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文献名1霊界物語 第80巻 天祥地瑞 未
文献名2第1篇 忍ケ丘よみ(新仮名遣い)ぶがおか
文献名3第4章 姉妹婆〔2008〕よみ(新仮名遣い)しまいばば
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ冬男、熊公、虎公は家中に進み入った。婆は驚き色を見せながらもかすかに笑い声をもらし、目を怒らせて三男三女を見上げていた。冬男は婆を戒め改心を迫るが、婆は逆に、現世苦しみを助けようと命を奪っただから、感謝するべきであり、こ忍ケ丘幽霊たちは、自分が救ってあげた者たちばかりだ、と嘯いた。冬男、熊公、虎公と三人娘・山、川、海は怒って婆をしり、今こそ婆を滅ぼそうと歌を歌うが、婆は苦しみ冷や汗をかきながらも、しぶとく一同をりし返している。一同は心を合わせて、今こそ婆を征伐して滅ぼそうとする折しも、表戸を静かに開いて入ってきたごま塩頭中婆があった。中婆は一同に目礼し、自分は「譏り(そしり)」であると名乗った。そして、里人代表として、怪我をした笑い婆を見舞いに来ただ、と述べた。譏り婆は笑い婆に近寄って抱き起こすと、すっくと背に負ってまっしぐらに表を指して駆け出した。そして沖天雲に乗り、遠い南空に向かって、雲を霞と逃げ去ってしまった。こ婆は笑い婆妹で、間断なく人を譏っている悪魔であった。残された六人は後を追うすべもなく、互いに顔を見合わせてしばらく呆然としていた。
主な人物 舞台 口述日1934(昭和9)年07月26日(旧06月15日) 口述場所関東別院南風閣 筆録者内崎照代 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年12月5日 愛善世界社版 八幡書店版第14輯 310頁 修補版 校定版70頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm8004
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本文  忍ケ丘笑ひ婆が破れ家外に立ちて、様子をうかがひ居たる冬男、熊公、虎公三つ精霊は、時こそよしと進み寄れば、やや驚き色を見せながら、身動きならぬ苦しさに、アハハハハ、イヒヒヒヒとかすかに笑ひ、目を怒らせ、三男三女顔を見上げて居る。
 冬男はこ体を見て、

『さき日に吾苦しめし報いにて
  こありさまは何事なるかも。

 笑ひ婆思ひ知りしや天地
  神いましめ今あらはれぬ。

 神々は熊と虎と腕をかり
  汝が両手を引き抜かせたり。

 両腕は体につける如見ゆるとも
  そ関節は抜けてありけり。

 いぢらしと思へど詮なし笑ひ婆
  霊魂生命を断たねばおかじ。

 国津神数多生命奪ひたる
  婆ア最後あはれなるかな。

 精霊生命すてたる其後は
  行くべき所あらじと思ふ。

 こ丘に毒茶を進めし鬼婆
  みたま果てぞあはれなるかな。

 しつこくも清水ケ丘まで追ひ来り
  熊と虎とにいためられける。

 斯くならば婆よ心をあらためて
  神助けを直にうくべし』

 婆は呻吟きながら、しわがれ声をしぼりて、

『迷ひ来し汝に毒茶を進めしも
  生命奪ふと思へばなりけり。

 現世もだえ苦しみ助けむと
  吾は毒湯を与へたるなり。

 感謝することを忘れてこ婆を
  恨むは何心ぞやそも。

 こ婆は忍ケ丘氏子をば
  殖すが為に毒を進めし。

 かぎりある現生命を抜きとりて
  永久生命を与ふる真心。

 わが為に生命うばはれ救はれし
  者ばかりなる忍ケ丘ぞや』

 冬男は憤然として、

『国土つくる務めある身を殺したる
  こ鬼婆は魍魎なるらむ。

 御前にかへりごとせむ由もなし
  現生命奪はれし吾。

 精霊となりて故郷にかへるべき
  かむばせもなきわが身なりけり。

 こ上は婆アみたまを亡ぼして
  忍ケ丘司とならむ。

 あきらめて早く亡びよ鬼婆よ
  汝がみたま生命はわがも

 熊公は、

『鬼婆たくみ罠におちいりて
  われは果敢なくなりしみたまぞ。

 こ恨いつか晴らすと只二人
  清水ケ丘に時を待ちしよ。

 斯くならば最早力も及ぶまじ
  こ鬼婆を斬りて放らな。

 嬉しさと楽しさ一度に湧き出でて
  婆ア生命を今日は断つなり』

 婆アは寝ながら苦しき息下より、

『へらず口たたくな熊公精霊よ
  吾たくみにかかりし馬鹿者。

 精霊生命死すると思ふ奴
  幽冥知らぬたぶれなりけり。

 こ生命は如何に迫るとも
  ひるまずたゆまず仇をかへさむ。

 肉体は死すことあるも精霊は
  幾千代までも亡びざるなり。

 どこまでも生きながらへて汝が生命
  千変万化に悩ましくれなむ。

 貴様等に討たれてひるむ婆ならず
  しばし間をやすむみなる』

 虎公は、

『執念深き婆かも今となりて
  へらず口みたたき居るなり。

 両腕を引き抜かれながら知死期まで
  しる婆ア心にくきも。

 一打ちに息とめてみむこ
  頭骸骨をば打ちくだきつつ。

 わが恨み晴らさむときは来りけり
  思ひしれ婆ア今日朝を』

 婆アは長い舌をベロリと出し、冷汗をかきながら尚もしぶとく、

『虎公よ馬鹿をほざくなこ婆は
  斬つても斬れぬ亡びぬつはもぞ。

 よしやよし幾万人攻め来とも
  ひるまぬ笑ひ婆アを知らずや。

 如何ならむ悩みにあふもアハハハハ
  イヒヒヒヒヒと笑ひ過さむ。

 難局に処しても吾は笑ふなり
  笑へば生命は永久に亡びず。

 笑ふこと知らぬ輩あはれさよ
  いつも怒りつ泣きつ居るなり。

 三人乙女は弱味をつけこみて
  そろそろ生地をあらはしにけり。

 こみたまは亡びず何時までも
  生きて乙女に仇を返さむ。

 山も川も海もおぼえて居れよかし
  今に報いむ今日恨みを』

 山は少しく柳眉を逆立て声をふるはせ、

『まだ花生命とりし婆に
  吾は報いむ恨みかずかず。

 今日まではすきを窺ひにこやかに
  婆に仕へて来りし吾なり。

 わが心知らずに胸を安んじて
  過ぎにし婆うかつなるかも。

 故郷わが垂乳根は夜昼を
  悲しみ給はむ思へばにくらし。

 こたま生命を亡ぼして
  世禍をぞかむと思ふ』

 婆アは怒り面相すさまじく、

『アハハハハあはれなるかな乙女山
  汝は身程知らぬ馬鹿者。

 わが許しなくてみたま生命をば
  保つと思ふかうつけ者奴が。

 こ婆は閻魔妻よ今ここに
  館構へて生命断つなり。

 見苦しき姿婆とさげすむな
  大王様奥方なるぞや』

 川は歌ふ。

『大王奥方なるか知らねども
  悪しきことみいたす婆なり。

 こ婆が幽冥界にある限り
  精霊等は浮ばざるべし。

 如何ならむ悩みにあふもいとはまじ
  婆ア生命をとらねばやまじ。

 川瀬に毒を流してこ婆は
  人生命をとりし曲なり』

 婆アは、

『汝乙女訳を知らずに何を言ふ
  婆光を知らぬ盲が』

 海は、

『斯くなれば如何にもがくも及ぶまじ
  婆に報いむ日頃恨みを。

 玉惜しき生命を奪はれて
  黙すべきやは花なる乙女は』

 婆アは、

『何なりと勝手にほざけこ
  許しなければ住み場なからむ』

と言ひながら、うんうんと又もや冷汗を滝如く流しながら呻吟いて居る。ここに冬男は乙女に向ひ、

『さき日に吾に毒茶を進めたる
  汝はいやしき乙女ならずや。

 鬼婆手下と思ひし汝乙女
  今日は婆ア敵となりけるよ』

 山はこれに答へて、

『鬼婆きびしき教にそむかれず
  水奔草茶を進めける。

 気毒と思へどやむを得ざりけり
  許させ給へわが曲業を』

 川は歌ふ。

『君こそはあたら大丈夫精霊と
  なして力をからむと思へり。

 大丈夫君なるが故こ婆を
  征討むと思ひて毒たてまつりき。

 大丈夫君精霊となりまさば
  吾力と思ひゐたりしよ。

 精霊君にしあれば吾もまた
  精霊故に力とたまむ』

 山は歌ふ。

『ともかくも男女六柱精霊
  力協せて婆を征討めむ。

 鬼婆よ心しづかに冥せよや
  いよいよ運つきにしあれば』

 笑ひ婆アは絶体絶命と見えける折しも、表戸を静かに開きて入り来る胡麻塩髪を後に垂らしたる中婆アありけり。中婆アは言葉淑やかに六人男女に黙礼しながら、
『此家主笑ひさんは、きついお怪我をなさつたと聞きました。私はこ「譏り」と言ふ者でありますが、里人代理として参りました。見れば山、川、海優しき三人様厚き御介抱を御礼申します。また外三人様まで御見舞ひにお越し下さいましたやうですが、何とも御礼申しやうもございませぬ。どれ、私も一寸御容態を見させていただきませう』
と言ひつつ、笑ひ婆アを抱き起し、すつくと背に負ひ、ホホホホホと後を振りむき、笑ひながら驀地に表をさして駈け出し、冲天雲に乗り、遠き南空に向つて雲を霞と逃げ去りぬ。こ婆アは笑ひ婆妹にして、間断なく人を譏り楽しみとせる悪魔なりける。
 笑ひ婆アは妹に助けられ急場を遁がれ、行方をくらましたるより、六人は後を追はむ術もなく、互ひに顔を見合はして、暫しが程は呆然たりける。
(昭和九・七・二六 旧六・一五 於関東別院南風閣 内崎照代謹録)
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