拵へて世界を喜ばした。良いものの現はれるのが大嫌ひの邪霊アングラ・マイニウは復ひどく腹を立てて、
『アフラ・マズダの奴、また変なものを造つたな。よし、今度だつて邪魔をしないでは置かないぞ』
と言つて火が燃える時には、いつも厭な煙が出るやうにした。
次にアフラ・マズダは種々の動物を造ることにした。尊い神は素晴らしく強くて美しい一頭の牛を拵へた。この牛には総ての動物の種が含まれてあつた。邪霊アングラ・マイニウは、それを見ると目の色を変へて、
『また厭なものを造りをつたな、こりや依然としては居られないぞ』
と直にこの牛の側にノコノコやつて来た。アフラ・マズダは彼の姿を見ると、
『あの男、またわしの仕事の邪魔をしに来たな』
と思つて、大急ぎでビーナークと言ふ霊妙な果実を摺り潰して牛に食べさせた。果実の不可思議な力によつてアングラ・マイニウの邪悪な災を防がうとしたのである。併しアングラ・マイニウが牛の側にやつて来て、凄い目でじつと見据ゑて居ると、牛はやがて病に罹つて次第に痩せ衰へて、遂に最後の息を引き取つて終つた。と思ふと、牛の霊魂ゲーウシュ・ウルヴァンが、その体からスルスルと脱け出して、アフラ・マズダの許にやつて来た。そして一千の人間が一度に叫び出したやうな大きな声で、
『邪悪なアングラ・マイニウが勝手なことをしてゐるのに、あなたはどうしてぢつとして居られるのです。いつぞやあなたは、偉い男を拵へて、すべてのものを保護させてやると仰せられたが、その男はどこに居るのです。今のやうにアングラ・マイニウが悪いことをしてゐては、わたしは種々の動物を養ひ育てて行くことは出来ませぬ』
と言つた。
これを聞くとアフラ・マズダは眉をひそめて、
『わしは確に偉い男を拵へてやると言つたが、まだ時が来ないのぢや』
と答へた。併し牛の霊魂は、この答に満足することが出来なかつたので、星の世界に歩いて行つて、先のやうに大きな声で叫び続けた。
余りにその声が大きいので、月や太陽のゐる所までガンガン鳴り響いた。さうして居る間にたうとう時機が来たので、アフラ・マズダは牛の霊魂に対つて、
『モウ安心するがよい、ゾロアステルと言ふ偉い予言者を、この世に送り出すことにしたから』
と言ふと、ゲーウシュ・ウルヴァンはやつと安心して、ありとある動物を養ひ育てて行くやうになつた。
暫くすると、死んだ牛の体から五十五種の穀物と十二種の薬草が生え出した。アフラ・マズダがそれを月の許に送ると、月はおのが光でその種を浄めた。その種子から一匹の牡牛と一匹の牝牛とが生れ、それから二百八十二種の動物が生れた。アフラ・マズダは獣を大地に棲ませ、鳥を空中に棲ませ、魚を水中に棲ませることにした。此の如くにして、尊い神アフラ・マズダは邪霊アングラ・マイニウに度々仕事の邪魔をされながら、たうとう宇宙創造の大事業を完成した。