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文献名1霊界物語 第81巻 天祥地瑞 申
文献名2第4篇 猛獣思想よみ(新仮名遣い)もうじゅうしそう
文献名3第17章 再生再会〔2044〕よみ(新仮名遣い)さいせいさいかい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ偽チンリウ姫を見破り、宴席でそことを歌にほめかした従臣朝月は、はるか孤島荒島に島流しにされてしまった。絶海孤島で、朝月は魚貝を採りつつ飢えをしぎ、海原を眺めながら述懐歌を歌っていた。朝月は述懐歌に、アララギ・センリウ姦計に陥った故国を憂い、また昨日夢に不思議にも、命を奪われたかと思われたチンリウ姫が海亀に助けられて無事にイドム国にたどり着いたことを思い返して、神恵みを祈っていた。すると、チンリウ姫を救った神亀が荒島波打ち際にぽかりと姿を現し、朝月を招くかように首を上下に振りはじめた。朝月は、これぞ琴平別命化身救いと喜び、神亀背中に飛び乗った。亀は朝月を背に乗せると、南へ南へとまっしぐらに進んで行く。朝月が神亀に感謝歌を歌ううちに、一日かけて神亀は、イドム国真砂浜辺に朝月を送り届けた。亀に感謝別れを告げた後、朝月が古木茂る森に分け入って行くと、小さな小屋があり、そこからはかすかに女性歌声が聞こえてきた。それは、チンリウ姫述懐歌であった。朝月は自ら名乗ってチンリウ姫に目通りを申し出るが、姫は朝月がこような場所にいるはずがないことを疑って警戒した。またもし本物だったとしても、朝月も自分とエームス王子結婚を計った悪人一人であると非難した。朝月は、チンリウ姫が島流しにあった後、アララギ・センリウ企みを公場で暴こうとしたために自分も島流しにあい、神亀に救われた経緯をチンリウ姫に訴え、忠誠を誓った。チンリウ姫はようやく朝月に心を許し、朝月は姫に仕えてしばらく森中で時を待つこととなった。
主な人物 舞台 口述日1934(昭和9)年08月15日(旧07月6日) 口述場所水明閣 筆録者林弥生 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年12月30日 愛善世界社版 八幡書店版第14輯 520頁 修補版 校定版363頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm8117
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本文の文字数4213
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本文  エームス王妃チンリウ姫は贋物である。其実は、侍女センリウ女がアララギと腹を合せ、エームス王始め数多重臣どもを籠絡してゐることを覚つた朝月は、宴会席に於て其事をほめかしたで、忽ちアララギ、センリウ等激怒をかひ、即座に重罪に処せられ、海洋万里荒浪にただよふ荒島に流された。朝月は、慷慨悲憤あまり述懐を歌ふ。
 潮ひびきは滔々と岩間に木霊し、寄せ来る浪は白馬鬣を打ちふり、岸辺岩石にかみつく如き物凄じき光景なりけり。朝月はこ王者然として貝などを採集し、餓を凌ぎつつ運を天に任せながら縹渺たる海原を眺めて歌ふ。
『仰げば高し久方
 雲井空は果てもなく
 青に解け入る吾みたま
 ふくれふくれて月となり
 又別れては星となり
 極みも知らぬ大宇宙
 わが物顔に渡りゆく
 われは朝月かげなれや
 波を分けつつ昇りゆく
 朝日光に照らされて
 昼は姿をかくせども
 夜さり来れば夕月
 光はきらきら波間を照らし
 千尋底ひには
 清く澄みきる夕月や
 朝ゆらゆらに
 波にたゆたふ雄々しさよ
 伊佐子島を後にして
 千重荒浪渡りつつ
 独木舟に来て見れば
 音に名高き荒島は
 ただ一本木も草も
 荒風浪に吹かれつつ
 生ふるひまなき岩
 堅磐常磐に海中に
 浮ぶも雄々しこ島根
 朝月はここに流されて
 世塵を知らず安々と
 堅磐常磐に栄ゆなり
 荒浪如何に猛るとも
 暑さ寒さは襲ふとも
 何か恐れむ大丈夫が
 弥猛心をくじくべき
 ああ面白や面白や
 こ荒島は広ければ
 永久住家と定めつつ
 百魚族友として
 竜宮王とうたはれむ
 さはさりながらあはれなるかな
 チンリウ姫は曲者
 奸計罠に陥りて
 似ても似つかぬ替玉
 センリウ侍女と強ひられて
 思はぬ罪をかぶせられ
 隠島に流されし
 其憐れさ身に迫り
 木田山城に開かれし
 祝賀宴に出席し
 うち出したる言霊
 激しき矢玉に怖ぢおそれ
 心きたなきアララギは
 わが言葉をさへぎりつ
 疑惑罪と強ひながら
 恋に狂へる若王や
 娘センリウ女とともに
 わが身を憎める其あまり
 高手や小手にいましめて
 こ荒島に流したり
 われは大丈夫覚悟はすれど
 隙間風にもあてられず
 宮中深く育ちたる
 チンリウ姫を魔島に
 流したるこそ憎らしき
 さはさりながら魔
 名を負ふ隠島ケ根は
 夕さり来れば荒浪に
 全島姿をかくすなる
 危険島に捨てたるは
 姫が生命をとらむ為
 アララギども謀計
 思へば思へば憎らしや
 今となりては
 泣けど悔めど姫君
 姿は最早荒浪
 腹に呑まれて影もなし
 神幸はひて
 若しも此世に在すならば
 水底を潜りてこ島に
 来らせ給へ惟神
 天地神に願ぎまつる
 ああされど
 不思議なるかな
 昨夜夢にチンリウ姫は
 亀背中に乗せられて
 とある磯辺にたどりつき
 茂樹森にささやけき
 庵を造りて住み給ふ
 夢か現か幻か
 心にかかるは姫
 完全に委曲に御在処を
 知らむと思へど是非もなし
 ああ惟神々々
 恩頼を賜へかし。
 天青く海原青きこ島に
  姫を偲びて青息つくも

 伊佐子島遠く離れる荒島に
  一人住む身は淋しかりけり

 さりながら世憂さごとを聞かずして
  一人楽しき今日われなり

 木田山城は間もなく滅ぶべし
  アララギ母子暴虐手に

 チンリウ姫隠島に流されて
  水泡と消えしは果敢なかりけり

 さりながら姫は生命を保たすと
  われは聞けるも夢枕に

 悪人栄えて善人亡ぶべき
  例は神代にあらじとぞ思ふ

 憎みても余りありけりアララギ
  いやしき心に出でし曲業』

 斯く歌ふ折しも、チンリウ姫を真砂浜に送りとどけたる巨大なる神亀は、波打ち際にボカリと浮き上り、頸を上下に振りながら朝月を招くも如く見えける。朝月はこれぞ全く海守護神琴平別命化身ぞと勇み喜び、直に丘を下りて汀辺に走りつき、
『有難し琴平別御迎へ
  伊佐子島に送らせ給へ』

と、合掌しながら神亀背に飛び乗れば、亀は波上に大なる頭をもたげ、南へ南へと波をかきわけながら、まつしぐらに進みゆく。
 朝月は歌ふ。
『有難し天地御恵に
  琴平別は現れましにけり

 一本草も木もなき荒島に
  われは淋しく暮し居たるを

 琴平別神化身に救はれて
  千重波路を渡らふ今日かな

 大栄山は雲間に霞みつつ
  天津日かげ朧に見ゆるも

 北を吹く風に送られわれは今
  神亀背に乗りて帰るも

 チンリウ姫もわれと同じくこ亀に
  救はれにけむ聞かまほしさよ』

 斯く歌ひつつ、亀ゆくままに任せ居たりしが翌日暁頃、空に朝月白けて、海風徐に袖を吹く頃、真砂浜辺に着きにける。
 朝月は、亀背より汀に飛び下り、神亀に向つて合掌しながら歌ふ。
『波荒き孤島になげきし朝月も
  汝功に救はれにけり

 何時までも汝恵みは忘れまじ
  わが歎かひはまたく晴れけり

 東北空に霞める高山は
  大栄山かなつかしき山

 こ聖所イドム浜ならむ
  大栄山北に見ゆれば』

 ここに朝月は亀に感謝し、別れを告げて汀真砂をザクザクふみならしながら、遥か前方にこんもりと古木茂りたる茂樹森を目当に辿り行く。
 朝月は只一人、茂樹森かげをあてどもなく辿り行くにぞ、目立ちて太き槻根元に萱を以て結びたる矮屋をみとめ、足音を忍ばせ近より、中様子を窺ひ居たりける。矮屋中よりは微なる女うたふ声響き来る。
『わが国は敵に奪はれわが父母は
  行方知れぬぞ悲しかりけり

 エールス司にわが父は
  城を奪はれかくれましけむ

 妾亦か弱き身もて敵軍に
  とらはれ遠く送られにけり

 水濁る木田山城にとらへられ
  なげき月日を泣き暮したり

 二十年われに仕へしアララギは
  悪魔となりてわれに反きぬ

 如何ならむ罪犯せしか知らねども
  今日吾身は淋しかりけり

 玉生命とらむとアララギは
  われを隠島に送りし

 荒浪に呑まれむとする折もあれ
  琴平別に救はれしはや

 大栄山遥かに高く北空に
  霞むを見ればわが国なるらむ

 さりながらイドム国も今ははや
  サール配下となれる悲しさ

 隠島漸く逃れわれは今
  茂樹森にかくれ泣くかも

 父母に一度会はまく欲りすれど
  今日吾身は詮術もなき

 万斛涙湛へてわれは今
  泣くより外に術なかりけり

 いたづらに森木蔭に朽ちむかと
  思へば悲しき吾身なりけり』

 朝月はこ歌を聞き、正しく隠島に流されしチンリウ姫なることを覚り、雀躍りしながら声高らかに歌ふ。
『われこそは木田山城に仕へたる
  朝月司なれ果てぞや

 こ家に忍ばせ給ふは正しくも
  チンリウ姫と覚らひにけり

 アララギきたなき心謀計に
  かくなりませし姫を悲しむ

 われも亦チンリウ姫を贋物と
  言挙げなしてやらはれにけり

 アララギやセンリウ姫憤りに
  われ荒島に流されしはや

 姫君を案じわづらひ荒島ゆ
  隠島ケ根遥かに仰ぎぬ

 琴平別神化身に送られて
  われは真砂浜に着きぬる』

 中よりチンリウ姫声として、
『いぶかしや茂樹森に人
  聞ゆは狐狸仕業なるらめ

 わが住家破屋なれど表戸は
  魔神為には開かざるべし

 朝月は木田山城左守神
  此処に来らむ理由はあらじ

 いろいろと言葉構へてたぶらかす
  狐狸謀計浅はかなるも

 アララギやセンリウ姫と相共に
  われをはかりし朝月曲津

 よしやよし真朝月なればとて
  われは死すともまみえざるべし』

 朝月は悲しげに、
『思ひきや茂樹森にたどり来て
  姫怒り言葉聞くとは

 姫君を陰に日向にかばひつつ
  誠尽せし朝月なるよ

 やさしげに見ゆるアララギ、センリウ
  類と思すが悲しかりけり

 姫君をかばひし言葉にたたられて
  われ荒島に流されしはや

 かくなればサール国へは帰れまじ
  忍びて住まむ茂樹森に

 木田山城は滅びむアララギ
  人もなげなるそ振舞ひに

 城内司は四分五裂して
  アララギ母子を呪はぬもなし

 隣国イドムを攻めたる酬いにて
  サール国は今に亡びむ

 御父アヅミ王はやがて今
  伊佐子島根を領有ぎ給はむ

 朝月清き心をさとりませ
  姫に仕ふと慕ひ来しもを』

 チンリウ姫は歌ふ。
『いろいろ汝が言霊にわが胸
  雲は晴れたりとく入りませよ

 なよ草女一人庵に
  汝が訪ひ来しも不思議なるかな

 汝も亦琴平別に救はれしか
  われも神亀に送られ来りぬ』

 斯く歌ひながら、柴戸を中よりパツと押開けば、朝月は大地にひれ伏し、ハラハラと落涙しながら、
『姫様、御懐かしう御座います。私は貴女御身上を気毒に存じ、大祝賀会席上に於て、今チンリウ姫様は贋物にして、アララギ奸計より斯くなれるも諷刺を歌ひましたため、アララギ母子及びエームス王激怒にふれ、奸佞邪智心きたなき司どもに審判かれ、遂に海中荒島という無人島に流され、孤独を託ちつつあるところへ、琴平別神、亀と化して現はれ給ひ、たつた今先、真砂浜辺に私を送りとどけて下さつたです。必ずや姫様も隠島より琴平別神に救はれて、此辺りにおし事と察知致しまして、森林を彷徨ふうち、フツとこ御住居が目にとまり、足音をしばせ近より、屋内様子を窺へば、かすかに聞ゆる御歌ふしに、てつきり姫様と打ち喜び、畏れながら屋外に立ち、歌もて御尋ね致した次第で御座います。何卒姫様御仁慈によりまして、私を僕として御使ひ下さらうならば、有難い仕合せと存じます。私は再びサール国に足を踏み入れる考へは御座いませぬ。こ島も御父領分とは言ひながら、サール国王エールスが暴威を振ふ領域内で御座いますれば、彼等が手下奴輩に見つかつては危険で御座いますから、こ森林を幸ひ、姫様御側に仕へて時待つ事と致しませう。一時は御父王は城を捨てて退却されましたなれど、賢明なるアヅミ王様は必ず軍備を整へ、捲土重来して、イドム城を回復し、善政を敷き給ふもと、私は今より期待いたして居ります。次にサール国は最早や滅亡徴現はれ居りますれば、伊佐子島は全部アヅミ王様治下に復する事と存じます。姫様、御安心なさいませ』
と、いろいろと言葉を尽して、朝月はチンリウ姫を慰めながら、暫時こ森林を住家として時を待ちゐたりける。
(昭和九・八・一五 旧七・六 於水明閣 林弥生謹録)
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