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文献名1霊界物語 入蒙記 山河草木 特別篇
文献名2第5篇 雨後月明よみ(新仮名遣い)うごげつめい
文献名3第33章 武装解除よみ(新仮名遣い)ぶそうかいじょ
著者出口王仁三郎
概要
備考2024/2/13出口王仁三郎全集第6巻を底本として校正。
タグ データ凡例 データ最終更新日2024-02-13 23:02:49
あらすじ猪野軍医は前夜うちに、従卒蒙古人を連れて、脱走してしまっていた。パインタラから七八十支里場所で、山路向こう谷あいに、六七十騎兵隊が、平行して進んでいるが見えた。盧占魁はそれを見るや、馬にまたがって先頭部隊を追いかけた。日出雄が追いついたころは、盧占魁が主な武将と密議を凝らしている最中であった。やがて全部隊はそれぞれ村落民家に宿営したが、盧占魁は日出雄と真澄別に人払い上面会を乞いに来た。そして、一度奉天に行って張作霖と談判しなければ虫が治まらない、ついては神勅を伺ってください、と言った。日出雄は、神勅は先般とおり、パインタラに行くは薪を抱いて火に飛び込むと同じ、と真澄別に伝えさせた。盧はそんなはずはないと言い、先ほど平行していた騎兵たちは自分たち討伐隊ではない、と否定した。真澄別が盧認識は間違っているではないか、とたしなめようとした時に、盧副官が厳封した密書を持ってきた。それには、武装解除しない限り、パインタラには入ることはできない、としたためてあった。盧はもしもことがあったら、パインタラに暴風雨か大洪水が起こるように祈願してください、と言い残して、あわただしく去っていった。日出雄と真澄別は庭前に座して、神に祈願を凝らした。神勅は、当日午後六時以降より異変打ち続くべし、されど洪水などはみだりに起こすべきもにあらず、皆それぞれ人心、時期に応ず、というもであった。後に日出雄らがパインタラ獄舎を出てから後、パインタラは二度まで大洪水に見舞われ、惨憺たる光景を呈してしまったという。そうするうちに、すでに日出雄仮本営にも官兵従卒たちが入り込んで、双方打ち解けて談笑するという有様になっていた。盧占魁は官兵に案内で、井上を伴って日出雄を同道してパインタラに入ることになったという。真澄別は次日に、やはり官兵護衛で後からパインタラ入りすることになった。日出雄が先にパインタラに出立した後、噂が噂を呼び、劉陞山部隊は姿を消し、脱営を企てるもが後を絶たなかったという。翌日、真澄別らは一個師団はある官兵に包囲されて拘束された。盧占魁は官兵に送られて帰って来た。長時間協議結果、盧占魁軍はすべて武器を台車数台に積み込まれた。市内につくと、日出雄と井上が馬車に乗っているに合流した。一同は兵営内に連れて行かれ、盧占魁従卒たちはご馳走による歓迎を受けた。日出雄は士官に案内されて、宿所である鴻賓旅館に向かった。
主な人物【セ】源日出雄、盧占魁、真澄別、王増祥、坂本、萩原、守高【場】-【名】白凌閣、猪野敏夫、劉陞山、井上兼吉、張彦三、佐々木、闞中将、温長興、王讃璋、康国宝、馬副官、猪野敏夫 舞台 口述日1925(大正14)年08月 口述場所 筆録者 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年2月14日 愛善世界社版299頁 八幡書店版第14輯 657頁 修補版 校定版302頁 普及版 初版 ページ備考
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本文  盧伝令騎に夢を驚かされた日出雄一行が盧宿営民家に到着するや、盧は不機嫌な面色で坂本や白凌閣に散々に当り散らし乍ら、直ちに日出雄轎車に同乗し、漸く笑顔を作つて進発合図をした。猪野は前夜中に蒙古人従卒を引きつれ、勝手知つたる白音太拉に向つて脱走したであつた。此地方は最早白音太拉へ七八十支里距離なれば、支那より移住者も多く、耕地開け、広大なる高粱畑耕作最中である。其中を通り過ぎて山地に掛る頃、左手谷間に当り、六七十騎支那兵が並行して進むが目に付いた。之を見るや盧占魁は轎車より飛び下り、馬に跨つて先頭部隊を追つかけた。日出雄轎車が丘陵頂上近く進んだ頃は、盧が劉陞山其他重なる部将と密議を凝らしてゐる最中であつた。
 やがて全部隊は右方に向つて丘を駆け下り、村落民家にそれぞれ宿営することとなり、盧司令部は日出雄仮寓所構内別館と定められた。稍暫くして盧は井上兼吉を通訳として伴ひ、日出雄及真澄別に人払ひ上面会を請ふた。
盧『私は何うしても張彦三に跡を任せて、一度奉天へ行つて談判せねば虫が治まりませぬ。尤も白音太拉まで行つて、佐々木を呼び寄せ、奉天模様を一応聞いた上でも構ひませぬが、一つ神勅を伺つて下さいませ』
日出雄『真澄別さま、神勅は先般通りだから、さう言ふてな』
真澄別『ハイ、承知いたしました。……盧さま、神に二言なしで、薪を抱いて火に飛び込むが如し……と言ふが貴下白音太拉行運命ですよ』
盧『そんな筈はありませぬ。最前吾々と並行して進んだ騎兵は通遼旅団部下です。若しそんな傾向があるなら、あ時に大先生轎車に向つて発砲する筈です』
真澄別『盧さん、貴下お考へは間違つてる様に思ひます』
 と真澄別が何事か語らむとする時、盧副官は厳封せる手紙を齎らしたで、盧は直ちに開封して読み下した。此手紙は、盧が急使を以て此時白音太拉方面に出発して居た闞中将参謀長へ何事か照会した返書で、それには武装解除上でなくては白音太拉方面へ来て下さるなと意味が認めてあつた。盧は之を見るより、
『万一事が有りましたら白音太拉に暴風雨か大洪水が起る様に御祈願を願ひます』
 と云ひ棄て慌ただしく駆け出した。日出雄は止むを得ず、真澄別と共に庭前に趺座し、神に祈願を凝らした。此時に神示は日出雄、真澄別共に同一様に感じ、当日午後六時以後より異変打ち続くべし、されど洪水などは妄りに起すべきもに非ず、皆それぞれ人心、時機に応ず……と旨であつた。日出雄等が白音太拉獄舎を立出でて後、白音太拉は二回迄大洪水に見舞はれ惨憺たる光景を呈して了つた。若し此洪水が早かりせば、日出雄等も其渦中に投ぜられたに違ひない。吁実に神摂理は毛筋横幅程も隙がない。
 斯かる折柄五六丁西方に陣取つて居た張彦三許から、従卒が激しい腹痛を起してるからとて真澄別を迎へに来た。真澄別は早速赴いて鎮魂を施し、病人は直ちに平癒し馬を曳いて野外に出た。其時張彦三副官王増祥は真澄別を一室に招き、食膳をすすめながら、
王増祥『いろいろ有難う厶いました。あなたも司令と同道に奉天へお越しになるですか』
真澄別『イヽエ、併し道筋は何うなるか分らないが、結局大庫倫へ行く積りです』
王増祥『それならば何処迄もお使ひ下さいませ。実は綏遠に私部下が血気盛り青年みで一千人程居りますから、大丈夫お役に立てます。どうぞ、これで暫くお別れ致しましても、連絡を断たない様御願致します』
 真澄別は名刺に何事か記して之を渡した。王増祥は名残り惜しげに真澄別見えなくなる迄見送つて居た。
 一方日出雄仮本営には、既に支那官兵幾部が入込み来り、双方に打解けて談笑してゐる。煙草に焦がれてゐた連中は、支那官兵から煙草寄贈を受けて、彼方にも此方にも小さな煙突が立並んだ。日出雄は真澄別を呼び迎へ、
日出雄『先程盧が来て、俺と井上とを同伴して今夜中に、今来てる官兵案内で白音太拉へ行くことに話が纏つた。貴方は明日轎車に乗つて皆と同道に行くださうな。矢張り官兵が護衛して行くと云ふこつちや』
 と万一用意にと残してあつた金子を日出雄はそれぞれ分与携帯せしめた。此夜日出雄が盧に伴はれて白金竜に跨り出立した跡光景は、実に惨憺たるもであつた。噂は噂を生み、不安空気は各宿営に漲り、劉陞山部隊は何時間にか影を没し、或は泣声を出して愚痴をこぼす者、脱営を企つる者を引止むる声、或は変装して宿営を脱する者など、斯かる状態は夜明くる迄継続した。併し日出雄に直属して居た白凌閣は日本迄も従つて行くと言ひ、温長興は心臓を損ねてゐるから奉天迄帰りたいと言ひ、共に真澄別一行に随行する事となつた。王瓚璋、康国宝は心細がつて別れを惜しむ。真澄別は他人々と協議上、それぞれ手当を与へ夜明くるを待つて真澄別、萩原、坂本は轎車に乗り、守高は真澄別乗馬白銀竜に跨り、白音太拉に向ふ事とした。守高は馬を萩原に譲つて轎車に乗り込み、今正に華胥国に遊楽中真澄別を揺り起し、
『あれ見給へ、大変な兵隊だよ』
真澄別『さうか、モウ白音太拉に着いたか』
守高『何を言ふだ、元場所へ追ひ返されただ、馬副官奴馬鹿だから、先頭に立つて向方軍隊正中へ割込んだからだよ』
真澄別『君は何うして馬をやめただ』
守高『兵隊奴、此長靴に目をつけたか、足を引張つて仕様がないから下馬りただ、砲兵まで引出してるが……どうしても一個師団は十分居る』
坂本『猪野奴、巧い事をしましたなア、温長興は反対方向へ全速力で、先刻逃げ出したが、何うでせうなア』
守高『包囲される前だつたから、大丈夫だ。吾々だつて先生さへ居られなけりやなア……』
萩原『どうです真澄別さん、斯うなりや領事館渡しでせう』
真澄別『結局さうなるだらう』
 一同、支那官兵に促されて下車した。すると数多官兵が集ひ来り、目星しい物を片つ端から没収するやら、真澄別と守高を指して
『これは韓国人だ』
と評するやら、思ひ思ひ行動に混雑最中、日出雄を白音太拉へ送つた盧占魁は官兵に送られて帰り来り、茲に闞中将と間に武装解除に関する協約が議せられた。其間に基督教信者と称する軍曹は一旦没収した銀貨包を真澄別に返し領収書を請求する、一方には萩原が腕時計を奪られたとて
『何だ、支那兵は皆泥棒だ、見せろと言ふから、腕時計を見せてやつたら、外して持逃げしやがつた』
 と小言たらたらである。
 長時間協議結果、盧軍全部武器は官兵持参大車数台に積みこまれ、真澄別、守高、坂本は轎車に乗り、萩原は白銀竜に跨り、馬を失ひたる者は牛馬に便乗し、闞旅団に前後を護られつつ白音太拉に進み行くこととなつた。途中騎兵聯隊に於て、茶湯饗応を受け、白音太拉市街人垣中を辿り行くと、日出雄と井上と無事な顔が馬車中に見えたに一同心を安んじ乍ら、兵営内に導かれて行く。兵営には芸者が繰込む、御馳走が運ばれるといふ混雑で、盧占魁以下歓迎宴準備最中を、支那旅団少佐に案内せられて、日出雄宿所なる鴻賓旅館に向つたである。
(大正一四、八、筆録)
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