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文献名1霊界物語 第76巻 天祥地瑞 卯
文献名2第3篇 孤軍奮闘よみ(新仮名遣い)こぐんふんとう
文献名3第14章 磐楠舟〔1931〕よみ(新仮名遣い)いわくすぶね
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ夕暮れ近くなったころ、前方に横たわる沼にさえぎられたところで、駒が突然一歩も動かなくなった。朝香比女はそ様子を怪しんだが、ともかく休みを取って様子を見ようと、萱草芝生に降り立った。比女は萱草にどっかと腰を下ろして様子を見守っていたが、果たして駒は次第に後じさりし、驚き声を上げて凶事を知らせるようなそぶりをした。どうやら曲津神が罠を張って待ち構えていると察した比女は、火打ち石を取り出し、かちかちと打ち出だせば、枯草に燃え移って風に乗って広がり、沼岸辺まで届いて止まった。すると、辺りを包んでいた深い霧が晴れ、空も晴れ晴れとして月が地上に光を落とし始めた。これは、八十曲津神が比女真火功に傷つき追いやられた結果であった。一度は退いた曲津神たちであったが、今度は比女を沼に迷い込ませて仇を取ろうと、第二罠をはって待ち受けていた。朝香比女は心落ち着き、広く広がる沼岸辺に駆け寄って、波間に浮かぶ月影を眺めながら今事件を述懐する歌を歌った。ふと見ると不思議なことに、小石一つない沼水際に、長方形巌が横たわっていた。比女は言霊にて、主恵みにより休み所となる巌を賜ったと歌い、まだ若い巌なで、舟にして沼を渡ろう、と歌った。するとまた不思議なことに、比女は、巌がまるで柔らかい粘土でもあるかように、中をえぐって舟形を作り、天数歌・言霊歌を歌った。たちまち巌舟は木舟に変じ、自ずからするすると水際にすべり出た。比女は駒と共に舟に乗り込み、沼果て岸まで渡り来た。そして、こ舟は千引き巌となって、永遠にこ岸辺にあるように、と言霊歌を歌うと、舟は元ような巨巌となって、水際に屹立した。こ巌を御舟巌という。そうちに東雲空が次第に明らみ、日が雲を押し分けて昇り来たり、沼面をくまなく照らし渡った。
主な人物 舞台 口述日1933(昭和8)年12月08日(旧10月21日) 口述場所水明閣 筆録者森良仁 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年3月23日 愛善世界社版 八幡書店版第13輯 570頁 修補版 校定版431頁 普及版 初版 ページ備考
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本文  高地秀山聖場に  御樋代神と仕へたる
 八柱比女神司  中にも別けて面勝
 神とまします朝香比女は  雄心押さゆる由もなく
 桜散り敷ける  春唯一人
 白馬に跨りしとしとと  踏みも習はぬ大野原
 道なき道を別けながら  狭葦河瀬曲神を
 生言霊を打ち出し  真火功に追ひ払ひ
 再び荒野をわたりまし  栄城聖場に
 着かせ給ひて百神  あつき待遇喜びつ
 暫し御足を留めつつ  又もや駒に鞭うちて
 太元顕津男  御許に進み行かばやと
 未だ地稚くもうもうと  霧立ち昇る大野原
 一人雄々しく出で給ふ。
 夕暮近くなりし頃、前方に横はる大沼あり、駒は左右耳を前方に傾け、俄に蹄を止め、何程鞭うち給へども一歩も進まざる怪しさに、兎も角も旅疲れを休らへ様子を見むと、萱草茂る芝生に下り立ち給ひける。
 要するに総て馬は鋭敏なる動物にして、前方に敵ある時は耳を前方に傾け進まむとせず、又馬自身気分良き時得意なる時は、耳を真直に空に向つて欹て、又騎手に対し不満を抱き或ひは振り落さむと思ふ時は、左右耳を後方に傾くるもなり。故に馬に乗るもは第一に耳動作に注意すべきもとす。
 朝香比女神は萱生にどつかと尻を落付け、暫し双手を組み考へ給ひけるが、白駒は一脚一脚後退り止まず、果ては前脚を上げて直立し、驚き声を放ちて凶事を報ずるが如く見えける。

『わが駒驚く見れば行く先に
  曲津見は罠を造り待つらむか

 前方に左右耳をかたむけて
  歩みたゆとふ駒あやしも

 果しなき大野末に黄昏れて
  わが駿馬は居竦みさやぐも

 濛々と夕ふかみつつ
  咫尺弁ぜぬ怪しき野辺なり

 斯くならば夜明くる迄草生に
  駒をやすめてわれは待たなむ

 進み進み退く事を知らぬ吾も
  駒おどろけばせむすべなけれ

 夕烏声も悲しくきこゆなり
  霧ふかしくて影は見えねど

 陰々と邪気迫り来てわが水火も
  今は苦しくなりにけらしな

 顕津男神言は日並べて
  斯かる艱みに逢はせ給はむ

 面勝神と言はれし吾にして
  如何で曲津にためらふべしやは

 今こそは燧を打ちて真火照らし
  八十曲津をしりぞけむかな』

 斯く歌ひながら燧を取出し、かちりかちりと打ち出し給へば、火花は四辺に散りて原野に落ち、若草根に重りたる去年かたみ枯草に忽ち火移り、見る見る吹き来る風に煽られて、火は前方に延び広まり、沼岸辺に到りて燃え止まりける。四辺を包みし深霧は俄に四方に散り失せ、空晴々と青雲生地を現はし、六日月は鋭き光を地上に投げければ、目路限り一点さやるもなく、沼面はきらきらと月光浮ぶ夜とはなりける。八十曲津見神は狭葦河瀬真夜中を、朝香比女真火功に退はれ傷きたれば、暫し影を潜め居たりしが、火傷も漸く癒えければ第二作戦計画を思ひ立ち、駒諸共に沼中に迷ひ入らしめ、仇を報いむと待ち居たりしなり。駿馬は早くも前方間近く斯かる難所あるを知りて、危難を恐れためらひしもと思はる。
 茲に朝香比女神は心落付き給ひ再び駒に跨りて、広く長く展開したる沼岸辺に駈け寄り給ひ、波間に浮べる爽けき月光を眺めながら、御歌詠ませ給ふ。

『曲津見たくみも霧となり
  煙となりて逃げ去りにけり

 大野原わが打ち出でし火に焼かれ
  あとかたもなく清められたり

 曲津見は此荒野に影ひそめ
  われ傷ふと待ち構へ居しか

 駿馬敏き耳と眼に看破られて
  八十曲津見罠はやぶれし

 有難し神賜ひしこ真火は
  わが行く道守りなるかも

 幾万曲津見来り襲ふとも
  われには真火剣ありける

 きらきらと水面に冴ゆる月光は
  わが背岐美御霊なるかも

 千万里遠きにいます背岐美
  影を間近く此処に見るかな

 上下にかがやきわたる月光は
  わが背岐美と思へば嬉しも

 此沼を見つつすべなし吾行かむ
  西方国土をさへぎるこ

 兎に角に今宵は沼月光に
  いむかひながら夜を明すべし』

 朝香比女神は駒背よりひらりと下り給へば、不思議なるかな、小石一つなき汀に長方形巌横はりありければ、格好坐席なりと腰打ち下し憩ひ給ひつつ、御歌詠ませ給ふ。

『主恵なるらむ汀辺に
  わがやすむべき巌はありけり

 此巌に吾身疲れやすめつつ
  月を拝みて夜を明かさばや

 虫音は焼き払はれし草根に
  ひそみて鳴くかこゑ悲しき

 波面を右と左に飛び交ひて
  土鳥啼くなり月にはえつつ

 いつ間にかわが駿馬も巌上に
  蹲りつつ水火をやすめり

 此巌未だ稚ければ舟にして
  こ広沼をわれは渡らむ』

 斯く歌はせ給ひながら、比女神は細き柔かき左右御手もて、巌中をゑぐり舟形となし給ふ。恰も陶器師が柔かき粘土を以て皿、茶碗などを練るが如く、またたく間に舟形を造り、
『一二三四五六七八九十
  百千万千万
   集まり来りて守り給はれ

 ハホフヘヒ舟に成れ成れ此
  今わが造りしこれ巌舟

 水面に浮ぶるまでも軽くなれ
  軽くなれなれ木舟如くに』

 斯く宣らせ給ふや、流石巌舟も忽ち木舟と変じ、自らするすると滑りて汀辺にぽかりと浮きければ、比女神は駒諸共に舟中に飛び入り給ひ、

『天晴れ天晴れ生言霊幸はひて
  巌は真木舟となりける

 艪も楫もなけれど吾は言霊に
  これ御舟をあやつり渡らむ

 大空月は益々冴えにつつ
  わが乗る舟は波すべるなり

 水底にうつろふ月を眺めつつ
  波おもてを風なでて行く

 天と地中空わたる心地かな
  上と下とに月をながめて

 千万御空星は水底
  金砂銀砂となりてかがよふ

 曲神奸計千引巌も
  われをたすくる舟となりしよ

 駒よ駒汝は賢しく雄々しけれ
  曲津奸計をわれに知らせし

 如何程に沼は広くも言霊
  力に暁岸辺につかむ

 やすやすと御舟中に月を見つ
  旅疲れをやしなはむかな

 西北風に送られわが舟は
  艪楫なけれどいやすすむなり

 高地秀山は雲間に聳え立ち
  今宵月に照らされにつつ

 仰ぎ見ればはろけかりけり高地秀
  山出でしより久しからぬに

 栄城山尾上ほ見えにけり
  月したびに尾根晴れにつつ

 大空に月は照れども遠々し
  高照山はすがた見えなく

 眼に一つさやるもなき大野原
  こ広沼月はさやけし

 わが行かむ道を遮る曲津あらば
  生言霊に追ひ退け行かむ

 天と地広きが中を駈り行く
  われは一人旅なりにけり

 駿馬たすけによりて果しなき
  大野をわたる吾はさびしも

 淋しさ駒に鞭うちて
  勇み進まむ果なき国原を

 わが舟は彼方岸に近づきて
  御空奥はしめにけり

 岸辺近くなりて清しき鵲
  鳴く音は高く聞え来にけり

 やがて今朝日昇らば百鳥
  声もすがしく世をうたふらむ』

 漸くにして御舟は、広き沼果なる岸辺に横はりければ、朝香比女神は駒諸共舟を乗り捨て、

『わが舟は千引巌と体を変じ
  これ岸辺に永久にあれかし

 一二三四五六七八九十
  百千万舟よ舟
   元如く巌となれなれ
    堅磐常磐千引巌となれなれ』
 斯く宣らせ給ふや、御舟は忽ち元如く大巨巌となりて汀辺に屹立せり。此巌を御舟巌と名付け給ひける。
 東雲空は次第々々に明らみにつつ、新しき天津日は煌々と雲押し分け昇らせ給ひ、沼面を隈なく照らさせ給ふ。
(昭和八・一二・八 旧一〇・二一 於水明閣 森良仁謹録)
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