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文献名1霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻
文献名2第3篇 多羅煩獄よみ(新仮名遣い)たらはんごく
文献名3第15章 貂心暴〔1717〕よみ(新仮名遣い)てんしんぼう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2018-05-13 17:59:15
あらすじ山賊たち親分シャカンナの妻の十年祭として宴会を始める。シャカンナ、バルギー、コルトン、玄真坊も酒盛りを始める。山賊たちは、玄真坊の連れの棚機姫に酒を注いでもらおうとする。棚機姫は自分が玄真坊にだまされていたことを悟り、暇を告げようとするが、玄真坊に遮られて逃げ出すことができない。棚機姫とは、実はダリヤのことであった。玄真坊はダリヤの気を引いて自分の妻にしようという魂胆であったが、ダリヤに肘鉄を食わされる。山賊たちはこの様を肴に酒盛りを続ける。このままでは逃げられないと悟ったダリヤは、玄真坊にまめまめしく酌を始める。
主な人物【セ】シャカンナ、バルギー、コルトン、玄真坊=天真坊、女=ダリヤ【場】-【名】シャカンナの妻(ハリスタ姫)、棚機姫(ダリヤのこと)、アリス 舞台 口述日1924(大正13)年12月28日(旧12月3日) 口述場所祥雲閣 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年8月19日 愛善世界社版191頁 八幡書店版第12輯 101頁 修補版 校定版193頁 普及版68頁 初版 ページ備考
OBC rm6715
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本文  一方バルギーは沢山の部下に酒肴及美食を与へ『今日は奥様の十年祭だから、遠慮会釈もなく呑め喰へ』と命令しおき、コルトンと共にシャカンナの居間に細長い干瓢頭をニユツと突き出した。
バルギー『エー親方様、室外にて承はれば、今晩は最早読経は御廃しになるとの事、……英雄と英雄との会合が何よりの御回向になる……と仰せられたのを承はり、部下に用意の酒肴を与へておきました。大変な御機嫌で厶いますな』
シャカンナ『ウーン、今日はどこ共なく天気も好し、気分の好い日だ。コルトン、汝の骨折で、俺の片腕を拾つて来てくれたやうなものだ。ヤ、感謝する。マア一杯やれ』
コルトン『エー、親方様、合点のいかぬ事仰有いますな。何時も貴方はコルトンは右の腕、バルギーは左の腕と仰有いましたが、此修験者が片腕とならば、一体どうなるので厶います。三本の腕は根つから必要ないやうに考へますがな』
シヤ『ウーン、それで可いのだ。コルトン、バルギー二人を合して左の腕とする、そして此天真坊殿を右の腕とするのだ。之から、さう心得たが可からうぞ』
コル『ハイ、仕方がありませぬ。のうバルギー、それで辛抱せうかな』
バル『ウーン、到頭二つ一だ。随分相場が下落したものぢやないか。早晩こんな事が突発すると思うてゐたのだ。汝が仕様もない修験者を引張つてくるものだから、こんな破目になつたのだ。エー、沢山の乾児に対し、俺は今日から半人前になつたなどと、何うしていはれるものか。狼のやうな連中を、親分の片腕といひ、威喝して、漸く治めて来たのだのに、半片腕となつちや部下の統制も出来まい。あーあ仕方がないなア』
玄『ワツハヽヽヽヽ、オイ、コルトン、バルギー、何といふ情ない面をするんだいエヽン。よく考へてみろ、天帝の化身、天来の救世主と、仮令半分にもせよ、肩を並べるといふ事は汝達にとつては、無上の光栄ぢやないか。何だ其不足相な面は……丸切り梟鳥が夜食に外れたといはうか、折角苦心して盗んで来た松魚節を犬に取られた猫のやうにつまらぬ面付して半泣きになつてるぢやないか。チツとしつかりせぬかい。そんな腰抜を友達に持つたと思へば、俺も泣きたくなつて来るワイ。ウツフヽヽヽ、情ない顔だのう。それでも元の通りになるだらうか。耆婆扁鵲でも頼んで来ねば、快復は到底覚束ないだらう。俺の診察する所に依れば、予後不良だ。瀕死の重病だ、アハヽヽヽ』
シャ『オイ、お前達、兄弟喧嘩はみつともないぞ。兎も角俺に免じて仲能うしてくれ。少々の不平や不満は隠忍するが、俺に対する忠義だ。俺の云ふ事なら、何でも聞きますと、いつも云つてるぢやないか。自分の都合の好い事は二つ返詞で早速聞くなり、チツと許り面白くないと云つて、そんな怪体な面をするものぢやない。余り肝玉が小さうすぎるぢやないか。それよりも玄真殿のつらつて来た棚機姫様の柔かいお手々でお酌でもして貰つて、機嫌を直したら可からう』
コル『エ、何と親方仰せられます。こんな奇麗なお方に……酒をついで貰つて呑め……と仰有るのですか、ヤ、有難い。流石は親分だ。気が利いてる。のうバルギー、こんな事があるから、親分には放れられないといふのだ、エヘヽヽヽ』
バル『オイ、コルトン、みつともないぞ。何だ、汝の口から光つた糸のやうなものが、下つてゐるぢやないか。たぐれ たぐれ』
コル『ナアニ、コリヤ棚機姫様が錦の御機をお織遊ばす玉の糸だ。粘液性に富み、そして光沢が鮮かだらう、イツヽヽヽ』
玄『オイ、コルトン、バルギー、今日から俺は天帝の化身、玄真坊の頭尾を取つて、天真坊と改名したのだから、今後は天真坊様と呼んでくれよ。其代りに、天真爛漫たる棚機姫さまの柔かいお手々で、お酒のお給仕を、今日一席に限り、許してやらう。どうぢや有難いか』
コル『さう恩にきせられると、根つから有難くもありませぬワ。のうオイ、バルギー、余り勿体なくて目が潰れると困るから、男らしく平に御免を蒙らうぢやないか』
バル『俺や、何と云つても有難いワ。盃に一滴でも可いから注いで貰ひたいな。キツとこんな女神様に酒をついで貰ふと、其徳にあやかつて出世するよ。そしてこんな美しい女房が持てるかも知れないからな』
コル『ヘン仰有います哩。反古の紙撚で編あげた羅漢のやうな面しやがつて、美人の女房も午蒡もあつたものかい。チツと汝の面と相談したら可からうぞ、ウツフヽヽヽ』
女『もし、天帝の御化身様、貴方は妾がスガの山に参拝致しました時、天から降つたと仰有いまして、……お前の母は決して死んでゐない。生きて居るから会はしてやらう……と仰有つたぢや厶いませぬか。それを誠と信じ、此処迄お伴をして参りましたのに……泥棒の酒の酌をせよ……とはお情ないお言葉では厶いませぬか。そして貴方は最前から聞いてをれば、此世を許る悪魔の玄真坊さまとやら、オーラ山に立籠り数多の人間をゴマ化して厶つた太いお方のやうです。私はモウ愛想がつきましたからモウ御免を蒙つて独りで帰ります。どうぞこれ迄の御縁と思ひ諦め下さいませ。貴方の素性が判つた以上は、半時だつて側にをれませぬ。そして皆様に申上げておきますが、只今、玄真坊様に……これ迄の御縁と思ひ諦めて下さい……と云つたのは、決して怪しい関係のある意味では厶いませぬ。スガの山から此処迄連れて来られた事を云ふので厶いますからね。一樹の影の雨宿り、一河の流れを汲むさへも他生の縁といひませう。どうか、誤解のないやうに御賢察を願ひます、ホヽヽヽヽ。アタ阿呆らしい、妾は何といふ馬鹿だらう。こんな売僧坊主に誘惑されて、自分で自分に愛想がつきて来た。左様なら。皆さま、ゆつくり御酒でもおあがりなさい』
とツツと立つて帰らうとする。玄真坊は毛だらけの猿臂を伸ばし、グツと力を入れて女の首筋を掴み、其場に捻伏せ乍ら、川瀬の乱杭の様な歯を見せ、大口を開いて、
玄『アハヽヽヽ、ても扨も可い頓馬だなア。此玄真坊様の舌三寸に操られ、こんな岩窟までおびき出されたのは、其方の不覚だ。モウ斯うなる以上は、何程帰らうと云つても帰すものか。お前を此処へ連れて来たのは深い企みのある事だ。因果を定めて服従した方が其方の身の為だらう。ても扨も可愛ものだなア』
女『エー、汚らはしい、悪魔の口から可愛い者だなどと、そんな同情的な悪言はやめて下さい。妾は憚り乍ら、スガの港の百万長者アリスの娘、ダリヤ姫で厶いますよ。吾家へ帰れば何不自由なく安心にゆけるものを、何を苦んでこんな不便な土地へ参り、イケ好かない売僧坊主のお前に従ふやうな馬鹿な事は致しませぬから、思ひ切つて、男らしう私を帰らして下さい』
玄『さう片意地を張るものぢやない。人間は浮沈み七度と云つて、いろいろの波風に当らねば、人生の真の幸福は味はへないものだ。何程百万長者の娘でも、一日に一斗の米を食ふ訳にもいかず、着物の十枚も二十枚も着る訳にはゆこうまい。お前の宅に居つても此処に居つても、食ふ丈のことは食はしてやる。決して不自由はさせぬ。どうだ、出家に肌を触るれば、子孫七代繁栄するといふぢやないか。その上、七代前の先祖迄が地獄の苦を逃れ極楽浄土へ登ると云ふ功徳がある。能く祖先や子孫の幸福を思つて、俺の言ひ条につくが、アリス家の為だらうよ。どうだ、合点が行つたか。目から鼻へ突き抜けるやうな賢いお前の事だから、キツと俺の行ふ事が分つただらうなア』
ダリヤ『エー汚らはしい、能うそんな事を仰有いますな。貴方は山賊の親分と結託し、オーラ山の焼直しをやるお考へでせう。そんな危ない事はおよしなさいませ。今度はお命が亡くなりますよ』
玄『アハヽヽヽ、お前の為に命の亡くなるのは本望だ。一層の事お前の其優しい手で殺して欲しい。コレ、ダリヤ、これだけ思ひ込んだ男、さう無下に振り払ふものぢやない。男冥加に尽きるぞよ』
ダリ『エヽ何なつと仰有いませ、私は知りませぬ。此上貴方に対し言葉をかはしませぬ』
玄『エ、さてもさても渋太い女だなア』
コル『アハヽヽヽ、天帝の御化身様も女にかけたら脆いものだな。オイ、バルギー、こんなデレ助と兄弟分になるとは、余り有難すぎるぢやないか。親分も親分だ。どこに見込があるのかな』
バル『久米の仙人でさへも、女の白い腿をみて通力を失ひ、天からおちたと云ふぢやないか。何程天帝の御化身だつて、こんな美しいシャンの面を見りや、堕落するのは当然だよ、ウフヽヽヽ』
シャ『オイ、コルトン、バルギー、酒を注いでくれ。何だか天真様のチンチン喧嘩で、座が白けたやうだ。一杯呑んで大に踊つてくれないか』
コル『ハイ、已に已に胸が踊つて居ります。そして此天帝の化身さまは、棚機姫さまに余程おどつて居りますね。いな劣つてゐるぢやありませぬか』
シャ『オイ、いらぬ事をいふな。天真坊様の御機嫌を損ねちや大変だぞ』
玄『オイ、シャカンナ殿、こんな小童武者は相手にしなさるな。男が下るから……』
コル『ヘン男が下るのは玄真さまぢやないか。俺達の前で、タカが女の一疋や半疋に肱鉄をかまされ、赤恥をかかされ、シヤアつく洒蛙々々然として蛙の面に水、馬耳東風宜しくといふ、鉄面皮だからなア。男のさがることも、恥かしい事もお判りならないのだらう』
バル『そらさうだとも、恥といふ事を知らぬ者に恥かしいといふ観念が有るものか、人間もここ迄徹底すれば、結句面白いだらう、ウツフヽヽヽ』
 ダリヤは因果を定めたか、平然として機嫌を直し、シャカンナや玄真坊に愛嬌をふりまき乍ら、酌をして居る。玄真坊は心の中にて、
『ヤア占た、ヤツパリ俺は色男だ。ダリヤの奴、人中だと思つて、ワザとにあんな事を吐してゐやがつたのだな。ウンよしよし、ダリヤが其心なら、俺も之から特別大切にしてやらう。愛はすべて相対的だから、何程此方が愛してやらうと思つても、先方が其愛を受けないと何うする事も出来ない。ヤア願望成就だ』
と思はず知らず小声で口走つた。ダリヤは之を聞いて、『ホヽヽヽ』と小さく笑ひ、せつせと四人の男に酒注ぎをやつてゐる。玄真坊は得意然として歌ひ出した。
玄『世の中に  酒より大事の物はない
 酒より大事の物がある  それは何よと尋ぬれば
 花の顔容月の眉  天女のやうなダリヤ姫
 天の矛鉾を回転し  ウマンマ之れの山奥に
 おびき出したる吾手柄  鬼神もさぞや驚かむ
 呑めよ騒げよ一寸先や暗よ  暗の後には月が出る
 月より花より雪よりも  一層綺麗な此シャンは
 玄真さまの宿の妻  思へば思へば有難い
 之を思へば人間は  完全無欠の大知識
 甘く活用せにやならぬ  智慧と言葉の余徳にて
 棚機姫にもまがふなる  姿の優しいダリヤさま
 タニグク山の山麓に  岩窟を構へしシャカンナの
 珍の御殿に現はれて  鈴のやうなる声絞り
 愛嬌たつぷりふり蒔いて  お酌をなさる手際よさ
 姫のたたむき眺むれば  象牙細工のやうな艶
 爪の色をば調ぶれば  瑪瑙のやうな光り方
 こんな美人が又と世に  二人とあらうかあらうまい
 ホンに吾身は何として  こんな幸福が見舞ふのか
 昔の昔の神代から  善をば助け悪人を
 戒め来りし余徳だらう  こんなナイスと添ふからは
 ヤツパリ俺の魂も  万更すてたものでない
 昔の神代は天国の  尊き神の御身魂
 澆季末法の世を憂ひ  神の命令を畏みて
 此地の上に降臨し  衆生済度を励むべく
 命をうけたる御魂だらう  あゝ惟神々々
 吾れは神なり彼れも神  神と神との睦び合
 よき日よき時相えらび  シャカンナさまの仲介で
 天の御柱めぐり合ひ  山川草木生み並べ
 尊き神の子大空の  星の数程産みおとし
 いよいよ誠の救ひ主  生神様とあがめられ
 此世に永久の命をば  保ちて世人を救ひ行く
 誠の神となつてみよう  シャカンナさまの企てを
 之から夫婦が相助け  悪人輩を平げて
 タラハン国の災を  科戸の風に吹払ひ
 天晴真の生神と  天地と共に芳名を
 千代万代に照すべし  あゝ惟神々々
 嬉しい事になつて来た  之も梵天自在天
 ウラルの神や八百万  神々様の御恵み
 ホンに嬉しい頼もしい  ダリヤの姫の玉の手に
 首をまかれてスヤスヤと  白川夜舟の旅をなし
 忽ち天国浄土の空へ  一夜の中に参りませう
 コルトン、バルギー両人よ  こんな所を見せられて
 さぞやさぞさぞお心が  もめるであらうが辛抱せよ
 やがてお前も時来れば  目鼻のついた女房を
 俺が世話してやる程に  末の末をば楽んで
 キツと悋気をしてくれな  ダリヤは俺の女房だ
 夢にも秋波を送るなよ  あゝ惟神々々
 皇大神の御前に  天真坊が真心を
 捧げまつつて両人が  ダリヤの色香に迷はぬやう
 御守り下さる其由を  偏に願ひ奉る
 偏に願ひ奉る』
シャ『アハヽヽヽ、イヤもう偉い所をみせつけられ、此爺も二十年計り気が若くなつて来た。天真坊殿の御得意思ふべしだな、アハヽヽヽ』
玄『エヘヽヽヽ、なア、ダリヤ、イヽヽヽ』
ダリ『……………』
コル『ヘン、馬鹿にしてゐやがる。俺だつて、さう軽蔑したものぢやないワ。おつつけ、立派な女房をどつかで掠奪して来て、天真坊さまの御目の前にブラつかして見せてやるワイ。のうバルギー、さうなとしなくちや、俺達の面が丸潰れだからな』
バル『フン、フン』
ダリ『ハルの湖酒の嵐の吹きあれて
  醜の荒波立さわぐかな』

シャ『うるはしきダリヤの花は山風に
  吹かれて遂に打靡きける』

玄『月も日もよりて仕ふる吾れなれば
  ダリヤの姫の慕ふも宜よ。エヘヽヽヽ』

(大正一三・一二・三 新一二・二八 於祥雲閣 松村真澄録)
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