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文献名1霊界物語 第79巻 天祥地瑞 午
文献名2第3篇 伊吹山颪よみ(新仮名遣い)いぶきやまおろし
文献名3第16章 共鳴庭〔1997〕よみ(新仮名遣い)むたなきにわ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ一方、竜島根では、姫神たちが、艶男が消えうせたことに上を下へ大騒ぎをしていた。大竜身彦命は失望あまり奥殿に深く姿を隠し、麗子姫は侍女に命じて探させたが、何手がかりもなかった。麗子は嘆き思いを歌に歌っていた。そこに艶男に恋焦がれていた白萩が現れ、燕子花姿が見えないことから、二人で逐電したに違いないと麗子に告げ、共に艶男失踪を嘆き悲しむ歌を歌った。麗子は心乱れ、しばらく休むために奥殿に入っていった。白萩は、ひとり琴滝ほとりに行き、さらに嘆き歌を歌っていた。そこへまた女神・白菊がやってきて、ともに艶男いない悲しみを歌いあった。
主な人物 舞台 口述日1934(昭和9)年07月19日(旧06月8日) 口述場所関東別院南風閣 筆録者内崎照代 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年10月25日 愛善世界社版 八幡書店版第14輯 248頁 修補版 校定版317頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm7916
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本文  伊吹山麓に展開せる竜島根姫神等は、一夜間に雲と消える艶男後を探ねて、上を下へと騒ぎ立ち、悲歎声は竜島根に充ち満ちにける。それにつけても、燕子花姫在らざるは第一いぶかし極みなりと、噂とりどりに、或は怒り或は歎き、恨み罵る女神声は、秋千草にすだく虫音か、木々に囀る百鳥か、形容しがたく見えにける。大竜身彦命は、艶男見えざるより失望落胆あまり、奥殿に入り堅く戸を閉ざして姿を見せず、麗子姫姫神も今更如く、あわてふためき、殿内隈なく侍女に命じて探させたれど、何手がかりもなきままに、
『いとこや艶男は今いづらなる
  生命力とたみしも

 故郷にかへる術なき波上を
  如何なしけむ艶男

 大竜身彦妻となりし
  われを恨みてかへらせ給ふか

 ともかくも君姿ははしけやし
  われは力にしづまりしも

 君なくばわれもこ地に住む心
  ひたに消えつつ悲しさまさる

 大竜身彦命はいま何処
  御影見えず心もとなや

 太刀膚夫に添へるもわが兄
  ここにいますと思へばなりけり

 父母国にやすやすかへらむと
  思ひしことも夢となりけり

 こ島に一年二年住みしうへ
  君を力に去らむと思ひしを

 今となり弥猛心も消え失せて
  生くる甲斐なきわが思ひかな

 山に野に百花千草匂へども
  われにはかなしき便りなりけり

 わが心照らさむ術もなかりけり
  光兄に見捨てられしゆ

 日に夜に厳力とたみてし
  君姿なきが淋しき

 仰ぎ見る雲井空も湖原も
  わが繰言に黙しゐるかも

 たよるべき何物もなき吾にして
  死すより他にぞみごとなし

 竜神数多棲まへるこ島に
  人身ひとり住むは淋しき

 太刀膚夫に朝夕伊添ひつつ
  百悩みに耐へて来しかな。

 伊吹山は高くとも
 玉耶湖は深くとも
 天津御空は澄むとても
 身置所なき身には
 生命死せむと思へども
 寸鉄もなき今日身は
 何と詮方なく涙
 乾くひまなきわが袖
 重き憂に沈むなり
 神がこ世にましまさば
 波上に浮く島ケ根に
 ひとり苦しむ妾神
 元御国に救はせ給へ
 とみかうみ
 すればする程情なや
 吾に似通ふ人もなく
 みな太刀膚竜神ばかり
 言葉さへもろくろくに
 通はぬ今日苦しさよ
 つらつら思ひめぐらせば
 父と母と御言葉
 軽く聞きたる報いにて
 夢にも知らぬこ島に
 竜使にさらはれて
 渡り来つるも罪ため
 許させ給へ天津神
 国津神等八百万
 貴御前に願ぎ奉る
 朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも
 竜島根は沈むとも
 朝夕恋ふる艶男
 君に対して二心
 われあるべきや兄君よ
 妾が心赤きをば
 悟らせ給へ惟神
 神かけ誓ひ奉る
 ああ惟神々々
 恩頼をたまへかし』
 斯く歎き歌を宣らす折しも、忽然としてここに現はれたる侍女神あり。よくよく見れば、艶男に生命までもと焦れたる白萩なりけり。白萩は弟姫神前ににじり寄り、涙片手に歌ふ。
『わが恋ふる君は見えなくなりましぬ
  朝夕慕ふ生命君は

 燕子花姫姿も見えずなりぬ
  二人は波秀踏みましにけむ

 波路はろか水上山にかへります
  よすがは絶えてあらざるも

 弟姫御君如何に思召すや
  艶男御舎を

 悲しさ涙は雨と降りしきり
  わが直垂重さよ

 そ昔か今は現かわかぬまで
  わが魂は狂ひけらしな

 夢現まぼろしなるよ艶男
  君光は闇と消えつつ』

 弟姫神麗子、これに答へて、
『かなしさ思ひは同じ吾とても
  心乱れて夢現なる

 吾は今心騒ぎてありにけり
  今しばらくを奥にてやすまむ』

と宣り終り、奥殿深く入らせ給ふ。白萩は只一人悄然と大殿を降りて、庭園を力もなげに逍遥しながら、清池汀辺に着き、琴滝漲り落つる音を聞きつつ、心憂さを晴らさむと努めてゐる。
『鏡湖ゆ落つる滝水さやさやに
  苦しき膚を洗ひ流せよ

 今となり悔むも泣くも詮なけれ
  かなしき涙は滝とおつれど

 艶男君に従ひ燕子花は
  ともにそ身を忍ばせにけむ

 如何にして君隠家探ねむと
  思ふは一人吾みならず

 こ宮に仕ふる女神ことごとは
  われと等しく歎きに沈まむ

 かかる世に生きて歎きにあふよりも
  湖藻屑となりて果てばや』

 斯く歌ふ折しも、差し足抜き足、忍び寄る女神は白菊であつた。白菊はかすかに歌ふ。
『滝津瀬を眺めて泣ける姫神は
  君行方をしら萩君か

 艶男行方もしら菊
  吾はかなしき乙女なりけり

 滝津瀬音聞くさへも何かしら
  今日はさみしく思はるるかな

 われもまた同じ思ひ白菊
  血に泣くかなしき乙女なりけり』

 此声に白萩は驚き、後振り返り、涙にしめる目をしばたたきながら、
『白菊君にありしか滝津瀬
  吾は涙をしぼりゐにけり

 わが恋ひし光影消えて
  心さみしき朝なりにけり

 大空雲井外まで探ねむと
  思へど詮なし翼あらぬ身よ』

 白菊は歌ふ。
『われもまた君行方をしら菊
  花はづかしき歎きするかな

 月は落ち湖はあせなむ世ありとも
  こ恋心永久に失すべき

 掌中玉をとられし心地して
  朝夕を歎きに暮るるも』

(昭和九・七・一九 旧六・八 於関東別院南風閣 内崎照代謹録)
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