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文献名1霊界物語 第80巻 天祥地瑞 未
文献名2第2篇 秋夜よみ(新仮名遣い)しゅうやつき
文献名3第12章 夜見還〔2016〕よみ(新仮名遣い)よみがえり
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ四辺は暗く雲が立ち込め、風一つない蒸し暑い空気がみなぎる中、苦しみ中で葭草と水奔草が生い茂る荒野が原を進み行く一人男があった。笑い婆、謗り婆計略によって穴に落とされ、命を奪われた秋男は、幽冥中をさまよいながら、これまで事件を述懐していた。すると、血ような色をした濁水が流れる大川に行き当たった。秋男はどうやってこ川を渡ろうかと思案に暮れていた。すると、傍らよし草をそよがせて、痩せこけた老婆が杖をつきながら秋男前に現れた。婆は、自分は秋男命を奪った笑い婆・謗り婆姉妹、瘧婆であると名乗り、秋男生命を奪おうと襲い掛かってきた。秋男は身体きわまってどうすることもできなくなったが、そこに松、竹、梅、桜従者精霊たちが助けに現れ、婆を取り囲んだ。4人は一度に瘧婆に殴りかかったが、一同こぶしが傷ついただけで、婆は平然とあざ笑っていた。そこへ突如、空をどよもして進んできた一柱火団が轟然と川辺に落下した。と、瘧婆影は雲霧と消えて跡形もなく、よく見ると5人一同は、まだ落とし穴底に横たわっているみであった。5人はまだ自分たちが生命があることに気づき、何とかして穴から脱出しようと思案した。そして、秋男が言霊歌を歌い終わると、地底は次第にふくれあがり、辺り景色は以前樹蔭に戻った。秋男は天地恵みに生き返ったことを感謝し、曲津砦に攻め込む意気を歌った。
主な人物 舞台 口述日1934(昭和9)年07月28日(旧06月17日) 口述場所関東別院南風閣 筆録者林弥生 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年12月5日 愛善世界社版 八幡書店版第14輯 353頁 修補版 校定版233頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm8012
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本文  四辺黯澹として声もなく、天低う妖雲垂れ下りて一陣風もなし。蒸し暑き事釜中を行くが如く、陰鬱空気漲り、全身脂汗にじみ、形容し難き苦しき中を、葭草と水奔草生ひ茂る荒野ケ原を進みゆく一人男ありけり。
『ああいぶかしやいぶかしや
 水上山を立ち出でて
 幾夜を重ぬる草枕
 怪しき事数々を
 目撃しつつ黄昏に
 火炎麓まで
 進み来れる折もあれ
 天に冲する大噴火
 忽ちとどまり暗黒
 幕は四辺を包むよと
 見るまもあらず譏り婆
 笑ひ婆ア水奔鬼
 闇幕をば距てつつ
 怪しき事数々に
 笑ひ罵るにくらしさ
 われ等は腹に据ゑかねて
 闇に向つてつき込めば
 思ひがけなや八千尋
 地底穴に陥りて
 苦しみもだゆる折もあれ
 続いて落ち込む松、竹、梅
 桜四人も現世
 生命は空しくなりにけり
 此処にも怪しき婆
 いぶかしさよと思ふ折
 わが言霊はいち早く
 こ場を去りしと思ひきや
 かかる怪しき大野原
 悲しく淋しく一人ゆく
 ああ惟神々々
 神此世にましまさば
 わが行く先を明らかに
 天地妖気を吹き払ひ
 示させ給へと願ぎまつる
 天地静かに風死して
 わが身体全部より
 熱湯汗はにじみ出で
 痒さ苦しさ堪へがたし
 ここは地獄か八衢か
 合点行かぬ事ばかり
 正しく幽冥道ならば
 わが弟に出会ふならむ
 冬男恋しや、なつかしや
 精霊となりて生くるなら
 われ悲しき心根を
 思ひ計りて来れかし
 汝仇を討たむとて
 悪魔婆に謀らはれ
 尊き生命を捨てにけり
 思へば思へば憎らしや
 譏り婆アに笑ひ婆
 たとへ幽界なればとて
 これ悪魔を殲滅し
 精霊界を悉く
 清め澄まして天国
 貴門戸となさしめむ
 ああ惟神々々
 恩頼を願ぎまつる
 高光山は遠くとも
 火炎山はさかしとも
 如何でひるまむ霊魂
 生命あらむ其限り
 登らなおかぬ大丈夫
 弥猛心をみそなはし
 天地に神いますなら
 わが願ぎ言を詳細に
 聞し召さへと願ぎまつる』
 斯くうたひつつ前進すれば、血如き色を為せる濁水流るる大川につと行き当りたり。秋男は如何にしてこ濁水を渡らむかと、岸辺に佇み、頭を傾け、腕を組み、太き溜息吐きながら、微に歌ふ。

『幽界淋しき道をたどり来て
  血潮流るる川辺に来りぬ。

 滔々と流るる水は悉く
  悪臭交りて胸ふさがりぬ。

 汚れたる此川を渡らむと
  われは思はじ如何になるとも。

 人宿世思へば悲しけれ
  わがたつ涙川と流れつ』

 斯く歌ふ折しも、傍葭草枯葉をそよがせながら、痩せこけた老婆、藜杖をつき海老腰になりながら、秋男前に現はれ来り、全身を見上げ見下し、「ゲラゲラ」と打ち笑ひ、

『こ婆はそちが生命を奪ひたる
  譏り婆ア分けみたまぞや。

 よくもまあ迷ひ来しよなこ川は
  膿血と痰集りなるぞや』

 秋男は歌ふ。

『思ひきや紫微天界真秀良場
  こ葭草に地獄ありとは。

 よしやよし地獄旅を続くるとも
  われは進まむ高光山へ』

 婆アは顎をしやくりながら、

『こ婆は瘧と申す水奔鬼
  此処に来る奴なやめて楽しむ。

 来る奴は一人も残らずわが為めに
  瘧を病みて死ぬる嬉しさ。

 其方は精霊なれどこ
  恵みによりて瘧をふるへよ』

 秋男は冷然として、

『かくなればわれは恐れじ瘧婆
  霊生命を伐り放るべし』

 婆アはこ歌に眼を釣り上げ、口を尖らし、秋男が側近く寄り添ひ、氷如き冷き手にて、秋男左右手をグツと握り、憎々しげに、
『こりや秋男餓鬼、俺を何方と心得てゐるか。血主、水奔鬼瘧婆アといふは此方事だ。さア、これからは其方生命をとり、血川に水葬してやらう。有難く思へ』
 秋男は、

『何をするか氷如き痩腕に
  われ両手を離さぬ鬼婆。

 鬼婆醜き姿一目見て
  われは吐き気を催しにけり』

 婆アは、
『何をこしやくな、俺顔を見て吐気を催すとはよくも言へたもだ。やい糞袋、痰壺、小便タンク奴、左様な太平楽を聞く鬼さんぢやないぞ。サアこれから其方皮衣をはぎ、腕をぬき、骨を引き切り、川瀬乱杭に使つてやらうぞ。それがせめても貴様にとつて幸ひ、罪滅しといふもだ。ギヤハハハハー、あまあむづかしい、青黒い、悲しさうな顔わいう、イヒヒヒヒ』
 秋男は進退これ谷まりて如何ともする術なく、途方にくれたる折もあれ、松、竹、梅、桜四人精霊は此場に現れ来り、秋男が瘧婆アに苦しめられてゐる体を見て、驚きながらバラバラと婆アを取りかこみ、

『はて不思議譏り婆アによく似たる
  ここにも鬼が現れしぞや。

 よく見れば秋男手をつかみ
  苦しめ居るか悪たれ婆ア奴』

 秋男は細き声にて顔をしかめながら、

『こ婆に苦しめられてゐるところ
  汝等四人はわれを救へよ』

 松は応へて、

『若君悩みを見つつ如何にして
  われ等四人もだし居るべき。

 わが力あらむ限りをこ
  頭上にくはへて打ち据ゑて見む。

 竹よ梅よ桜よ来れ此婆を
  只一息に打ちなやまさむ』

 四人は一度に拳を固め、婆ア面部をめがけて打ち据ゆれば、如何はしけむ、婆アはビクともせず、四人拳よりは血潮タラタラと流れ出で、痛き事堪へ難し。瘧婆は冷笑し、
『ギヤハハハハ、こ方を何方様と心得てゐるか。岩より固き水奔草司、こ辺に棲処を固め、先に廻つて汝等が迷ひ来るを待つてゐた。笑ひ婆アや譏り婆ア一味者だよ。もうかうなる上は覚悟を致せ。往生致さねば此上辛き目見せてくれむ。さあ返答はどうぢや。イヒヒヒヒ、てもさても心地よやな』
 五人はここに進退維谷まり、如何はせむと案じわづらふ折もあれ、忽ち空をどよもして進み来る一炷火団、轟然たる響とともにこ辺に落下したり。こ出来事に、瘧婆ア影は雲霧と消えて跡形もなく、よくよく見れば、依然として火炎山譏り婆が造り置きたる陥穽底に主従五人横たはり居たるなりけり。
 秋男は歌ふ。

『いぶかしや悪魔罠に陥りて
  死せしと思ひしは過なりしよ。

 身体生命ありせばこれよりは
  こ陥穽を伝ひ上らむ』

 松は歌ふ。

『有難し神幸はひに
  われは罷らずありにけらしな。

 常磐木心をはげまして
  冬男仇を酬はむ。

 玉生命失せしと思ひしを
  神恵みに生きてありけり』

 竹は歌ふ。

『大丈夫われ生きてありけり穴底を
  伝ひ上りて再び活動かむ。

 玉生き生命ある限り
  災をなす鬼をやらはむ。

 飽くまでも初心を貫徹なさざれば
  益荒猛男晴るべき』

 梅は歌ふ。

『兎も角も蘇りたる嬉しさに
  われは言葉も絶え果てにけり』

 桜は歌ふ。

『火炎山麓にすめる譏り婆ア
  たくみ果敢なく破れけるかな。

 曲鬼は闇に陥穽作り居て
  わが一行をなやまさむとせり。

 男子われ生き生命続く限り
  神国為めに曲亡ぼさむ』

 秋男は歌ふ。

『いざさらば生言霊を宣りながら
  上りゆかなむこ深穴を。

 一二三四五六七八九十
 百千万八百万
 守らせ給へ』

と、宣り終るや、地底は次第にふくれ上り、以前樹蔭にたちかへりける。
 秋男は歌ふ。

『天地恵み深ければ
  元津場所に生きかへりたり。

 これからは五人心を協せつつ
  曲砦に攻めて上らむ』

(昭和九・七・二八 旧六・一七 於関東別院南風閣 林弥生謹録)
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