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文献名1霊界物語 第64巻下 山河草木 卯の巻下
文献名2第4篇 清風一過よみ(新仮名遣い)せいふういっか
文献名3第16章 誤辛折〔1822〕よみ(新仮名遣い)ごしんせつ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-05-25 10:16:09
あらすじ
主な人物お寅、トンク、テク、ブラバーサ 舞台御霊城、橄欖山 口述日1925(大正14)年08月20日(旧07月1日) 口述場所丹後由良 秋田別荘 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年11月7日 愛善世界社版215頁 八幡書店版第11輯 576頁 修補版 校定版219頁 普及版63頁 初版 ページ備考
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本文  トルコ亭の細い路地の衝き当りに、お寅が設立しておいた五六七の霊城には、トンク、テクの両人が、お寅と共に、三人首を鳩めて、ソビソと話に耽つて居る。
『コレ、トンクさま、一体あの守宮別さまとあやめのお花は、どこへ行つたのか、お前どうしても分らぬのかい』
『ハイ、丸で煙のやうな、魔者のやうなお方ですもの、サーッパリ、見当がつきませぬがな。併し噂に聞けば、お花さまは守宮別さまと、夫婦約束をしられたとかいふ話ですよ。一昨日の晩或人から十字街頭で其話を聞きましたので、早速報告しようと思ひましたが、生宮様の御病中、お気をもませましては……と実は控えてをりました』
 お寅は顔色を変へ、
『ナニ、二人が結婚した。ソラ本当かいな、ヨモヤ本当ぢやあるまい』
『イエイエ、実際の事云やア、貴方が、何でせう。二人よつて、何でせう。守宮別とお花さまと手を曳いてやつて来る所を、ペツタリ出会し、肚立紛れに卒倒なさつたのぢやありませぬか。噂で聞いたと云ふのは実はお正月言葉で、実際、私も睦まじ相にして歩いてる所を目撃したのですもの。なア、テク、さうだつたな』
『ウンさうともさうとも、あの時生宮さまがクワアッと逆上して、暈を遊ばし、大地に転倒されたぢやないか、警察医がやつて来る、群集は山の如くに出てくるし、もうエライ乱痴気騒ぎで、やつとの事生宮さまの気がつき、三台の俥で、生宮さまの警護をし乍ら、此処へ帰つて来たのですワ』
『なる程、さう聞くと、夢のやうにボーッと記憶に浮んで来るやうだ。ハテナ、コンナ大問題を今迄スツカリ忘れて居たのかいな』
『そらさうです共、エライ発熱でしたよ。昨日迄ウサ言計り仰有つて、吾々二人はどれ丈介抱したか知れやしませぬワ』
『いかにも、憎い憎いあやめのお花奴、十年が間、懇篤な教育をうけ乍ら、師匠の私に揚壺をくはし、おまけに人の男を横領して出て行くとは、犬畜生にも劣つた代物だ。これが此儘見逃しておけるものか。仮令両人天を駆けり地をくぐる共、此生宮が命のあらむ限り、岩をわつても捜し出し、生首かかねがおくものか……』
と面色朱をそそぎ、握り拳を固めて、二つ三つ自分の胸をうち乍ら、又もやパタリと倒れ伏しけり。
『オイ、テク何うせうかな。しまひにや気違ひになつて了やしまいかな』
『サ、さうだから、守宮別、お花の事はいふないふなと俺が注意するのに、トンク汝が軽はずみな事を言ふから、コンナ事になつたのだよ。男の口の軽いのも困るぢやないか』
『それだと言つて、いつ迄もかくしてゐる訳にも行かず、モウ余程精神が安定したとみたものだから、一寸云つてみたのだよ。俺だつて、コンナになると思や、うつかり喋るのぢやなかつたけれどなア』
『兎も角、冷水でも汲んで、頭を冷してやらうぢやないか。コンナ所で死なれて見よ、俺達が殺した様に警察から睨まれたらつまらぬからな』
『一層の事、今の内にトンクトンク テクテクと逃出したら何うだ、到底駄目だらうよ』
『馬鹿云ふな。ソンナ事をせうものなら、益々疑はれて了ふよ。一樹の蔭の雨宿り一河の流れを汲んでさへ、深い因縁があるといふぢやないか。仮令三日でも養つて貰つたお寅さまを見捨てて帰れるものか。そんな不義理な事をすると、アラブ一党の面汚しになるぢやないか。絶対服従を以て主義とする回教のピュリタンを以て任ずる吾々が、ソンナ事がどうして出来ようかい。お天道さまが御許し遊ばさないからの』
『そらーあ、さうだ。天道様の御弔ひだ、空葬だ、大いに悪かつた。ヨシ、之からお前と俺と両人が力を併せ心を一にして、此生宮さまの命を助け、天晴全快して貰つて、此霊城を立派に開かうぢやないか。俺ア之から橄欖山へお寅さまの病気祈願の為参つて来るから、お前気をつけて介抱してあげてくれ』
『そら、可い所へ気がついた。サ、早く参つて来て呉れ。後は俺が引受けるからな』
『ヨーシ、ソンナラ之からお参りして来うよ』
と云ひ乍ら、夕日を浴びて、橄欖山へと登り行く。山上の祠の前に来て見れば、ブラバーサが一生懸命に何事か祈願をこめてゐる。トンクは傍により、
『もしもし貴方は三五教の宣伝使様ぢや厶いませぬか』
『ハイ、左様で厶います。貴方はトンクさまぢやありませぬか。何時やらはエライ失礼を致しました』
『イヤもう、御挨拶痛み入ります。全く私が悪かつたので厶いますから、どうぞモウソンナこたア云はないでおいて下さいませ』
『時にお寅さまは御壮健にゐらつしやいますかな』
『ハイ有難う厶います。実の所は、お寅さまと、お花さま守宮別さまが大喧嘩をせられまして、終局の果にや、守宮別さまはお花さまと一緒に結婚とか何とか云つて、手に手を取つて、面当に霊城を飛び出して了はれたものですから、生宮さまの御立腹と云つたら、夫れは夫れは言語に絶する有様で厶いました。そこへ受付にをつたヤクの奴、生宮さまの気のもめてる最中へ毒舌を揮つたものですから、生宮様がクワツとなり、ヤクを叩きつけようと遊ばした其刹那、ヤクの奴、庭箒をひつかたげて飛出し、途中で生宮さまの御面体を泥箒で擲りつけたり、いろいろ雑多の侮辱を加へたものですから、疳の強い生宮様はたうとう逆上して了ひ、それが元となつて、今では発熱し、ウサ言許り云つてゐられます。こんな塩梅では、生命もどうやら覚束なからうと存じ、テクに介抱させておき、私は此祠へ御祈願に参つた所で厶います。いやモウエライ心配で困りますワイ』
『話を承れば、実にお気の毒な次第です。コンナ事を聞いて聞逃す訳にも行きませぬから、平常は平常として、私は霊城へ参りませう。そして一時も早く御全快なさる様に御祈願をさして貰ひませう』
『ハイ、そら御親切有難う厶いますが、常平生から、貴方を敵の様に罵つてゐられますから、貴方がお出になつたのをみて、益々逆上し、上も下しもならないやうになつちや却て御親切が無になりますから、何ならお断りが致したいので厶いますワイ』
『ハヽヽヽ非常な御警戒ですな。併し人間といふ者はさうしたものぢや厶いませぬよ。災難の来た時にや互に助け合ふのが人間の義務ですからな。何程我の強いお寅さまだつて、滅多に私の親切を無になさる道理はありますまい。キツと喜んで下さるでせう。そして之を機会にお寅さまの心を和らげ、同じ日出島から来た人間です。和合の曙光を認めたいと思ひますから、たつて御訪問を致します』
『ヘーエ、誠に以て、お志は有難う厶いますが。併し乍ら私は知りませぬで、どうか生宮さまに、私から病気の次第を聞いた、なんて云つて貰つちや困りますからな。貴方が勝手に御越しになつた事にしておいて頂かねば、後の祟りが面倒ですから』
『エ、それなら、私は之から霊城を訪問致しますから、トンクさま、貴方はゆつくり御祈願をなし、エヽ加減に時間を見計らつて何くはぬ顔で御帰りなさい。そすりやお寅さまだつて、貴方に小言はありますまいからな』
『あ、さう願へば私も安心です。どうか宜しう頼みませぬワ』
 ブラバーサは急いで山を降り、何くはぬ顔して、トルコ亭の細い路地を伝ひ、霊城へ来てみると、テクが甲斐々々しく頭を冷してゐる。
『ヤ、これはこれは、テクさまで厶いますか。生宮さまは御不例にゐらつしやるのですかな』
『ハイ、左様です。そして又お前さまは何の御用で御出になりました。お前さまの顔見ると生宮さまの御機嫌が益々悪くなり、病気が又重くなりますから、トツトと帰つて下され』
『帰らうと思へば、さう追立てられなくても返りますよ。併し乍ら同国人の病気と聞いて、宣伝使たる私、見逃す訳に行きませぬから…』
と云ひ乍ら、枕許にツカツカとより、熱誠籠めて天の数歌を三唱し、大国常立尊、神素盞嗚尊助け玉へ、許し玉へ…と祈願するや、今迄火の如き発熱に苦しみてゐたお寅は嘘ついた様に熱は去り、忽ち起き上り座布団の上にキチンと行儀よく両手をのせ、
『ハ、これはこれは、何方かと思へば、ブラバーサさまで厶いましたか。ようマ御親切に来て下さいましたね。私も此間からチツと許り風邪の気で臥せつてをりましたが、夜前あたりからスツパリと全快致し、モウ寝てゐるのも何だか辛気臭くて堪らないのですが、日の出さまの御忠告に仍つて、養生の為、ねて居りました。決してお前さまの算盤の声で直つたのぢや厶いませぬから、ヘン、どうか恩に着せて下さいますなや。併し乍ら此霊城へお前さまが御参りさして頂いたのも、ヤツパリ神さまのおかげだよ。此お寅が病気だといふ噂をパーッと立たせておき、お前さまの心を引く為に、此生宮をチツと許り苦しめ遊ばしたのだから、必ず必ず仇に思つちやなりませぬよ。結構な結構な御霊城さまへお前さまが大きな顔で参拝出来たのも此お寅がチツと許り悪かつたおかげだ。神様の御仕組といふものは偉いものだな。サ、之からブラバーサさま、チツと我を折つて日出神の生宮を認めて下さい。いつ迄もいつ迄も変性女子のガラクタ身魂にトチ呆けて居つちやダメですよ。神政成就に近よつた此時節に、何の事ですいな。早く改心して、日の出神の片腕となつて、ウラナイ教を開き、天下万民を塗炭の苦より救つて下さいや』
『ハイ、又考へておきませう。先づ先づ御病気の御本復と聞いて安心致しました。私一寸用が厶いますので、之から御暇を致します』
『ホヽヽヽ、ヤツパリ心に曇りがあると、此霊城が苦しうて、ゐたたまらぬと見えますワイ。第一霊国の天人のお住居、どうして八衢人足がヌツケリコと居れるものかい、ウツフヽヽヽ』
『お寅さま、余りぢやありませぬか。どこ迄も貴方は私を敵にする考へですか』
『きまつた事ですよ、三千世界の救世主、底津岩根の大弥勒の生身魂、日出神の生宮を認めない様な妄昧頑固の身魂を何うして愛する事が出来ませうぞ。日の出様が一生懸命に艱難辛苦を遊ばして、立派な立派な、結構な、心易い、暮しよい、みろくの大御代を建てようと遊ばしてるのに、悪魂の変性女子にとぼけて、此世を乱さうと憂身をやつしてゐるお前さまだもの、之位な大きな敵は世界にありませぬぞや。此神は従うて来れば誠に結構な愛のある神なれど、敵対うて来る身魂には鬼か大蛇のやうになる神ざぞえ。お前さまの心一つで楽に立派に御用致さうと、苦しみてもがいて地獄落の悪魔の用を致さうと、心次第で何うでもなるですよ。コンナ事が分らぬやうで、ヘン、宣伝使などと、能う言はれたものですワイ。改心なされ、足元から鳥が立ちますぞや』
『ハイ、有難う厶います。又後して伺ひますから左様なら』
『ホヽヽヽたうとう、八衢人足奴、生宮さまの御威光に打たれて、ドブにはまつた鼠のやうに、シヨンボリとした、みすぼらしい姿で、尾を股へはさみて逃げよつたぞ。ホヽヽヽ、コラ、テク、ブラバーサなんて偉相に云つてるが、私にかかつたら三文の値打もなからうがな。丸で箒で押へられた蝶々の様に命カラガラ逃げていつたぢやないか、イツヽヽヽ』
『モシ生宮さま、ドイですな、テクも呆れましたよ』
『ひどからうがな。いかなお前でも呆れただらう。耄碌魂のョロ小便使めが、あの逃げて行くザマつたらないぢやないか。それだから此生宮の神力を信じなさいといふのだよ』
『生宮さま、そら違やしませぬか。今の今迄人事不省に陥つて御座つたのを、ブラバーサさまがお出になり、指頭から五色の霊光を発射して、お前さまの病気を助けて下さつたぢやありませぬか。それに貴方は、昨夜から病気が直つてたナンテ、ようマア嘘が言へたものですな。私は其我慢心の強いお前さまの遣口に呆れた、といふのですよ』
『お黙りなさい。アラブの黒ン坊のクセに神界の御経綸が分つてたまるかいな。ソンナ事いつて、此生宮に敵たふやうな人はトツトと帰つて貰ひませう。アタ気分の悪い。エーエーそこら中がウソウソとして来た。これ、テク、塩をもつてお出で、お前の体に悪魔が憑いてる、之からスツパリと払つて上げるからな』
『イヤもう結構です』
といつてる所へ、トンクはドンドンと露路口の細路を威嚇させ乍ら帰り来り、
『ヤア、これはこれは、生宮様、いつの間にさう快くおなりなさいましたか。私は心配致しまして、テクに貴女の介抱を命じおき、エルサレムの宮へ御病気祈願の為に御参拝して来たのです。何と御神徳といふものは、アラ高いものですな』
『それは大きに御親切有難う……とかういつたらお前さまはお気に入るだらうが、ヘン誰がそんな事お前さまに頼みました。大弥勒様の生宮、三千世界の救世主、日出神の生宮さまの肉体の、病気を直すやうな神様がどこにありますか、可い加減に呆けておきなさいや』
『オイ、テク、チツと可怪しいぢやないか、病み呆けて厶るのだらうよ』
『マアマア喧しう言ふな、何時迄言つたつて限りがないからな。何と云つても三千世界の救世主様だから、維命、維従うてゐさへすりや可いのだ』
と云ひ乍ら、余り相手になるなといふ意味を目で知らした。お寅は布団を頭からひつかぶり、スヤスヤと眠に就きぬ。
(大正一四・八・二〇 旧七・一 於丹後由良秋田別荘 松村真澄録)
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