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文献名1霊界物語 第81巻 天祥地瑞 申
文献名2第3篇 木田山城よみ(新仮名遣い)きたやまじょう
文献名3第11章 五月闇〔2038〕よみ(新仮名遣い)さつきやみ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじサール国王エールスは、イドム城を落としたときに、多く敵軍を捕虜として捕らえ、牢獄につなぐために、サール国に護送させていた。サール国には大栄山から流れる、うす濁った木田川という川が流れており、川を越えた東側丘陵木田山に城があった。サール国太子エームスは、木田山城師団長として留守を守り、数多敵軍捕虜が護送されてくるを朝夕眺めていた。ある日、捕虜中に美しい三人連れ美人を認め、たちまち恋慕情にとらわれると、敵国女性であろうとも何とかして妻にしたいと煩悶苦悩するようになってしまった。こ三人美女とは、アヅミ王娘チンリウ姫、侍女アララギ、姫乳母娘センリウ三人であった。太子エームス侍臣、朝月と夕月は、太子様子がただならないことに気づき、心を痛めてなんとかして太子気を晴らそうと、さまざま歌や踊り、小鳥や虫鳴き声などを催してみたが、太子は日に日に憔悴していくばかりであった。ある日朝月、夕月は太子に花ケ丘清遊を進めようと、花咲く丘美しさを歌に歌った。太子は花鳥風月に心は動かず、花ケ丘に咲く花ではない花に、今は心を奪われているだ、とそれとなく自分思いを歌に歌った。朝月は太子心を察し、自分が太子花へ使者となりましょう、と歌うと、太子は、自分が恋焦がれる花は、実は敵国捕虜中にいるだと歌い、高貴な身なりから、間違いなくあれはアヅミ王王女であろうと明かした。太子は、王女にとって自分は親敵であり、どうやって王女心を掴んだらよいか、朝月、夕月に相談を持ちかけた。朝月、夕月はなんとしても王女に太子心を伝え心をなびかせてみようと、太子思いを承った。かくして、朝月、夕月はひとまず太子前を下がっていった。太子は一人、木田川流れを眺めながら、述懐歌を歌っていた。侍女滝津瀬、山風がお茶を汲みに参上したが、太子心は晴れず、茶にも菓子にも手をつけずにうつむいていた。侍女たちは太子様子を心配するが、太子もう夜が遅いでひとまず下がるように言いつけ、侍女たちは下がっていった。かくして、木田山城夜は更けていった。
主な人物 舞台 口述日1934(昭和9)年08月14日(旧07月5日) 口述場所水明閣 筆録者谷前清子 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年12月30日 愛善世界社版 八幡書店版第14輯 484頁 修補版 校定版231頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm8111
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本文  サール国王エールスが、イドム国を占領せむとして大兵を募り、イドム城に疾風迅雷的に攻め寄せ、一挙にして王城を占領し、アヅミ王を始めムラジ妃及び左守、右守、軍師も共に月光山に逃走せしめ、数多敵軍を捕虜としてサール牢獄に繋ぐべく騎士をして護送せしめた。
 サール国には大栄山より流れ落つる木田川と言ふ薄濁つた流れがある。ここには橋梁もなければ船もないで、いづれも水馬術を以て渡ることとなし、木田川をへだて、東丘陵木田山にエールスは城壁を構へ、要害堅固陣地とたんでゐる。
 エールス王太子エームスは木田山城留守師団長として守つてゐたが、数多敵軍捕虜送られて来るを見むと、城内広場に夕月、朝月侍臣を従へ、そ状を愉快げに眺めてゐたるが、其中に気品優れて高く、面貌麗しき三人連れ美人を認め、独り身エームスはたとへ敵国女性にもせよ、何とかして吾妻に為さむもと、それより吾館に帰り、忽ち恋慕鬼に捉はれ、夜も昼も煩悶苦悩溜息ばかり続け居たりける。
 こ三人美女は言ふ迄もなく、アヅミ王娘チンリウ姫にして、稍年老いたるは侍女アララギ及びチンリウ姫乳兄弟なる乳母娘センリウ三人なりける。
 朝月、夕月はエームス日夜様子只ならざるに心をいため、如何にもして爽快なる太子笑顔を見むもと、あらゆる手段をつくし、声美しき小鳥も集め或は虫を啼かせ、種々禾本類を太子眼近き所に陳列し、そ上歌を歌ひ或は踊り舞ひ、種々と心力をつくせども、太子身体は日夜に憔悴するばかりなりければ、或日朝月、夕月は太子に花ケ丘清遊を勧めむと、側近く参入して歌もて勧めける。
 朝月は歌ふ。
『朝月光はおぼろに白けつつ
  花蕾に露を宿せり

 花ケ丘百花千花悉く
  若王が情露に濡れつつ

 若王蕾開かむと
  涙露を降らす朝月』

 エームスはかすかに朝月歌を聞いて、稍心動きたる如く、二三歩前に進み来りて歌ふ。
『朝月光は白けて大空は
  かすめり吾が心にも似て

 吾心朝な夕なに晴れやらず
  花鳥風月楽しみにならず

 百鳥囀る声も松虫
  共啼きさへもかなしき吾なり

 吾父は生死巷に戦へり
  されど吾にはかかはりもなし

 吾心戦に出でます垂乳根に
  いつか離れて花に悩めり

 花ケ丘に匂へる桃よそほひも
  吾にはかなしき便りなりけり

 山も川も吾にはかなし木田山
  館もさびし思ひはれねば』

 朝月は歌ふ。
『吾若王御心かすかに悟りたり
  朝月吾は花便りせむ』

 エームスは歌ふ。
『たらちね仇なる花にあこがれて
  吾はくるしき夢を見るなり

 斯くならば誉も位も玉
  吾生命さへ惜しけくはなし

 ままならぬ人を恋ひつつままならぬ
  わが世を歎きぬ朝夕べに

 はてしなき広きサール国中に
  かかる目出度き花は見ざりき』

 朝月は歌ふ。
『若王欲りする花は捕はれ
  花にあらずや語らせ給へ』

 エームスは歌ふ。
『恥かしと思へど吾は村肝
  心明さむ汝が言葉あたれり

 捕はれ姿気高ければ
  正しくアヅミ娘なりけむ

 吾父はアヅミ国を滅ぼして
  恨みを買ひしことかなしさ

 心安く手折り得べけむそ花を
  父嵐に散らされむとすも』

 朝月は歌ふ。
『吾若王かなしき心まつぶさに
  牢獄女に吾は伝へむ

 言霊剣を振りかざし
  若王心をはらし奉らむ

 麗しき三人中に
  すぐれてたかきを若王に進めむ

 どこまでも吾真心を打ち明けて
  イドム花をなびかせむ』

 エームスは稍面色をやはらげながら嬉しげに歌ふ。
『朝月情にうるほひて
  蘇るらむ朝顔花は

 初恋吾初花を手折らむと
  露涙に朝夕くれけり』

 朝月は歌ふ。
『木田川流れはよしや涸るるとも
  若王依さしを遂げずにおくべき

 斯くならば吾は今日よりアヅミ
  若王が床花と咲かせむ』

 エームスは歌ふ。
『たもしき汝が言葉よ朝月
  光を力に夕べを待たむ』

 朝月は歌ふ。
『朝月光消ゆるとも夕月
  光清ければ心安かれ』

 夕月は歌ふ。
『吾若王露にほだされて
  アヅミ花は御側に薫らむ

 夕月光を合図に忍びよりて
  若王が真心伝へ奉らむ

 朝月と夕月心を一つにし
  露情になびかせ奉らむ

 三柱美しき姫朝夕を
  うなかぶしつつ涙にしめれり

 朝夕に涙露にうなだるる
  花をし見ればあはれもよほす

 若王真心つぶさに伝へなむ
  物言ふ花も笑みて栄えむ

 兎も角も善事は急げと昔より
  世ことわざもありしを思ふ

 一時も早く御心安めむと
  心駒は勇み立つなり』

 エームスは欣然として歌ふ。
『朝月光はさやけし夕月
  光りは強し夕顔

 夕顔白きにあこがれて
  吾は生命をかけて待つなり』

 朝月は歌ふ。
『いざさらば三人こもりたる
  牢獄に進みて言霊開かむ』

 夕月は歌ふ。
『若王生命恋をかなへむと
  真心駒に鞭うち進まむ』

 エームスは歌ふ。
『恥かしきかなしき心を推しはかり
  出でゆく汝が復命待たむ』

 斯く主従は歌を交しながら暫し袂を別ちける。朝月、夕月立出でし後に、エームスは一時千秋思ひしながら、高殿より眼下を流るる木田川薄濁りを瞰下しながら静かに述懐を歌ふ。
『木田川流れは如何に濁るとも
  吾真心うつらざらめや

 月も日も浮びて流るる木田川
  水はかなしもかげくだけつつ

 百千々に心くだけど口なし
  花にも似たる吾なりにけり

 大栄山越えてはるばる吾父は
  なやみ種を蒔き給ひける

 父も母もとほくイドム国に在り
  吾さびしくも恋に泣くなり

 ままならぬ花を恋ひつつ手折るべき
  よすがなき身かなしき吾なり

 朝月はいかがなしけむ夕月は
  いづらにあるか御空曇らふ

 村肝雲霧を
  いかに晴らさむ五月雨降る

 五月雨にしめり勝なる吾袂
  知る由もなくほととぎす鳴く

 百鳥も必ず恋を叫ぶらむ
  独り身吾心にも似て

 妻恋ふる尾鹿それならで
  吾面ざしに散る紅葉かな

 朝夕に青息吐息つきながら
  生命恋にあこがれにけり

 吾父に恨みを買ひしアヅミ王
  娘と思へば一入かなしき

 晴れやらぬ五月空に吾は只
  空を仰ぎて吐息する

 庭面にあやめ、かきつばた匂へども
  吾には何望みだになし

 しとしとと降る五月雨は吾袖
  乾く間もなき涙ならずや

 かかる世に生れてかかるかなしさを
  今日が日までも悟らざりけり

 木田川水とこしへに流るとも
  吾悩みを洗ふすべなき

 捕はれし清き女はアヅミ王
  娘と聞きて驚きしはや

 兎も角も朝月、夕月言霊
  露に匂はむ朝顔夕顔

 夕顔花に心を奪はれて
  吾魂は闇となりける

 恋すてふ心かなしさ悟りけり
  アヅミ娘に会ひて

 一目見て吾魂は乱れたり
  恋悪魔に捕はれにけむ

 よしやよし吾玉緒は消ゆるとも
  一夜語らひなさでおくべき

 国も城も吾身も総てを忘れたり
  只あこがるる夕顔

 夕暮にふと眺めたる花なれば
  吾夕顔と名づけてあこがる

 夕顔心如何にと案じつつ
  吾垂乳根心を恨むも

 いたづらに平地に浪を起したる
  父すさびをかなしく思ふ

 父母仇なる敵に夕顔
  君は心をまかさざるべし』

 斯く独り述懐を述べ居たる折もあれ、侍女滝津瀬、山風両人は、各自茶を汲み菓子を捧げながら恭しくエームス前に進み来り、憂ひに沈める太子態をいぶかりがら滝津瀬は歌ふ。
『滝津瀬清水を汲みてわかしたる
  お湯召し上れエームス君』

 山風は歌ふ。
『大栄山なぞへに実りし果実よ
  いざ召し上れ生命実』

 エームスは黙然として、侍女が捧ぐる茶湯にも、果実にも、手を附けようともせず俯いてゐる。
 滝津瀬は再び、
『若王御面ざしすぐれぬは
  身にいたづきおはしますにや

 若王今日よそほひ見るにつけて
  かなしくなりぬ滝津瀬吾は

 月も日も隈なく照れる世中に
  何歎かすか太子君は

 御心なぐさむるならば吾生命
  若王に捧ぐもいとはざるべし

 朝夕に若王に仕ふる滝津瀬も
  今日はさびしき思ひするなり

 若王すぐれ給はぬ顔を
  拝みて吾はくだくる思ひす

 一言いらへ言葉願はしや
  吾は為すべきすべもあらねば』

 山風は歌ふ。
『若王御面いたく曇らへり
  いかなる悩みを持たせ給ふか

 咲き匂ふ花をつれなく吹き散らし
  梢清しき山風

 いかならむ悩みおはすか知らねども
  山風吾は吹き払ふべし

 大栄黒雲も
  吹き散らすべし小夜山風

 若王雲霧払はむと
  山風吾は心くだきつ』

 エームスはかすかに歌ふ。
『滝津瀬や山風心よみすれど
  吾宣る言葉なきがかなしき

 朝されば朝顔思ひ夕されば
  夕顔思ひてしめらふ吾なり

 木田川水とこしへに流るれど
  いつか晴れなむ心闇は

 ほととぎす朝夕べ分ちなく
  鳴きつる空は吾心かも

 月も日も光をかくせる五月闇に
  鳴くほととぐす吾ならなくに

 滝津瀬も早く寝よかし山風も
  吾前を去れ小夜更けぬれば

 吾は只思ひ淵に沈みつつ
  闇水音聞きて明さむ』

 滝津瀬は歌ふ。
『若王御言畏みいざさらば
  まかり退らむ貴御前を』

 山風は歌ふ。
『若王悲しき心ははかれども
  せむすべもなき吾身なりけり』

 斯く歌ひて二人侍女は吾居間にすごすごと帰りゆく。
 小夜更け空に鳴き渡るほととぎす声、四方八方よりしきりに木田山城森をかすめて響き来る。
(昭和九・八・一四 旧七・五 水明閣 谷前清子謹録)
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