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文献名1霊界物語 第39巻 舎身活躍 寅の巻
文献名2第3篇 宿世の山道よみ(新仮名遣い)すぐせのやまみち
文献名3第9章 九死一生〔1074〕よみ(新仮名遣い)きゅうしいっしょう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-11-18 09:47:19
あらすじは、実はガランダ国の刹帝利の家柄で、大黒主の部下にその地位を追われて鬼熊別の部下となっていたのであった。ハは、三五教の宣伝使を捕縛して手柄を立てれば、また元の王位に戻れるという契約を結んでいた。ハはレーブ、タールと口論し、古い祠で二人にだまされて怒り、逃げるレーブとタールを追っていた。ハは身体の痛みも忘れて、自分の来歴を歌に歌いながら二人を追っていく。しかしハの腰はまた痛みだし、一歩も進むことができなくなってきた。ハは山道で倒れ、もはやここで野垂れ死にをするしかないと観念した。このとき微妙の音楽が聞こえ、天から白蓮華の花びらが降ってきた。ハの体はたちまち元の健全体となった。ハは喜び、天地に感謝してこれまでの言心行が一致しない罪を謝して坂道を下っていった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年10月27日(旧09月8日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年5月5日 愛善世界社版119頁 八幡書店版第7輯 323頁 修補版 校定版125頁 普及版51頁 初版 ページ備考
OBC rm3909
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本文  鬼熊別の部下に仕へたるガランダ国の刹帝利、親重代のハの位を大黒主の部下にとり剥がれ、僅かに鬼熊別の部下となり、卑しき目付役に成り下り居たれども、彼の部下は数十人密かに彼の頤使に甘んじて忠実に仕へ、昔のハの果てとして、相当に尊敬を国民より払はれて居た。
 今しも鬼熊別が命によつて蜈蚣姫、小糸姫の所在を索ねる一方、三五教の宣伝使を一人にても多く捕縛し帰らば、もとのガランダ国の王に復しやらむとの契約の下に四人の小頭株を引き率れ、此河鹿峠に待ちつつあつたのである。然し乍ら四人の男は此ハの素姓を知らず、何となく横柄な奴、虫の好かない奴と猜疑の眼を怒らし、何か失敗ある時は、これを嗅出し一々鬼熊別に内報し、目の上の瘤なるハを失墜せしめむと心密かに諜し合せつつあつた。
 かかる処へ母娘の巡礼、進み来るに出会し、何の容赦も荒縄に、縛つてハルナの都まで、立ち帰らむと四人に下知を下した。四人は吾劣らじと母娘に向つて武者振りつき、苦もなく谷間に投げ捨てられ、ハも亦脆くも谷底に捨てられて了つた。流石刹帝利の直系とて何処となく身魂堅固なりしかば、イール、ヨセフの如く容易に失神せず谷底の真砂に埋められて痛さを堪へて自然の恢復を待つ折しも、レーブ、タールの両人は谷を渡つて近寄り来り、散々にハの悪口を並べ立て、此際二人を助けハを谷川へ投げ捨てやらむとの密談を聞くより憤怒のあまり病の苦痛を忘れて、
『おのれ憎くき両人』
と立ち上ればレーブ、タールはイール、ヨセフを捨て、谷川伝ひに生命辛々逃げて行く。ハは無念の歯を喰ひしばり、イール、ヨセフを介抱し居る折しも、頭上に聞ゆる宣伝歌『こりや堪らぬ』と韋駄天走りに岩を飛び越え浅瀬を渉り、漸く山道に攀上り片方の森を眺むれば、此処に一つの古き祠がある。一先づ此処に息休め、レーブ、タール両人が所在を探ね、懲らしめ呉れむと息まきつつ、社前の石に腰うち掛け息を休めむとする時しも、張り詰めたる勇気は茲にガタリと弛み、再び腰痛み足うづき、身動きならぬ苦しさに、レーブ、タールの両人が仕打ちを憤慨し怨み涙に暮れてゐる。忽ち祠の後より二人の巡礼の声、ハは又もや二度吃驚、
『アヽ彼は普通の巡礼ではなく、人を取り喰ふ鬼婆鬼娘であつたか』
と濃霧に包まれて怨みの的なるレーブ、タールの両人が作り声とは知らなかつた。レーブ、タールはハの独言を聞き足腰立たぬにつけ込んで侮りきつて揶揄つて居たが、忽ち吹き来る山風に濃霧は晴れ其真相が暴露すると共に、怒り心頭に徹し、怒髪天を衝いて立ち上り苦しき病の身を忘れ、逃げゆく二人の後追うて、
『逃しはせじ、思ひ知れや』
と言ひ乍ら握り拳を固めつつ、さしも嶮しき坂道をトントントンと地響きさせ阿修羅王の荒れし如く進み行くこそすさまじき。
 ハは痛さを忘れ、一足々々拍子をとり乍ら歌ひ出した。
『時世時節と云ひ乍ら  ガランダ国の刹帝利
 親代々のハの俺  鬼熊別の部下となり
 時待つ尊き身と知らず  卑しきレーブやタール奴が
 侮りきつたる其態度  小癪に触る俺の胸
 一度は懲らしめやらむずと  思ひは胸に満ちぬれど
 吾目的を遂ぐるまで  怒つちや損だと辛抱して
 知らぬ顔にて過ぎて来た  河鹿峠の山道で
 テツキリ会うた母娘連  此奴あテツキリ蜈蚣姫
 小糸の姫と知つたれど  さう言つたなら彼奴め等は
 腐つた肉を犬の子が  争ふ如くに啀み合ひ
 互に手柄の取りやりを  おつ始めるに違ひない
 一つも取らず二も取らず  チヤツチヤ チヤクになるだろと
 思案を定めて空惚け  婆と娘であつたなら
 ハルナの都へ連れ帰り  鬼熊別の御前に
 奉らうかとあやつりて  彼等四人を誑かし
 首尾よう目的達しなば  途中に彼を追ひ散らし
 愈此処で名乗り合ひ  忠臣義士となりすまし
 一人甘い事してやらうと  思うた事も水の泡
 ウントコ ドツコイ  アイタタツタ
 あんまり吾身の欲ばかり  企んだおかげで罰当り
 蜈蚣の姫や小糸姫  二人の司に谷底へ
 不敵の力で投げ込まれ  くたばりきつた果敢なさよ
 後悔胸に迫り来て  涙に暮るる折からに
 悪運強い両人が  虎口を逃れて谷底へ
 尋ね来りて囁くを  死んだ真似して聞き居れば
 口を極めて罵りつ  イール ヨセフは助けても
 ハは助けちや堪らない  人事不省を幸ひに
 此谷川に水葬と  無礼な事を吐かす故
 あまりの事に立腹し  痛さを忘れて立ち上り
 拳を固めて睨まへば  卑怯未練な両人は
 親しき友の危難をば  後に見捨てて逃げて行く
 後に残りしハ公は  二人の生命を助けむと
 人工呼吸の真最中  三五教の宣伝歌
 雷の如くに聞え来る  頭は痛み胸塞ぎ
 身の苦しさは限りなく  二人の奴を見殺しに
 レーブ タールの後追うて  祠の前に来て見れば
 グタリと弛んだ心持  再び腰は痛み出し
 足は痺れて動けない  二人の奴が床下に
 忍び居るとは知らずして  愚痴の繰言並べたて
 悔む折しも婆の声  続いて娘の声聞ゆ
 俺は鬼婆鬼娘  喰つてやらうとの御挨拶
 蜈蚣の姫や小糸姫  二人と見たのは目のひがみ
 人をとり喰ふ鬼母娘  しまつた事になつたわい
 何程強いハさまも  神変不思議の魔力ある
 鬼に向つちや堪らない  何とか云つて此場合
 逃れにやならぬと色々の  言葉を構へて宣りつれば
 鬼婆益々図に乗つて  無体の事を喋り出す
 俺も今こそ身を落し  捕手目付となりつれど
 其源を尋ぬれば  ガランダ国の刹帝利
 国人達にハさまと  尊敬せられた身の上ぢや
 心弱くちや堪らない  仮令脛腰立たずとも
 卑怯な最後を遂げむより  玉と砕けて死なうかと
 覚悟を極むる時も時  俄に吹き来る山嵐
 四辺を包みし雲霧も  茲に漸く晴れ渡り
 よくよく見れば此は如何に  レーブ タールの両人奴
 身体の不自由をつけ込んで  刹帝利族のハさまを
 侮りきつて馬鹿にして  居やがる態度の面憎さ
 忽ち怒髪天を衝き  腰の痛みも打忘れ
 此処まで追つかけ来りしが  又もや腰が痛み出し
 足が怪しくなつて来た  あゝ惟神々々
 神の恵みを蒙りて  何卒ハが足腰を
 いと速かに健やかに  治し給はれ惟神
 お願申し奉る  アイタヽタツタ アイタツタ
 もう一歩も行かれない  天地の神もバラモンの
 百の神々一柱  聞いて下さる神なきか
 愚痴を云ふのぢやなけれども  こんな時こそ神様に
 助けて欲しさに朝夕に  バラモン教の御為に
 尽して居るのぢや厶らぬか  思へば思へば残念や
 もう一寸も進めない  大方俺は野たれ死
 不運な者は何処までも  不運で終はらにやならないか
 虎狼や獅子熊の  餌食となつてしまふのか
 ガランダ国のハの身も  斯うなり行くとは白雲の
 遠き異国の山の道  空行く雲も心あらば
 吾消息をガランダの  妻の御許におとづれよ
 頼みの綱もつきはてし  悲惨至極の今日の身は
 悪の鑑と天地の  神の心に出でますか
 遠津御祖の尽してし  百の罪科身にうけて
 此処で死なねばならないか  思へば思へば残念ぢや
 これほど神に祈れども  しるしなければ是非もない
 最早決心した上は  死をも恐れぬ吾体
 神の御手に任します  屍は野辺に曝すとも
 不老不死なる霊魂は  高天原の都率天
 尊き神の御前に  救はせ給へ惟神
 バラモン教の大御神  御前に祈り奉る』
と涙の声を絞り山道にドツと倒れ、観念の目を瞬いて知死期を待つ事となつた。
 此時何処ともなく微妙の音楽聞え来り、翩翻として白蓮華の花片、天より降り来ると見る間に、ハの体は俄に清涼水を嚥下したるが如き気分に漂ひ瞬く間にもとの健全体となり変つた。ハは喜びのあまり、天地に感謝し、今までの言心行の一致せざりし罪を謝し、悠々として坂道を下り行く。あゝ惟神霊幸倍坐世。
(大正一一・一〇・二七 旧九・八 北村隆光録)
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