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文献名1霊界物語 第57巻 真善美愛 申の巻
文献名2第1篇 照門山颪よみ(新仮名遣い)てるもんざんおろし
文献名3第8章 愚摺〔1458〕よみ(新仮名遣い)ぐすり
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじワックスは、三千彦を袋叩きにして川に投げ込み、意気揚々として自分の館に戻ってきた。父のオールスチンは怪我のためにふせっている。ワックスは容態を看護婦に尋ねたが、治る見込みはないという答えが返ってきた。それを聞いたビルマは、ワックスが父親の財産を狙っていることをふと漏らした。オールスチンはそれを聞いて、ワックスがいつもそのようなことを言っているからビルマがそのようなことを口にするのだ、と注意した。看護婦に注意されてワックスとビルマは別館に退散し、酒をあおりはじめた。ビルマはへべれけに酔いつぶれ、オールスチンが死ねばワックスは財産が手に入り、自分も出世できると大声で歌い始めた。ワックスは父親が死ぬのは悲しいが財産が手に入るのは嬉しくもあり、と複雑な心中を吐露する。そこへエキスとヘルマンが酔って現れた。門をやたらに叩き、押し開けてオールスチンの病室にどかどかと入ってくると、金をせびりはじめた。看護婦に注意され、二人は別館のワックスのところにやってきた。そして金をゆすりはじめた。ワックスは酒をすすめてこの場を乗り切ろうとする。エキスとヘルマンはすすめられた酒を飲んでさらに酔っ払うと、ワックスの悪事を大声で歌いだした。ワックスはたまりかねて、父親の病室に隠してあった六百両の黄金を取り出し、仕方なく二人に与えた。エキスとヘルマンは、三十日したらまた金をもらいにくると言い置いて、酒臭い息を吐きながら帰って行った。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月24日(旧02月8日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年5月24日 愛善世界社版102頁 八幡書店版第10輯 295頁 修補版 校定版106頁 普及版47頁 初版 ページ備考
OBC rm5708
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本文の文字数5530
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本文  ワックスはビルマと共に巧く町民を煽動し、三千彦を袋叩きにして、アンブラック川に投げ込み、意気揚々として己が館に帰つて来た。父のオールスチンは二人の看護婦に看護され乍ら現になつて、ワックス ワックスと連呼してゐる。そこへソツと帰つて来たワックスは、盗猫が留守の家を覗く様な態度で、ノソリノソリと這入り来り父の病床に近寄り、二人の看護婦に向ひ、小さい声で、
ワックス『モシ、看護婦さま、日夜御苦労ですが老爺の病気は助かりませうかな』
看護婦の一人『ハイ、お気の毒乍ら到底諦めて貰はねばなりますまい』
ワックス『成程、それも仕方がありませぬ。何程悔んだつて寿命はどうする事も出来ませぬからな』
 ビルマ、小さい声で、
『親の財産あてにすりや
  薬罐頭が邪魔になる』
とウツカリ喋つた。病人のオールスチンは耳敏くも此声を聞きつけて苦しい体を起き上り、……悴のワックス奴、大切な親の死ぬのを待つて居やがるのだな……と苦痛を忘れ、声を尖らして、
オールスチン『こりや悴、何と云ふ不孝な事を申すのか。ま一度今云つた事を云つて見よ』
ワックス『へ、あまり御病気が重いので心配して看護婦に尋ねて居つた処です。ここに来てゐる門番のビルマと云ふ奴、お父さまが大病で、私がこれ丈け心配してるのに其心も知らず、あんな事を云ひやがつたのです』
オールスチン『さうぢやあるまい。貴様常平生から左様の事を云つて居るものだからビルマが真似をしたのだらう。貴様はチツと心得ねばならぬぞ。俺が目を冥つて了へばお前の身辺は忽ち危ふくなつて来るぞ。如意宝珠の玉を隠したり、種々雑多と陰謀を企てて居つた事は三五教の三千彦様がスツパリ御存じだ。こんな事が表沙汰になつたならば家令の家は断絶、お前の命はなきものと覚悟せねばなるまい。これが一生の別れだから憎い悴でも矢張り親の因果として庇い度うなつて来る。今の間何処かへ身を隠し、遠い国へ行つて苦労を致したが宜からう』
ワックス『お父さま、そりや違ひます。三千彦と云ふ魔法使が盗つて居たのですよ。その証拠には町中の者が袋叩きにして……ムニヤムニヤムニヤ』
オールスチン『何、町中の者が、三千彦を袋叩きにしたと云ふのか。そりや大変な事をして呉れた。早くお詫をせなくちやお館の一大事が起るかも知れぬぞ』
ビルマ『何と云つても町内が寄つて集つて雁字搦みにし、アンブラック川に投げ込んだものですから、疾うの昔に死んでゐますよ。滅多にワックスさまの難儀になる気遣ひはありませぬ。寧ろ神館の悪魔を退治なさつた結構な救世主です。そして小国別様の御養子になられる約束がチヤンと奥さまとの間に定つたのですから、オールスチン様、御安心なさいませ』
オールスチン『一人の悴を養子にやると云ふ事はどうしても出来ない。さうすればオールスチンの家は血統が絶えるぢやないか』
ワックス『お父さま、そんな心配は為さらず早く成仏して下さい。貴方の苦みを見て居るのが子として見て居られませぬからな。私とデビス姫と結婚した上は三人や五人の子は出来るでせう。総領は養家の後継とし、次男をオールスチン家の後目相続にすれば宜いぢやありませぬか。貴方の血統たる私が残つてる以上は大丈夫です。ゴテゴテ云つたら養家をオールスチン家にして了へば宜いのです。(小声)エー年寄だてら死際になつて要らぬお節介だ。いい加減に斃つたら宜いのにな』
と後振り返つて小声に呟いて居る。幸に病躯に悩む父の耳には這入らなかつた。オールスチンはグタリとなつて苦しげに又もや寝台の上に倒れて了つた。
看護婦『モシ若旦那様、余り八釜しう仰有いますと御病気に障りますから、何卒別館の方へ行つてお休み下さいませ』
ワックス『オツト、ヨシヨシ、それを待つて居たのだ。然し看護婦さま、此方にも都合があるのだが、お前の考へでは今日一日は大丈夫だと思ふか。葬礼の用意もせなならぬからな』
看護婦『御心配なさいますな。屹度本復さして上げます。仮令お亡くなり遊ばすとしても、三十日や五十日は大丈夫ですからな』
ワックス『へー、何分御介抱を宜しう頼みます』
と云ひながら別館の間に至り、冷酒を両人差向ひになつてグイグイとやり初めた。ビルマはへべれけに酔ひ潰れ、ソロソロ銅羅声を張り上げて唄ひ出した。
ビルマ『オールスチンの老爺さま  肋骨を折られてウンウンと
 呻つて厶る憐らしさ  癒りもせねば死にもせず
 厄介至極の老爺さま  ワックスさまも嘸や嘸
 困つて厶るに違ひない  早く何とか埒つけて
 ワックスさまの目的を  立てさしてやらねばなるまいぞ
 もしも都合好う行つたなら  私は一躍家令職
 之を思へば一時も  早く老爺さまに死んで欲しい
 欲しいわいな欲しいわいな欲しいわいな  薬鑵老爺が死んだなら
 皆さま喜ぶ事だらう  ヨーイセー ヨーイセー
 思ふやうにはいかぬもの  ホンニ浮世はじれつたい
 ヨーイトセー ヨーイトセー』
ワックス『こりや何ぼ何でも俺の前で、そんな事を唄ふ奴があるか。俺だつて肉身の親だもの、死ぬのがチツトは……嬉しいとも悲しいとも思はないよ。併し乍ら老爺が死ねば此財産がスツカリ俺の所有物になるのだから嬉しい様でもあり、只一人の親が死ぬのだから悲しい様でもあり、嫁入りと葬式と一緒に来たやうで一掬同情の涙を流して居るのだ。貴様も余程没分暁漢だなア』
ビルマ『没分暁漢か、何か知らぬが此ビルマは心にもない追従を云ふのは嫌ひだ。ワックスさま、お前の心は此ビルマが云つた通りだらう。そんな目に唾を着けるやうな同情は止めなさい。それよりも態よう老爺に早く死んだらよいと云うたが宜しからうぜ。悪党なら悪党らしく、男らしくせぬのかい。そんな事で大陰謀が成就するものか、お前さまも徹底的の悪人だと思つたが大徹底的の悪人だつたな。悲しくもないのに悲しい様に云ふ丈け人間が悪いわ』
と訳の分らぬ事を管巻く。
 斯かる処へエキス、ヘルマンの両人、ズブ六に酔ひ乍ら門の戸を矢鱈に叩き、
両人『ヘー、御免なせえ。鬼門の神がやつて来やした。ワックスさまの陰謀先生は在宅ですかな。何だ、何奴も此奴も返事しやがらぬな。ハハア、俺を排斥してけつかるのか。ヨーシ、何もかも、之から館へ行つて陰謀を素破抜いてやらう……と云つても俺も其仲間だ。何時暴露て笠の台が飛ぶかも知れないのだ。それを思へば甘え酒も不味うなつて来る。斯う毎日毎日心の鬼に責められては、やりきれない。一つワックスの若造に無心を云つて三百両ばかりおつ放り出させ、自棄酒でも飲んで過ごさにややりきれないわ』
と戸を無理に引き開け、ドカドカと病室に駆け込み、
エキス『ヤ、御大将、矢張御病気ですかな。そりや誠にお気の毒だ。然し乍ら一つ願ひ度え事があつて吾々両人がやつて来やした。此様子では御家令さまも、とても助かりますまい。沢山の財産を持つて冥土に行く訳にもゆくまいし、チツトは善根の為にわれわれ両人に三百両ばかり死土産を下つせえ。お前の大切の倅の首がつなげるのも、つなげぬのも、吾々両人の舌三寸の使ひやうだ。死んでも心残りのない様に、サア、スツパリと三百両〆て六百両出して頂きやせう。御家令さま、小倅の命が繋げると思へば安価いものでせう』
看護婦『コレお二方、旦那様が御病気の処へ、そんな事を云つて来るものぢやありませぬよ。若旦那が別館に居られますから、彼処に行つて下さい。此病室へは這入つてはなりませぬ。ここは看護婦の許可がなけりや一歩も這入つてはいけませぬ』
エキス『成程、これは恐れ入つた。ワックスの若が別館に居るさうだ。一つ彼奴に談判してドツサリとむしつて来ようぢやないか。グツツツツゲゲゲゲガラガラガラドツツツツ』
と八百屋店を出す。
看護婦『エー、好かんたらしい、掃除をなさい。妾はお前等の掃除役ではありませぬぞえ』
エキス『エー、八釜しう云ふない。出たものは仕方がないわ。グヅグヅ吐して六百両の金を出し惜みしやがるものだから嘔吐の奴、気を利かして八百両、いや八百屋店を出したのだ。エー、臭い臭い、おいヘルマン、行かうぢやないか。こんな斃つた老爺に向つて文句を並べたつて仕方がないや』
と云ひ乍ら、ヨロリヨロリ廊下を伝つて足をヨボヨボさせ乍ら進み入る。
エキス『おい、ワックスの大将、金だ金だ。今日は何と云つても貰はなくちや動かねえのだ。エー、よう考へてみよ。宮町一般の人間を騙くらかし、大切なお姫様を狐のお化だと云つて、あんな岩窟に押込めよつて往生づくめでウンと云はさうと思つても、さうはいかぬぞ。サア六百両、耳を揃へて出したり出したり、グヅグヅ吐すと二人が之からお館へ行つて素破抜くが如何だ。三千彦の宣伝使にだつて、あんな事をしやがつて、本当に太え野郎だ。サア、キリキリチヤツと、四の五の吐さず六百両出さぬかい。エー篦棒奴、無いと云ふのか。こんなデツカイ屋台骨をしやがつて金の千両や一万両、無いとは云はさぬぞ。お前の老爺は家令をしやがつて、うまい事して沢山の金を穴倉へ仕舞ひ込んだと云ふ事だ。渋老爺の鬼老爺の倅だけあつて貴様も中々出し嫌ひと見えるが、何と云つても俺には出さにやならぬ理由がある。サア、キリキリ チヤツとおつ放り出さぬかい。マゴマゴして居やがると貴様の首が飛んで了ふぞ』
ワックス『オイ、又しても又してもさう脅喝に来ては困るぢやないか。今老爺が千騎一騎の場合だから……只一人の親に離れようとする最中だから、チツと俺の身にもなつて呉れ。老爺が亡くなつてから如何でもしてやるから』
エキス『暫らく待たれる位なら病人で取込んで居る家へやつて来るものかい。お前はさう陽気な事を云つてるが俺は尻に火がついて居るのだ。サア早くキリキリチヤツと出したり出したり』
ビルマ『オイ両人、さう八釜しう云はずに、俺と一緒に酒でも飲んだら如何だ。話は後で緩りしたら宜いぢやないか』
エキス『ウン、酒なら飲んでやらぬ事はない。四斗樽と仇名をとつたエキス、ヘルマンの両人だ。お酒の御用なら後へは退かぬぞ』
とドツカリと坐し、柄杓に掬うてグーグーと飲み始めた、四人はへべれけに酔ひ、四辺構はず堤を切らして唄ひ初めた。
エキス『欲と色との二道かけて  極道息子のワックスが
 二人の男をちよろまかし  テルモン館の御宝
 マンマと盗み出さして  自分がデビスの婿となり
 終ひの果てにや小国別の  権利財産横奪し
 栄耀栄華に暮さうと  テツキリ梟の宵企み
 夜食に外れて青い顔  致さにやならぬ時が来た
 ドツコイシヨ ドツコイシヨ  それさへあるにデビス姫
 類ひ稀なるナイスさま  ケリナの姫と諸共に
 テルモン山の岩窟へ  狐のお化とちよろまかし
 押し込んで置いて夜な夜なに  口説きに行きよる馬鹿男
 之程悪を企む奴  六百両の黄金が
 惜うて出せぬ位なら  首でも吊つて死ぬがよい
 何れ死なねばならぬ奴  今に天罰報い来て
 家は断絶その身は所刑  これの館は風前の
 燈火の如く刻々に  危険の迫るを知らないか
 生命が大切か黄金が  大切かよつく考へよ
 金と命の引替へに  早く渡せよワックスよ
 俺等二人は自棄糞だ  之から館へ飛び込んで
 恐れ乍らと白状する  そしたら貴様は第一に
 悪の兇頭と定められ  命のないのは知れた事
 俺等二人は従犯だ  重い所で遠島か
 所払ひになる位  早く出せ出せ六百両
 ヨイトシヨー ヨイトシヨー  こんな酸つぱい酒位
 飲ましておいて箝口令  布いた所で駄目ぢやぞよ
 暴露してやらうかワックスよ  命が惜けりや金を出せ
 デビスが欲しけりや金を出せ  ケリナが欲しくば金を出せ
 館の養子になり度くば  ヤツパリ六百両の金を出せ
 金を出すのが嫌なれば  俺等の前に首を出せ
 此出刃庖丁でチヨンぎつて  アンブラック川へドンブリと
 流してやらうか御承知か  アア金が欲しい、金が欲しい
 金が敵の世の中ぢや  何程敵と云つたとて
 金ほど笑顔のよい奴が  又と世界にあるものか
 ドツコイシヨ ドツコイシヨ  金ぢや金ぢや早や金ぢや
 警鐘乱打の声よりも  俺の催促烈しいぞ
 コラコラ悪党ワックスよ  色と欲との二道かけた
 此大芝居をやり遂げて  安全無事に此の世をば
 送らうと思へば金を出せ  資本がなくては何事も
 成就せないは世の習ひ  アア惟神々々
 金をドツサリ下さんせ  バラモン帝釈自在天
 大国彦の御前に  エキス ヘルマン両人が
 畏み畏み願ぎまつる  ウントコシヨ ドツコイシヨ
 八釜しい声が人耳に  入るのが嫌なら金を出せ
 どんな難い問題も  金で治まる世の中だ
 兎角浮世は色と酒  此欲望を充すのは
 ヤツパリ金の神様だ  お前の首をつなぐのも
 ヤツパリ金の御利益だ  蒔かない種子は生えぬぞや
 早く命の種子を蒔け  ドツコイシヨー ドツコイシヨー
 扨ても強情い吝嗇だ  それ程金が惜いかい
 雪隠の側の猿不食柿  渋うて汚うて小かうて
 喰へない奴は貴様ぞや  アア金が欲しい金が欲しい
 目玉飛び出しましませよ』
と自棄糞になつてワックスを困らせるために四辺構はず喚き立てる。ワックスは堪りかねて矢場に父の病室に駆け入り、ソファーの下に匿してある黄金を無理に引たくり、二人の前に投げつけた。
エキス『エヘヘヘヘ流石は哥兄だ。偉い偉い、吾意を得たりと云ふべしだ。成程山吹色の黄金で耳を揃へて六百両、マアこれで三十日ばかりは沈黙を守つて居るから、次に来る迄用意をして置くが宜からうぞ。今度目にゴテゴテ云うと駄目だからな』
と下駄を預け乍ら、六百両を二人が懐に捻ぢ込み、ブラリブラリと臭い息を吐きながら帰り行く。
(大正一二・三・二四 旧二・八 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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