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文献名1霊界物語 第80巻 天祥地瑞 未
文献名2第1篇 忍ケ丘よみ(新仮名遣い)ぶがおか
文献名3第3章 復活〔2007〕よみ(新仮名遣い)ふっかつ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ笑い婆は、息絶えた冬男霊魂と身体を茨鞭で打ちたたいていたが、闇中から二人大男が現れて、婆首を引っつかむと、どっと大地に投げつけた。これは、前にやはり笑い婆計略にかかって命を落とした、かつて冬男家臣・熊公と虎公精霊であった。熊公と虎公は婆両手をつかんで左右から力限りに引っ張れば、婆は顔をしかめ、火団となって忍ケ丘へ逃げ去った。冬男精霊は、家家臣・熊公と虎公霊に助け出されたを喜んだが、また以前に原野に派遣された二人が、笑い婆毒茶によって命を落としていたことを知った。三人は、こうなったら主従力を合わせて笑い婆命を取って、後災いを取り除こうと協議一決した。そして、婆住処である忍ケ丘まで、進軍歌を歌いながら進んでいった。三人は真夜中ごろ、忍ケ丘笑い婆表に着いた。そっと破れ戸外から中様子をうかがうと、婆は熊公・虎公に両腕を引き伸ばされた痛みに苦しみもだえていた。三人乙女は婆を介抱するどころか、命を奪われた上に日ごろ使われていた恨みを晴らそうと、枕辺に立って婆を見下ろしていた。
主な人物 舞台 口述日1934(昭和9)年07月26日(旧06月15日) 口述場所関東別院南風閣 筆録者白石恵子 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年12月5日 愛善世界社版 八幡書店版第14輯 303頁 修補版 校定版46頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm8003
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本文  笑ひ婆ア計略に  かかりて遂に生命をば
 落せし冬男亡骸を  眺めて婆アはからからと
 打ち笑ひつつ牛よな  長き舌をば吐き出し
 アハハハハツハ、イヒヒヒヒ  ウフフフフツフ、エヘヘヘヘ
 オホホホホツホ面白や  心地よやなと言ひながら
 冬男が霊魂と身体を  茨鞭もて打ち叩き
 虐げければ疲れたる  冬男は悲鳴をあげながら
 助けてくれよと叫ぶ折  忽ち起る暴風雨
 雷轟きいなづまは  天地に閃き渡りつつ
 闇中より現はれし  鬼をあざむく荒男
 二人は此処に立ち出でて  婆素つ首ひつつかみ
 大地にどつと投げつける  投げつけられて笑ひ婆
 顎を三つ四つしやくりつつ  アハハハハツハちよこざいな
 貴様も俺計略に  かかりて身亡せし熊公と
 虎公餓鬼にあらざるや  清水ケ丘森林に
 魍魎となりて彷徨ふか  さつてもさても心地よや
 そ有様は何事  着物はちぎれ帯は切れ
 頭は鳶巣籠りか  手足は松荒皮か
 見るもいぶせき姿かな  こ婆アさまに手向ふて
 後で後悔致すなよ  生命知らず餓鬼どもと
 無性矢鱈に罵れば  熊公、虎公精霊は
 烈火如く憤り  鬼蕨(拳)を固めつつ
 倒れし婆を左右より  力限りに打ち据ゆる
 婆アはひるむと思ひきや  またカラカラと打ち笑ひ
 長き舌をばはみ出して  顎をしやくれる憎らしさ
 よくよく見れば両人  拳は爛れて血は流れ
 見るかげもなき惨状に  婆アはまたまた笑ひつつ
 熊公、虎公盲ども  俺体は此処にある
 貴様は尖つた巌角を  無性矢鱈に打ち叩き
 拳を痛る向ふ見ず  もうこれからは馬鹿な事
 致すとこまま置かぬぞや  忍ケ丘に名も高き
 笑ひ婆さんに敵対ふて  幽冥界に居れるかと
 口汚なくも罵りぬ  虎公、熊公怒り立ち
 婆両手を左右より  力限りに引つぱれば
 さすが婆も辟易し  こりやたまらぬと顔しかめ
 火団となりて驀地  遥か空を駈けながら
 忍ケ丘へと逃げ帰る  冬男はやうやう起き上り
 やつと心も落ちつきて  辺りを見ればこは不思議
 水上山に仕へたる  わが家臣熊公と
 虎公二人がにこやかに  わが顔前に跪き
 若君御無事と言ひながら  涙垂らして拝みゐる。
 以下精霊言葉なり。

冬男『草枕旅を重ねてゆくりなく
  此丘辺に身亡せけるかな。

 幽界神となりてゆ何故か
  わが身は軽くなりにけらしな。

 汝こそは水上山に仕へたる
  家臣熊公、虎公ならずや』

熊公『忍ケ丘笑ひ婆アに謀られて
  生命亡せにし熊公なりける』

虎公『われもまた笑ひ婆に謀られ
  毒茶を飲みて亡せし虎公よ。

 若君精霊危く見えしより
  笑ひ婆アに手向ひにける。

 昔よりこれ大野に彷徨へる
  心汚なき婆にてありける。

 忍ケ丘に住む精霊は悉く
  笑ひ婆アに殺されしもぞ。

 われらまた国土開かむと巌ケ根
  君仰せに出て来し。

 漸くに忍ケ丘に辿りつき
  水奔草茶に倒されぬ。

 此恨みいつ世にかは晴らさむと
  熊公とともに時を待ち居し』

 冬男は歌ふ。

『ゆくりなくも家臣二人に出会ひたる
  われはにはかに心勇むも。

 汝が行方父は日夜に探ねつつ
  如何なりしと煩ひしはや。

 ちち御言を被りて
  国土開かむと吾は来つるも。

 われもまた笑ひ婆ア偽りに
  現身生命捨てにけらしな』

 熊公は歌ふ。

『かくならば主従三人村肝
  心協せて婆亡ぼさむか。

 一筋や二筋縄に行かぬ婆よ
  如何なる手段も先に知るれば。

 さりながら二つ腕を痛めたる
  これ刹那に亡ぼしくれむ』

 冬男は歌ふ。

『面白しああ勇ましも国津神
  生命を奪ふ仇亡ぼさむ。

 水奔鬼頭と誇れる笑ひ婆
  みたま生命取らで置くべき。

 笑ひ婆生命をとりて国津神
  百災除かむと思ふ』

虎公『若君御言葉うべよ吾もまた
  婆ア征討に力を添へむ。

 三柱大丈夫力を協せなば
  婆亡ぼすはたやすかるべし。

 いざさらば清水ケ丘を立ち出でて
  婆館にひたに進まむ』

と茲に三人は協議一決し、再び水奔草所狭きまで生ひ茂る野路を伝ひて、婆棲処なる忍ケ丘を指して進み行く。
 熊公は先頭に、冬男は中に、虎公は殿をつとめながら、葭草と水奔草所狭きまで茂れる野路を、吹く風になぶられながら、精霊常として、ひよろりひよろりと征服歌を歌ひつつ進み行く。
 熊公歌。
『ああ勇ましや勇ましや
 大野ケ原真中に
 広くて低く開けたる
 忍ケ丘頂上に
 古く棲みたる笑ひ婆
 国津神ら生命をば
 とりて楽しむ曲津見を
 征討め払ふと出でて行く
 今日は心も勇むなり
 吹き来る風はなまぐさく
 イヂチは数多すむとても
 毒虫むらがり来るとも
 何か恐れむ吾々は
 世にも稀なる荒男
 現世界に在りし日は
 古今無雙豪傑と
 世に聞えたるつはも
 如何に精霊なればとて
 魂力は衰へじ
 婆アも同じ精霊
 みたまなりせば吾々は
 如何で恐れむ大丈夫
 弥猛心拳もて
 彼が首を打ち叩き
 現幽二界災を
 払ひて幽冥神となり
 長く其名を伝ふべし
 ああ面白や面白や
 日頃恨みを晴らすべき
 時は漸く廻りけり
 忍ケ丘は広くとも
 水奔草は茂くとも
 敵は数々来るとも
 吾等は恐れじ水上
 山に鎮まる神々
 恵を浴びて進むべし
 ああ面白や勇ましや
 仇を報ずる今や時
 婆を亡ぼす今や時
 幸ひ闇深ければ
 さすが婆もわが行くを
 知らずに眠り居るならむ
 左右腕は両人
 強き力にむしられて
 なやみ苦しむそ隙を
 狙つてつけ入る計略
 進めや進め、いざ進め
 笑ひ婆ア亡ぶまで』
 冬男は歌ふ。

『大野原いゆく旅人悉く
  謀り殺せし婆は憎らし。

 われもまた婆毒手に誘はれ
  玉生命を奪はれにける。

 精霊生命はあれど現身
  生命は最早故郷に帰れず。

 かくならば三人が心一にして
  笑ひ婆アを亡ぼしくれむ。

 村肝心配りて進めかし
  婆ア手下道にし待てば。

 ゆくりなく忍ケ丘鬼婆に
  茶をふれまはれ謀らはれける。

 三人乙女も鬼婆
  毒手にかかりて亡せしなるらむ。

 三人乙女生命救ひつつ
  忍ケ丘闇を照らさむ』

 虎公は殿をつとめながら歌ふ。
『天地
 岩戸開くる時は来ぬ
 百千々
 恨みを晴らす時は今
 もろもろ
 なやみをやらふ時は来ぬ
 水上山神館
 王君に仕へたる
 心も固き巌ケ根
 御子と生れます若君に
 仕へ奉りて進み行くも
 天地御恵か
 清水ケ丘に年月を
 恨み鬼となりはてて
 婆ア生命を窺ひし
 そ甲斐ありて今吾は
 強き力に押されつつ
 進み行くこそ勇ましき
 ああ吾は
 若君如旅行きて
 笑ひ婆アにたばかられ
 生命とられし落武者よ
 これ恨みを晴らさむと
 熊公と共に年月を
 清水ケ丘に暮したり
 いよいよ時は満ちにけり
 いよいよ婆アを征討むべき
 よき日となりぬ勇ましや
 吾精霊身ながらも
 何かは知らずいと強き
 力添はりし心地して
 大野ケ原を進み行く
 幸ひ空に月もなく
 星かげもなき闇
 今日出で立ち面白や
 年月重ね恨みたる
 笑ひ婆ア前に
 恨み晴らすと思へば嬉しき』
 斯く歌ひながら、真夜中頃三人精霊は、忍ケ丘笑ひ婆表に着きにける。
 三人は破れ戸外にそつと佇み、内様子を窺へば、婆は両手むしれるばかり二人に引かれたる痛みに、霊魂も断れむばかり苦しみ悶え、うんうんと呻吟声をあげ居たり。三人乙女はとよく見れば、こはそも如何に、介抱なし居るやと思ひきや、婆二代目如く、
『アハハハハツハ、イヒヒヒヒ
 ウフフフフツフ、エヘヘヘヘ
 オホホホホツホ面白や
 主笑ひ婆アさんは
 あまりに我執が強くして
 数限りなく人命を
 奪ひて忍里をつくり
 司となりて居たりしが
 最早天運つきけるか
 昨夜泊りし水上
 冬男と言へる大丈夫に
 うまく此場を逃げられて
 そ無念さに地団駄を
 踏みつつ後を追ひかけて
 清水ケ丘に辿りつき
 不覚をとりて逃げ帰り
 左右手足をむしられて
 身動きならず苦しめる
 此有様は何事ぞ
 われら三人乙女らも
 笑ひ婆さんに謀られて
 遂に幽冥鬼となり
 恋しき父母家にさへ
 帰るよしなきみじめさよ
 こ恨み
 いつかは晴らしくれむぞと
 当なき事を頼みつつ
 待ちし月日甲斐ありて
 今日は嬉しき鬼婆
 早くも知死期となりにけり
 ああ面白や、たもしや
 笑ひ婆さん蘇る
 ためしは最早あらざらめ
 天落ち地は割るるとも
 婆さん再び蘇る
 ためしはあらじ今間に
 婆さん寝首を押へつけ
 かよわき乙女身ながらも
 日頃恨み晴らすべし
 ああ面白し、たもしし
 アハハハハツハ、イヒヒヒヒ
 ウフフフフツフ、エヘヘヘヘ
 オホホホホツホ面白し』
と歌ひつ笑ひつ、三人は枕辺に立つて居る。笑ひ婆は怒り心頭に達すれど、最早びくとも動かぬ此場合、煮いて喰ふと焼いて食はうと、三人乙女中にあるを知る故に、狡猾なる婆は聞えぬ振を装ひ、痛さを耐へて笑ひにまぎらし居たりける。
(昭和九・七・二六 旧六・一五 於関東別院南風閣 白石恵子謹録)
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