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文献名1霊界物語 第78巻 天祥地瑞 巳
文献名2第2篇 焼野ケ原よみ(新仮名遣い)やけがはら
文献名3第8章 鏡沼〔1964〕よみ(新仮名遣い)かがみぬま
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ一行が進んでいくと、血にまみれた老婆が行きも絶え絶えに横たわり、助けを乞うていた。老婆は、自分は名もなき国津神で、沼大蛇ために傷つけられたため、助けてほしい、と歌うが、初頭比古は邪神罠と見破り、天数歌と言霊歌を歌った。するとたちまち老婆は三角三頭長蛇と身を表し、火焔・黒煙を吐きながら沼に逃げ込んでしまった。起立比古神以下三柱神々は、こ様を述懐歌に歌った。一行はグロス沼汀に到着し、眺めてみればほとんど東西十里、南北二十里もある大きな沼であった。四柱神は沼周囲を四分し、東西南北に一柱づつ陣取っていっせいに天津祝詞を奏上し、七十五声言霊を宣り上げた。すると、グロス、ゴロス邪神は言霊力に敵しかねて、グロスは六角六頭、ゴロスは三角三頭姿を現して水面をたうちまわった。そしてついに黒雲を起こし、天高く立ち昇ると鷹巣(たかし)方面さして、いかづちような音をとどろかせながら逃げ去った。こために沼大半が雲となって空に舞い上ってしまい、再び雨となって激しく下った。邪神を容易に去らせることができたは、朝香比女神を陰ながら守護する、鋭敏鳴出(うなりづ)ウ声力であった。四柱神は傘松老木まで戻ってきて、こ凄まじい戦況を歌に歌いあった。そして、忍ケ丘朝香比女本営にめでたく凱旋することとなった。
主な人物 舞台 口述日1933(昭和8)年12月21日(旧11月5日) 口述場所大阪分院蒼雲閣 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年5月5日 愛善世界社版 八幡書店版第14輯 64頁 修補版 校定版137頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm7808
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本文  初頭比古一行は、際限もなき焼野ケ原中央に、天津日に輝くグロス沼を目あてに駒を速めて進ませ給ひける。折しもあれ、血にまみれたる老媼一人路傍に横はり、息も絶え絶えに四柱神に向つて両手を合せ、救ひを乞ふ事頻なりければ、初頭比古神は駒を止め、馬上より老媼に向ひ、声も涼しく宣らせ給ふ。

『曲津見征途に進む道辺に
  何を悩むかこれ老媼は

 よく見れば汝が面は無惨しく
  血ただれあり理由聞かむ

 言霊水火力に汝が悩み
  ただに救はむ名をなれかし』

 老媼は息も絶え絶えに歌もて答ふ。

『吾こそは荒野奥に潜み住む
  名もなき小さき国津神ぞや

 グロス沼に棲まへる大蛇はかくごと
  吾を傷つけ逃げ去りにけり

 こ病癒させたまへ天津神
  大蛇言向け取り止めたまひて

 天津神進ませたまふも詮なけれ
  曲神去りしあと沼辺は

 吾こそは焼野雉子と言へるも
  夫も子も皆殺されにけり

 沼底にひそみし曲津は天津神
  出でましと聞きて逃げ失せしはや

 こ先は醜曲神罠多し
  進ませたまふな危かりせば』

 初頭比古神は儼然として御歌宣らせ給ふ。

『汝こそはゴロス化身よ惟神
  吾さとき目を濁さむとするか

 グロ言葉を畏みて
  吾を止めむ心なるべし

 グロスもゴロスも神言霊に
  射向ふ力あらざるべきを

 汝は今雉子老媼と身を変じ
  吾神軍を止めむとすも。

 一二三四五六七八九十
 百千万千万
 神言霊幸はひて
 これ曲神化身なる
 雉子老媼正体を
 現はせたまへ惟神
 真言水火言霊を
 清く打ち出で願ぎまつる
 ああ惟神々々
 生言霊に光あれ
 吾言霊に生命あれ』
 かく歌ひたまふや、雉子と言へる老媼は忽ち三角三頭長蛇と変じ、三箇口より火焔を吐き黒煙を吐き、前後左右にたうち廻り、グロス沼方をさして一目散に雲を霞と逃げ去りにける。
 起立比古神は驚きながら御歌詠ませ給ふ。

『巧なる大蛇化身も汝が神
  生言霊に逃げ失せにけり

 曲津見はいろいろさまざまに身をやつし
  吾行く道を遮らむとすも

 神軍出立ち恐れ曲津見は
  かくも姿を変じたりけむ

 傷つきし彼面は燃えさかる
  野火に焼かれしあとなりにけむ

 グロスもゴロスも野火にやかれつつ
  水底に潜みて苦しみ居るらむ

 かくなれば醜曲神雄猛びも
  憐れ催し躊躇心わく

 さりながら吾雄心に躊躇
  わくも曲神経綸なるべし

 御樋代依さしを飽くまでも
  仕へまつらで帰るべきやは

 数々ありとは偽りか
  ゴロス化身葉怪し』

 立世比女神は御歌詠ませ給ふ。

『面白き今日首途よ曲津見は
  吾等を道に伊迎へまつりぬ

 天日下にゴロスは身を変じ
  吾等を迎ふること雄々しさ

 何事奸計あるかは知らねども
  神と倶なる吾等は恐れじ

 恐るべきもは心にわきたてる
  躊躇心曇なりける

 いざさらば公神言を畏みて
  ただ一筋道進むみ』

 天晴比女神は御歌詠ませ給ふ。

『天清く大地は広く遠野に
  陽炎立ちて春風渡れり

 春風に吹かれて進む駒
  吾気魂心地よきかも

 春野を行く心地して曲津見
  罰め首途と思へじ

 綽々として余裕ある此戦
  曲滅びは夢ごとけむ

 張り切りし心も俄にゆるみけり
  ゴロス曲津姿見しより

 種々に心しゆかばや曲津見は
  身を変じつつ現はれ来らむ

 遠野をふりさけ見れば彼方此方に
  曲神息か黒雲立ちたつ

 陽炎もえ立つ春野奥にして
  黒雲立つは怪しかりけり

 見限り焼野は広し醜雲
  影は見ゆれどかたまりもせず

 いざさらばグロス沼に進むべし
  吾駿馬も勇み出でつつ』

 茲に四柱神々はグロス沼をさして急がせ給ひ、汀に立ちて眺め給へば、殆んど東西十里南北二十里に余る大沼なりければ、四柱神は沼周囲を四分し、東西南北に一柱づつ陣どり一斉に天津祝詞を奏上し、七十五声言霊を宣りあげ、
『一二三四五六七八九十、百千万千万神、こ言霊軍に加はりたまへ、援けたまへ、守らせたまへ』
と一生懸命に宣り上げ給ふにぞ、遉にグロス、ゴロス曲神も言霊力に敵し兼ね、苦しみ悶えながら沼底より大噴火如き水泡を吹き出し、六角六頭巨大なる悪竜となり、グロスは水面高く立ち昇り、ゴロスは三角三頭長大なる蛇身と還元し、水面をたうち廻り、遂には黒雲を起し中天高く立ちぼり、鷹巣方面さして雷鳴とどろく如き音響を立てて馳け出し逃げ失せける。其為に沼水は大半雲となりて御空に舞ひ昇り、再び雨となつて地に下る勢は、高照山中津滝を数百千集めたるが如く、広く激しく、到底晏然として起立し得ざる凄まじき光景とはなりにける。斯如く大蛇脆くも逃げ失せたるは、朝香比女神を蔭ながら守らせたまふ鋭敏鳴出ウ声力なりけるぞ畏けれ。
 四柱神は各自駒を速めて元来し道を駈りつつ傘松蔭にやうやくにして集はせ給ひ、勇ましく凄まじかりし戦況を互に語り合ひつつ哄笑幕をつづかせ給ひける。
 初頭比古神は御歌詠ませ給ふ。

『千早振る神世も聞かず例なき
  曲津軍に向ひぬるかな

 四柱言霊幸はひに
  曲津見神は稍おとろへぬ

 さりながら大蛇執拗さ
  生言霊に容易に亡びず

 百雷一度に轟く如くなる
  ウ声言霊にひるむ曲津見

 御樋代神を守らす鋭敏鳴出
  神言霊に逃げ失せにけり

 名にし負ふグロス曲神も
  今日を限りと逃げ失せにけり

 曲神は野火に焼かれて傷つきしか
  そ面見れば糜爛れゐたりぬ

 恐ろしき六角六頭巨大なる
  悪竜水面にたうち廻りし

 三頭三角長蛇となりて曲津見
  ゴロスは腹を真白く見せたり

 大き小さき数限りなき竜蛇神
  狂へるさまは見物なりけり

 初めて曲津征途に向ひつつ
  如何になるかと危ぶみしはや』

 起立比古神は御歌詠ませ給ふ。

『山岳如き荒浪立てながら
  狂ひ立ちたる曲津見あはれ

 水柱天に冲して噴水
  吐き出す如き曲津すさびよ

 曲神苦しき息より迸る
  水は御空に高くぼりぬ

 かくごと勇ましき軍は見ざりけり
  生言霊比なき力に』

 立世比女神は御歌詠ませ給ふ。

『女神吾もいかがなるよと束間は
  危ぶみにけり曲津荒びに

 曲神逃げ去りしより沼面は
  鏡如く光りかがやけり

 こ沼を鏡沼と改めて
  こ食国しめりとなさばや

 莽々と生え繁りたる醜草も
  焼き払はれて沼み照れる

 御樋代神持たせる真火なかりせば
  こ曲津見は亡びざりけむ

 葦原比女御樋代神御艱み
  今日戦にはじめて覚りぬ

 手も足も出す隙もなき此島に
  御樋代神おはす雄々しさ』

 天晴比女神は御歌詠ませ給ふ。

『曲津見は黒雲に乗りて逃げゆきし
  あと御空は晴れ渡りけり

 言霊功詳細に
  わが公許に復命せむ

 吾公功尊し曲神
  罰め軍に光をたまへり

 神光は忍ケ丘御空より
  いや輝きて曲津亡びけり

 葦原比女神まします聖場は
  またもや曲津に襲はれにけむ

 中野河広き流れにささへられ
  野火はここにて止まりにけむ

 曲津見は中野河原空渡り
  鷹巣山に棲処定めむ

 兎も角も忍ケ丘に急ぎつつ
  公が御前に復命申さむ』

 かく歌ひ給へば、初頭比古神は、

『天晴比女神言霊諾ひて
  いざや帰らむ忍ケ丘に』

 茲に四柱神は轡を並べて、忍ケ丘朝香比女本営に凱旋し給ひけるこそ、目出度けれ。
(昭和八・一二・二一 旧一一・五 於大阪分院蒼雲閣 加藤明子謹録)
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