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文献名1霊界物語 第80巻 天祥地瑞 未
文献名2第2篇 秋夜よみ(新仮名遣い)しゅうやつき
文献名3第7章 月見ケ丘〔2011〕よみ(新仮名遣い)つきみがおか
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
主な人物 舞台 口述日1934(昭和9)年07月27日(旧06月16日) 口述場所関東別院南風閣 筆録者林弥生 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年12月5日 愛善世界社版 八幡書店版第14輯 325頁 修補版 校定版127頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm8007
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本文の文字数3294
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本文  秋男一行五人は、漸くにして雑草生ひ茂る月見ケ丘夕を、ここに息を休めながら松間月を眺めて歌ふ。

秋男『大野原渉りて漸く月見ケ丘
  松に懸れる月を見しかな』

 松は歌ふ。

『松生ふる月見ケ丘月光は
  秋風にゆれつつ。

 月清み草葉にすだく虫音も
  いやさえざえに小夜更けにけり。

 秋月静かに照れる丘上に
  旅疲れを休らふ宵かな。

 籠木梢に宿る月影は
  千々に砕けて風にさゆれつ。

 大空心は知らねども
  われには楽しきかげにぞありける。

 月澄めるこれ丘辺に休らひて
  松風聞けば秋声あり。

 天国姿なるかな松ケ枝に
  澄む月影を見れば楽しき』

 竹は歌ふ。

『此処に来て親しと思ふ故郷
  山端出づる月を見しかな。

 高光山に進まむ道すがら
  月見ケ丘月を見るかな。

 白雲幕を閉ぢつつ開きつつ
  月桂男われ等をぞけり。

 鈴虫も清しき声を張りあげて
  今宵月を称へうたふも。

 萩、桔梗匂へる丘に照る月
  かげは一入清しかりけり。

 空高き秋男君に従ひて
  今宵は清しき月を見るかな。

 此処に来て空ゆく月を眺むれば
  悪魔すまふ野路とは思へず。

 大丈夫弥猛心も月見れば
  柔らぎ初めぬ女郎花花。

 月夜に咲く女郎花よく見れば
  露を浴みつつ傾きにけり。

 月行く道も確に見ゆるまで
  澄み渡りたり今宵大空。

 大空に浮べる月光清み
  地上に松影を描けり』

 梅は歌ふ。

『月澄める御空雲は次々に
  薄らぎにつつ消え失せにけり。

 月と花露にかこまれわれは今
  月見ケ丘に歌を詠むなり。

 月読恵み無かりせば
  百草木も育たざるべし。

 澄み渡る今宵月は大井川
  竜淵瀬に冴え渡るらむ。

 淵に浮く月を眺めて竜神は
  水面に浮び出でて遊ばむ。

 火炎山峰越す月光赤み
  千草露も風に散るなり。

 一日旅を終りてわれは今
  月見ケ丘月に親しむ。

 秋楽しきもは百千花
  月に奏づる虫音なりけり。

 此処に来て松虫鈴虫きりぎりす
  清けき虫鳴く音聞きしよ。

 水上山にも聞かぬ虫音に
  わが魂は蘇りける。

 高光山進まむ道首途に
  われは冴えたる月を見しかな。

 空渡る月下草露うけて
  おもおもに玉とかがよふ。

 わが袖は露にしめりて御空ゆく
  月光さへ宿らせにけり。

 真昼間にまがふべらなる月光を
  浴びて今宵草枕かな。

 月澄めば御空雲も消えゆきて
  松吹く風音もさやけき。

 何時とても月を倦く夜はなけれども
  旅夕に見るは楽しき。

 天原ふりさけ見れば緑深し
  秋こそ月光なるかな。

 水上山松月冴えて
  われを送るかこ丘に見つ。

 雲間に翼を搏ちて飛ぶ雁
  数さへ見ゆる今宵月はも』

 桜は歌ふ。

『澄み渡る秋男君に従ひて
  冴えたる月顔を見る。

 花香も虫鳴く音も月光も
  秋を飾らぬもなかりけり。

 楽しきは秋旅路に如かざらめ
  百花匂ひ月冴ゆれば。

 月冴ゆる下道ゆけば虫
  露にふるひて花香るなり。

 月冴ゆる空気をゆるがせて
  透きとほるなり鈴虫声。

 天地を隈なく照らす月光
  心持ちたし旅ゆくわれは。

 せせらぎ音も聞えて丘辺に
  虫音冴ゆる月夜頃よ。

 昼如明るき月も女郎花
  桔梗刈萱色褪せて見ゆ』

 かく一行は、秋澄みきる月を称へ、休らひ居たる折もあれ、東南天に当りて一塊黒雲現はるるよと見る間に、次第々々に四方に拡がり、さしもに明るき月光も、忽ち黒雲に包まれ、咫尺黯澹として、どつかりと闇塊は月見ケ丘茂樹森に落ち来りぬ。一行姿は互に見えぬまで暗黒と化し、只声みを頼りに空晴るるを待つより外に手段なかりける。
 秋男は歌ふ。

『昼如晴れたる空も忽ちに
  あやめも分かずなりにけらしな。

 幾万星を残らず包みたる
  雲黒々と吹く風寒し。

 虫音もひたと止まりて梢吹く
  風いやらしくうなり初めたり。

 松、竹よ梅よ桜よ心せよ
  悪魔出づる序幕なるらむ。

 闇幕下してわれ等が目をかすめ
  事謀るらし悪魔群は。

 われわれ力に怖ぢて悪神は
  地上に闇を落せしならむ。

 惟神御霊幸はひましまして
  こ暗闇を晴らさせ給へ。

 何処よりか怪しき声聞ゆなり
  笑ひ婆アか譏り婆アか。

 如何ならむ曲津襲ひ来るとも
  われには厳言霊ありけり』

 松は歌ふ。

『月見ケ丘松百木も黒雲に
  かくれて見えず虫音細し。

 水奔鬼たとへ幾万来るとも
  生言霊に打ちて放らむ。

 兎にもあれ月見ケ丘を包みたる
  闇を晴らして進みゆかばや』

 竹は歌ふ。

『大丈夫弥猛心は暗闇に
  恐るべしやは国御為。

 爛漫と匂へる花香消え失せて
  闇はますます深みけるかな。

 こ丘にすだく虫音細りつつ
  怪しき風吹き来る夜半なり。

 雄々しくは言挙すれど村肝
  心淋しくなりにけらしな』

 梅は歌ふ。

『大丈夫に君は非ずや常闇
  今宵をさまで恐れ給ふか。

 闇幕幾重にわれを包むとも
  心光りに進まむ。

 大空清き月光包みつつ
  曲津はわれ等にさやらむとすも。

 よしやよし常闇夜は深くとも
  如何でひるまむ悪魔も恐れじ』

 桜は歌ふ。

『珍しく月見ケ丘に登り来て
  われは心を慰めしはや。

 魂蘇りたるたまゆらを
  包むも憎し醜黒雲。

 黒雲は包めど月は皎々と
  御空に輝き給ふなるらむ。

 中空雲は如何程厚くとも
  やがては晴れむ月いませば』

 斯く歌へる折しも、何処ともなく聞え来るいやらしき声。

『ギアハハハハハー、ギヨホホホホー

 腰抜けヒヨロヒヨロ男が集りて
  弱音吹くかな月見ケ丘に。

 空渡る月を力に腰抜けが
  くだらぬ歌をうたふ可笑しさ。

 闇幕に包まれ虫鳴く如き
  悲しき声をしぼり居るかな。

 高光山旅をとどまれ貴様等
  弱腰にてはとても及ばじ。

 貴様等求むる冬男は早や既に
  へこたれよつて弱鬼となりしよ。

 メソメソと吠面かわき赤恥を
  忍ケ丘に泣き暮し居る。

 其方も冬男如くへこたれて
  月見ケ丘鬼となれなれ。

 汝等歌を道々聞いてゐた
  俺姿を知らぬか馬鹿者。

 此方は世界奴を悉く
  譏り楽しむ婆アなるぞや。

 譏られて腹が立つなら目を噛んで
  死んでしまへば埒があくぞや。

 此方経綸闇に包まれて
  吠面かわく腰抜野郎よ。

 ギヤハハハハーぎゆうぎゆう喉をしめられて
  今に悲しき最後をする奴。

 かうなればもう俺貴様等は
  舌など噛んで死んだがよいぞや。

 世中に俺程えらい者はない
  水上館も神もあるかい。

 腰抜冬男兄が来ると聞きて
  待つて居たぞよ月見ケ丘に。

 かくなればもうこち煮て喰はうと
  焼いて喰はうとしたい放題。

 アハハハハあはれなるかな此餓鬼は
  俺等仲間で嬲り殺しよ。

 ちよこざいな腰弱男餓鬼どもが
  俺縄張荒らそとするか。

 縄張をむざむざ貴様に荒らされて
  譏り婆さん顔がたつかい。

 笑ひ婆俺は譏り婆よ
  譏り散らして泡を吹かさむ。

 此方罠にかかつてこ丘に
  休むといふは運尽きぞや。

 大空月見したが其
  いよいよ運尽きとなりける。

 運つきまごつきうろつききよろつき
  五人男憐れなるかな。

 ギヤハハハハー、ギヨホホホホー、ギユフフフフー』

といやらしき声が闇中に連続してゐる。秋男は最早や堪り兼ね、天を拝し地を拝し拍手しながら、

『一二三四五六七八九十
 百千万八千万
 天津御空を晴らさせ給へ』

と天数歌を繰り返してゐる。
 闇中より破鐘様な声、
『ワツハハハハー、ウフフフフー、てもさてもいぢらしいもう。此方は忍ケ丘に棲む水奔鬼笑ひ婆アさん妹、世界奴ども片つぱしから譏り散らして茶々を入れる譏り婆さん貧乏神ぞや、恐れ入つたか。天数歌なんぞと減らず口を叩くな。そんな事でビクとも致す鬼婆ではないぞや。ギヤハハハハー、ギユフフフフー、終り』
と言つた限り、ピタリと怪しき声は止つた。
(昭和九・七・二七 旧六・一六 於関東別院南風閣 林弥生謹録)
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